ブラッドボーンー永遠の狩人ー   作:ローリングデブ

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 意識が覚醒する。

 ××××は目を開く。

 

 目の前にはギルバートの家。

 そして、その右。

 先に続く道へと目をやる。

 

「…………」

 

 ××××は、死なない。

 死ねば死なずにあの灯りの側で目を覚ます。

 

 まるであの診療所での時のように。

 まるで全てが悪夢であったかのように。

 

 もう何度悪夢から覚めたかは数える気もなくしたが、それでも××××は目覚める。

 

「…………」

 

 ため息を、一つ。

 

 それから××××は歩を進めた。

 そして、地を蹴って走り始める。

 

 そこら中に歩き回る獣。

 彼らは決して絶えることがない

 

 木箱の裏、そこに隠れていた鉈を持った獣の一撃をかわす。

 木箱を叩き壊しながら放たれたそれの、振り終わりに合わせて××××はのこぎりをねじ込んだ。

 

 喉元を引き裂くが、しかしまだ足りない。

 鋭いのこぎりの刃を引く過程でさらなる損傷を与えつつ、××××はまた武器を振り手首を捻る。

 

 すると遠心力により折り畳まれていた刃が開き、肉を削ぐのこぎりは切れ味鋭い鉈となる。

 そして、それによる一撃は目の前の獣の胴を深く斬り裂いた。

 

 血を流し倒れる獣の持ち物を漁り、しかし注射器は持っていないようなので早々に切り上げる。

 

「…………」

 

 幾度も死んで、その中で気がついたことは四つ。

 

 まず、のこぎりの刃は痛覚の鈍い獣にも十分有効であること。

 鋭い歯を並べるのこぎりの一撃は理性なき獣をすら怯ませる。

 

 そして、次に奴らが群れをなすこと。

 理性なき、とは言っても連中同士討ちは決してしない。

 

 まるで全員同じ幻を見ているかのようにして、連携しながら人を狩る。

 

 それから、三つ目。

 正面からでは勝てないということ。

 

 動きこそ鈍いもののやつらの腕力は絶大で、正面からやったのでは一対一でも個体によっては勝つのが危うい。

 それがまして、多対一にでもなれば今の××××には勝ち目などなかった。

 

 木箱の残骸から歩き、道の端に寝そべっていた獣をのこぎりの刃で斬り伏せる。

 その体が起き上がる前に、何度も何度も刃を叩き込む。

 

 最後に、四つ目。

 

 やつらは待ち伏せをしているということ。

 先程のような木箱や石像の影に身を隠し、××××を殺そうと待っている。

 それに今殺したような座り込んでいたり寝そべっていたりするような個体も危険で、動かないのをいいことにその横を通り抜けると確実に追いついてきて手痛い一撃を叩き込まれる。

 

 その先にもう一体、松明と盾を携えた獣がいた。

 ××××はその後ろにそっと忍び寄り、髪を掴み引き寄せ首をのこぎりでずたずたにする。

 

 それから死体を漁って階段を降りて、その角から注意深く顔を出しそっと様子を伺う。

 すると案の定、五体の獣が徒党を組んで歩いていた。

 

 奴らが発する切れ切れの言葉の断片の意味を拾うに、奴らどうも自分たちが獣狩りをしているつもりらしいのだ。

 そして、だから奴らの中で決めたのであろう巡回のルートを常に幾らかの獣が巡回している。

 

 階段の影で息を潜め、群れが通り過ぎるのを待つ。

 それからノコギリを地面に置いて、その辺りに捨て置かれている石ころを拾って群れの最後尾にいた獣に投げる。

 

「…………?」

 

 石が命中し、その獣は何者かの存在に気がついたらしく石が飛んできた方向……すなわちこちらに向けて歩を進めてくる。

 だがしょせんは獣による『獣狩りごっこ』だからか、不意に列を離れた仲間に獣たちはなんの注意も払うことなく置き去りにする。

 

