赤髪縦ロールのお嬢様に求婚されたようです   作:草陰

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20話 畑野るいはドキドキする

 

 

 雨だ。と、おもった瞬間にはもうどしゃ降りだった。ゲリラ豪雨とはよくいったものだ。

 せめて拝殿の側にいたならさっと屋根下に避難できたものを、ちょうど鳥居にいたからふたりそろって濡れ鼠だった。

 梅雨明けなどとっくに済ませた7月下旬。日本の亜熱帯化は進む一方だ。

 

「ようやく屋根下に避難したらすぐやみましたよ。もう、ほんとにくたらしい雨ですね!」

 

 ぷりぷりと怒るしずく。気もちとしてはまったく同意だ。黒髪から巫女服まで全身が濡れそぼっている。濡れた白衣は肌に張り付き、胸が透けて見えた。まさかノーブラ、いやいや。あまり見るのは失礼だろうと自分の身体に視線を移せば、普段着のTシャツとズボンがびしょびしょだ。

 

「1分も雨に当たってないのに水でタプタプだ……」

 

 るいの言葉にポンと両手を叩くしずく。その表情は名案が浮かんだとばかりだ。

 

「よろしければうちでお洋服をお洗濯していきませんか? お風呂もお貸ししますよ」

 

「ありがたい申し出だけど、いいの?」

 

「はい! うちのお風呂場はけっこう大きいんですよ? いっしょにさっぱりしちゃいましょうね!」

 

「うん……うん?」

 

 手を引かれながら連れられたのは、社務所兼自宅に隣接された建物だった。なんと専用の建物が用意されているのだ。引き戸を開けて中に入れば、脱衣場の広さからしてもはやちょっとした銭湯だ。"けっこう大きい"なんてもんではない。5人くらいはいちどに入浴できるだろう。

 

「なんでこんなに大きいの?」

 

「やとい人さんたちのための更衣室兼浴場ですね」

 

「雇い人」

 

「昔は住み込みではたらいてた神主や巫女がいたそうです。妾がものごころついたころには、もう年末年始の短期バイトさんしかやとっていませんでしたが……」

 

「年末年始に雇ってるだけでもおどろきかな」

 

 るいの忌憚ない意見にしずくは頬をふくらませる。

 

「むう。これでも初詣はそこそこ参拝をしにお客さんがくるんですよ? ……それでですね、建物はつかわなければ痛みますし、ふだんは家族風呂としてつかってるんです。まあ、ほとんど妾しかつかってませんけど」

 

 左手には脱いだ服や持ち物を置くための棚が設置され、右手にはドライヤーで髪を乾かしたりするための洗面化粧台が設置されていた。手前の三和土で靴を脱いで脱衣場に上がる。床はタイル張りで、奥にはすりガラスの引き戸が閉じられており、その向こうが風呂場か。

 ほほ笑みながらしずくは説明する。

 

「浴槽にはお湯が張ってあって、いつでも入れるようになってるんですよ」

 

「へえ」

 

 これだけの施設に置かれた浴槽ともなれば光熱費だってバカにはならないはずだ。

 境内が常に閑散としていることから台所事情は厳しいのだろうなと安易に推測していたが、見直す必要があるのかもしれない。

 

「というわけで脱いじゃいますよー」

 

 先に奥の棚の前に移動すると、しずくはためらうことなく巫女装束の赤袴をテキパキと脱ぎ始めた。ぼんやりと和服は着るのも脱ぐのも大変なイメージがある。それを着慣れてるだけあって脱ぐのも慣れてるんだな、などと感心してる場合ではない。るいはとっさに背を向ける。

 

「ねえ、しずく」

 

「なんです?」

 

「いっしょにお風呂……はいるつもりなの?」

 

「つもりもなにも、いっしょにさっぱりしちゃいましょうといったじゃないですか」

 

 そういって鼻歌を歌いながら服を脱ぎつづけるしずく。どうやら本気のようだ。るいにしてもびしょ濡れでいるのは気分がいいものではないし、このまま混浴するしかなかった。幸いにして浴場は広い。視線のやり場はいくらでもある。しずくの裸を見ないようにするのは困難なことではないだろう。みだりに異性の裸を見てはいけないという常識くらいは持ち合わせている。

