健夜と咏がやり取りをしたその翌日。
小鍛治家の3人は揃ってリビングのテーブルで麻雀牌チョコを食べていた。
健夜から咏のプレゼント、万年筆を渡し。
仕立てたという着物が届いたので取り敢えず開封。
しかしその結果は散々だった。
「着るのダルい」
「着方がわからない」
「私もわかりません」
その結果高い高い着物はクローゼットの奥に仕舞われ、数年は日の目を見ることは無いだろう。
万年筆に関しても。
「使い辛い」
「シャーペンあるからいいや」
「高いから使うの躊躇するよね」
と言った具合で箱に仕舞われクローゼットの中へ。
本来の役目をさせてもらえないこの二点のアイテムには黙祷を捧げておく。
「そういえば、日曜日なのに二人は何処にも」
「ダルい」
「…まあ白望はそうだよね。咲は何処かに出掛けたりしないの?」
「私はお母さんといるのが幸せだから」
白望はモゴモゴ。
チョコを食べながら同梱されていたブロックを弄って目を合わせない。
咲はニコニコ。
笑みを浮かべて健夜の顔を見つめる。普段から笑顔を絶やさないよく出来た娘に育ってくれている。
健夜はタジタジ。
白望の素っ気ない態度の中にも愛情は感じるので嬉しいし、咲のドストレートにぶつけてくる愛情を受け止めるのも一苦労だ。
咲と白望も咏はよく知っているし、仲は悪くない。
しかし、健夜へと向ける感情とは違い仲のいい近所のお姉さん程度にしか思っていない。
対して健夜は母であり、姉であり、恩人であり、師匠であり、返し切れない恩を受けている。
良くも悪くも咏は健夜には適わない。
あと健夜はツッコミ役が多いせいで若い子にはウケがいい。
「ねえお母さん、このチョコを誰から貰ったの?」
「ああ、これ…?はやりちゃんがこのチョコのCMやってるから会社からたくさん貰ったんだって、それのお裾分けだよ。ダンボールで寄越そうとしたから流石に多いし…少しだけ貰ったの」
「へぇ〜…でも少し貰っただけなのに全然減らないね」
「ね…まだ多いくらいだったよ。どうしよっかなぁ…」
「…結構美味しいから、賞味期限長めなら貰う」
「白望がそう言うなら…咲はまだ食べる?」
「お腹いっぱいだからシロちゃんにあげる〜」
最後に一粒、口の中に放り込む。
指先の乗ったブロックが絶妙なバランスで留まっている。その様子を健夜は興味深そうに、白望はただボーッと見つめている。
指先から弾いたブロックは空中で不規則に回転し、落下してきたブロックを咲が両手で受け止める。
すると二人の目の前で跡形もなく消失した。
「あれ…ブロックは?」
「多分どっかいっちゃった」
「それ手品?」
「ハンドパワー」
「いやいや、物理的に消したんじゃなくて瞬間移動的な?」
「そういうことかな」
「凄いけど…見つけるのダル…」
「何処に行ったか分からないのがこの手品の難点なんだよね」
家の中の目に付く場所をなんとなく捜索したが見つかることはなかった。
そしてブロックはというと…
「はや…?チョコのブロックがはやりのバッグの中に…?」
瑞原はやりの所持品として見つかった。
× × ×
同日の午後。
休日のお決まり、白望の昼寝の最中に咲と健夜は何やら計画を練っていた。
その計画とは…一言で言えば旅行である。
次の大型連休にでも何処かへ旅に出ようと言うことだった。
白望が寝ている間に計画を立てている理由は、行くのダルいと言いかねない為。計画をしている途中で行かない選択肢を取らせないようにする処置だ。
無論意地悪でやっている訳ではなく、折角なら皆で旅行に行きたいから。白望の場合自分は留守番しているなんて言い出すかもしれない。
「お母さんお母さん、咏ちゃんとかはやりちゃんも誘うの?」
「そのつもりだけど、あっちのスケジュールも聞かないとなぁ」
「じゃあ今から連絡してみよっか」
咲がポチポチと咏とはやりにメールを打っている間に健夜も自分のスケジュールを確認。
咲が送信ボタンを押してから数秒、咲と健夜の携帯に同時に電話がかかってきた。
『『行くよ!』』
だ、そうだ。
余程咲と白望の旅行に興味があるらしい。
咏もはやりも半ば二人を娘の様に扱っている節があるのでそれも仕方の無いことかもしれない。
母が三人いるような特殊な環境でもあの二人は全く動じない。
寧ろ三倍の愛をバッチコイ状態だ。
足りなかった愛情を補給しているのかも。
そして旅行先の温泉ではやりと白望の胸を見てぐぬぬ…となる咲、健夜、咏の話はまた何処かで。