オドン教会の灯りに戻ると、アルフレートと教会の男がなにやら話し込んでいるようだった。
「おい、あんた。待たせて悪かったな」
「ああ」
複雑な刺繍、教会の象徴であるらしいそれが刻まれた背に声をかける。
するとアルフレートは振り返ってこちらに微笑んだ。
「いえ、そう待ってはいませんよ。すぐに参りましょうか」
「そうだな」
「旧市街には私が案内します」
そう言うと、アルフレートは男に軽く一礼する。
「では私はこれで。あなたに血の加護のあらんことを」
「あ、ああ。……ところでそこに、狩人さんもいるのかい?」
相変わらずの卑屈で心地良くない声で男がそんなことを問う。
別に存在を隠す意味も感じなかったので××××はそれに答えた。
「いる」
「やっぱりそうか、足音が聞こえたんだ。ヒヒッ……」
気色の悪い笑い声を上げる男に、答えかねた××××は頬をかく。
彼が何を言いたいのかがいまいち掴めなかった。
「な、なぁ、狩人さん」
「なんだ?」
「ありがとう。あの人に、あんたがここを教えてくれたんだろう?」
それは確かにそうだったので、××××は頷いた。
けれど彼は目が見えなかったのだと思い直し、声を出しそれを肯定する。
「そうだ」
「やっぱりそうなんだ」
すると男は喜色を満面に浮かべて声を弾ませた。
「俺なんか相手にもされないけど、でもやっぱり誰かが助かったのなら嬉しいよ。それに……あんたにお願いした俺も、もしかしたら、その、ちょっとは役に立ったのかなって。そんなのは俺、生まれて初めてだからさあ……。ああ、嬉しいなあ……ヒヒ!」
「そうか」
早口でまくし立てる彼に一言だけ返して××××はアルフレートの背を平手で軽く叩く。
もう行こうと、そう促したつもりだった。
「また、まともな生き残りを見つけたらさ、『オドン教会』に逃げてこいって、伝えてくれよな。ヒヒッ……」
背にかけられたそんな言葉。
老婆はギルバートのついでのつもりで連れてきて、そのギルバートの保護が見込めない以上××××にはもう人を助ける理由などない。
けれどもしかすると、人を助けられたことを純粋に喜ぶ男にほだされたのかもしれない。
意識するよりも前に××××は答えを返していた。
「見つけたらな」
何故いわれのない罵倒を受け、さらに獣狩りの邪魔になるようなそれを引き受けたのかは分からない。
分からないが、特に深く考えることもせず××××は背を向け歩きだした。
―――
聖堂街というだけあってあちこちに教会があるものなのかもしれない。
教会の横から外に出て、ずっと下った先にある小さな教会の前の広場。
焚き火の周囲にたむろしていた獣共を片付けていた時ふとそう思う。
「怪我はありませんか?」
槍を持った獣の喉に剣を突き刺し、不意にアルフレートが声をかけてくる。
「ない」
相手にした獣は三体。
それに一匹犬がついた程度で、待ち伏せや銃持ちもいない。
それならば××××一人でも危なげなく倒せただろう。
「そうですか。では、こちらに」
そう言ってアルフレートは教会の中へと足を踏み入れる。
しかしそこには大きな棺が一つあるばかりで、どこにも道と思しきものはなかった。
「……閉じられていますね」
「通れないのか?」
「いえ、あの棺を動かす仕掛けがあります。少し待っていてください」
そう言ってアルフレートは教会の外に出る。
××××がそれを見送ってしばらく待っていると、教会の上からアルフレートの声が聞こえた。
「失礼、お待たせしました!」
「ああ」
見れば彼は、教会の上に据え付けられたテラスから声をかけているようだった。
そして大きなレバーを引くと目の前の棺が動き始め、やがて暗く口を開ける道が見えた。
「あの、すみません」
「なんだ?」
「……もう少しだけ、待っていてもらえますか?」
「構わないが」
そう答えるとアルフレートはどこかに姿を消す。
そしてそれから数分ほど待った後、特に変わりない様子で教会の中に戻ってきた。
―――
旧市街に繋がるのだという通路には、ほとんど敵の姿が見えなかった。
「旧市街は獣の街だと聞いていたんだが」
