幻想小心最強の少年   作:ヌメサビ

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今回は長くなってしまいました。
最後まで読んでくれると嬉しいです!

注意:作者は東方を熟知していません。
   東方キャラの性格等を間違える可能性があります
その際はご指摘願います。
   一部キャラの崩壊が起きる可能性があります。

それでもよいという方はそのままお進みください。


第6話

 

 

第6話 約束は守る

 

『博麗神社 境内』

 

陽が昇り初めた頃、博麗の巫女。

博麗霊夢は横たわった一人の少年を見下ろす

上下学ランの、所々アザだらけになっている

外来人、小野瀬優斗であった。

 

 

僕は博麗神社に帰った後、平吉をどうやって追い払えばいいか考えていた

戦うにしても、僕は喧嘩をしたことはない。

そこで霊夢に格闘術について相談したところ

霊夢が出来るからと相手してくれた。

流石幻想郷を守る博麗の巫女は強い、全く手も足もでなかった

つい先程、打ちのめされたところだった。

 

「…はぁ……はぁ……

やっぱり強いよ……か、勝てない…」

 

「当たり前でしょ?、私は博麗の巫女よ

やられるはずがないわよ

ていうかあんたが弱すぎるのよ」

 

っと息が何一つ荒れることなく言い放った

ダルそうにため息を吐くと

 

「大体、攻撃されるとき怯えて目を閉じたら

避けるのも防ぐのもままならないじゃない」

 

………………………確かに…そうだ。

あ…能力を使えば簡単に勝てるんじゃ?

そんなことを呟くと、霊夢は難しい顔をして考えた

 

「…紫から聞いたわ、制御するための腕輪を貰ったって

けどそれはたった1%でも危険なほど強力よ?

簡単に石を握り潰すことが出来るなら

人を殺すことも簡単よ、手加減してもね」

 

それを言われるとなにも言えなくなった。

確かに…少しでも間違えれば大怪我をさせてしまう

そう考えると、能力を使う気になれなかった。

 

 

 

『西崎亭』

 

身支度を済ませて今日も出勤した僕は

前掛けをつけて仕込みをした食材確認する

昨日多めに作ってあるから昼は苦労しなくてすみそうだ

そんなところで梨花さんが降りてくる、僕が挨拶する前に

梨花さんが驚いた顔で僕の手のアザを見ながら歩み寄る

 

「ちょっと、どうしたのこれ!?アザだらけじゃない!」

 

「はい、朝から霊夢に稽古をつけてもらってたので」

 

「え…あの博麗の巫女の…?」

 

霊夢の名前を聞くと、梨花さんはビクッと反応する

僕が最初に来たときならず者達が霊夢に反応したときもそうだけど

みんな霊夢を怖がる感じがする。

聞いてみると、博麗神社には色々と噂されている

 

神社は妖怪が集まる

もしかしたら妖怪に占拠されている

魔女と怪しげな取引をしている等

僕がお世話になってから1週間くらい経つけど

そんなことは1度もない

あ、でも宴会とかで妖怪よく集まるって聞いてるから

合ってるといえば合ってるかもしれない

魔理沙とは取引をしてないけどよく遊びに来てるし

それに魔理沙は魔女じゃなく魔法使いだ

 

 

 

営業が始まり、お客さんがやって来る。

思うんだけどちょっとずつ増えてる気がする

やはり大工さんがかなりの割合でここで食事をとってる

今日は腕の調子がいいのか大和さんも注文を取ってくれていて

梨花さんは料理を運ぶ方に専念している

 

「旦那が注文を取るのを見る日が来るとはな

いつの間にか店取られるんじゃないか?」

 

なんて、冗談を言われたりしてる。

それを聞いた大和さんはフフンと鼻をならして腕を組んだ

 

「将来変わるさ、優斗をいつか婿に迎えるからな」

 

……………………え…?

大和さん?なにおっしゃるか?

 

その言葉を聞いた一同は驚いて僕を見る

ある人は、食べ物が変なところに入ってむせたり

水を吹いたり、何かショックを受けて机に突っ伏したり

梨花さんは顔が赤い、唖然として動かない

そういえば最近梨花さんの顔が赤くなったりする

体調悪いのかな、風邪引いてないといいけど

 

「ちょっ!マジか!?

