早霜に看病されるだけ。

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ぶっ倒れた提督が早霜に看病されるだけです。
pixivの住民でしたがこちらにも並行して投稿しようかと思って過去作を投げます。
ハーメルン初心者なので何かあれば教えていただけると助かります。


看ています

その日はどうも朝から熱っぽかった。

しかしそれでも、提督は作戦が目の前に迫ってきている現状そう簡単に休む訳にもいかなかったのだ。

怠さで動こうとしない体を叩き起こして鎮守府まで通勤し、艦隊への指示を出し、食欲は無かったが無理矢理昼御飯を胃へと飲み下した。そんなこんなで書類整理をしていた昼下がり、書類を棚に戻そうと立ち上がったその瞬間、提督は猛烈な目眩に襲われたのだった。これはまずい。ふらつく体を立て直そうとするも、気付けば視界は90度傾いていた。倒れた、そう認識しながらも提督の意識は奈落へと落ちていった。

 

どれぐらいたったのだろうか。提督の意識が深海から浮上してくる。段々と意識がはっきりするうち、ベッドに寝ている事に気付いた。うっすらと目を開けてみる。すると、誰かがベッド横に座っているのが見えた。

「あら、司令官。....起きたのね」

それは、夕雲型駆逐艦の早霜だった。

駆逐艦にしては大人びた性格の彼女は、ロングの黒髪に右目の隠れる姫カットといういでたちだ。その醸し出す雰囲気は、深窓の令嬢という言葉がよく似合う。最初こそ何を考えているかわからなくて戸惑ったが、慣れてしまえば世話好きなとても良い子だ。提督は彼女が秘書艦だと落ち着いて仕事が出来るので、よく秘書艦にしている。そんな彼女の左目が、今は提督に微笑みと共に向けられていた。

「ここは....仮眠室か」

部屋を見回してみると、そこは提督がよく帰るのにも遅くなった時に利用する部屋だった。完全に提督の私室と化しており、私物もそこそこ置いてある。

「ええ、遠征から帰って来たら、司令官が倒れていて....天龍さんと一緒に、ここまで運んだんです」

「そうか、お礼を言わなければな。今は....もう五時半か」

壁に掛けてある時計を見ると、倒れてから数時間が経過していた。窓から射す日も大分傾いていて、早霜の横顔を橙に染めている。提督はベッドから起きようしたが、鈍い痛みが走って頭に手を当てる。また、その時初めて自分の額におしぼりが乗っていたのに気付く。

「司令官、いいから寝ていて下さい。....今日はもう、大丈夫ですから」

早霜は立ち上がって提督の肩に触れると、体を横たえさせる。彼女の体が近付き、ふわっと、どこか落ち着く香りがした。

「司令官は、もう少し体に気を使った方が良いわ....そうしないと今日みたいにまた、倒れてしまいます。私も...本当に心配しました」

早霜は、心配と憂いを含んだ、そんな口調で話してくる。

そう言われてしまうと、提督も何も言い返せなくなってしまう。

「....それは、すまなかった。もしかして、ずっと見ていてくれたのか?」

「はい....今日はもうやることも無かったから....司令官を、看ていました。フフッ」

すると一転、早霜はどこか楽しそうにそう答える。

それに何処か違和感を感じた提督は、はたと気付く。いつの間にか、軍服から寝間着に着替えている。

「もしかして、着替えまでやってくれたのか?」

「ええ、少し...大変だったけど。ここには着替えも、ありましたし」

....そういうことか。顔が赤くなるのを感じるが、幸い下着だけはそのままのようだ。

「司令官、喉....渇いていない?飲み物、持ってきましょうか」

「ん、ああ、そうだな。頼むよ」

提督がそう返事をすると、また早霜は少し微笑みを浮かべて部屋を出ていった。隣の給湯室に行ったのだろう。それにしても、倒れてしまった上に部下に世話になってしまうとは何とも情けない話である。早霜に言われた通り、今日は少しここで休んでから帰ろう。そう提督が一人考えていると、早霜が盆を抱えて帰ってきた。ベッド横の椅子に座ると、こちらに湯飲みを渡してくる。

「司令官、どうぞ」

「ありがとうな、早霜」

体を少し起こして、湯飲みを受けとる。見ると、中身は温めたスポーツドリンクのようだ。飲むと、水分が熱で渇いた体に染み渡る。ほぅっと提督が息を吐くと、それを見ていた早霜がそういえば、と呟く。

