水の都の護神とオレ(完)   作:アズマケイ

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第4話

「さぁ、話はいったんお開きにして、そろそろお昼にしようじゃないか。夜までそんな深刻そうな顔で考えていては、いざというときに大変だからね。カレン、サトシくんたちを案内してあげなさい」

 

「はーい、わかったわ。じゃあ、みんなついてきて?おじいさんのパエリア、すっごくおいしいのよ?」

 

 

ねえ?と振られて、おう!とオレは即答する。な、ラティオス。こくこく、とうなずいたラティオスはまた食べられると知って上機嫌だ。カスミとサトシとピカチュウが、おおお、と声を上げてボンゴレさんとカレンにお礼をいう。オレもごちでーす、といった。コウキ、カレンさんたちと食事したのか?!ずるいぞ!と後ろでうるさいのがいるけど、カスミに盛大につっこまれていた。

 

 

「あ、料理なら自分も手伝いますよ?ボンゴレさん」

 

「おや、ありがとう。気持ちは嬉しいがねえ、大丈夫だよ。心配せんでも。なに、私たちはシークレットガーデンを守る側でありながら、かなしいことにポケモンバトルに参加できるような手段がないんだ。警備員さんたちや君たちに任せるしかない気持ちをどうか汲み取ってくれないかね?ささやかながら、恩返しさせてくれるとありがたいよ」

 

そうですか、とタケシは笑う。タケシにつられて、皿洗いくらいなら、と手を挙げたカスミとなんかおれもしたほうがいいかな?とピカチュウに聞いていたサトシは、顔を見合わせてうなずいた。やるきでるよな、がんばろーぜ、とふると、うなずいた。

 

 

「あ、でも運ぶときは手伝ってくれるとありがたいわ。お客さんはあなたたちだけじゃないもの。みんなのポケモンたちにも、食べてもらいたいし」

 

 

んなもん、いくらでも!人数分を考えると大変そうだけど、ボンゴレさんはなれているといって、引き返してしまった。腕がなるらしい。さ、いきましょ?とカレンが笑った。

 

ピカチュウが木に駆け上がると、みしみし、としなる枝から飛び降りる。待機していたラティアスの背中に見事着地したピカチュウは、ラティアスにいわれて背中のとっきにひしとつかまり、ぴか、と鳴いた。

 

ラティアスがにっこりと笑うとゆっくりと浮上し、ピカチュウが歓声をあげる。そして風を置き去りにして、一気に加速する。吹き上がる風に帽子をおしてふたたび空を見上げれば、スピードを一切落とさず木々の間を縫うように駆け抜けていく。

 

あっというまに見えなくなった二匹に、オレたちは唖然としていた。いや、知ってたけどさ、あんだけのスピードでオレ、ラティオスに乗っけてもらってたのかと思うと今更ながら背中が寒くなる。こっえー!

 

遠くでピカチュウの悲鳴にも似た歓声が聞こえる。こらまたうれしそうにしちゃって、楽しそうじゃねーの。すげえなおい。

 

まあ、あれを楽しめる余裕があんなら、めまぐるしく変わる景色とか、凄まじいどころじゃない疾走感とかきっと楽しいだろうなあ。オレには無理だ。

 

 

 

そのうちふたたびUターンしてきたピカチュウとラティアス。頭にのっかり、なんとラティアスを先導してる。どんだけ適応力すごいんだよ、おい!ぴかー、オレたちに手を振るピカチュウにカスミは顔を引きつらせていた。

 

無邪気に笑うトゲピーを抱き締め、すごいわねピカチュウ、とあきれ顔だ。だよな。一番前の方でカレンにアルトマーレの郷土料理をだしに、カレンに話し掛けまくっていたタケシは、いつものことさ、と笑う。すごいわね、普通は怖がるのに、とカレンは感心していた。

 

ちら、とオレをみる。あはは、オレがラティオスにのってる様子やっぱり目撃されてたみたいだ。オレは気付かないふりをした。あ、兄貴がでれた。我慢できなくなったのか、ラティアスのところに駆け寄った兄貴が、ピカチュウにのれと背を向けてくる。