兄ちゃんお前やるなぁ!」

 

「そっかぁ、彼が継いでくれるならずっとこの料理食える」

 

「そんな…梨花さんが……結婚…

そげなばかな……あばばばば…」

 

店内から様々な声が聞こえる、中には僕を憎むような声も…

これも十分無理矢理なやり方だと思うんですが…

梨花さんが止めに入ってきた

始めから麺棒を持っているということは分かります。

鈍い音が響き、周囲の人々を絶句させた

 

「…梨花ちゃん、お母さんに似てきたねぇ…」

 

梨花さんのお母さんに?

お母さんも怒らせたら怖かったんだ。

 

「あ、え~と。

今日は食後の甘味としてケーキがありますので

是非ご賞味ください…」

 

とりあえず、場を和ませようと思った僕は

今日の新メニューであるケーキ類を勧めた

まだチーズケーキとショートケーキしか

出すことが出来ないけど、そのうち増えるかもしれない

これらは男性客より女性客の方が注文していく

やっぱり女の子は甘いもの好きがなんだろうか

何個かはホールで焼いていたのでケーキはまだ足りそうだ

 

暫く経ち、客足が引いてきたところで

なんと慧音さんがやって来た。知ってるひとが来店するのは初めてだ

 

「あ、慧音さん、いらっしゃいませ。」

 

「ああ、ここで働いていると聞いてな

どんな料理か食べてみたいと思っていたんだ」

 

慧音さんは席に座り、早速注文をする

ハンバーグ定食をデザート付きで。

このハンバーグ定食はデミグラスハンバーグにポテトサラダ

千切りキャベツというシンプルなおかずに味噌汁、ご飯の定食

慧音さんはまずハンバーグを半分に箸で割っていく

断面からは肉汁が溢れソースと絡まっていく

慧音さんは口に入れると目を見開き、ご飯を食べる

 

「こ、これは旨いな、ハンバーグと言ったか

ここまで肉汁が溢れるとは…!

米に合う、この店が人気になるのは当然だな…」

 

「口に合ってくれて良かったです。

まさかここまで人気になるなんて思いもしませんでした」

 

慧音さんはそうだな、と返事すると。

食事に夢中になってしまった。

慧音さんがデザートのチーズケーキを食べ始めたところで

僕は、平吉の父親について聞いた。

どういう人なのか、平吉の悪事にどの様に思っているのかを

 

「重兵衛の事か?彼は厳格な人間だが真面目で

この里のために尽くしている。

そんな人がいくら息子とはいえ悪事を見逃すようには見えないが……」

 

平吉の父親、重兵衛という人は聞く限りいい人らしい

でもそれは表向き、という可能性がある。

慧音さんは半妖半人、つまり妖怪と人間のハーフで

人間より強いらしい。

だからか、時々人里に近付く下級妖怪を追い払ってくれる

その際に何度か重兵衛さんに会っているとのこと

 

「そういえば優斗、博麗神社から来ていると聞くが

妖怪に襲われてないか?、大丈夫か?」

 

「はい、歩いているときに出会ったりしますけど

逃げてますので、怪我とかはないですよ」

 

「そうか、最近妖怪が近くの森に現れているからな

それも頻繁にだ。

これ以上酷くなるようなら霊夢に調査を依頼しないと行けないな」

 

言われてみれば、博麗神社の近くにある森にも最近よく妖怪に出会ったりする

縄張り争いみたいなのがあるのかな?

 

「…優斗、とにかく気を付けろ

下級妖怪は見境なく襲ってくる。

自警団でも数人で1体を追い払わなければならないほど

妖怪は強い、大丈夫だとは思うが

すぐに逃げろ、いいな?」

 

「はい、分かりました。」

 

慧音さんは寺子屋という学校の教師をしている

子供たちの相手をしているからか

僕にも気にかけてくれている

本当に人に親切だ、だからみんなに信頼されている

 

慧音さんが出た後、その後も仕事を続けた

暫くすると、店に入ったと同時に

梨花さんを呼ぶ声が聞こえた

 

「梨ー花ー、やっほー」

 

「調子どおー?」

 

二人の女の子が梨花さんを呼んでいた。

友達かな?、梨花さんは手を拭きながら

二人に歩み寄る

 

「え?二人とも、どうしたの?」

 

「何って、甘味処よ」

 

「今日こそはついてきてもらうからねん♪」

 

どうやら、梨花さんを遊びに誘いに来たらしい。

梨花さんは驚きながらも、ちょっと残念そうな顔をした

 

「でも…仕事が…ごめんね」

 

梨花さんは申し訳なさそうに言った

 

「…見たところ空いてるわよ?」

 

「…そう、なんだけど…いつ混むか分からないから…」

 

やっぱり断ろうとしてる…よし!

