翌日、俺はシークレットガーデンを訪れた。
昔々、アルトマーレという島に、お爺さんとお婆さんがいました。二人は海岸で倒れている二人の兄妹を見つけて介抱すると、すっかり二人は元気になり仲良くなりました。あるとき怪物が島全体を飲み込んでしまいました。
すると幼い兄妹は姿を変えます。なんと二人はラティオスとラティアスだったのです。二匹は仲間に心のしずくという宝石を持ってきてもらい、それのおかげで怪物をやっつけました。そして二度と怪物が出てこなくなりました。それ以来、心のしずくがあるこの島には、ラティオスとラティアス達がしばしば立ち寄るのです。
ラティアスがオレ達のまわりをちょこまかとしては、お兄ちゃんに怒られている。ちょっと落ち着いてな、あとで遊んだげるから。レリーフを追いかけながら、カレンが説明してくれる。
なんて書いてあるかはわからないけど、本当の心の滴の使い方が書いてあるらしいの、と教えてくれた。ラティアス・ラティオスに持たせてバトルですね、わかります。
おじいさんがゆっくりと、こんこんと水がわき出ている噴水の奥を指でさしてくれた。そこには映画でみた、そしてオレが実際に持ってる心のしずくとは違う、純粋な宝石が安置されている。あれ?とオレは首をかしげた。青い光を内包しているオーロラみたいな不思議な波紋を描くきれいな水晶じゃなかった。
「これが、心のしずく、と伝えられているものだよ。私たちの祖先はね、その物語では化け物とされている、大災害、記録によれば大火災らしいんだが、それからこの街を守るためにとある機械を作ったんだ。街全体を要塞のように作り変えてしまうほどの規模らしい。動力はラティアス、ラティオス達から無理やり引き出した力。心の滴を発動するカギとしてね。やり方は…そう、君の『命の球』の効果を何十倍にも強くして、彼らに過度な負担をかけてしまう、とてもつらいやり方だ」
「皮肉だね、彼らは純粋に我々を助けるために、自分の力を存分に発揮できるアイテムを託してくれたというのに、より安全を確かなものにするために、彼らを犠牲にするような機械を作り、そして一度は発動してしまった」
おじさんが苦笑した。うーん、にしてはあの機械は明らかに大げさすぎやしないか?おじさんもさすがに機械が発動したところも、暴走したことも、ラティオスが心の滴になって街を救うことも知らないんだよなあ。
「一度は彼らも我々を見切って姿を消してしまったらしいんだが、ずっと後になってとある若者が一人はるか遠い地まで行き、ラティオス達に再び島に来てくれるよう、歓迎するから、と謝りに行ったそうだ。彼らの前で、機械の心臓核となる部分を破壊して、心の滴を返却してね。それ以来、ラティオス達は再び来てくれるようになったと言われている。その機械はあまりにも大きな代物でね、すべて取り除こうとすれば一度この街を更地にしなければならないほど深くまで入り込んでいる。だから、せめて人目に触れず、誰かが悪用しないように代々私たちが守っているというわけだ。もちろん、機械をだよ。この街に心のしずくは存在しないんだ。これが誠意のあかしだからね」
その若者はたぶん先祖の人より、ずっと後の時代のこの街の人なんだろうな。その間に何があったかは押して測るべしってとこかな?