「その通りです。しかし、医療教会は旧市街を焼き獣を封じ込めました。ですから街の外に獣が出てくることはありません」
暗く狭い、埃の匂いがする木の通路。
一見民家に見えなくもないそれはところどころ床が抜けて壊れ、時にははしごを使わなければ通れない場所もあった。
また一つ、大きく避けた床をまたいで××××は歩を進める。
「そろそろですね」
それからしばらく歩いた頃、アルフレートの言葉と同時。
焼けた肉の匂いが鼻先をかすめる。
「そうらしいな」
暗い道を抜けて、やがて広場……とはいえ手狭なものだが石張りの床の行き止まりにたどり着く。
そしてその左奥からはおぼろに明かりが差し込んでいた。
「この先が旧市街、古狩人デュラの縄張りです。……どうかしましたか?」
アルフレートの言葉をよそに、××××は手近にあった灯りに触れ火をともしていた。
どうやら彼には、これが見えないようだった。
「灯火だ」
「ああ……」
そう言うと険しかったアルフレートの表情が緩み、懐かしげに目を細めた。
けれどすぐに表情を引き締め、炎燻る旧市街の街並みに視線を戻した。
「いけませんね。今はただ、狩りを成就させなければ」
「そうだな」
灯りの前から腰を上げて、アルフレートにならって旧市街を見据えた。
けれどその光景は、見れば見るほど異様だった。
まず、最も目を引くのが炎だ。
あちこちで磔にされた獣が燃やされていて、焦げ付いた死体は耐え難い悪臭を周囲に振りまいている。
そしてかすかに日が残る空にそれらの炎が照り返したものか、旧市街の空は奇妙な赤に染め上げられていた。
それから街並みの方もまさに『捨てられた街』と呼ぶにふさわしいものである。
道を舗装する石畳はところどころ割れ、ごたついた地面には枯れ果てた木が死人の腕のように不吉にその枝を伸ばす。
建物自体はヤーナムの市街とそう変わりはないがそれらには枯れたツタが絡まっていて、全くと言っていいほどに人気がない。
だがそれでいて。
何もいない訳ではないのだ。
低く静かに、獣の唸り声がどこからか聞こえてくる。
一つ一つは小さなそれが、おびただしくひしめき一つの悪意になって耳に届く。
それは今でこそ潜められてはいるが、一歩街に足を踏み入れたのなら堰を切って押し寄せてくるような予感を感じさせた。
「……あまり良くない場所らしいな」
「はい。この街は獣の街。私も、無事でいられるかは分かりません。……そこで、なのですが」
「なんだ?」
バツが悪そうに口火を切ったアルフレートに、××××は問い返す。
すると彼は、おずおずと続けた。
「いえ、その。……よければ鐘を」
「ああ」
確かに霊体として呼び出したのならば、アルフレートもまた死を気にすることなく戦うことができるだろう。
そしてそれは、××××にとっても利益のあることだった。
「鳴らせても五回、程度だとは思うが。それでも構わないのなら」
「いいえ、気にしません。むしろ貴重な啓蒙を奪ってしまい申し訳ありません」
そんなアルフレートの言葉を聞き流しつつ、××××は錆びた鐘を取り出す。
そしてそれを改めて眺めて、今度はアルフレートへと視線を向けた。
するとそのそばには、鐘を持った使者が寄り添っていた。
「……夢を失った私たちですが、狩りを続ける限り使者を見ることは叶います。そしてまた、その助けを受けることも」
××××は何も言わず軽く鐘を鳴らす。
すると使者の持つ鐘が共鳴し、アルフレートはそれに手を伸ばす。
するとその体は青い光の渦に消え、使者がいた場所に青い光をまとって霊体が現れた。
「では参りましょうか」
「ああ」
そう答えて一歩を踏み出す。
そして霊体のアルフレートと共に街に足を踏み入れると、突然男の怒声が耳を打った。
「狩人よ、引き返したまえ!!」
低い声。
怒声でありながらどこか知性を含むその声が聞こえた方向。
街の中でも一際高い塔に視線を向ける。
するとさらに、言葉は続けられた。
「旧市街は獣の街、焼き棄てられて後、ただ籠って生きているだけ。上の人々に、何の被害があろうものか。引き返したまえ!! ……さもなくば、我々が君たちを狩るだろう!」
害はない?