僕は梨花さんの前掛けの紐を素早くほどいた

 

「ちょ!?小野瀬君!?

いきなりなにするの!?」

 

後ろから突然前掛けを外され驚いていた

そんなことをお構いなしに僕は二人の元まで

梨花さんの背中を押していった

 

「今日は空いてますし、手も回りますから

大丈夫ですよ。梨花さん、行ってきてください。」

 

「な、なにいってるのよ!私はここを…」

 

「梨花さん、楽しんできてください。」

 

そう言い僕はニコッと笑った

梨花さんは困惑していたけど、二人の友達を見て

諦めたのか、笑って言った

 

「…ありがとう、行ってきます。」

 

「さあ!婿君の許可も取れたことだし!

甘味処へ、いざ出発!」

 

「ちょっと待って!?その話誰から!?」

 

「梨花のお父さんが言ってたわよ?」

 

「お父さん!!話があるんだけど!

離して、お父さんと話が……」

 

最後なんか暴れてたような気がするけど…

友達と遊びに行けるようになったからだよね?

すると横に大和さんが歩いてきた

 

「ずいぶんと大胆だな、優斗」

 

「す、すみません!僕が梨花さんの分まで頑張りますから!」

 

僕は大和さんを怒らせてしまったと思い

謝罪した、梨花さんも行きたがってたし

店も回ると思ったからしたんだけど

自分勝手だったと今更思った

でもそんな予想は違ったようで大和さんは喜んでいた

 

「謝るなよ、お前は良いことしたんだ

胸張れよ、まあ梨花の分まで働いてもらうがな」

 

「はい!」

 

大和さんは注文と会計を僕は料理と配膳を担当した

その後は、忙しくなったけれど

まだなんとかなる程度だった

何事なく閉店準備にかかる

梨花さんはまだ帰ってない、楽しく遊んでいるだろう

掃除を終えて、あとは仕込みだけとなった

材料を切っていく

お肉は両面に小さい切り込みをいれて

固い肉や筋が多い肉は叩いて一定の厚さに揃える

 

「そばで見てると懐かしいなぁ

梨花は物覚えが早くてな、教えたら

数回で出来るようになるんだ」

 

「へぇ、凄いですね

僕もお爺ちゃんに色々と教えてもらいました。

覚えることができたら誉めてもらいました」

 

「ほお、お前の爺さん料理人か?」

 

「はい、旅館で板前をやってました。

料理が美味しくて有名だったそうです。」

 

僕が小さい頃、両親の海外出張でお爺ちゃんに

預かってもらったことがある

その時に料理やけん玉、掃除のしかたとかを教えてもらった

出来るようになった度に誉めてくれた

あの固くて力強い、けれどなんだかホッとする手の感触を今でも覚えている。

 

「それで、爺さんは元気にやってるのか?」

 

「……!!……………」

 

その時、手が止まってしまった。

黙っていた僕を見て、何か不味いことを聞いてしまったと

感じた大和さんが気まずそうにしている

 

「…だ、大丈夫か?」

 

「…はい、す、すみません。

大丈夫です…」

 

僕のお爺ちゃんは心臓の病気で亡くなってしまった。

前から心臓を患っていたらしい

けれど心配させまいと、母さんには言わなかったようで

あまり病気のことを知る人は居なかった

……僕も含めて…。

 

その後は黙々と仕込みを終えた。

大和さんはというと、度々入り口を見て

梨花さんの帰りを待っている。

 

「遅いな、もう日が落ちるぞ…」

 

「…友達の家に居るんですかね…?」

 

電話とかで家に確認を…って電話無いんだった

この幻想郷は電気がない、だから家電がないから

電話も使えるわけがなかった

冷蔵庫とかも昔にあった氷で冷やす氷冷蔵箱とかだ

不便だけど、僕にとっては新鮮で面白い

 

「優斗、今日はありがとうな」

 

「え?なんのことですか?」

 

大和さんに急にお礼を言われた

なんのことか分からなかった

 

「梨花のことだ、背中を押してくれてありがとう

あの子の無邪気な笑顔、久しぶりに見たぜ」

 

「ああ…気にしないでください

梨花さんには息抜きしてほしかっただけですから

でも大和さんの仕事増やしてすみません」

 

平謝りすると大和さんは大笑いした

……僕なんか変なこと言った?