水の都の守り神だと、あの機械の存在理由がいまいち分からなかったんだけど、どういうわけかこのアルトマーレではおれの知っている内容とはずいぶん歴史が違っているらしい。
なるほど、だから映画よりもずっと警備が強固なのか、とオレは納得した。道理でラティオス達の幻だけでなく、憲兵さんたちの監視やセンサー、さまざまなトラップが仕掛けられているわけだ。
「なんかシンオウ地方に伝わってるおとぎ話とよく似てますね。ミオ図書館にあった気がします。剣を手にいれた若者がポケモンをたくさん殺して、食べて、余ったものは捨ててたことがあったけど、まったく出てこなくなったって。で、ずっと遠くまで若者はポケモンを探しに行ったんだけど、ようやく見つけたポケモンに「仲間を傷つけるなら容赦はしない、許せ」って言われて、「すまない」って言ってその剣をたたき折る話」
「興味深いな」
伝えられているお話なんて、寓話にすぎないしな、たいてい。道理で盗賊のお姉さま方がオレに声をかけるわけだ。オレは、思い切っておじさんとカレンに心の滴を持っていることを教えることにした。
隠すことはよくないことだし、盗賊から予告状が来ているんだ、と警備が厳重な理由を教えてくれた二人に協力しないのはよくない。
オレはこころのしずくを見せた。で、入手した経路を詳しく説明した。驚いていた二人だったけど、おじさんは納得した様子でオレに笑いかける。ちょっと出て行けとか言われないか心配だったから、安心した。
「君の友人がラティオスに友好の証としてもらったものを、君が誠意をもって譲り受けたんだ、誇るべき事じゃないかい。君はトレーナーとして心の滴の本来の力の使い方をよく知っているんだ、安心したよ。これからも大切にね」
「はい」
「そっか、だからラティオスが懐いたのね、なるほど。本能的に心の滴の持ち主ってことに気づいてたんだわ」
カレンにつられて振り返ると、ラティオスがふっと一瞬だけ笑った気がした。
「教えてくれてありがとう、コウキくん。どうやら君の持っているラティオスはずいぶんと高レベルなようだし、腕が立つんだろうね。だから、心のしずくが奪われてはいけない。十分に注意するんだよ。いいね」
「でも、盗賊が捕まるまで、しかるべき機関に預かってもらった方が安全なんじゃ?」
「いや、だめなんだよ。彼らはきわめて優秀な開発者であり、技術者でもある。だから下手に不要な防衛策を選ぶと、逆手にとられかねん。第三者に預けてしまうということは、安全かもしれないけれど、それは最終的な決定権を放棄することにもなるんだよ」
もし奪われそうになったら、あとはわかるな?と含まれ、オレはうなずいた。参ったな、確かに心のしずくはオレの持ち物だけど、どうやって使うのかを最終的に決めるのはプレイヤーだ。
ただでさえラグラージとピクシーが一匹ずつ増えてるからバグ疑惑があるってのに、心のしずくがなくなったらそれこそ。ぞっとした。まあとられなきゃいいだけの話ってね。
「全く、この街を災害から守るために生まれたとはいえ、ラティオス達を苦しめるような装置をいまだに欲するやつらがいるのか理解できないよ。できればすぐにでも破壊したいんだがね」
いやいやあの機械は、災害から守るためのものじゃなくて、明らかにアルトマーレを戦争下で防衛戦のために作られたような要塞都市に変容させるくらいな規模だった気がするよ。
侵入者を水路や通路に自在に閉鎖したり開放したりして迷い込ませて、一気に水を押し流してしまうような感じの。だって近くの海域の海流を操って竜巻や津波起こしてたしな。どんだけオーバーテクノロジー。さすがはアーロンがいた映画世界。ポケモンの世界観ではぎりぎりだなあ。
きっと故郷を戦火で失わないよう、おじさんの先祖さんは必死だったんだろう。ただ今の世界の価値観や常識とはあまりにもかけ離れすぎているだけで、合わないんだ。若者はきっとオレ達と近い考え方の持ち主なんだろう。
戦争のない平和な世界の住人の考えそうな行動だ。だから若者がアルトマーレの防衛の生命線を自ら断ちきるようなことができた。
とにかく、機械を発動されないためには、心の滴を死守することと、ラティアス・ラティオスを守ることが大事だな。最悪、これを、あんまりプレイヤーの意思に反することしたら後が怖いけど、いっそのこと。