 近づいてくる獣の足音を、××××は息を潜めて必死に耳で聞きその距離を測る。

 後少し、後少し……。

 

「……!」

 

 階段の壁の内側、手の届く場所に獣が足を踏み入れた瞬間。

 ××××は刃を持って立ち上がり、獣へと突進を仕掛けた。

 動きの鈍い獣はそれに反応することもできずに、首にのこぎりの一撃を貰う。

 

 鋭い痛みにか獣が怯んだ隙を逃さず、××××はさらに押して獣の体をレンガ作りの壁へと叩きつける。

 そして体を密着させ武器による反撃を許さず、こちらは首に押し付けた刃へとさらに力を加えて壁とノコの刃により獣の強靭な喉をすり潰す。

 

「っはぁ…………」

 

 最早おびただしい返り血を浴びても、なんとも思わなくなった。

 慣れた手付きで懐を探り、血がないことに小さく舌打ちをする。

 

 それからまた進み、今度は馬車の影やら家の柱に隠れて同じことを繰り返す。

 

 そうして一体一体始末して、歩を進め続けて、それから。

 

「…………」

 

 また放棄されている馬車の側、階段の下に座り込むようにしてトップハットを被った獣が一体がいる。

 ××××は先程こいつに頭を撃ち抜かれ、死んだのだった。

 

 

 立ち上がる前に接近し、鉈でその頭を叩き割る。

 ぴくりぴくりと痙攣するその腕にも刃を振り下ろし、二度と銃を握れないようにした。

 それから服の中を漁ると、この獣は銃弾を持っていた。

 

 目の前の獣の銃はライフルで、××××の銃は散弾銃だ。

 しかし、装填すれば使えることは分かっていた。

 

 どうやらこの銃の弾丸は水銀でできていて、それは銃の中で銃の仕掛けに添いその形を変え、散弾にもライフル弾にもなるらしかった。

 何度目かの悪夢の折。

 弾切れになった銃に、拾った弾丸を込めた経験から××××はそれを知った。

 

 全く都合の良い話だが、それくらいの魔法でいまさら驚くつもりはなかった。

 

 それから視線を前に戻し、先程の悪夢の中ではたどり着けなかった先の光景へと目をやる。

 

「…………」

 

 広場で、大きな焚き火を囲むようにして一、二、三、四……九。

 そして、その内二人が銃持ちだ。

 それぞれ高所と奥に陣取っていて、同時に狙撃されるようなことがあればもはや命はないだろう。

 

 それに、銃持ちが高所から見張っている以上石でちまちまと釣りだして処理するような戦い方も出来ない。

 ここはむしろ、一旦前に出て数体の獣に傷を負わせて気を引き銃の範囲外へと誘うべきかもしれない。

 

 数体の獣を相手にすることになるが、逃げつつ温存していた銃弾も使えばあるいは何とかなるかも。

 

 ……駄目ならばまた目覚めればいい。

 

 そんな捨て鉢な思考が滑り込むのを感じて、××××は歯噛みする。

 次目が覚めるとも知れないのだ。

 

 起こるか分からない奇跡に身を任せるような真似をしては生き抜くことはできない。

 命の価値を希薄にしてしまえば、いずれはこの生き抜く意志さえ失ってしまうような、そんな気がした。

 

 決意して、××××は走り出す。

 まずは駆け足の勢いを乗せたのこぎりの一撃でシャツの男の背を深々と削り裂き、さらにその体を蹴り焚き火の中へと叩き入れる。

 そして振り向きながら武器を変形させ、側にいた黒いフードを身に着けた三又槍の男の体を鉈で深く斬り裂く。

 

 それは致命傷には至らないが、視界の端でトップハットの男二人が銃を構えたのを確認して××××は逃げるために走り出す。

 奴らの動きは鈍く、それは照準についても例外ではない。

 全速力で動く相手を撃ち抜けるほどには、あの射撃の精度は高くないのだ。

 