「今は熱、どうなのかしら。....おしぼりを替えた時には、まだあったのですけれど」

そう言うと、早霜が手を額へと伸ばしてくる。触られた瞬間、ひやり、と冷たさを感じる。

「なんだか早霜の手、心地好いな」

「そう....なら、ずっと触っていても....良いんですよ。フフッ」

早霜の手が降り、首筋へと当てられる。どきりと提督の胸が音を立てる。

そのまま手を当てていた早霜だったが、暫くすると手を離す。

「手じゃ....あまりわからないわ」

すると、早霜は提督の上へと身を乗り出してきた。ベッドに手をつき、もう片方の手で彼女の右目を隠す前髪をかきあげる。早霜の長い後ろ髪が、さらりと流れた。

「は、早霜!?」

「失礼、しますね」

早霜は両目でこちらを見下ろすと、そのまま顔を近付けて来た。彼女の息遣いが、次第に肌で感じれる程になる。近付く程に二人の呼吸は密やかに、しかし抑えきれずに口から漏れ出す。そして彼女はそのまま、こつんと額を合わせた。すぐ目の前に早霜の顔があり、ふとした勢いで唇までもがくっついてしまいそうだ。先程彼女が体を近付けて来た時にふわりと感じたその香りは、今は提督の吸う空気の殆どを占める。目線は彼女の深い瞳の奥に吸い込まれ、提督は全く身動きが取れなくなってしまった。

どれぐらいの時間そうしていたのだろうか。多分数秒だったのだろうが、提督にとっては長い時間が、早霜が名残惜しそうに体を引くことによって終わりを告げる。提督の頬を、彼女の右目を覆う前髪が撫でる。

「....やっぱり、まだあるみたいです」

「そ、そうか」

早霜が前髪を整えながら言う台詞に、提督はなんとかそう返す。熱を測るためにやってくれた行為とはいえ、既に熱い顔がさらに熱くなった。素数を数えてなんとか落ち着きを取り戻す。

「今日はもう、ここに泊まられた方が良いですね。私もこのまま看病....出来ますし」

「うーむ、早霜がそう判断するならここに泊まるのはやぶさかでは無いが、早霜はもう十分に看病してくれたんだから帰って良いんだぞ?何時間も疲れたろ?」

提督としては、ここらへんで帰しておきたいところだった。秘書艦の時は夜も仕事のサポートをしてくれるが、それでも早霜は駆逐艦娘なのだ。そして今日の一件は秘書艦の仕事の域を越えている、そこまで付き合わせる訳にもいかない。

「いえ、私は大丈夫です。司令官を見ているの....好きですし。フフフッ」

「そうは言ってもなぁ、早霜」

「病人が意地を張っても、説得力が無いわ....フフッ」

ううむ、なかなかにこの子も意固地だ。それに最後の台詞はこちらとしても何とも返しようが無い。早霜はあまり口数が多い方では無いが、きちんと相手の弱いところを突いてくる言葉選びをしてくる。仕方がない、あまり気乗りはしないが、今日はもうちょっと世話になる事にしよう、と提督がそんな事を考えていると、早霜は濡れたタオルを取り出して来た。

「司令官、汗、かいたでしょう。拭きますか?」

そう言われると確かに、寝汗で大分肌がベタついている。

「気が利くな、ありがとう」

受け取ろうと手を出すと、早霜は不思議そうな顔をする。

「司令官....何を、しているの?早く、服を脱いで下さい」

「えっ、まさか、早霜が拭くのか?」

「どっちにしろ、もう着替えの時に見ました」

そう言うと、早霜は提督の胸元に手を伸ばすとボタンをはずそうとする。それを阻止しようと体を起こすが、よろめいて手を付いてしまう。

「もう....だから、言ったのに」

早霜はそう言うが、提督とて男。そこまでされると思うこともある。

「いや、流石に服は自分でだな...」

提督は何とか抵抗しようとしたが、早霜は段々顔を伏せていく。

「司令官、風邪の時ぐらい私に頼って欲しいわ....見てるだけじゃ、嫌なんです。駄目、でしょうか?」

「うっ....」

早霜がこちらを悲しそうな目で見てくる。彼女のこういう言動には正直弱るが、ひょっとして知っていてやってるんだろうか。だとしたらこの子は将来世渡りが上手い女になるだろう。現状提督も対抗手段が無いのだから。