「って、うおう!あれ?」
突然頭の上を通り過ぎて行った感覚に頭を抑えると、赤いハンチング帽がない。きょろきょろしていると、カレンとおじさんがくすくすと笑っていた。
「あ、こら、ラティアス!返せよ、おい!」
かしゃり、とシャッターキーを鳴らせば、じじじ、と真黒な写真がカメラから出てくる。ポラロイドカメラからそうっとそれを引き出したオレは、空気に充てるべく振り回す。見れば、ホウオウのレリーフが水路の内側にあるのが見える。
きらきら、と太陽の日差しが反射してちょっとばかり見えにくいけど、大丈夫だろう。とれたか?と身を乗り出してくるサトシとピカチュウに、おうよ、と差し出せば、とられてしまった。みせてみせて、どれどれ、とタケシやカスミが囲むせいでオレは蚊帳の外になってしまう。
すこしいじけつつ、オレは写真を並べた。ラティオスとラティアスはあの大きな柱の上にある石造だろうし、ルギアはとったし、エンテイは秘密の庭でとらせてもらったから、あとはセレビィとミュウツーか。
あーくそ、7年前もの映画の小ネタなんてもう覚えてないっての!日程的に考えて、明日から一切予定に暇はなくなるから、今日中に終わらせてしまいたい。あとはどこかねえ、とオレは地図を見比べて、首をかしげた。
「随分集まったな、コウキ。あとはなんだ?」
「セレビィとミュウツーなんだけど、さっぱりなんだよねえ。タケシ心当たりない?」
「まあくまなく回るしかないんじゃないか?そのためのルートマップなんだろうし。この街を一通り回ってみるのが速いだろうな」
「そうよねえ、考えるより行動した方がいいわよ、きっと。このルートで行くなら、えーっと、美術館が近いみたいね。行きましょう?」
ちょげぷりいいいいい、とトゲピーが笑顔で指を振る。頼むから変な技発動させないでくれ、お願いだから。無自覚で技を発動させるのが一番始末に負えない。善悪の区別もあいまいな無垢なやつに説教するほど骨折り損はないしなあ。
幸い、はねる、をカスミの腕の中でして、落っこちそうになってワタワタした(鳴き声結構耳に来るんだ)くらいだからまだまし。だな、とオレは写真を回収してリュックに入れた。観光協会さんからの借りものだから壊しちゃまずい。
「なー、みんな。オレのど乾いた!どっかにジュースとか売ってないか、タケシ」
ぴいかちゅ、とそろって手を挙げる主人公。まあ美術館はたいていショップや喫茶店を兼ねてることが多いし、近くに店もあるだろうし大丈夫じゃないかなあ、とマップを見れば、この裏通りをずっと右に抜ければ大通りから美術館までの道のりに、何件かお勧めのお店が写真付きでのっていた。
「あ、あたしジェラート食べたい!」
「オレもオレも!」
「そうだな、結構歩いたし、そろそろ休憩するか?」
「あー、そうする?」
サトシたちとしゃべりながら歩いてたからほとんど気にならなかったけど、ポケギア見ればもう3時を回っていた。そういやさっき時計塔でベルが鳴ってたっけ。
いきなりサトシとピカチュウのテンションが上がって、オレいちばんとかなんとかいって駆け出し始めた。負けず嫌いのカスミもトゲピー抱いたまま走り出す。あはは、芸術より食べ物かあ、まあおれもだけどね!苦笑いするタケシと顔を見合わせたオレは、二人のあとを追うことにした。
「・・・・・ん?」
「どうかしたのか?コウキ」
「・・・・・いんや、なんでもないよ」
あのお穣様とシャワーズ、モブで出てたような気がするぞ。ちょっとにやけちまうオレ、自重しろ。なんて冗談は置いといて、なんだか変な気配を感じた気がするけど、ううむ?振り返ったものの何も見えないから、気のせいかな、とタケシに笑いかけた。
「おーい、タケシ、コウキ、何ぼんやりしてるんだよ、結構並んでるからはやく来いよ!」
「そーよ、早く早く!」
ぴかーという声も聞こえる。わかった、と応じるタケシと一緒に走り出す。もう一度振り返ると、曲がり角から差し込む光が影の落ちる裏路地に差し込んでいて、そこを通り過ぎる何かを一瞬だけ照らした。
お!オレはひらひら、と手を振って、笑っておいた。一瞬だけ、立ち止まったそれは応じるように旋回する。投げキッスなんてふざけたことをしてみた。
まーた妹探してら、お疲れさんです。
ばっしゃーん!