まぁ、それはそうかもしれない。
だが関係なくここには用があるのだ。
だから足を止めずに歩くと、やがて橋に差し掛かる。
すると煙の向こうから三体、黒い獣毛としわがれた皮膚の獣が俊敏な動きで飛びかかってきた。
「アルフレート。右を頼む」
「ええ」
右に二体、左に一体。
さらに右の個体は手前と奥に分かれている。
××××は左から爪を突き立てようと迫る獣の首、それを退けつつ変形させたナタで斬り飛ばす。
見ればアルフレートの方も、いっそ意外なほど流麗な剣技で獣を斬り捨てていた。
「耳を貸してはいけませんよ。狂人の言葉です」
「……分かっている」
なにに、とは聞かなかった。
分かりきっているからだ。
橋の先の角を曲がり、幅の広い階段を下る。
そしてアルフレートと二人獣を狩りつつ歩いていると、また男が声を投げかけてくる。
「……貴公、新顔か? よい狩人だな。狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。よい狩人だ」
薄汚い布を被った、他より体格に優れた獣。
その一撃を受け流し、反撃より気を引くことに専念する。
すると××××を追撃しようとしたその獣の腹に、思い違わずアルフレートの剣が突き立てられた。
そして隙を晒した獣の喉をナタで斬り飛ばしつつ、塔に再び目を向ける。
「!」
その時。
悪寒を感じた××××は剣を抜いたアルフレートを突き飛ばし、とっさに手近な瓦礫の裏に転がり込んだ。
「だがだからこそ、私は貴公を狩らねばならん!」
そんな声と共に、彼方で閃光が閃く。
「うわ、何をするんですか」
押し倒され、顔を上げたアルフレート。
しかしすぐに状況を理解したようだった。
「……速射砲、ですか」
言葉の通り、それはそう呼ぶしかないものだった。
塔から放たれたおびただしい弾丸が地を削り、やがては××××が隠れる大きな瓦礫を凄まじい音を立てて削り始める。
「あれは初めて見ました……。すみません」
「気にしなくていい。俺もあんなもの知らない」
「火薬庫が試作したという速射砲でしょうか……。それを狩人狩りに使うなど……」
火薬庫、という言葉の意味は知れなかったが、それでも今それを聞くべきではないということは容易に想像できた。
「それよりここもそう長くは持たない。どうする?」
「ここはいっそ飛び出てみますか?」
「…………」
地を削りつつ瓦礫へと向けられた銃弾。
精密性と集弾性は中々のようだが、照準の動きを思い出すに恐らく旋回には難がある。
こうも捕捉されては飛び出すことも難しかろうが、一瞬、たった一瞬だけでも隙を作れれば逃げることは不可能ではない。
そこでふと、視線を動かした先に獣が見えた。
そして先ほどの男……デュラの声を思い返す。
「アルフレート、少しどいてくれ」
「?」
アルフレートの体を動かし、細い階段の先にいた小柄の獣に向けて銃を撃つ。
散弾、それも距離が離れているので大した威力はないが、それでも獣の注意は引けたらしい。
走り寄ってきた獣の爪を受け、アルフレートに指示を出す。
「こいつの喉をかっさばいてくれ。すぐには殺さない程度にな」
「…………」
意図を理解したらしく、喉に剣を突き刺し血が吹き出す。
そして××××は銃を腰に吊るし、弱々しく痙攣するその体を盾のように掲げ瓦礫の外に飛び出した。
「っ……!」
息を呑むデュラの声が、聞こえた気がした。
弾幕は一瞬その動きを遅らせ、すぐには××××に追いつけない。
その隙を突いて獣がいた細い階段を下り始めると、アルフレートもついてきているようだった。
「止まってはいけませんよ!」
それに答えることすらせず、××××は追いかけてくる銃弾から逃げ続ける。
そして転がり込むように暗い建物の中へと逃げ込むと、今度はそこに巨大な獣がいた。
「ここはどうなっている……!」
布を被った獣。
それを巨人のように大きくしたそれが、××××に腕を振り下ろす。
突然の攻撃をなんとか受けるが、受けきれずその爪は××××の胸を深く抉り吹き飛ばした。
「この獣がっ!」
石鎚を手にしたアルフレートが即座に交戦を開始し、追撃は来なかった。
だから血を入れ回復するが、どうにも調子がよくない気がする。
アルフレートに加勢し、なんとか巨人をすり潰してしまう。
だが何故か息が苦しかった。
「行こう。あの塔だな?」
「ええ」
アルフレートはそんな××××の様子には気が付かずそう答える。