 

「あ、そうでした。濡れたお洋服はこの木の籠に入れてくださいね」

 

「うん……っ」

 

 声をかけられて反射的に振り向けば、足元に差し出された木の籠にはびしょ濡れの赤い袴が入っていた。つと視線を上げれば、白衣と襦袢を羽織っているだけの半裸のしずく。るいのように筋張ってきた男の身体とはちがう、やわらかそうな、けれどまだ発展途上な少女の身体。とっさにふたたび後ろを向いたが、脳裏にははっきりくっきりと少女の大事なところの生映像が焼き付いてしまった。ちょうど手のひらにあまるくらいのサイズの胸の膨らみに、くびれた腰回り、脂肪のうすいお腹、そこから下って自分とちがいなだらかなカーブを描く股間。

 

「タオル、ないの?」

 

「それがなかったんですよね。いつもは洗ったタオルをまとめて置いておくのですが、ちょうど今朝つかったのが最後で……。あ、でもバスタオルはちゃんとありますよ?」

 

「なら、バスタオルをつかいなよ」

 

「うふふ、畑野さまもおかしなことをおっしゃるんですね。バスタオルをもって入浴するひとなんていませんよ?」

 

 すれちがう会話。そりゃそうだ。肝心な部分が抜け落ちてるのだから。なんで下着を履いてないの? 巫女服は下着を履かないと聞いたけどあれって本当だったの? いや、それよりだいじなところをちゃんと隠しなよ――。そうハッキリいうことに対して何故か恥じらいがあったのだ。

 胸がドキドキして、自分のなかにちがう自分がいるような居心地の悪さがあった。

 

(そもそも女子の裸くらいならうららたちで見慣れ……、いや、見たことないや)

 

 やたらいっしょにお風呂に入りたがっていたが、るいが拒否の姿勢をみせればそれっきりだ。わりと彼女らが節度をもって己に接していることを発見したのであった。もっともおたがいに濡れ鼠だから今回の混浴はやむをえまい。

 しかし同じ状況に陥ったとして、うららがここまで堂々と立ち振る舞えるかといえばムリだと何故か断言できた。背中合わせに恥じらいながらもじもじと脱ぐうららを幻視して、ふいに熱いものが胸にこみあげてくる。

 

「あ、そうそう。バスタオルですけれど。浴場につづく引き戸の脇に椅子があるでしょう? そのうえに行衣といっしょにならんでますよ。浴場から出たらそれをつかってくださいね」

 

 しずくが右手で示す向こう側。椅子の上には折りたたまれたバスタオルと行衣らしき白い布が置いてあった。

 

「ちなみに、行衣というのは水垢離のための衣服のことをいいます。毎朝これを着て水をあびて身を清めているんですよ。サイズについては男女兼用ですのでご心配なく」

 

 笑顔で語るしずくに、るいは内心のドキドキをごまかすように気になったことを聞く。

 

「……お風呂でやってるの? 水垢離って外でやるイメージだけど」

 

「よそさまはどうかわかりませんが、うちはお風呂場ですね。だって冬とか寒いじゃないですか!」

 

 なぜか胸を張ってドヤるしずく。かろうじて襟部分で隠れている突起が見えそうでヒヤヒヤしながら、るいは疑問点を指摘する。

 

「その寒さを耐えて心身を鍛えるものでもあるんじゃ?」

 

「多祇神社の水垢離はあくまでも身を清めるためだけのもので、肉体および精神修行の要素はないんですよ?」

 

「そういうものなんだ……」

 

 水浴びの作法ひとつにしても神社によって色々ちがうらしい。地域差がある以上、地域に根ざした存在である神社にも差異があるのは当然のことなのだろう。そう考えてみればあたりまえの話だが、今まで考えたこともなかったのでちょっとした新鮮な驚きであった。

 