ごぼがぼ口から空気が抜けていく。視界は緑、でもごみは見えない。ついでにしょっぱい。死ぬ死ぬ、死ぬってこれ、主に鼻が!つーん、ときた逆流してくる海水をうっかり鼻で吸い込んでしまったオレは、あわててもがいた。服が重くてうまいこと浮かべねえや、くそ、と焦っていると、ラグラージがぬうっと現れて一気に押し上げてくれた。
ぷがっと浮かんで、あわててボートにしがみついたオレは、ごほごほとせき込んだ。あーくそ、何回目だよ、もう。びしょぬれの前髪を横に分けると、大丈夫かコウキ―、と心配そうに近くに寄ってくるサトシと乗っているボートを引っ張っているワニノコ。
わにゃーと心配そうに見上げてくるから、おうよ、と代わりにひらひら、と手を振った。ばしゃばしゃ音がするから顔を上げれば、水着姿のカスミがサニーゴとともにコースをUターンしたところだったらしい。またやったのね、大丈夫?といわれ、うはは、と笑うしかなかった。
予想以上に難しいよ、水上レース。
「いくら下り坂だからって自転車で曲がるとき、そのままのスピードで突っ込むやつはいないでしょ?ラグラージは大きいんだから、あたしたちと張り合ってたら当然加速度だって違うんだから、考えないと」
「了解。ごめんな、ラグラージ。もっかいやらしてくれな」
さすがは水のスペシャリスト。アドバイスが的確でいらっしゃる!ラグラージに肩車してもらって、ボートに起き上ったオレは、ぎゅうっとTシャツを絞った。リードを手にしてもう一回スタート地点に引っ張ってもらう。
カスミは専門家だし、サトシは主人公補正で上達度が半端ないし、くそう、さすがはポケモンの生みの親の名前を貰っただけはあるなあ、うらやましいぞ。
ただいま明日の水上レースに備えて、基本操作とか注意事項とかコースの説明とか聞かせてもらった。水路に実際に使う一人用のボートを借りて練習中。
ちなみに曲がり切れずに壁に直撃しそうになって自力で落ちたのが一回目、大回りしすぎてコースアウトしそうになったので自主後退したのが2回目、内側をとろうと意識しすぎて曲がり角でうまいこと切り替えができず失敗すること2回。
んでさっきのやっとこさ曲がれたのに、他の選手とぶつかりそうになって無理やり曲がって失敗して、だから合計6回か、多いなあ。ああくそう、プレイヤーの誘導さえありゃなにも考えなくても指示してくれるから楽なのになあ、と思いつつ、ためいき。
わーってるって、だからんな目でこっち見ないでくれ、ラグラージ、オレ泣いちゃう。
うおおお、緊張する!見渡す限り、アルトマーレの人々が応援しようと集まっている。独特の緊張感ってやつだ。レース経路の住人達はうちで絶好のロケーションを楽しめるんだけど、それ以外の人たちはあらかじめ告知されてる経路で選手を応援しようと待ち構えてるらしい。なんかマラソン大会とか駅伝みたいだなあ。
二本の柱を立てて、上にひもを通した特設のスタートラインには、総勢18人のレース参加者と先導するポケモンたちが並んでる。場所はあらかじめくじで決められていて、サトシとカスミ、ついでに山ちゃんボイスのロッシさんが一番いい真正面の最前列を陣取っている。
くじ運ないなあ、くそう。ちなみにオレは二列目の左から数えて3番目くらい。せめて上位には食い込みたいから、カスミとロッシさんの後を追いかけてく形にした方が効率いいと思うんだ、デットヒート演じる二人がぶっちぎりのトップだったはずだしな。
きいいいん、とマイクの音響調節がうまくいかなくて耳鳴りするような反響。耳が!耳がっ!リアクションしても反応してくれないので、心の中にとどめておいた。
「さーあ、皆さんお待ちかね!アルトマーレ、夏のフェスタの大目玉、毎年恒例のポケモン水上レースが間もなくスタートしまーす!栄えあるアルトマーレ優勝メダルは誰の手に?」
スタート地点のすぐわきには細長いボートがあって、機材を乗せたスタッフ数人とアナウンサーが乗っている。フリーダムな実況に定評のあるアナウンサーだ。水上レースに参加するのはうれしいけど、このアナウンスがきけないのは心残りだなあ。
ぐい、とリールを引っ張られ、前を見ればよそ見するなとばかりにラグラージに睨まれる。ごめんごめん。頑張ろうな、ラグラージ。オレは、うっし、と気合を入れ直して、前を見る。サトシとカスミがアイコンタクトしてる。ハブられて悲しいなんて思ってないぞ、ううう。
ボートに乗っかっているネイティオとネイティたち3匹が、スタートの合図代わりになる。
いよいよだな。
ちっ!ちっ!ちっ!びよーん!・・・・・・思わず噴き出してしまった。
「びよーんは卑怯だろ、びよーんって!トゥートゥーでさえネタなのに、これはねーよ!」
スタートで遅れちまったじゃねーか、くそう。いくぞ!と生暖かい目でこちらを見ていたラグラージに、いたたまれなくなって叫んだ。
「まずは、右曲がるぞ、ラグラージ!」
叫んだら、しっかり頭でも何をしなきゃいけないか確認できていい。恥ずかしいけど、壁に激突したり、転覆したりして失敗するよりましだしな!橋からピカチュウが落下してサトシの顔面に直撃してようが、ぶっちゃけよそ見かましてられるほど余裕ない。
ばしゃばしゃ波しぶきをあげて、スピードを上げていく。風が気持ちいい。ようやくつかめたタイミングと力加減でリードごしに、ラグラージにサインを送る。スピードをゆるめながら、ゆっくり確実に曲がる。とっくに何人にも抜かれてるけど、盛り返せばいいんだ、がんばろう。
いけいけいけ、と念じていたおかげか、なんとか曲がれた。ふいい、助かった。しばらくは直線だ、一気に距離詰めるぞ!