 射撃の範囲外へと逃れた××××は、荒い息を整える暇もなく追いかけてきた獣たちへと向き合う。

 

 追いかけてきたのは、どうやら四体のようだった。

 

 まず、手負いながらも素早い動きで追いかけてきた長身の槍を持った獣。

 その突きを身をよじってかわして、反撃の鉈を叩きつける。

 だが逃げ腰で放ったその一撃は軽く、命を刈り取るには遠く至らない。

 

 それどころか肉を浅く抉るだけに留まり、大きな隙を晒すことになった。

 

 厚刃の肉断ち包丁を構えたジャケットを着た獣が大振りな一撃を叩きつけようと刃を振り上げる。

 

「!」

 

 それはどうも避けることは出来なさそうだったが、咄嗟に銃弾を放って追撃を繰り出そうとしていた槍の男ごと撃ち抜く。

 獣は頑丈で、銃撃はすぐさま死には繋がらない。

 しかし、今まさに刃を振り下ろそうとしていた包丁の男は大きく怯んで、その隙をついて××××は鋭い鉈で斬りつけた。

 

 まず、一体。

 

 包丁の男の首が落ちたのを確認して、××××は飛び退(すさ)り距離を取る。

 そして、また追いかけてきた刀を持った獣。

 武器に振り回されるようにして繰り出された突きを渾身の振りで跳ね飛ばし、こちらに突進を仕掛けようとしていた槍の獣の方へと蹴り飛ばす。

 二体はもんどりうって倒れ、槍の先端は確かに刀の獣を貫いたようだった。

 そして、奥で粗末な木の盾を構える松明を持った男。

 その盾から露出した足を斬り裂き、隙が生まれたところで追撃を仕掛ける。

 

 それから刃を折り畳んでノコギリの一撃でとどめを刺した。

 

「…………っ」

 

 初めて感じるその高揚は、なんとも形容しがたくただ全身を電流のように駆け巡る。

 ××××はそんな高ぶりに身を任せ、未だもつれ合いもがく二体の獣も処分した。

 

 それから、再び広場へと駆け戻る。

 残りの獣は四体で、その内二体が銃持ち。

 そして獣は鈍重で逃げれば追いつけない。

 

 ならば、数を減らした今無視して通り抜けるか。

 そんな考えがちらつくが、敵は減らしておいた方が後のためになると、そう考え直す。

 

 ……あるいはそれは、狩りの高揚に理性がもっともらしい理由をつけただけなのかもしれなかったが。

 

 まず、最初に殺すのは馬車の上に陣取る銃持ちだ。

 広場の階段を駆け上り、上の道へと躍り出る。

 そしてそのまま銃持ちが照準を彷徨わせるそこへと踏み込み、連撃で命を刈り取る。

 

 くずおれる銃持ちの死体を押しのけ、そのまま馬車から飛び降りて広場の奥に陣取るもう一体の銃持ちへと肉薄。

 おたおたと刀を抜くが、もう遅い。

 一撃。

 そして、散弾銃で頭を吹き飛ばす。

 

 そこでようやく追いついてきた獣が武器を振りかざすが、それはバックステップで容易くかわして反撃に出ようとする。

 

 が。

 

 悪寒を感じて、身をよじる。

 かわしきれない。腹を抉られる。

 

「……っ!」

 

 犬、か。

 毛が抜け落ち、濁った瞳でこちらを見る痩せさばらえた犬の異形。

 

 かみそりのように鋭く××××の肉を抉ったのは一体の犬の『獣』のようだった。

 まさか犬も獣の病に罹患するとは。

 

「――――!」

 

 訳の分からないことを喚きながら、残り二体の人間の獣が駆け寄ってくる。

 そしてまた追撃を仕掛けてくる犬の獣は、どうやらこちらも二体いる。

 