「それにですね。おそとで水行をしているところに男の人が参拝してきたら困るじゃないですか。濡れた行衣に透けた肌や下着をみられたらはずかしいです!」

 

 しずくにも羞恥心という概念があったのか――。これまた新鮮な驚きであった。

 で、あるならば、己に堂々と大事なところをさらしている現状はいったいどういうことなのか。

 

「ねえ、しずくはその……、これははずかしくはないの?」

 

「なにがです?」

 

 小首をかしげるしずく。ほんとうに問いかけの意味がわからないようだ。

 

「いや、いちおう僕だって男だし……。その僕に……、その……、むね……とか、あの……あそこ……とか……。と、とにかく女の子のだいじなところをみられて……、はずかしくないのかなー……、って……」

 

 つっかえつっかえ言葉にしながら、不思議としずくの顔を直視できなくなり、気がつけばうつむいていた。頬が熱い。わるいことはいってない。むしろ自分は正当な問いかけをしているはずだ。なのにどうしてこんな恥ずかしい気持ちになっているのか。わけがわからない。

 コホンと咳払いする声が聞こえた。視線を戻せば、怒っているような悦びを堪えているような、得体のしれない表情をしている。雰囲気的にしずくは真剣な表情をしているつもりらしい。なのでとりあえずはそれに合わせた対応をすると決めた。

 

「うーん、畑野さまはかんちがいしてますね」

 

「かんちがい?」

 

「そうです」

 

 人差し指を立ててずいっと顔を寄せるしずく。視線のやり場が顔にしかない。

 

「妾だって男の人にみられるのはずかしいです。でも、畑野さまだからみせられるんですよ?」

 

 それは一体どういう意味なのだろうか。いつものように気軽く問いかければいいのに、るいの口は動かなかった。「男として見てないからですよ」なんていわれたら嫌だなと、ふいにそんな考えがよぎり、それにまた困惑する。マイペースに話をつづけるしずく。

 

「それにですね……」

 

「……それに?」

 

 おそるおそる問いかけるるいに、しずくは目をくわっと見開き両手を広げる。

 

「妾も畑野さまのお裸がみたいです! っていうか、おちんちんをみせてほしいです! そのためなら妾だってすべてみせるのはとうぜんでは!? 等価交換ですよ!」

 

 一瞬、思考が停止する。しかしるいの頭脳はすぐに動き出す。

 自分を男として見てることは非常によくわかった、わかりすぎるくらいわかったが、それはそれで反応に困った。いやべつに見せて困るものでもないし、同年代の異性の身体に興味を持つ気もちだってわからないでもない。が――、しずくはもうちょっとつつしみをもつべきではないか? 裸を見せればなんでも叶うほど世の中は甘くないぞとおしえるため、ここはあえて見せないほうがいいのでは? しかしそうすることで満たされなかった好奇心を満たすため、べつの男におなじことをやったらなんか嫌だ。ならばいっそ自分のを見せて好奇心を満たしてあげたほうがいいのではなかろうか? るいが悶々としている間にも、しずくはウインクしながら人差し指を振る。

 

「で・す・が! 畑野さまがみせたくないというのならば、そのお気もちはもちろん尊重しますよ。さっ、洗い場の配置をみてください!」

 

「配置……?」

 

 ガラッと、すりガラスのはめ込まれた引き戸をしずくが両手で開けた。最奥に大きな浴槽。手前の洗い場には、左右対称の位置に3つずつ蛇口と鏡と椅子が並んでいる。

 

「妾が右で、畑野さまが左、そうすれば背中合わせになっておたがいにみえません。ね? 問題はないでしょう?」

 

「そうかな……?」

 

「そうですよ! まあ……あわよくばあわせ鏡のようりょうで畑野さまのお裸を……ふふ……うふふふふ……」

 

 後半の言葉は聞き取れなかったが、すこしばかり安心した。しずくは好奇心を満たすためなら手段を選ばない少女ではなかったようだ。ふたたび服を脱ぎ始めるしずく、あわててふたたび背を向けるるい。Tシャツとズボン。たったそれだけの衣類を脱ぐのに背後が気になって遅々としている間に、しずくはさっさと脱ぎ終えたようだった。

 

「それではおさきに洗い場へ行ってますね!」

 

 引き戸を開け締めする音が背後から聞こえて、ようやくるいもスムーズに脱ぎ始めた。気まずさはしずくの言葉で消え去ったものの、ドキドキが消えたわけではない。自分の中に知らない自分がいるような居心地の悪さも依然としてある。脱いだ服を籠の中に放り込むと、るいもまた洗い場に足を踏み入れようとして、それより先に中を覗きこむ。

 

(しずくはどうしてる……?)