「ここで稼ぐぞー!一気に飛ばしてくれ!」
スピードを上げろ、と指示を出す。一気に風景が前から後ろへ流れていく。お先に、とばかりに先ほど抜かされた相手を数人抜き返して、オレはにやけた。おお、あそこに見えるのはロッシさんとカスミとサトシかな?よーし、なんとか追いつこう。
「こっから左、右って続くぞ、ラグラージ!」
ここでうまく調子づけられれば、なんとかいけるはず。サトシがコースアウトするまでに距離を詰められれば、あとはカスミとロッシさんが見える程度に飛ばしていけばいい。運が良ければけっこうな順位に食い込めるはずだ。リールをじっくり調節しながら、オレとラグラージは追いかけた。いっけー!
勢いづいたオレ達は、ゆるやかな左カーブを描く曲線をめぐりながら、じりじり、と追いついていく。ここまでくれば、がんばれーって応援してくれる観戦客の人やベランダで見ている家族づれの人たちに、にこーってわらったり手を振ったりできる余裕が出てくる。うーん、詰められそうで詰めらんないなー、これこそ映画補正かな?
ってか今度は右、左って曲がるのか、さすがは水の都。水路の入り組み方が半端ないな、予め聞かされていたとはいえ、実際に走るとなるとやっぱり違う。毎年2、3人コースを間違えて失格になる人がいるらしいのも、うなずけるな。
「あ、サトシがぶつかった!ラグラージ、内側で曲がるぞ!」
よっしゃ、きたきたきた!曲がり損ねたサトシが壁にぶつかる前に、何かにはじき返されるようなバウンドをして水しぶきを上げる。かまってられるほど余裕ないので、スルーした。これでわざわざ、巻き込まれるのを心配して置いてた距離を一気に詰められる!
つーかカスミとロッシさん早いな、さっきまでサトシとデットヒートしてたのに、加速した?なんだと?!くっそー、絶対追いついてやる!気づけばオレ、3位じゃね?
「そろそろスパートかけるぞ、いっけー!」
ラティアスに引っ張られるというチートこの上ないいたずらをされてるサトシに巻き込まれないよう、予め左側沿いによりつつラグラージのリードをさらに緩めた。ジェット機並みのスピード体感したオレからすれば、とんでもないいたずらだよな、あんなんされたら怖くて落ちるって普通。
ワニノコもピカチュウもサトシに似たのかちっとも気づいてないし。とりあえず面白そうなんで、遠巻きにでも見てるに限るよな。まだかなまだかなとわくわくしつつ、カスミとロッシさんの立てたしぶきが消えないうちに、それを沿えるほど追いついてきたから、もう一息だ。
遠くで、12時を告げる鐘が鳴り響いていた。あー、おなか減ったな、そういえば。
「さーて狭い水路をぬけてきたのは、昨年の優勝者ロッシ選手とホエルコ、そしてカスミ選手とサニーゴだ!そして、後方からじりじり距離を詰めているのはコウキ選手とラグラージ!さーて、コウキ選手たちはデッドヒートに食い込めるのか?」
実況の声が響いてきた。ってことは、もうこの大通りの水路を突っ切れば終わりか!うーし、全力で行くぜ、ラグラージ!呼応するように、挙げる水しぶきがさらに大きくなり、流れていく景色も早くなる。
「うーむ、優勝はこの二人にむぎゅっと絞られたようだ!」
そんなこと言わないでくれよ!確かに追いつくにはもうちょっとスピードが足りないけどさ。だいたいホエルコとサニーゴのどこにずっとトップで走れるようなパワフルさがあるんだよ、スタミナありすぎだろ、おかしいって!まあアニメの世界だから仕方ないか。
「あれ、それっと・・・後方からものすごい勢いで追い上げてくる選手がいます!」
きやがった、チート!それなりに踏ん張ってきたつもりなんだけど、やっぱりあっさりと抜かれてしまう。
「コウキ選手をぬいて、やってきたのは、サトシ選手とワニノコです!」
あれ、泳いでないよな、水面全速力で走ってるよな、おかしいだろ、普通に考えておかしいだろ!誰か気づけよ!すごいぞワニノコって喜んでるサトシとわにゃーってものすごい笑顔のワニノコ、振り落とされないようにしがみついてるピカチュウ。