 

「何で謝るんだよ!俺は嬉しかったぞ!

娘を気遣ってくれてな。」

 

梨花さんには僕に仕事をくれた恩があるし

助けたいと思っていたから

これくらいなんて事はなかった

 

「…あとは、あいつだな…

平吉を追い払うとか言ったが。出来るのか?」

 

「霊夢に鍛えてもらってますので。

今はまだ弱いですけど。

強くなって見せます!」

 

「………そうか、だが…

怖いんじゃないか?初めて追い払ったときも

声も足も震えていただろ」

 

「…………はい、怖いです……」

 

なにも否定できなかった。

平吉に蹴られたとき。また痛い目に合うんじゃないかって

内心ビクビクしていた、本当は逃げたいと思った

でも梨花さんの落ち込みや大和さんの苦しみを見たときに

助けたいと思った。この気持ちには嘘はない。

 

「……怖いけど、助けたいんです!」

 

「………頼って、良いか?

娘に何かあったら…」

 

大和さんの真剣な目が僕を捉える

 

「…はい、……約束します。

梨花さんに何かあったら…絶対助けます!」

 

「ああ…ありがとな。

だが無理するなよ、お前が傷ついたら梨花も悲しむからな」

 

そう言い、大和さんは笑った

それから暫く経っても梨花さんはまだ帰らない

 

「ほんとに遅いな、仕方ない…

俺は迎えに行くから

優斗はもう上がって良いぞ」

 

「分かりました、じゃあお先に失礼します。

お疲れ様でした!」

 

「おう!また明日頼んだぞ!

次期亭主!」

 

そう言ってガララと戸を開けて行った

なるって確定してないんですが……

そう思いながら、箒を取って僕は博麗神社に帰っていった

 

 

 

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僕が帰ると、音を聞き付けたのか

霊夢が出てきた、前掛けをつけてお玉を持っていた

なんだか新妻さんみたいだ

 

「優斗、お帰り。今日は遅かったわね

もうすぐで出来るから待ってなさい。」

 

「ごめんね、多めに仕込みしてたから

じゃあ僕はお皿並べるよ」

 

「ん、ありがと」

 

霊夢が台所に戻ると僕は箒を置いてお皿を並べる

良い匂いが漂ってくる。

今晩は豚汁に焼き魚、野菜のおひたしだ

匂いで食欲がそそられたのかお腹がなってしまった

 

「それじゃ、いただきます。」

 

「ええ、召し上がれ」

 

霊夢の料理に舌鼓を打っていると

今日の出来事を聞いてきた

最近は僕の職場の話を聞くのが面白いらしく

よく聞いてくる

 

大和さんの勧誘行為にクスッと笑い

慧音さんの来店に意外そうな顔をして

梨花さんの見送りでふーんと真顔に戻った

その行動がなんか可愛い。

 

「それで?その平吉とか言うのはどうなの?

あれからなんか仕掛けてきてるの?」

 

「今のところないよ、梨花さんの答えを聞くまで待ってるのかな?」

 

「あんな男が大人しくしてるのかしら…

気を付けなさいよ、闇討ちするかもしれないから」

 

そう言って霊夢のは箸を僕に向けて言った

僕を心配しての言葉だろう

 

「うん、ありがとう。霊夢」

 

「…ま、まあ…あんたが居なくなったら

美味しい料理が食べられなくなるからね

そっちの心配よ」

 

っとそっぽを向けられてしまった

なんだそっちか……

 

「でも平吉はどうすれば追い払えるのかな?

僕はまだ弱いし…」

 

「だから、攻撃されるときに目を瞑らなければ良いのよ

そして避けて殴る、これを繰り返しなさい」

 

……え?それだけ?

なんかカウンターとか受け流しとか

そういうのはないの?