 

 しずくの姿を確認してみれば、椅子に座って長い髪の毛にシャンプーを丁寧につけている。彼女の艷やかで長い黒髪は、ああいった丁寧な洗髪の積み重ねによって維持されているのだろう。あの様子では、るいなど横目で見る余裕もないはずだ。自分の裸など見られて困るものではないが、それでも見せるべきか否かの悩みから自動的に解放されたことにホッとする。

 椅子に向かって歩いていくわずかな間、一方のるいは横目でしずくを追い続けてしまった。やはりどうしても――、裸体のほうに意識が行ってしまう。あのやわらかな曲線を描いた身体つきが、なんだか無性に"くる"のだ。もっと見たいというのが嘘偽らざる本音だった。

 これではしずくにつつしみがどうのいえたもんじゃない。

 

(でも、なんというかしずくの身体って……生々しいんだよね)

 

 しずくはまちがいなく細身の少女だ。スタイルだってそこらの女子とは比べるまでもなくいい。しかしうららやケイに比べるといささか引き締まってないように見えた。生まれ持った体質の違いか、あるいは日常的なトレーニング量の差なのかはわからない。

 だが――、それが無性に"くる"のだ。ますます大きくなる自分のなかにちがう自分がいるような居心地の悪さ。椅子にすわって身体を洗い始める。石鹸とシャンプーを使って5分もかけずに済ませた。もともと早風呂ではあるが、いつも以上に手早く済ませたことはいうまでもない。

 文字通り逃げるように立ち上がる。

 

「さきにでるね」

 

「え、湯船にはつからないんですか?」

 

 るいの言葉にしずくは意外そうな声をあげる。チラと横目で様子を見れば、ようやく髪を洗い流すところのようだった。るいの姿は視界にも入っていないだろう。

 

「うん」

 

「そんなこといわず湯船ではだかのおつきあいをしましょう? 妾もはやく髪を洗ってしまいますから……ね? ね?」

 

 甘えるような声でねだるしずくだが、こればっかりはるいも厳しく応じる。彼女はどうも男女の距離感というものを理解していないようだ。ここはビシッといかねばなるまい。

 しずくのためにも――、自分のためにも。

 

「しないよ。だからちゃんと身体もしっかり洗ってからでるんですよ」

 

「はい、お母さん。……うぅ、無念です。このときばかりは長い髪であることをすこし後悔しちゃいます……」

 

「しずくの長い髪、僕は好きだよ」

 

「ふぇ!? は、はははははは畑野さま! もういちどいっていただけ……っ!?」

 

 ガラッと浴室に通じる引き戸を閉めたるい。すぐ脇のベンチ上に置かれたバスタオルを手に取り、深く息を吐くと脱衣場で身体を拭き始めるのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 結局あれから10分ほどしずくが出てくるのを待ち、髪をドライヤーで乾かしたりの諸々でさらに20分ほどかかった。しずくは己の母とは異なり、入浴後のスキンケアなどは化粧水を軽く肌になじませる程度だったが、それでもこれだけの時間がかかったのだ。女性の身支度とはかくも時間がかかるものなのだなと実感したるいだったが、さておき。

 

「お洋服の洗濯と乾燥は2時間もあればすみますよ。それまでのんびりお茶でも飲んでお話してましょう?」

 

「うん」

 

 社務所兼居間のちゃぶ台を挟んで向かい合うるいとしずく。お互い白の行衣。要するに帯付きの和装である。

 

(しかし、これは、なんていうか)

 