 

ピカチュウは元気よくなくと、耳を動かしてしっぽをふり、タイミングをはかると、あんな高いところから飛び移った。ラティアスはピカチュウがとられてさみしいのか、ぐるぐると旋回する兄貴を追い掛ける。

 

いつのまにかおいかけっこが始まり、ピカチュウは仲裁のためにラティアスとラティオスの間を行き来する。全く怖くないらしい。

 

「いいなあ、ピカチュウ」

 

なんですと?ぎょっとして隣のサトシをみると、手を握り締めて目を輝かせていた。高所恐怖症や危機感は無縁の好奇心のかたまりは、かわってくれととんでもないことを言い始めた。

 

頭がいたいのかカスミは、頭に手を当てる。オレもためいきがもれた。どうしたんだ、ふたりとも、と不思議そうにサトシは首を傾げる。さすがは十年以上アニメの看板背負ってるだけはあるなあ、勝てないわ。道理でオレのポジションのひとが映画冒頭においやられるわけだよ!

 

セリフなしだよ!くそ、主人公さしおいてライバルはでやがったくせに!また行方不明になったオレをバトルタワーで待ってるであろう幼なじみを悔しさのあまりやつあたりしたことを思い出し、オレはかたをすくめた。

 

やっぱりポケモンはトレーナーににるんだな。タケシがわらって、オレたちはうなずいた。

 

 

「なあ、コウキ。さっきラティオスに乗っけてもらってたよな?オレものりたいんだけど、いいかな?」

 

 

なんでそうなる。ええっと声を上げると頼むと手を合わされた。

 

 

「ラティオス、のっけてやれるか?」

 

 

モンスターボールをみると、さすがにサトシたちに慣れてきたらしい人見知りは、控えめにうなずいた。ハイパーボールをかざして繰り出す。

 

 

「サンキュー!」

 

「超特急でよろしく!」

 

「え、ちょ、コウキ?!」

 

 

サトシを乗せたラティオスの目付きがかわる。あわててつかまったサトシを無視して、オレはよろしく!とラティオスを焚き付けて手を振った。

 

 

「うわあああああああっ!」

 

 

けらけら、と笑うオレにカスミがコウキってときどき怖いわよね、とつぶやいた。え?なにが?

 

おそるべきはすぐになれて、ラティ兄妹とピカチュウ組とおいかけっこを始めたことだ。まじ、ぱねえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?トゲピー」

 

 

カスミが首を傾げる。トゲピーがさっきからラティオスやラティアスをみて、手を伸ばす。

 

 

「もしかして、のりたいの?」

 

 

こくり、とうなずいたトゲピーが笑う。ラティアスがその声を聞いて、ゆっくりと舞い降りてくる。ラティオスに乗ったピカチュウが楽しいと誘うが、カスミはだめよ、と抱き締めた。なんで?とオレのラティオスにつかまったまま、サトシがなげた。

 

 

「誘ってくれてありがと、ラティアスにラティオス。ピカチュウも。でもね、トゲピーはまだ小さいのよ?サトシ。手が短いから、途中で落ちちゃうわ。だっこしたままはきついでしょ?」

 

「カスミがのっけてもらえばいいんじゃないか?」

 

「む、むちゃいわないでよ!アタシ、絶対無理だもの!」

 

「え?カスミそんなにおも」

 

「女の子に失礼なこといわないでくれる?サトシくん!いくらお客さんでも怒るわよ!」

 

「?あ、うん、なんかごめん?」

 

「ありがと、カレン。サトシったらデリカシーってもんがないのよね」

 

 

はあ、てカスミがためいきをつく。しらけ、集中する生暖かな視線にサトシはかたをすくめ、なんだよ、とぼやいた。無自覚はだめだな。

 

 

「タケシは?」

 

「お、おれ?いやいや、おれもいいよ」

 

 

トゲピーは誰も乗せてくれる気配がないとわかると落ち込んでしまう。すねてぐずりはじめてしまい、あわててカスミが宥めはじめた。

 