 

「あんたはまだまだ素人なんだから

基礎中の基礎をすれば良いのよ。」

 

確かに、出来ないことを無理にしなくても良い

今は攻撃を受けないことに拘ろう

 

「本当なら能力を使えれば良いけど。

怖くて使えないんでしょ?」

 

「……うん、だって

少しでも加減を間違えたら、大怪我するでしょ?」

 

「そうね、骨の2.3本は折れるわね

でも能力使わないとたぶん勝てないわよ?」

 

そう言って僕の華奢な体を見て言った

僕はあんまり力が強くないから

殴るにしろ威力は乏しい、それを能力で底上げしないと

戦えるとは思えない

 

「僕は、何が足りないのかな?」

 

「………勇気、じゃない?

いつまでもビクビクして、怖がってるから

倒す力がないのよ。元々あんたは戦うのに向いてないわよ」

 

そうだよね、喧嘩は怖くて嫌いだ。

痛いのは怖い、怖い人も嫌だ。

 

「…私はそろそろ寝るわ。

ゆっくり考えると良いわ」

 

そう言って霊夢はお皿を持っていった

今日は霊夢が片付けてくれるらしい

僕は自室に戻って布団を広げた

 

(怖いものは怖いよ…

でも、約束…したんだ…助けるって…

だから、……勇気を…出さなきゃ…)

 

そんなことを思いながら眠りについた

 

 

 

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『西崎亭』

 

いつものように出勤した僕は

椅子に座っている大和さんを見つけた

 

「大和さん、おはようござ…い……」

 

大和さんの様子がおかしかった

俯いたままで、何も反応しなかった

僕はゆっくりと大和さんに近づいた

 

「……大和さん?」

 

大和さんは僕に気付いたのか

ゆっくり顔をあげて僕を見た

だけどその顔は、涙に濡れていた

手には何か紙を持っている

 

「…ゆ…うと…、り…りか…が…」

 

大和さんが差し出した紙を取ってみてみる

そこには、こんなことが書いてあった

 

 

『梨花は俺の女になった

もう諦めな、自警団に言おうが無駄だ。

言えば殺す、一々処理すんのが面倒だからな』

 

僕は事態が読み込めなかった

聞いてみると、友達二人は甘味処で夕方まで話していたらしい

そこで別れたあとは見てないという

つまり、友達と別れて一人になったところで

襲われたのだろうか…

 

「……何で……何で…こんな……」

 

大和さんはずっと、俯いていた

……行かなきゃ……

僕がどこかに行くと知り、大和さんが僕を見る

 

「……どこ、行くんだ……?」

 

「梨花さんを、探して…連れ戻してきます。」

 

「………なに…言ってんだ!

どこにいるのか分からねえで、どうやって…」

 

「…それでも、探します。

絶対…助けますから」

 

僕の言葉に大和さんはただ混乱していた

根拠の無い言葉だからだろう

 

「…何でだ……?……何で…」

 

「…したじゃないですか」

 

僕は振り返って、大和さんの目を見て言った

 

 

 

「梨花さんに何かあったら

絶対助けるって…【約束】したじゃないですか」

 

何故と聞かれたら、それしかない。

約束したからには守らなくては

 

「…僕は、なにがなんでも

約束は守りますから…!」

 

そう言って僕は、西崎亭を後にした

 

 

 

『田んぼ道』

 

飛び出してみたものの、確かに手掛かりはなかった。

しらみ潰しに探しても、時間が過ぎるだけだろう

何か手掛かりになりそうなのは…

そう考えていると、後ろから声をかけられた

 

「兄ちゃんか、あの店の店員は…」

 

後ろを見ると、柄の悪そうな男二人が

脇差や手斧を持って近付いてきている

明らかに、敵意を持っていた

 

「俺らの雇い主に頼まれてんだ。

店を確実に潰すために、主力を片付けるってな」

 

「あんたも災難だなぁ?

あの店に居なきゃ生きられたってのによぉ」

 

ゲラゲラと楽しそうに笑っていた

雇い主ってことは、あの平吉のことだと思う

 

「……雇ったのって平吉の事ですよね?

それじゃあ、場所を知ってますよね?」

 

「あ?だからなんだよ?

これから死ぬってのに関係あるか?」

 

「……案内、してください。」

 

「あーあー、ガキが舐めんじゃ……ねぇ!!」

 

男の一人が近付いてきて持っている手斧を僕に目掛けて降り下ろした

でもその動き、とても遅いです。

難なくそれを避けた、隙が出来た男の懐に拳を叩き込んだ

 

(軽く、軽く…少なくても、骨で済ませる!)

