長い間空けてしまい、申し訳御座いません。
これからまた少しずつ書いていこうと思いますので、またよろしくお願いします!
「また来たよ、先生……」
そう言って俺は三島先生の墓前に手を合わせる。
俺はリサ達と別れてから、学校に連絡して暫く休むことを伝えた。まぁ、学年一位をキープしているし、学校側は問題ないと言ってくれた。普通なら止める筈なのに。
そして俺は東京を離れ、またここに来た。
「……先生。俺はまた、死神に戻っちまった……」
心の内を、先生に話す。
「あいつ等となら、大丈夫だって思ったのに……結局バラバラになっちまった……何がいけなかったんだ……何で突然、音が聞えなくなったんだ……」
やはり気がかりなのは、SMSが始まる前の出来事。あいつ等の音が聴き取り辛くなった時だ。そこから、俺の中の何かが崩れていった気がする。何が原因なのか、俺には分からない。
そしてSMSが終わってから、完全に音が聴き取れなくなった。絶対音感までもがなくなり、俺は楽器が弾けるだけの一般人に成り下がってしまった。
──やっぱり俺には、音楽をやる資格は無いのか……
「……またな、先生」
先生にお別れを告げ、俺は墓地を離れる。
特に行く場所もなく、途方もなく歩いている時、俺は一つの建物を見つけた。
「ライブハウスか……」
俺は入り口の前で立ちどまり、そのライブハウスを見つめる。
──今は何も聞きたくない……
そう言って離れようとした時だった。
「あれ? もしかして奏か?」
突然声を掛けられ、振り向く。そこには、懐かしい二人がいた。
「……勝と、啓太郎か……?」
小学校の時、少しの間バンドを組んでいた勝と啓太郎がいた。*1
「やっぱり! 久しぶりだな! どうしたんだよこんな所で!」
「うるさいぞ啓太郎。久しぶりだね。卒業以来か?」
「そうだな……ん?」
勝の背中を見ると、ギターケースを背負っていた。
「お前ら、バンド組んでんのか?」
「あぁ。今日ライブがあんだ。ここで」
そう言って目の前のライブハウスをさす。
「そっか」
「もしよかったら見に来るか?」
「え?」
「成長した俺達の姿、観てくれよ」
「……分かった。見てみるよ」
「マジか!? じゃあ入ろうぜ! 勝も早く!」
「慌てるな啓太郎。まだ時間あるんだ。ゆっくりでいい」
本当は見たくなかったが、久しぶりに会った友人に言われちゃ、断れない。二人は楽屋に行くと言って別れ、俺はチケットを買い、開演まで時間を潰す。
ふと、スマホを見ると、リサからの着信やメッセージが沢山来てた。
心の中は罪悪感でいっぱいだ。俺のせいで、Roseliaをバラバラにさせてしまったから。
そうしているうちに、フロアが暗くなった。そしてステージに明かりがつくと、勝達が立っていた。
──あいつ等、トップだったのか。
真ん中に立っているのは、恐らく新しいギターボーカルだろう。ベースは勝、ドラムに啓太郎と、あの頃から変わってない。
正直、嬉しい気持ちもあった。あの時、あの二人が音楽を嫌いになってないか、少し心配だった。その二人が今、スポットライトを浴びている。
そして演奏が始まる。今の俺には聴き取る能力は無い。けど、これだけは言える。
──もの凄く成長してんな……普通に上手いじゃん。
あの頃とは比べ物にならない位、腕を上げていた。そして俺は聞き入ってしまった。
──もしあの時間違えてなかったら、今頃俺はあのステージに立っていたのだろうか……
柄にもなく、そう思ってしまった。
ライブが終わり、二人が出て来るのを待つ。
「お待たせ! どうだった? 俺達の演奏!」
「あぁ。もの凄く良かったよ。思わず聞き入っちまった」
「それは良かった。この後時間あるか? 飯でも行こう」
「おっ! 良いな! 奏の話も聞きたいし。行こうぜ!」
「いや、俺別に話すことなんて──」
「何か悩んでんだろ? 見て分かるよ。東京に帰ったお前が、わざわざここまで来たんだ。何かしらあると思うだろ? 普通」
「待て、なんで俺が東京に帰ったって知ってんだよ」
「この雑誌見れば分かるわ!」
啓太郎がそう言って出してきたのは、Pastel*Palettsが表紙の雑誌だった。
「楽器経験のない彼女達を指導したの、お前だろ? 名前は伏せてあるが、同じ高二でそんな事出来んの、お前しかいないからな」
「……俺を買い被りすぎだよ。……分かった。行くよ」
俺は二人と飯に行く事になった。因みに、ギタボの子は用事があるとかで先に帰った。
「それで? 何があったんだ?」
ファミレスに着くなり、注文して早速聞いてくる。
「俺は今、一つのバンドのマネージャーをしているんだ。バンドのメンバーに幼馴染がいるんだけど、そいつに誘われて。でも、そのバンドがバラバラになっちまって……」
「バラバラって……解散か?」
「いや、解散はしてない。解散はしてないが、心がバラバラって感じなんだ。俺のせいで……」