 とりあえず体勢立て直さなければと、××××はひたすらに逃げて広場の入り口にまで駆け戻る。

 しかし犬は素早く、逃げる××××に代わる代わる噛み付こうとし、またそれにより足が止まり獣の武器が××××の体をかすめる。

 

 なんとか隙を見て輸血液を体に入れるが、回復するそばから犬が体力を削る。

 これではどうしようもないと、傷だらけの身体でそれでも××××は攻勢に出た。

 

 まず、噛み付こうととびかかる犬にのこぎりの一撃。

 逃げるばかりだった獲物の突然の反撃に対応できず、のこぎりは大口を開けた犬の口にずさりと突き立つ。

 

 犬がのこぎりに歯を立てるが、それをものともせずに嫌な音を立てて犬の頭部の上半分を吹き飛ばす。

 そして、続くもう一体の攻撃。

 

 しかしこちらは先程の一体と違って反撃を警戒しており、ちょこまかと動く犬へと中々攻撃を当てられない。

 ならばと銃撃を放つが、それは犬を吹き飛ばしはしたものの致命打とはならない。

 

 そして、××××が銃弾を放ったその隙をついて、斧を持った獣が武器を振り下ろす。

 

「っ!」

 

 銃の反動による硬直で、かわすことはできない。

 さらに、今しがた撃った銃を速射することもできない。

 

 だから精一杯身をよじるが、その斧は××××の左腕の肉をしたたかに削ぎ落とした。

 

 激痛に呻き、銃を取り落とす。

 しかし傷だらけの身体でそれでも武器を振り一心不乱に目の前の獣に叩きつける。

 

 するとこころなしか、返り血により痛みが和らぐような、そんな気がした。

 

 ずたずたにした獣の体を蹴り倒し、もう一体の獣の身体を盾にしつつ、一拍の遅れを見せた犬の突進を転がってかわす。

 そして転がったその勢いを乗せて獣の足をのこぎりで斬り裂き、さらに動きが鈍ったそいつにもう一撃くれてやり命を絶つ。

 

 すると今度は腕が動くようになっているのに気がついて、それに疑問を覚える間もなく××××は飛びつくように銃を拾って迫る犬へと至近距離で発砲した。

 

「…………」

 

 頭がぐしゃぐしゃに潰れて死んだ犬。

 その死体を呆然と見つめて、それから自らの腕に目をやる。

 

 返り血で、傷が塞がった?

 それはあるいは、輸血液を入れる行為と似たようななにかなのだろうか。

 

 分からないが、とりあえず今は回復だと注射器を取り出そうとした、その時。

 

「…………あ」

 

 大きく肩に食い込んだ刃。

 激痛。

 

「がっ……は……!」

 

 続いて背後から獣の剛力で槍が腹にねじ込まれる。

 さらに抜かれ、再び叩き込まれる刃。

 

「なん、で……」

 

 崩れ落ちながらもなんとか首を捻じ曲げて振り向く。

 すると、そこには新手の獣が二体いた。

 

 どうやら、背後から巡回してくる獣が近づいてきているのに気が付かなかったらしい。

 

「クソ……がぁぁっ……」

 

 槍を引き抜かれた、その瞬間に地面に爪を立てよろめきながらも立ち上がる。

 

「死んで……たまるかっ……!」

 

 また獣が。松明を体に押し付けられ、絶叫する。

 体のあちこちに刃を突き入れられる。

 

 自らの体から滴る血の、水音が。

 とめどなく吐き出される血で呼吸すら難しい。

 

 銃を捨て、注射器を探る。

 それを打ち込んで、それで、反撃を。

 

 そう思った瞬間、視界が潰れて真っ赤になる。

 何も見えない中我武者羅に何度か刃を振るが、それは何も斬り裂くことはなかった。

 

 

 それからすぐに、意識は暗転する。

 

 

 




ここからオリジナル展開が入り始めます。
よろしければこの先もよろしくお願いします。
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