それから建物の外に出ると、屋根が焼け落ちた部屋に出た。
そしてそこにはいくつもの壺が置かれていて、さらに一人の男が佇んでいる。
焼け焦げた狩り装束に、目深に被った黒いフード。
××××のものにも似た、けれど鋭いのこぎりの槍。
……そしてどこか、赤い光を帯びているようにも見えるが。
「……あれは」
「…………」
アルフレートが呟き、対して男は無言。
「デュラの仲間か?」
弾幕は追いかけてこない。
撃とうと思えば撃てるだろうに、撃たないのは何故か。
もしやあの男はデュラの仲間かと思いそう尋ねると、やはりそうだと答えが返る。
「その通りです。彼はデュラの盟友の狩人。……旧市街の狩りで、死んだと思っていましたが」
「なるほど」
ではやはり仲間なのだとそう思った矢先に、部屋に銃弾が降り注ぐ。
とっさに物陰に隠れるが、男の方は隠れもしない。
壺の中身が銃弾の衝撃で引火し、次々に爆発するがその爆炎の中一人佇んだままだった。
「大丈夫か?」
「ええ。あなたは……」
「血で塞がる」
やがて爆発が止み、アルフレートの方へと視線を向ける。
彼は大事ないようだったが、××××の方は腹に吹き飛んだ破片を受けていた。
大きく尖った石のかけらを抜き、投げ捨てて血を入れる。
そして煙が晴れるのを待つと、先ほどの男は無傷のままそこに立ち尽くしていた。
「なるほど。……彼は侵入者ですね。穢らわしい」
吐き捨てられたその言葉に、××××は問いを返す。
「侵入者?」
「そうです。かいつまんで言うのならあれは敵対する霊体。鐘の共鳴で現実が捻じ曲げられているのを利用して侵入者として入り込むのです。捻じ曲げている狩人の主観、いわばあなた個人の『世界』の中に」
「つまり?」
「あなたという主観、そしてそれを霊体として共有する私からの攻撃しか今の彼には通用しません。恐らく獣には、見えてもいないのでしょう」
「なるほど」
つまり同士討ちもなく、銃弾と白兵による連携が成り立つということだ。
「アルフレート、時間を稼いでくれるか?」
「……ええ」
言わんとすることは分かったのだろう。
顔を苦くして、けれどアルフレートが頷く。
すなわち彼が銃弾とデュラの盟友を相手取り、その間に××××がデュラを倒すと、そういうことだった。
「これも貸しにしておきましょう」
こちらが時間を稼いでも良かったのだが、それだと途中で死ねばアルフレートもまた振り出しに戻る。
アルフレートなら途中で倒されても、稼いだ時間の分は銃撃と男を引き離せるからこその役割分けだった。
だが酷なことを頼んでいる自覚はあるので、××××は彼に謝罪する。
「すまない」
そう言って××××は物陰から走り出る。
すぐに弾幕が追いかけてくるが、アルフレートが盟友と刃を交え始めるとやがてはそちらに銃身を向けたようだった。
恐らく霊体の男が見えていなくても、戦っているアルフレートは見えるのだろうか。
それを置き去りに駆けて、獣には目もくれず旧市街の街を進む。
そしてやがて塔の下にたどり着き、はしごを登り始める。
だが先程から感じていた息苦しさが、徐々に増しつつあった。
「かはっ……」
一つはしごを登りきり、××××は血を吐く。
膝をつきつつ異変に戸惑うが、アルフレートの戦いを無駄にはできない。
焼け石に水と察しながらも血を入れて、もう一つはしごを登る。
すると果たして、そこには一人の男がいた。
彼は灰色の狩装束に、さらに灰をまぶし纏っているようだった。
どこかざらついた、色がくすんだような装束を翻し、速射砲に向かっていたデュラはこちらに振り向く。
「……どうした、顔色が悪いぞ。貴公」
その言葉には答えず、××××は一言だけ返す。
「古狩人デュラか?」
「いかにもそうだが」
「そうか」
××××はナタをノコギリに変形させる。
するとデュラも右手に持った巨大な杭にこれまた分厚い刃をつけたもの、それをなにやら複雑な機械に取り付けたような武器をこちらに向ける。
それに目をやり、それから左手にも視線を向ける。
するとそこには、××××と同じ散弾銃が握られていた。
「…………」
何も言わず××××は踏み込む。
殺す気はなかった。
何故なら彼にはガスコインのような獣性を感じなかったからだ。
とはいえ血で大抵の傷は塞がるので、大怪我程度で済ませるつもりもなかったが。
まず斬りつける。
喉を狙ったそれは太い杭により逸らされ、さらに刺突が返ってきた。