「わ、わかったよ」

提督は諦めてベッドに体を投げ出した。すると早霜は少し嬉しそうな顔をした後、また提督のボタンを外すのを再開したのだった。

「こちらに背中....向けて下さい」

脱がし終えると早霜が言った。さっきはもう見たから大丈夫というような事を言っていたが、早霜もまだ恥ずかしかったようだ、頬が少し赤い。勿論こちらもされるがままで、そんな自分が恥ずかしい。顔を隠すのに背中を向けるのは丁度良い、言われた通りにすると、暖かい濡れタオルが当てられる。優しく、労るような手付きで体を拭かれ、まとわりつく不快感が取り除かれていく。肩の辺りに置かれた早霜の手が、なんともこそばゆい。

「司令官、結構....鍛えてるのね」

腕に差し掛かったあたりで、早霜は呟くように言った。

「おう、普段デスクワークばかりだから驚いたか?」

「はい....少し」

「これでも軍人だからな。海ではお前らに任せっきりだが、陸で何かあったら今度はお前らを守らなきゃならない」

艦娘は海にいる時はそれこそ鬼神のように戦うが、陸に上がったらそこらの女子と変わらない程の力しかない。

「....優しいのね」

「そんな事は、無い」

熱で弱気になっているのだろうか。ふいに、そんな言葉が口からこぼれ出た。

「お前らを守れて....いや、それ以前に役に立てているのだろうか」

「....」

急にそんな事を言ったからか、早霜の手が止まる。

「いや、すまんな。忘れてくれ」

「私は....。少なくとも私は、司令官が居てくれて良かったと....思っています」

早霜の手がまた、優しく動き始める。

「....そうか、ありがとうな」

その早霜の返しは、体と反対に冷えた提督の胸に、じんわりとした暖かみを残してくれた。

そんなこんなで体を拭き終わる頃には、すっかり日も暮れてしまっていた。

タオルを片付けながら、早霜が聞いてきた。

「司令官、食欲....ある?」

「特段お腹がすいているという訳でも無いが....何か食べておかなきゃ治らないだろうしな」

「そう、ならお粥....作ってきましょう」

早霜はそう言うと、また給湯室に向かった。ガスコンロなどはあるので、簡単な料理を作る程度なら十分だ。それにしても、早霜は随分と世話を焼いてくれている。こちらとしてはとてもありがたいのだが、どうも上司に対する行動としては世話好きだとしてもいきすぎている気がしないでも無い。もし好かれているのだとしたら、それは嬉しい事だ。でも、例えばその先があったとしたら提督と艦娘の関係としてどうなのだろう。ううむ、と提督が寝返りをうちつつ考えていると、それなりの時間が経っていたようだ。早霜がほかほかと湯気のたつお粥を手に戻ってくると、そのままベッド横の椅子に座る。どうやら作ってきたのは卵粥のようだ。スプーンでお粥を掬うと、ふーふーと息を吹き掛け冷ました。

「はい....どうぞ」

そう言うと、早霜はそれを提督の口元へと近付けて来た。

「....薄々そうなる気はしていたが所謂、あーんってやつか?」

「そうです....あーん」

今度はご丁寧に声まで付けてきた。 また抵抗して悲しそうにされてもこちらが困るだけなので提督は大人しく口を開けると、スプーンが口の中へと入れられる。すると、卵粥の優しい味が口の中へと広がる。

「....うむ、旨いな。出汁の優しい味にネギが良いアクセントだ」

「喜んでもらえたなら、嬉しいわ....フフッ」

「いやぁ、本当旨いよ。早霜は良いお嫁さんになりそうだ」

何の気なしにそう言うと、早霜は少し驚いたように目を開いた後、持ってきたお盆で口元を隠す。

「そ、そんな....司令官....それって....」

頬を赤らめ、もじもじとこちらを見ている。最初はその反応の意味がわからなかったが、暫く考えた後思い至る。

「!?あ、いや、違うんだ早霜!?今のは純粋に早霜の将来の旦那は幸せ者だという意味でだなぁ....」

慌てふためき弁明をすると、早霜の頬は段々と元に戻り、一転、すっと冷たい目でこちらを見てくる。

「司令官....」

そう呟くと、いきなりごそごそと提督の布団へと入ってくる。

「は、早霜、どうした!?」

「どうしたも、こうしたもありません」

横向きでこちらに添い寝するかのように早霜は体を落ち着けると、髪がさらりと重力に倣って流れる。そして提督の手を、そのしなやかな両手で包んだ。第三者からしたらもう恋人同士にしか見えないだろう。