なんというコメディ。まあいっか、どうせコースアウトするんだし、ここは堅実に詰めてこう。オレは視線を戻した。もうサトシたちはカスミたちのところにいっていた。はええ。
「ああっと・・・ぬいたー!」
さーて、そろそろこのアナウンスが入るってことは、ラティオスが妹をいさめに入ったかな。遊びすぎだよ、ラティアス。どうせなら知り合いのオレにチートしてくれた方がよかった、げふんげふん。
まあいっか、面白いもん見れたし。オレは後方からスパートかけてきた人たちに抜かれないよう、ラグラージにスピードの維持を命じた。さーて、もう中央泳いでもいいぞ。
「あらっと、サトシ選手はコースを間違えたようだ、やーだあ」
本当にフリーダムだな、実況人。
「ゴール前の大スパート、どちらも譲らない物々交換!まったくの横一線だー、いち、にーさん、だー!」
ぱーん、というピストルの音がして、オレは思わずふいていた。遊びすぎだろ、実況さん。フリーダムすぎる、さすがは名物実況。オレ達がゴールした時には、うまくスピードを殺しきれなかったカスミが水しぶきを上げるところだった。僅差だったらしく、カメラ判定らしい。
「カスミ、一位おめでとさん」
「ありがと、ってなんでコウキはしっかりうまく止まってるのよー」
納得いかない様子でむくれるカスミに、オレは笑った。たぶん一位になることに必死で後のこと考えてなかったからだと思うよ、オレ。だってロッシさんは去年の優勝者ってことはこのレース、経験者だろうし。納得いかない様子だけど、怖いので離れることにした。
オレはゆっくりとスピードをゆるめて、凱旋する。えーっと、3位か!入賞だな!よっしゃ、やったー!ガッツポーズ。ちらりと橋を見上げると、カスミの入賞にテンションをあげてトゲピーをだき上げているタケシが見えた。
「おめでとう、コウキ!3位入賞だな!」
「おう、さんきゅー」
にへら、と笑った。
「そういえば、サトシは?」
「大きくコースアウトしちゃってたからなー、あの水路ならすぐに戻ってくるんじゃね?」
呑気にワニノコとじゃれてなければ。振り返れば、カスミにロッシさんがおめでとう、お祝いに船に乗せてあげるよってナンパしていた。さすがはアルトマーレ、ラテン系ばっかだなあ。それについてくるサトシとタケシはある意味空気読んでないよな。
残念ながらオレはとっくにゴンドラ乗ったし、レリーフ探しの旅に出たい。なんでかセレビィだけ見つからないんだよ、ちくしょー。ちゃぷん、ちゃぷん、とようやく止まったボートに腰をおろしたオレは、顔を出したラグラージをなでた。
「お疲れさん、ラグラージ。3位だってさ、お前のおかげで入賞だよ、やったな」
うれしそうに、ラグラージが鳴く。さすがはポケモン、どこのポケモンもあらいき一つはいてない。まあお前の場合、泥沼の方がもっと早く泳げるんだよな、それがちと残念だけど。
ちなみに賞品はラティ兄妹の水晶の彫り物。非売品なんだって。
「じゃあコウキ、2時半に大広場に集合な!大聖堂の見学しようぜ」
「りょーかい」
ここでラティアスとサトシとの出会いフラグが立ったわけですね、わかります。
「チャオ。お友達に迷惑かけないように、一人で頑張っちゃうところは、かわいいわね。かっこいいわ、でもね、相手を考えてくれるともっとよかったんだけどね。残念だわ」
「子供なんだから、もっと大人を頼んなきゃだめよー?ボウヤ」
なんであんた達がここにいるんだよ、ジーザス!秘密の庭園で心の滴を確保するためとエネルギータンク替わりのラティアスを捕獲するために、ラティアスを探してるんじゃなかったのかよ!レリーフを探して水路沿いをひたすら歩いていたオレの横を横切ったボートと美女二人にオレは絶句した。
まずいまずいまずい、もともとずれ気味だった内容がずれすぎてる!ラティアスとサトシが出会わないと、もしラティオス達が危機に陥ったとき動ける人数が減っちまう!さすがに全部掌握すんのはむりだってのに!とらぬビーダルの皮算用だ!
