ある日の朝、一軒の住宅の話。
その家にはみっつの寝室がある。
ひとつの部屋には規則正しい寝息であり、もうひとつの部屋には死んだように静かな寝息。
そして最後の部屋には何故か壁に逆さまに凭れかかるように死ぬほど悪い寝相の少女がいる。
× × ×
小鍛治健夜の朝。
それは至って普通であり、特筆して言うべきことは無い。
ベッドに横を向いて寝るすこやんは非常に穏やかな寝息を立て、起きる素振りはひとつも見せない。
時刻は6時。
朝日が差し込んではいるものの、部屋の中はまだまだ薄暗い。
今日はこの年齢不相応に可愛らしい寝顔をカメラに収めておくだけにしておこう。
× × ×
小瀬川白望の朝。
白望ちゃんはすこやんと違って仰向けに寝ており、ピクリとも動かない。
唇に触れる寸前まで耳を近付けないと寝息も聞こえない。
寝息が耳に当たってこそばゆい。
すこやんと違って高校生にして将来有望なおもちをお持ちの白望ちゃん。
掛け布団の上からでも分かるその大きさ。非常に羨ましい。
× × ×
宮永咲の朝。
咲ちゃんはね、とっても寝相が悪い。
部屋の床に落ちていることもしばしば、酷いとリビングで寝ている。
今日は幸いベッドの上に寝てはいるものの、何故か半分逆立ちのようになっていた。
息苦しくて寝辛いんじゃないかと思うけど、緩んだ表情からして寝心地はいいみたいです。
さて撮影はこの辺にしておいて…ひぎぃっ!
× × ×
小鍛治家の朝。
ビデオカメラを携えた福与恒子が朝から咲の部屋でぶっ倒れていた。
理由を聞けば健夜、白望、咲の順で寝顔の撮影をしていたところ咲の延髄切りの餌食になったらしい。
「…勝手に寝顔の撮影をしていたことは後で怒るとして、寝てる咲に近付いたら危ないよってあんなに言ったのに…」
休日の朝の出来事は全員の目覚ましには最適だったらしく、恒子の叫び声で咲の部屋に健夜と白望が顔を出し、咲も目を覚ました。
健夜と白望の冷たい視線を受け止める恒子の土下座の横では咲がビデオカメラを弄り回し、破壊した。
悪気は無い、ただ弄っていたらモニター部分がへし折れ、映像が全て砂嵐になっただけ。
そんな小鍛治家では現在健夜と恒子の面談。
白望はいつも通り定位置のクッションに埋まり、テレビゲームに興じる咲を眺めていた。
恒子が勝手に持ち込んだ大〇闘スマッシュ〇ラザーズで遊ぶ咲は楽しそうだが最低レベルに設定したCPUにボコボコにやられている。ダメージなぞ与えられる訳もなく、ただひたすらに動き回るだけであった。
最終的にリモコンを叩き割り爆笑するだけである。
「いやぁ…咲ちゃんはいい格闘家になるよ」
「勝手にファイターにしないでよ…スマブラの下手さ見れば向いてないってわかるでしょ」
「でもチョコモナカジャンボを食べる時のようにパキッとリモコン割るってどんな腕力してんの? ていうかアレで何個目?」
「15個目。でもその度に私が買い直してるからいいでしょ?」
「それはいいけど…もう範馬勇次郎だよ」
咲は口下手なせいでごちゃごちゃした話は好きじゃない。
大体腕ずくで解決する。
でも何故か白望と遊んでいる時にはそんなに力があるようには見えない。
むしろ歳相応に非力なのだ。
なにが咲をそうさせるのか…。
「それはそうとして、なんで寝起きドッキリ的なことしてたの?」
「興味本位ってやつ?まあその代わりに手痛いダメージは貰っちゃったけど…」
「咲にビデオカメラ壊されたしね…」
そんな破壊者咲、今は白望と一緒に麻雀のゲームを始めている。
あーでもないこーでもない言いながら牌効率についての勉強中。
ぶっちゃけそんな必要が無いほど実力はあるがなんとなくやっている。
「あー!めんどくさい!くらえ天和!」
「…最初からそれでいいじゃん」
「確かに!天和天和天和!勝ったー!」
「……ダル」
「咲、麻雀は天和するゲームじゃないんだけど」
「でも出来るんだから仕方ないよね」
競技性の崩壊。
よく分からないが咲と白望と健夜の三麻は誰が天和するかのゲームになっていた。それがこの家の常識。
「それで、こーこちゃんはなんの用事?」
「忘れてた、すこやんと私でインターハイの実況と解説の仕事だってさ」
「またぁ…?私もうやりたくないんだけど」
「なんで?」
「知る限りの最強が身内に二人いるから」
「…………」
感情と表情を失った恒子の顔はまさに人形と言ってもいい。
狙って天和を出すような人間を知っていれば確かにインターハイなんてものは子供の遊びでしかない。
「…咲の姉だった人も出てるけど、ぶっちゃけ弱いし…」
「今のお姉ちゃんが強過ぎるんだけど…?」
「白望もレベル違うし、適当に母校の人でチーム組んであの二人に遊ばせよっか?」
「大会ぶち壊しにするのやめてもらえないかな」
「咲、白望。大会出る気ある?」
「無いよ」
「無い」
「だって。こーこちゃん良かったね」
「助かったのは私じゃなくて運営と全国の高校生達だよ、すこやん」
「兎も角、指名された仕事なら出るしかないけど期待しないでね。私はあの子達と比べちゃうし、言葉選びに自信は無いから。高校生にとって私の言葉が響くかは知らないけど強い言葉を使っちゃうかも」
「あまり強い言葉を使うなよ」
「弱く見える?」
「ううん、ぜんっぜん」
× × ×
「お、すこやんじゃん」
「…ああ、咏ちゃん」
「最近咲と白望の調子はどうよ」
「まあ良くも悪くも絶好調だよ。今日も打ってきたけど役満で殴りあってるだけだし」
「はっはっは、相変わらず元気がいいねぃ。そういや私と咲が一緒に暮らしてる夢見たんだけど、正夢にしてくんね?」
「ダメ。私の可愛い娘だもん」
「そりゃ残念。うちに咲と白望用に仕立てた着物もあるんだけどなぁ」
「私が買い取るから、いくら?」
「二着で250万」
「はい、これでいい?」
「………現ナマ持ち歩くんじゃないよ」
「備えあれば憂いなしってね」
「…わけわかんね〜…」
ジト目で健夜を見つめる咏の額には汗が滲み、隠すように扇子で扇いだ。
なんだこのバカ親は、と。
去り際に咏は二本の万年筆を渡して去っていった。
前に書いてたSSっぽいことしてしまい申し訳