それを身をよじりかわして幾度もナタを振るう。
しかし素早い後退により全てすかされたので、ノコギリを変形させて追撃を仕掛けようとした。
しかし追撃に合わせてデュラが銃撃の構えを取る。
とっさにかわすために横に飛んだ。
そしてすぐに向き直りまた踏み出そうとしたところで、不意に熱を感じて身をかがませる。
すると頭上を火炎瓶が通り過ぎ、内心それに背筋を冷やした。
そうか、敵は狩人だ。
ならばもっと工夫をしなければ。
火炎瓶をかわして体勢を崩した××××。
間髪入れずデュラが懐に入り込んでくる。
素早い振りで引き出された杭の斬撃が迫る。
二発受け、けれど受けきれず腹を裂かれるが銃撃で立て直した。
そしてデュラが距離を離したところで、××××は持ち物にある油を塔の際に立つ敵の足元に投げぶちまけた。
「っ! 貴公!!」
「…………」
答えはしない。
油はつつと地面に広がり、これでかなり動きにくくなっただろう。
ましてはこの狭い断崖の塔だ。
うかつには動けないし、落ちて死ぬのもありえない話ではない。
殺す気はないが、滑り落ちて死ぬ分には仕方がないだろう。
相手も殺そうとしてくるのだから。
銃を撃つ。
デュラはぎこちない動きで。
それでも転がるようにして銃撃をかわし、斬りかかってきた杭を避ける。
油の上ではないがその靴は油に汚れたはずだ。
摩擦を失った足裏のせいか彼の動きは精彩を欠いている。
さらに幾度か刃を交わし××××は火炎瓶を投げた。
狙いはデュラではない。
背後の油貯まりを燃やし、それに気を取られたデュラを蹴りその中に突き飛ばす。
「ぐぉっ……!」
踏ん張りが効かず。
なすすべなく吹き飛ばされたデュラは、燃えながらも体勢を整えようとする。
しかしそれを許す××××ではない。
すぐに追撃を仕掛けようとして……いや仕掛けつつもだ。
その瞬間にやけに響く空砲のような音を聞いたのだ。
「…………?」
それに気を取られるのも一瞬。
すぐに意識を集中し、デュラに刃を叩きつけた。
ナタの一撃は起き上がる前、寝たままのデュラになんとかと言った様子で防がれる。
だが小さな燻りが身を焼き、さらにこの塔の際、落ちれば死ぬ絶壁にデュラは追い込まれている。
あと二発もあれば片がつくだろう。
息苦しさはますます酷くなっていたので、さっさと終わらせてしまいたかった。
そう思ってさらにノコギリを振り上げるが、そこで寒気を感じて飛び退く。
だが間に合わなかったようで、××××の腹は槍に貫かれていた。
「がっ……はっ……」
細かい刃が動くたび激痛が走る。
膝をついた。
苦しい息の中振り返る。
すると背後に立っていたのはデュラの盟友。
そしてその身体からは、赤い光が消えていた。
アルフレートが敗れたにしては登場が唐突すぎる。
なにがどうなっているのか、全く理解が追いつかなかった。
「……助かった。後輩に追い詰められるとは、まったく私も焼きが回ったな」
「…………」
背後の男はデュラに何も答えない。
デュラは埃を払う仕草と共に立ち上がった。
腹から槍を抜かれる。
その機に立ち上がろうとするが、力が抜けて立てなかった。
腹を貫かれた程度で死ぬはずもないのだが。
……足音がした。
「貴公、本当によい狩人だな。こんなところで時間を無駄にせず、早く上の人々の助けになるといい」
がしゃり、と。
何かがはまるような音がした。
顔が上げられない。
力が入らない。
視界が霞む。
「どうしてもここで狩りをすると言うのなら、私たちは何度でも貴公らを狩るだろう。……だが、まぁ」
なんとか視線だけ上に上げた。
すると杭打ち機を振りかぶるデュラの姿がおぼろに見えた。
「貴公、まだ夢を見るのだろう? であれば、あそこでよく考え直すことだな」
腕が振り下ろされ、そして次の瞬間。
衝撃と共に××××の知覚は閉ざされる。
捕捉
僕個人の妄想としては啓蒙により現実を捻じ曲げて、ホストさんの存在?というか存在する枠に同居させるような形で霊体を呼ぶのが協力者。
だから協力者はエネミーに攻撃されるし敵対者にも見えるしホストが死ぬと帰る。
本来存在し得ないものがそうして世界に入り込んでるんだと考えてます。
それでその隙間(あるいは不吉な鐘に呼び込まれて)を利用して狩人個人に対になる、ホストさんのみに向き合う形で呼ばれるのが敵対者だと思ってます。
だからエネミーには見えないし存在を共有?する協力者には見えるというような。
多分違います。