「奏のせいって、一体何したんだよ」
「お前達は俺が音楽の才能に長けているのは知っているよな。実は俺のいるバンドって言うのは結構名の知れているバンドで、実力もあった。そしてある時、一つのオファーが来たんだ。それに向けて調整している時、俺の音楽の才能がおかしくなってきたんだ。そして終いには、その才能が無くなってしまった。俺はどうにかしようとした。無断で練習を休んでまで、力を取り戻そうとした。けど、ダメだった。そして久々に練習に来たとき、メンバーの空気は最悪だった。もし俺の力が失っていなかったら、こんな事にはなってなかった筈だ」
「……自意識過剰だな」
「……え?」
「奏の才能が残ってたら、メンバーの心は離れてなかった? 何様だ? お前」
啓太郎が鋭い視線を俺に向ける。
「確かにお前は何でも出来るさ。出来るからこそ、凡人の気持ちが分からない。あの時もそうだったろ」
でも──と言葉を続けてくる。
「ごめんな。あの時、せっかく教えてくれたのにあんな事言って」
啓太郎が謝罪してくる。恐らく、バンドを解散したあの日の事を言っているのだろう。
「ああ言ったけど、やっぱり俺、音楽が好きだからさ。どうしても辞められなかった。だから、ごめん」
頭を下げてきた啓太郎。取り敢えず俺は頭を上げさせ、話の続きをした。
「お前の才能があったとしてもなかったとしても、そのバンドは衝突してただろうよ。どのバンドも、何れ通る道だ。だから、バラバラになっているのはお前のせいじゃない。バンドの問題だ。それより問題なのは、お前の才能がなくなった話だ。まあ、話を聞く限り、一種のスランプだろう。その原因は、恐らくお前の心にある」
「俺の、心……?」
「オファーが来て、奏はどう思った?」
「どうって、みんなに認めて貰えるように──」
「そこだよ」
啓太郎が言葉を遮る。
「奏はさ、みんなに認められたいから、音楽をやってんの? もうそこに、“音”を“楽しむ”心は無いの?」
「多分今の奏は、音楽は一つの作業としか思ってないんだよ。嘗ての音を楽しむ心を忘れてる」
──今の俺に、音を楽しむ心がない……?
いつからだろう。俺が楽器を弾かなくなったのは。今までは空いている時間があれば弾いていたギターも、今は弾かなくなってしまった。Roseliaに時間を費やしたいから。
じゃあ何故Roseliaに時間を費やす? それは彼女達を頂点に輝かせたいから。
じゃあその輝いている場所に、俺は、いるのか……?
そっか、そう言うことだったのか……
「俺は、嫉妬してたんだな……」
彼女達が輝いていれば、それで良いと思っていた。でも、楽しそうに演奏している彼女達を見ていて、取り残されていると思う自分がいた。そして音を楽しむ心を忘れ、その嫉妬心を紛らわそうと、いつの間にか俺の音楽がただの作業になっていた。そして、自分が認められようとしていた。
「何で奏は、音楽を続けているんだ? その答え、見つかっているだろ?」
けど違う。音楽はただの作業じゃない。嘗て社長に言った。音楽は、無限の可能性があると。その可能性を引き出すのが、俺の仕事なんだと。多分その日から俺は、音楽を作業だと思い込み始めたのかもな。
俺は認められたくて音楽をやってるんじゃない。俺が音楽を続ける理由。それは──
「音楽が、大好きだから」
その瞬間、目の前にあった壁が一気に取り払われ、壮大な景色が広がった気がした。そしてそこから、様々な音が繰り広げられる。
「もう一度聞こう。奏は、みんなに認めてもらうために音楽をやってんのか?」
俺はフッと笑う。
「いや、音楽が好きだから。大好きな音楽で、アイツ等を頂点に輝かせたいから、だな」
「そこまで言えるなら、もう大丈夫だろう。ったく、心配させやがって」
「ありがとな」
「どういたしまして」
俺の蟠りは無くなった。俺はRoseliaの音を取り戻す。その為にはまず、俺自身がもっと成長しないといけない。
──本当は嫌だが、この際仕方がない。アイツの力を借りるか。
そして俺達は他愛もない会話をしながら食事をした。
「今日はありがとう。助かったよ」
「俺達も、久々にお前に会えて嬉しかった。また会おう」
「あぁ。じゃあな」
俺達は別れ、それぞれの帰路につく。
俺はスマホを出し、ある人物に電話をかける。
『もしもし?』
「久しぶりだな」
『奏じゃない! What's up?』
「実は、お前の力を貸してほしい」
『No problem! いつでもいらっしゃい! 奏なら歓迎よ!』
「ありがとう。また連絡するよ」
そう言って通話を切る。
「帰ったら久々にギター弾くか……」
次回予告
燐子の家で衣装を作っていたあこと燐子。そこに訪れるリサと紗夜。彼女達は何しに来たのか。そして語られる、あこの気持ち。
次回、六人目の青薔薇 Neo-Aspect編
第十話「青薔薇の誇り」