「そんな怖い顔しないで?のんびりしてるボウヤが悪いのよ?カモがネギをしょっていいのは、ポケモンだけよー?」
あー……そっか。そうだよな、この人たちオレがラティオス持ってることも知ってるんだっけ?そのうえ心のしずくもち。しかもトレーナーとはいえ、まだまだガキ、子供。映画よりはるかにセキュリティ強化されてる大聖堂をくぐりぬけて情報収集したり、所在不明な秘密の庭園探すより、こっちをたたいた方が合理的だ。
うん、わかる。わかるからすっごくムカつくぞ、この野郎。ふざけんじゃねえよ、なめんなよ、こっちがどんだけ修羅場くぐってきたか、どんだけバトルに全力注いできたのか、知らないくせに。外見で判断すんのは愚の骨頂、あんたらなら間違いなく塾帰りの女の子の御三家パーティに全滅させられるだろうな、バトルタワーで。見せてやろうじゃんか。
サトシたちを気遣って一人離れたって勘違いしてるのはとりあえずおいとく。実はついさっき、おととい知り合ったあのゴンドラのお兄さんが女性客のせて乗りのりで通り過ぎる一瞬、ざまあみろ、独り身め、とばかりに見せつけてきて、ウインクしたのが悪い。
要するに、オレは気が立っていた。
「行きなさい、ラッキー」
「あんたもよ、メタグロス」
ははは・・・・・・なんかもう開いた口がふさがらねえわ、なんだよこれ。
何というラティアス・ラティオス対策。つーかエーフィとアリアドスはどうしたよ、おい!ギャロップとムクホークを繰り出していたオレは、不敵に笑う二人の盗賊に顔が引きつるのがわかった。ここでがつんと勝って、オレから心のしずくもラティオスも奪うことは無理だって教えてやらないとな!
オレだってトレーナーだ、人のポケモンはとってはいけない、なんて当たり前すぎるルールも守れない人たちに負けたくなんかない。
問題はこいつら全員シングル用で、ダブル技がてんでバランス取れてないとこなんだ。が、がんばろう。
「ムクホーク、とんぼがえり。出てこい、ラグラージ!ギャロップ、フレアドライブ!」
「やーん!ああもう、メタグロス!まもりなさい!」
「ラッキー、ギャロップに電磁波よ」
「汚い言葉づかいはよくないわ。お仕置きしたげなさい、メタグロス、地震よ!」
「もどれ、ギャロップ!いけ、ラティオス!ラグラージ、のろい!」
「あーもう、姉さん!巻き込まないでよ、ラッキーがダメージ受けちゃったじゃない!ああもう、ラッキー、カウンター!」
「あっぶねえ・・・ラティオス、流星群!ラグラージは地震だ!」
厄介なのはメタグロスなので集中砲火を浴びせれば、2度の地震と命の球の流星群には耐えられなかったのか、メタグロスが落ちる。ラッキーはやっぱりぎりぎりで削り切れなかったらしく、持ちこたえてしまった。くっそ、と舌打ちしたオレは、次の手を巡らせる。そして。
「こらーっ!!君たち、指定区域外ではバトルしてはいけないと知らないのかね!」
「リーダー、あいつら、心の滴の窃盗を予告した盗賊です!」
「なんと!これは大変だ、はやく本部に連絡を!」
「はい!」
憲兵の人たちがやってくるのがみえて、やあだ、せっかくのバトルなのに、と興が覚めたのか金髪の人が言った。姉さん、ここは引きましょう、と銀髪の人が言って、そのままボールにポケモンを戻すと、そのまま憲兵の制止を振り切ってボートを発進させてしまった。
また今度ね、ボウヤ!バーイ、と投げキッスを送られる。ひきつり笑いしか浮かばねえわ。オレもとりあえずボールに戻す。ふいー、とりあえず中途半端な形でバトルが終わっちゃったのは不満だけど、よかったな。
結果オーライってとこかな。どうやって収集つけようか迷ってたし、あはははは。いやバトルに一生懸命で考えてなかったなんてそんなことあるわけないじゃないかあはははは。
駆けつけてきた憲兵の皆さんにとりあえず事情を説明した。正当防衛ってことでお咎めはなかったけど、今度からはちゃんと助けを求めるようにと念を押されてしまった。はーい。
ついでにポケモンセンターに戻るはめになったせいで、2時をちょっとすぎていたので、オレはあわてて大広場に向かうことになる。
ばささささ、とポッポ達が羽ばたいていく。
