小鍛治と小瀬川と宮永と   作:蒼い鳥

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なんも考えてない。



正直非常に待ったよ

彼女は雀士である。

名前は小鍛治健夜。

嫁の貰い手はまだ無い。

そんな結婚適齢期の女性である小鍛治健夜は平日の真昼間から駅前にある噴水の前で立ち尽くしていた。

ただボーッと立っているわけではなく、人を待っているのだ。

その待ち合わせ相手が遅刻している。

多少ならば健夜も「今来たところ〜」と流せたかもしれないが、既に一時間近く経過していた。

はぁ…と大きな溜息を零す健夜はようやく到着した待ち人をジト目で迎えた。

 

「ごめんごめん、待った?」

「正直非常に待ったよ…何してたの?」

「駐車場が見つからなくてこの辺ぐるぐるしてた!」

「どうせ車で移動するんだから迎えに来てくれればすぐだったでしょ…」

「運転してたら喉乾いちゃってさ、奢るから喫茶店行こ?」

「…自由だなぁ」

 

日々健夜を振り回すのは愛嬌のある人気アナウンサーの福与恒子。

健夜弄りに余念が無い恒子は今日も遅刻の件を何処かに吹っ飛ばし喫茶店へと足早に向かっていく。その後を追い掛ける健夜もどこか楽しそうなので付き合いはかなり良好と言えるだろう。

元々仕事での付き合いしか無かったのだがオフの日でも遊びに出かける程に親交を深め、度々相談をしたりされたりの仲になった。

最近では会う回数が増えたが、それはある事に関して色々とあったから。

 

「じゃあ今日の仕事の話はまた現地で纏めるってことでいいんだね?」

「私達だけじゃ打ち合わせ程度が関の山だからね〜」

「…じゃあ少し休んだら行こうか」

「それがいいかな。今日、咲ちゃんと白望ちゃんは?」

「平日なんだから学校に決まってるでしょ」

「そっか〜…久し振りに会いたかったなぁ」

「今度の休みにでも会いに来たら? 咲がこーこちゃんは来ないのかって言ってたし」

「マジで!? いやぁ咲ちゃんに好かれているとは…やっぱりモテるアナウンサーは違うなぁ」

「単純に騒がしい人間が恋しいだけだと思うけど…うちってどうにもこうにも三人だと静かだしね」

「でもすこやんが実家を出るとはね、天変地異の前触れかな?」

「なにその言われよう…私だって出る準備はしてたんだけど仕事が急がしくてタイミングが無かっただけだよ。咲と白望の為に…って言うとアレだけど、丁度良かったんじゃないかな」

「既に母親拗らせてる…まあそれはいいけどさ、家を一括で購入ってスケールがおかしくない?」

「…使うもの無くてお金がたくさんあったし、どうせなら使っちゃおうと思って」

「衝動的に家買うのやめてもらっていいかな」

 

思わずいつものニコニコしている表情から何の感情もない真顔に変貌した恒子だったが、それでも貯金とかとんでもないことになってるんだろうなぁと更に表情から感情が薄れた。

とはいえ恒子は小鍛治家を想像する。

健夜に関しては言わずもがな人付き合いが苦手な女。

家でもそこまで深くコミュニケーションを取るタイプでも無さそうだ。

恒子の知る宮永咲…否、小鍛治咲は引っ込み思案で大人しい、読書が好きな中学三年生の女の子。

まかり間違っても恒子と同じような激しめのスキンシップを取るタイプでは無い。

小瀬川白望改め小鍛治白望も無気力で何でもダルそうにやる低燃費少女。

必要最低限の動きしかしない小鍛冶家での光景は中々にシュールだった。

ソファかクッションにダラりと身体を預け、寝ているかどうかも分からない状態で転がっているだけ。

咲は咲で本を読む、もしくは健夜か白望の隣でくっついているか。それに殆ど会話は無い。

それなのに関係はとても良好で咲も白望も健夜の言うことをよく聞いてくれる。引き取られた恩もあるかもしれないが、単純に懐いているのだ。

 

「それにしてもさ…なんであんなに良い子達を捨てちゃうんだろうね」

「聞いた話だと咲も白望も、気味が悪くなったんだってさ…あの子達は麻雀に関しての才能があるから、普通の人にはそれが怖いんだよ。咲は家で麻雀をしてたら能力に目覚めたらしくて、それを母親が気味悪がったんだって。白望も同じ感じだけど、違いがあるとすれば麻雀以外にも作用するってところだね。咲は打たなければ普通の子だけど、白望は…まあなんと言うか不思議な子だよね、幸せを運んできてくれそうだし」

「だとしてもさ、だったら麻雀を打たせなければいいし、日常生活に支障がある訳じゃ無かったんでしょ? ならさ、それを受け止めてあげるのが親としての務めじゃないの? お腹を痛めて産んだ自分の子供を、そんなことで捨てられるの?」

「その普通の選択が出来なかったから、あの子達は幸せから外れた道を歩む羽目になったんだよ。それでも性格が捻じ曲がらなかったのも、それ以上道を踏み外さなかったのも、偏にあの子達が優しかったから。心が強かったから。私だったら自殺しちゃうかもね」

「私だって…そうかもだけど……」

 

珍しく恒子が真面目な話をしている。

あの二人の事になるとどんなにふざけていても途端にまともな事を話し出すのだった。

健夜が初めて二人のことを話した時。

まず捨て子を二人引き取った事に驚き、経緯を聞いて涙を流した。

人の為に泣ける優しい人間なのは、健夜がよく知ってる。

今でさえ目尻に涙を浮かべてもう少しすれば流れ落ちそうな程だ。

 

「やっぱり、私はあの子達がすこやんと同じくらい大事。前にも言ったけどあの子達のことなら何でも相談してね」

「うん…頼りにしてる。さ、仕事行こうか」

「よし…頑張らないと。今日はすこやんの家お泊まりだ!」

「ええ!? …じゃあ咲に晩御飯多めに作っといてもらわないと…」

 

 

× × ×

 

 

「ねえシロちゃん」

「……」

「勉強教えて?」

「……ダル」

 

健夜が仕事に励んでいるその頃。

咲と白望は家で大人しく過ごしていた。

学校から直帰した咲は図書室で借りた本を読みながら白望の帰りを待ち、机に筆記用具と参考書等をセットして今か今かとソワソワ。

ようやく帰ってきたかと思えば制服のまま巨大なクッションに身体を埋める白望の肩を揺らして教師役を迫っている。

 

「シロちゃんの方が歳上なんだから」

「…でも咲の方が成績いいでしょ」

「中学と高校じゃ違うの、受験用の勉強は大変なんだから」

「…ダル」

 

ダルいダルい言いながらも結局は教えてあげる辺り白望の優しさはしっかりと咲にベクトルを傾けていた。

その日、健夜と恒子が帰ってくるまで勉強会は続いた。

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