 

胸を殴られた男は勢いよく吹っ飛び、田んぼに頭から突っ込んだ

細い体から想像つかない力を目撃したもう一人の男はたじろいだ

 

「…な、なんだ!?、一体何が!?」

 

「平吉の場所を教えてください。

じゃないとその人みたいになります。」

 

「こ、この!!」

 

脇差しを強く握り、僕の腹部に切り込もうと駆け出した

僕は、相手の手首の動きをよく見て

切り込もうとした手首を掴んだ

 

「な、んだ…こいつ…

ば、化け物……かぁ…!?」

 

力を込めてほどこうとするが全く動かない腕を見て言った

僕が少し力を込めると、手首がミシミシとなり

男はすぐに音をあげた

 

「あぁ~!!わ、わかった!

言う!言うからやめてくれ!!」

 

自分の手首の行く末を恐れたのだろう

男はある山を指差した

 

「あ、あそこだ!

あそこの山んなかに小屋がある!

だから頼む!放してくれぇ!!」

 

場所を教えてもらったので、もう用はなかった

手を離すと、男は青く変色した手を涙目で見ている

 

それを横目に僕は箒に跨がって飛んでいった

 

 

 

『寂れた小屋』

 

梨花が目を覚ますと、そこは知らない場所だった

木張りの少し大きな小屋

辺りには机と椅子、開けられた酒瓶が散乱しており

木が所々腐っていて床が抜けている

 

起き上がろうとするが、両手が後ろで縛られていてうまく立てない

それに気付いたのか男が歩み寄る

 

「ようやくお目覚めのようだな。」

 

「…!平吉…!」

 

顔を上げれば、憎いあの平吉の顔が見えた

話し声に反応して奥から数人の男たちがやって来た

 

「うぉっほー、やっぱ良い女だよなぁ!」

 

「へへ、こんな別嬪を独り占めとか

若旦那も罪だぜ!」

 

品のない笑いを浮かべながら

梨花をなめ回すように見た

そんな視線に梨花は嫌悪感しか感じない

 

「…答えを待つんじゃなかったの!?」

 

「ああ、だが気が変わった。

今欲しくなったんだよ、お前がな」

 

(まさかあのガキがあの死にかけの店を盛り返すとは

あいつのせいで俺の計画が水の泡じゃねえか…

だがあいつは今ごろ……)

 

「まあとにかく、梨花は今日から俺の女だ。

たっぷり可愛がるさ」

 

「ふざけないで!、誰があんたなんかに!

私を帰して!、じゃないとただじゃおかないわ!」

 

「はぁ、分かってねえなぁ

もう戻っても、あの店は終わりだ。

何でだと思う?」

 

にやにやしながらの問いに苛ついた

平吉は答える間も与えず、答えを言った

 

「あのガキ、死ぬからだよ」

 

「……!!」

 

梨花はすぐに優斗の事だと分かった

平吉はその反応を待っていたのか大きく笑った

 

「あ~あ、可哀想になぁ?

早く俺に寄ってりゃ、あいつは冷たくならずに済んだってのに…」

 

わざとらしく、そう言うと

周囲の男たちも嘲笑うように笑った

梨花は、優斗の事を思い出した

 

柔和な笑みを浮かべて、一生懸命働き

自分の為に背中を押してくれた

優しい少年、優斗が…

想像しただけで、悲しみが溢れていった

 

「ま、これからあいつの事を忘れて

俺と幸せに暮らそうじゃあないか

え?俺の梨花?」

 

梨花の頬を撫でようとしたとき、少しずつ扉が開いていった

平吉はガキを始末した二人が戻ったのだと思い

扉を見た、しかし

そこにいたのは二人の男ではなく、一人の少年だった

 

「…な、…お、お前…何で!?」

 

平吉の驚く声に反応して平吉の視線を追っていく

扉の向こうには、学ラン姿の少年

小野瀬優斗が立っていた

 

「……この…せ…君……!?」

 

梨花が無事だと知り、安心した優斗は

険しい顔で平吉を睨み

 

「…梨花さんを、離してください…」

 

 

 

 




ついに戦闘開始します。
え?ほのぼの系じゃないのかって?
戦闘描写アリです。
どこかのスマホ太郎君の作品にもほのぼのとありながら
戦闘するじゃないですか、あれと同じです!

そして第1章最終話になります。
次回も読んでくれると幸いです。

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