ブラッドボーンー永遠の狩人ー   作:ローリングデブ

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 薄暗い部屋。

 木造の建物。

 いくつもの寝台。

 

 静寂の夜。

 

 ああ、これは。

 

 ……診療所だ。

 

 気がつけば、またあの診療所に立っていた。

 そして傍らにはなにか道標のような、そんな雰囲気を纏う小さな灯りが。

 

「…………」

 

 よく見ると、その灯りが突き立つ根本にはあの小さな異形の姿が見えた。

 そして、その事実と……手に握る武器があの庭園での出来事が夢ではなかったと告げている。

 

 一歩を踏み出す。

 そして壁の向こう、ランプに照らされた血たまり。

 その上にはやはり、あの獣がいた。

 

 アレを殺害する。

 その事実を、恐ろしいほどすんなりと××××は受け入れられていた。

 

 けれど、やはり恐怖はある。

 ××××はきっと、後ろ明るい人生を送ってはいなかった。

 きっと殺伐とした行為も行ってきたはずで、殺害への無抵抗はその経験を通して自らに刷り込まれたものなのだろう。

 

 

 だがそれでも、××××だって人間だ。

 あの大きな獣は、どう見ても人間が立ち向かうようなものではない。

 

 生唾を飲み、忍び寄る。

 息を消え入るほどに潜め、あの『悪夢』で見たのと変わらぬ様子で肉を貪る獣に向けて武器を振り上げる。

 

 そして、渾身の力を込めて刃を叩きつけようとした。

 

 その時。

 

「…………ッ!」

 

 獣が突然、偶然のようにして身じろぎをして、そのせいで××××の刃はその肉を大きく削ぎはしたものの命を奪うには至れなかった。

 

 鋭いのこぎりが肉を削ぐ感触。

 獣が悲痛な叫びを上げる。

 

 怯みつつ振り返った獣が血走った瞳を向けて一撃。

 それはなんとかかわす。

 

 恐れに硬直した体でもかわせたのは、××××が斬りつけたせいか最初に比べて獣の動きが鈍くなっていたお陰だ。

 それにどうやら、この獣には××××がつけたもの以外にも傷がある。

 

 ならば初手で決められなかった××××にも、勝機はあるかもしれない。

 

 続く二撃目が放たれる前に、距離を取り銃を構えて引き金を引く。

 するとつんざくような音がして銃弾が放たれた。

 

 反動に慣れず、また焦りの中で放ったので××××は撒き散らされた弾丸の殆どを外してしまう。

 しかしわずかに命中したそれは確かに獣の命を……刈り取らなかった。

 

「!」

 

 凄まじい生命力だった。

 銃弾をめり込ませながらも、獣は強靭な四肢を駆動させ××××に迫る。

 

 爪を振り、それは再びあの悪夢の再現のようにして腹へと向けられる。

 転がるようにかわすが、確かに腹を抉られた。

 そして地に倒れた××××へと覆いかぶさるようにして獣が追撃を仕掛けてくる。

 

「がっ……!」

 

 絶対的な体格差。

 勝ち目などない。

 左肩に喰らいつかれる。

 

 銃を落とす。

 

「クソ……がっ……!」

 

 生きて、やる。

 

 そんな言葉が頭のどこかに響いた気がした。

 

「がぁぁぁぁぁっっ!!!」

 

 ××××は獣のように咆哮する。

 そして右手の刃を強く握り、また喰らいつこうとする怪物の首筋に刃を押し付けた。

 

 爪が食い込む。

 痛い。痛い。痛い。

 

 だが刃は離さない。

 離すものか。

 

 喰らいつこうとする獣の力それ自体を利用し、××××は深く深く刃を突き立てる。

 そして獣の拘束が緩んだところで思い切りのこぎりの刃を引き、獣の喉を掻き切った。

 

 

「はぁっ……!」

 

 獣が、後退。

 この隙を逃しはしない。

 

 立ち上がり、よろめきながらも刃を振る。

 しかし、あと一歩届かない。

 

 獣が爪を振り上げる。

 妙にゆっくりと歪んだ時間の中、渾身の力を込めて××××は届かぬと知りながらも刃を振るう。

 

 生き抜くために振るう。

 

 するとのこぎりはその軌道の中で折り畳まれていた刃を勢いよく広げ、鉈のようになって獣の首を斬り落とした。

 

「…………」

 

 血が噴き上がり、かすかに漂う赤い煙の中××××は腰を抜かす。

 勝った……らしい。

 どうも。勝てたらしい。

 

 偶然ではあったが、それでも生き延びることができた。

 

「……はっ」

 

 荒い息を一つ吐き、それから一時忘れていた痛みを自覚する。

 

「…………っ」

 

 感覚のない左腕で銃を拾うが、自分がこれをまだ撃てる体なのかは分からなかった。

 よろめきながらも歩く。

 

 外に行けば、治療を受けられるかもしれない。

 だがここは診療所だと思い返し、それならばなにか血を止めるような物だけでもと考える。

 

 いや。

 

「血の……医療」

 

 少しだけ、思い出した。

 

『生きて、やる』

 

 そんな言葉。

 恐らくは、自らの言葉。

 

 ここにある、血の医療。

 それを求めて自分は来たのだ。

 

 そして医療を求めて来たということはなんらかの患いがあったはずで、仮にあの輸血が血の医療で、それがその患いを治したのだとしたら……。

 

 一縷の望みをかけて周囲に視線を巡らせる。

 すると、すぐに目当てのものを見つけた。

 

 簡易的な注射器。

 血を注ぐもの。

 

 刃を置き、手に取る。

 そしてそれを腕に突き立て血を入れる。

 

 すると、まるで傷を負ったことが悪夢であったかのようにそれが癒えてゆく。

 体に生きる力、とでも言うべき感覚が満ち溢れ、腹のものも腕のものもそれ以外も全ての傷が塞がりきった。

 

「…………」

 

 それはまるで、魔法のような。

 こんな都合のいいことはあってはならないのではないか?

 

 本能のどこかが警鐘が鳴らす。

 しかし、それでも、これがなければ××××は生きられない。

 手負いの獣にさえ手間取る××××が生き残るためには、これは必要だ。

 

 その本質がどんなものであれ、手に取らなければならない。

 代償がなんであれ、ここで死ぬよりはずっとマシだ。

 

「……死んでたまるか」

 

 改めてそう呟き、××××はその場に残った注射器を全て腰につけた小物入れへとねじ込んだ。

 

 

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