ヴェネツィアで一番有名なサンマルコ大聖堂に似た宮殿が構えていた。さすがは現地にスタッフが赴いただけはあるよな、クオリティたけえ。中央にある噴水を中心に碁盤目のようなタイル張りの広場、そしてぐるりと正方形に囲む形で緑の屋根が特徴的な宮殿が周囲を囲む。正門にはラティアスとラティオスをかたどった石柱がこちらを見下ろしていた。
うおーすげー、観光客丸出しの反応をしつつ、ぐるりとあたりを見渡す。さっきから見上げてばっかりで首が痛くなりそうだ。
「ねえ、コウキ。全部のレリーフの写真は集まったんでしょう?商品もらえた?」
いこーぜ、とせかすサトシとおねえさんに目移りしているタケシの耳をひっぱり、ばし、と叩いていたカスミの見事な突っ込み裁きを拝見しつつ、そうそう、とオレはリュックから取り出す。2日掛かりで集めた写真を観光局の受付のお姉さんに渡したら、貰えたのだ。
「ほら、これ。いい仕事してるよな」
「すごーい、きれいな水晶細工の置物ね。えーっと、中にあるのはラティアスとラティオスと二人の人かしら?うーん、どっかで見たことあるような・・・?」
「たぶんこれだろ?パンフレットの裏についてるおとぎ話の挿絵」
「あ、ほんとだわ。えーっと、この街を守るために心の滴をおじいさんたちに・・・ああ、このシーンを作ってあるのね?素敵」
「おー、これは見事だなあ。確か近くに民芸品を扱ってる店があったはずだから、後で寄ってみるか」
「そうね。これ見てたら私もほしくなっちゃった」
これ非売品だけどなーといいつつ、リュックにしまいこむ。
「あーあ、あの時サトシがどっか行っちゃって探す羽目にならなかったら、ゆっくりショッピングできたのに」
「まあまあ、女の子がトレーナーに襲われてたのを助けたらしいから、サトシらしいよな。ピカチュウもそう言ってたし、嘘じゃないんだろう」
「でも・・・」
不満げなカスミをタケシがなだめている。おおう、心配したけど無事にラティアスとサトシの遭遇イベントは発生したっぽいぞ?心の中で安どのため息が漏れた。
「女の子がトレーナーに?」
「そうそう、一応憲兵の人には話したんだけど、まさか最近よくニュースに出てる盗賊の二人組だなんて」
「ああ、たしかザンナーとリオンだっけ?ピカチュウで攻撃して、なんとか隙をついて逃げたんだけど、その女の子とははぐれてしまったらしいんだ」
「それってもしかして、くるくるツインテールの金髪と、ぱっつんのおかっぱな銀髪の双子のお姉さんたち?」
「そう、ナイスバディーな怪盗姉妹!」
「タケシ」
「あ、ごめん」
ザンナーとリオンか、名前までは覚えてなかったからなあ、そっかそっか。で、どっちがどっち?金髪がザンナーさん?そっかありがと。考え込んでいたオレに、もしかして見覚えがあるの?と振られたオレは、隠す必要もないのでさっき起こった出来事をかいつまんで説明することにした。
もちろん憲兵さんには洗いざらい全部情報提供したこともひっくるめて。目を丸くした二人だったけど、タケシにがしって手を掴まれて、怪盗姉妹について事細かに聞かれれたのはまた別の話。つか近い近い!
何が目的なんだろう、と考え込む二人に、オレはサトシにも言ってくる、と告げて先を急ぐ。あたりまえだけど、心の滴のこともラティオス達のことも一切触れることなんか出来っこない。
「サトシ、ザンナーとリオンに会ったんだって?」
「あ、うん。そうなんだよ、コウキ。あいつら、女の子が嫌がってたのにポケモンで攻撃してたんだ。アリアドスとエーフィだったっけピカチュウ?(ぴーか、とピカチュウが肩上で怒りを込めている)」
「(おー、ここは原作どおりか、まあメタグロスは戦闘不能だし、ラッキーも赤ゲージだもんな)オレも実は襲われたんだよ、あいつらに」
「なんだって?!(ぴかちゅ?!)ほんとなのか、コウキ」
「お、おう。まあバトルになったから返り討ちにしてやったけどな。途中で憲兵の人が来てくれたから、大丈夫だったって。心配すんなよ」
「そっか、でもコウキはトレーナーだから大丈夫だったけど、あの子は(ちゅー)……。でも、オレが割って入った時、エーフィとアリアドスの技、あんまり効いてなかった気がするんだけど、気のせいかな?」
「効いてなかった?何の技?」
「サイコキネシスとナイトヘッド。くものいとで逃げられないだけで、全然平気っぽかったような……」