「もしかして……、畑野さまもおなじことをかんがえていますか?」

 

「しずくも?」

 

 さっきからノーパンだからか下半身がスースーして座りが悪いのだ。

 男子から女子に向かってシモの話を振るのはちょっとよくないかなとおもったが――もはやいまさらな気もするが――向こうから振ってくるのなら話は別だった。

 

「この白の行衣を着てるとスー」

 

「ええ、これから無理心中しようとしている夫婦みたいで……、すてきですね!」

 

「スー……え? すてき? あー、うん? そう、かな?」

 

 どうにも理解し難いセンスだが、しずくがそれで満足しているのならば深くは問うまい。

 外からセミの鳴き声が聞こえてくる。心地よい沈黙。

 

「ねえ、しずく」

 

「なんです?」

 

「例祭に、なにかあるの?」

 

 しずくが例祭に対して、並々ならぬ感情を抱いていることは察していた。だからこそ触れないようにして、何事もないように今の交友関係を続けていくつもりでいたのだ。お互いの暇な時にふらっと顔を合わせて、他愛のない会話をすることができる。生まれて初めて出来た気の合う友だちだと思っているがゆえに――、自然とるいの口はそう尋ねていた。だが突飛な問いかけだったかもしれない。そんな心配をよそに、しずくも極めて自然に答えを返す。

 

「神楽舞はごぞんじですか?」

 

「神様に奉納する舞……、という認識でただしい?」

 

「はい、そのとおりです」

 

 こくりとうなずくしずく。舞の内容は神社ごとに異なり、多祇神社においてのそれは巫女舞になるという。

 

「これは多祇家の世継ぎとなる女のおやくめで、いまは母が毎年の例祭で舞っているんです」

 

「いまは、ってことは」

 

「とおからず妾がそのおやくめを継承することになります。その時はじめて披露する巫女舞のことを、継承の舞といいます」

 

 いうなれば多祇神社の継承者だと内外に示すライブショーということだった。

 

「継承の舞をおこなうのは妾がかぞえ歳で15歳のとき……、つまりは来年ですね」

 

「あと一年」

 

「ええ、あと一年。たった一年です。一年後には妾にとっての晴れ舞台がまっている。ということになるわけです」

 

「そのことがいまからプレッシャーになってる?」

 

 「いえ」とかぶりを振るしずく。キリッとした表情からはプロフェッショナルな流儀を感じる。

 

「それだけはないですね。巫女舞にかんしてはおさないころからさんざんに仕込まれていますから。むしろきんちょうする要素がないです」

 

「すごい自信だ」

 

 るいの反応に得意満面のしずくは、袖で口元を隠しながら笑う。

 

「ふふふふーん! ま、当日に40度の高熱で意識が朦朧としていてもおどれるでしょうね! よゆうすぎてごめんなさい!」

 

「それはもう素直に休もうよ。まわりにも迷惑でしょ」

 

 そんな簡単な話ではないのかもしれないが。なんにせよ大一番だからとナーバスになるようなタイプではない。それだけはわかった。

 

「さて……、以前にお話したとおり、いまとなっては多祇神社の例祭は分社でのみ催されるものとなりました。そして巫女舞は例祭でおどるもの……」

 

 しずくはそっとお茶が入った湯呑を両手に取り、水面に視線を落とす。

 

「生まれ育ったこの本社で、観客のまえで晴れ晴れしく舞うことは未来永劫ないのだとおもったら、なんだか無性にさびしくて……」

 

 ぐいっと湯呑を煽るしずく。そうすることでさびしさをも飲み込むかのように。多祇しずくはともすれば儚げな和風美少女の外見とは裏腹に、わりとわがままでマイペースな少女だった。いつも楽しそうにコロコロと表情を変える。そんな少女がさびしげな顔をしているのが、なんだか無性に耐えられなくて。そうしてまた、気がつけばるいの口は動いていたのだった。

 

「その観客――、僕ひとりじゃだめかな?」

 

「……え?」

 

 目をまんまるさせるしずくに、るいは真剣なまなざしをむけるのだった。

 

 

 

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