「は、早霜、これでは誰か入ってきた時に、色々勘違いされてしまうぞ!?」

早霜がさっき入ってきた時、鍵を閉めてはいなかった。これまでの行動も怪しいラインではあるが、この状況は誰かが見たら確実に鎮守府中にあらぬ噂が流れてしまうだろう。すると早霜は普段のすました様子からは想像もつかない、少し拗ねたような顔でこちらを見る。

「私は、司令官に『勘違い』....して欲しいのですけれど」

「....え?」

思わず、素で返した。すると早霜は提督の手を胸へと掻き抱きながら、

「だ、だから....ずっと待っていたのに、全然....。司令官は早霜の事....嫌いなんですか?」

早霜がそう聞いてくる。提督の頭は、一度に入ってくる情報の多さでパニックに陥っていた。早霜が抱き締めているおかげで手からは柔らかい感触が、視界にはこちらを伺うように見る少し潤んだ表情が、鼻腔からは額を合わせた時にも感じた早霜の良い香りがどんどんと送られてくる。そして何より頭を支配するのは、早霜の放った言葉。返事をしようと言葉を探すも、何も形になってくれない。何も言わない提督を見た早霜の目尻に涙が光った。

「....ごめんなさい」

そう早霜は言うと、体を起こしこちらに背を向ける。ベッドから降り、そのまま何処かに行こうとする前に何とかせねば、そう提督が思った瞬間、体は自然に動いていた。

「....!?」

早霜は後ろから抱き締められた事に驚き、動きを止めた。早霜を壊れやすいガラス細工のように、優しく守るように提督は抱き締める。

「....こちらこそごめんな、早霜。俺は今、早霜に言える上手い返事が見つからない。提督と艦娘、どこまで距離を詰めたら良いかが俺には答えが出せない。....でも、いつかは良い返事をしたいと思うんだ。これは今俺の中で、唯一はっきり言える事だ」

そして提督はふらつく足を懸命に動かして早霜から離れると棚に向かう。何やらごそごそと探った後、小さな箱のような物を持って戻ってくると早霜の前にひざまずき、中身を見せる。それは、小さく光輝く銀の指輪だった。

「これを、いつかは早霜に渡すから。だから、それまで待っていて欲しい」

早霜は指輪と提督を交互に見て、提督の言葉をしっかり噛み締めるように聞いている。

「司令官....」

そう呼んだ後、今度は早霜から抱き付いて来た。それを抱き止めた提督の胸中は、安堵で満たされていた。早霜の頭を撫でるうち、何だか意識が遠くなっていく。あれ、どうしたのだろうか。意識をはっきりさせようとするも、頭どころか体も言うことを利かなくなっている。

「司令官....!?物凄く熱いわ....早くベッドに....!」

そんな言葉を聞いたのを最後に、提督の意識は途切れた。

 

後日談としては、その後提督は三日間程寝込んだ。その看病を付きっきりで早霜がしてくれ、そのおかげでしっかり提督は完治した。今日から執務を再開しようとしていたのだが....。

「早霜が風邪になっちゃあ意味無いだろう....」

「....ごめんなさいね....司令官」

今提督の前には、ベッドに横たわる早霜がいる。そう、看病でずっと傍にいた早霜にうつったのだった。風邪のせいで早霜がいつもより儚げに見える。前髪を掻き分けて額に手をやると、確かな熱さを感じる。

「風邪引いて看病してもらったのは俺だからな....今度は俺が看病するよ」

艦隊への指揮は先程紙に書いて机に置いておいた。早霜が治ってからどう巻き返すか提督が考えていると、早霜は体を起こして服を脱ぎ始めた。提督は瞬間的に目を逸らす。

「ちょっ、早霜、なんで脱ぐんだ」

「え?....拭いて....くれないんですか?」

早霜はそう言って尚も脱いでいるようだ。視界にちらちらと白い肌と黒い下着が入ってしまう。

「いや、それは夕雲辺りに....ほら、流石にな?」

提督にはまだ素肌に触れれるような勇気は無い。だが、

「いつか指輪....渡してくれるのでしょう?フフフッ」

早霜はそうやって、可愛らしく、しかしどこか不敵な笑いを漏らすのだった。


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