……あたたかい、
ふんわりと暖かい空気に包まれるような感覚を感じたかと思うと、「頑張れ」という言葉が耳に届いてふっと意識が浮上した。
「……知らない天井」
目を開けるとテンプレのような言葉が出てきたけど、本当に見覚えがなくてガバッと起き上がった。辺りを見回すと何処かの部屋のようで、シンプルながら子供部屋なのかあちこちにぬいぐるみが置いてあった。
「ポッ!」
「………………ポッポ?」
……なんでポケモンが目の前にいるの?
窓枠に掴まるポッポを見て数十秒固まる。私の世界ではポケモンはス〇ッチが最新でフルダイブ型のゲームはまだ出ていなかったはずだ。もちろんゲームもしていなかったはず。目の前にいるポッポを見つめても生きているようにしか見えない。
「……おいで?」
「……ポッ、」
そっと手を伸ばすとポッポはひと鳴きして掛け布団の上に乗って近づいてきた。そっと毛並みを整えるように撫でるともっと撫でてと言わんばかりに頭を擦り付けてきた。
……かわいい、
動物セラピーもといポケモンセラピーに癒されてると、下から「まだ寝てるの〜?」という声が聞こえてきた。……今は朝なのか。撫でるために手の中にいたポッポを窓枠に乗せる。
「バイバイ。触らせてくれてありがとう」
手を振るとポッポはまたひと鳴きして飛び立ってしまった。ポケモンに触れたことに満足して着替える為に全身鏡をチラリと見ると見えた光景にまた固まってしまった。
「……誰だこの子、……あれ、」
……これ、私……?
鏡の前に立つと目の前には肩甲骨くらいまでの長さがある真っ直ぐな黒髪に、絶対に珍しいだろう青と紫の中間くらいの色の瞳を丸くしている女の子がいた。私が首を傾げると同じように目の前の女の子も首を傾げた。
……というかこの子……私か、私の目ってタンザナイトみたいな綺麗な色してるな。親もそんな色してるのかな……?
とりあえず周りの状況も確認するためにサッと服を着替えて下に降りる。
「おはよう」
「おはようアオイ。珍しく寝坊したのね」
「ポッポと遊んでたら時間が立ってたんだ」
「相変わらずポケモンに好かれるわね〜。また森に遊びに行くの?」
下にいたのは若い女性で、朝ご飯の準備をしていたみたいだ。何処か懐かしい感じがするから多分この人が私の身体のお母さんなんだろうな。
「ほら、もう出来るから座っていなさい」
「うん」
女性の言葉に大人しく席に座る。
なんか……“アオイ”が消えてしまってすごく申し訳ない。何か、私が娘さんを奪ってしまったようで。肩を落として待っていると最後に準備をしたお茶を持って女性が座った。
「さ、いただきましょう」
「「いただきます」」
手を合わせて声を揃える。箸を動かしてもそもそと食べ進める。懐かしい味だ。おふくろの味なんていつから食べてなかったんだろうか……子供の身体だからか目の前が歪んで見える。
「……アオイ、どうしたの?」
「……わ、かんない……」
ボロボロと零れていく涙を拭うけど涙は止まらない。止めなきゃと思っても身体が子供だからかそれに引きずられて言うことを聞かない。ふわりと暖かい何かに包まれた感覚がすると思うと心が落ち着くのが分かった。
◇◇◇◇
「……落ち着いたかしら?」
「……ごめんなさい」
しばらく背中をさすってもらっていたからか過呼吸になることはなかった。ただこんなに泣いたことないから物凄く恥ずかしい……。母親に頭を撫でられると心が落ち着くのは“アオイ”の記憶なのかな……?
「……さて、アオイ。 いえ、“あなた”のお話をしましょうか」
「!?」
その発言に思わずおおげさな反応をしてしまった。なんで私がアオイじゃないって知って?
混乱していると母親はフッと笑って私の頭を撫でてくれた。私が娘じゃないって知ってて撫でているの……?
「私は母親よ?娘の変化くらい気づくことが出来るの。
それにアオイがあなたになっても責めることはしないわ」
その表情は優しくて“お母さん”を思い出した。この人も母親だけど私はやっぱり他人であることには変わりないのに。
「……でも、私は……アオイちゃんを……」
「意図してやったことなの?」
「違います!! 私も突然ここにきて……よく分かっていないんです。」
この人の言葉に食い気味に反論をしてしまったけど、自分が分かっているのはここがポケモンの世界でこの体の女の子の名前がアオイという名前であることだけ。自分の仕事や出身地、もう自分の名前すら出てこない。
ポケモンの世界だとははっきり言わないでぼかしたけどそれ以外ははっきりと伝えた。言ったはいいが、言ってから自分がなんなのかよく分からなくなってくる。
「……じゃあ、本当に申し訳ないと思っているのならいくつかお願いしてもいいかしら?」
「……?」
彼女の『お願い』という言葉に顔を上げる。正直内容を聞くのが怖いが、私は行く場所がないしまず罪滅ぼし的なものだから拒否権はほぼ無いに等しい。
とりあえず彼女の話を聞こうとするとにっこりと笑った。
「私の娘になってくれないかしら?」
「……え?」
「ああ、後あなたのままでいてほしいわ。アオイの演技したら怒るわよ?」
私は最初目の前の人が何を言ったのか理解出来なかった。「あらあらそんなに泣くと目が腫れちゃうわ」と言われて目元を拭われたことで反応出来た。
「えっ、でもそれって……」
「記憶を引き継がれてないのかもしれないのだけどアオイは元々何処か魂が抜けているような子でね。何に対しても興味を持つことが無かったの。
多分貴方が来るのを待っていたんだと思うわ」
アオイちゃんとの思い出を語る彼女は懐かしそうにしながらも子供に対して何も出来なかったことへの悲しみのこもった目をしていた。アオイちゃんに色々興味の持てそうなことを体験させたけど、この子が楽しそうな顔を浮かべたことは無かったみたいで。
それで今日私が入ってきたことでこの子の表情が動いているのを見て違うというのが分かったらしい。出会って数秒でアウトって何も出来ないじゃん……
「えっと、でも一応アオイちゃんのこと教えてください。私もう自分のことあまり思い出せないので……」
「ええ、いいわよ。さっき知ってる限りのこと教えてもらったもの」
午前中はアオイちゃんのことをずっと聞いていた。ほとんど一緒に過ごしていたからか彼女、お母さんのことも一緒に聞くことが出来た。
アオイちゃんは今六歳でマサラタウンの数少ない子供の一人みたいだ。マサラタウン一の美少女とは言われてるらしいけど女の子があまりいないだけじゃないのかな。
後は妙にポケモンに懐かれやすいみたいで、一つ下の幼馴染にあたるサトシ君と一緒にポケモンに囲まれてることが多かったらしい。
……サトシ君もいるんかい!!!そしたら絶対シゲル君いるじゃないですかヤダー
私は内心大混乱しながらも話を聞き続けた。
他にも数人同い年の子達がいるみたいだけど、所謂ガキ大将みたいな子とその取り巻きみたいな子達ばかりみたいだ。まあ狭いしねマサラタウン。
それで私とサトシ君、シゲル君が省かれてることがほとんどだったらしい。
「……私が私じゃないって気づかれますかね」
「でも今ならまだ緊張して会話出来なかったっていうだけでお話済むわよ?少し頑張れば大丈夫」
「……うん、
……私も一つお願いしてもいいですか?」
「なあに?」
「私の今の名前、呼んでくれませんか?」
「……いいわよ。もう貴方は私の娘だもの。
アオイ、頑張りなさい」
そうして私は“アオイ”になった。