 

「トゲピーは空が飛びたいの?」

 

 

カレンの問い掛けにトゲピーがうなずく。ごめん、トゲピー小さいから聞き分けなくて、とカスミはためいきをつく。

 

 

「ご飯食べたら、空のお散歩しましょうか」

 

「え?」

 

「ふふ、ね?ラティオス、ラティアス」

 

 

ああ、夢うつしか。あとのお楽しみね。さ、ついたわ、と人工池にうかぶエメラルドの屋根のテラスにカレンは手招きした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボンゴレさん、今ラティオスたちを外に出すのは危ないんじゃ?」

 

オレの言葉に、ボンゴレさんとカレンは顔を見合わせた。なーんだ、知ってるのね、と驚かせようとした悪戯がばれた子供みたいな顔でカレンはかたをすくめた。ボンゴレさんは笑うと、ぽんぽんと肩を叩いてくる。

 

「ありがとう。ラティオスやラティアスのことを考えてくれているんだね。大丈夫、無論考慮はしているさ。一度、水路の抜け道があることをサトシくんたちに見せておこうと思っただけだよ。それに、どれだけ兵器が街に深く残されているかもね。なるべく、ここの全貌を見せておいたほうがいい。動きやすくなるからね」

 

 

頼んだよ、とラティアスとラティオスに呼び掛けたボンゴレさんに、二匹はうなずく。

 

 

「そうだわ!コウキ、あなたのラティオスの力も借りたらどうかしら?ことうの生まれっていっても、さすがにひとりぼっちで生きてたわけじゃないでしょ?きっと友達になれたラティアスたちと映像を共有できるんじゃないかしら?」

 

「え(思いっきり一匹ですけど!むしろオレの世界に一匹の絶滅危惧種ですけど!)大丈夫?できるか?ラティオス」

 

 

不安そうにわからない、と首をかしげたラティオスをラティアスがおいでとばかりに誘う。先には、夢うつしの準備に精神を統一してるのか、目を閉じてる兄貴。

 

がんばれ、と頭を撫でて送り出す。ちらちら、とオレのほうに戻りたそうに自信なさげな情けない顔でラティオスはそちらにむかう。兄貴が目を開いて、オレのラティオスをみて、めをほそめた。

 

びく、となる。なにかひとこえぼそりとなかれ、むっとしたらしいラティオスが反論するように鳴く。するとハナで笑うようににいと笑った兄貴はオレのほうに視線を投げて、挑発気味にラティオスにかえす。

 

なっ?!といった様子で目を見開いたラティオスは首を振る。そしていつもバトル前に見せてくれるあの頼もしいりりしい顔で兄貴に鳴いた。いったい何はなしてんの、おまえら。

 

すっかり蚊帳の外なのに、ラティアスはおもしろそうにニコニコと笑っていた。だれかロケット団のニャースつれてきてー!

 

てな打ち合せはともかくとして、オレたちはテラスに集められていた。空の散歩ってなにかしらとカスミは首を傾げる。ピカチュウとサトシに教えろとアピールされるが、まるっと無視した。

 

ラティアスがまたピカチュウにちょっかいをかけはじめ、それどころじゃなくなる。食器の片付けをやっぱり断られてしまったタケシが帰ってきたので、オレはラティオスをよんだ。

 

 

「ラティオス、頼んだぜ」

 

 

せがまれて、頭を撫でる。こくり、とうなずいたラティオスは、ラティアスとアイコンタクトし、意識を共有するときに現れる不思議な色の目をした。突然空中で立ち上がると、雄叫びをあげた。

 

そして、勢いをつけてシークレットガーデンを疾走すると、人工池に直線の飛沫があがる。ばしゃん、という波を残して、ラティオスは噴水目前で両手を折り畳むとまるで水鳥のごとく垂直に急浮上する。

 

ラティアスが呼応するように高い声があがったとき、ラティアスを中心に球体のヒカリがあらわれ、一気に景色が一転する。いきなり足場がなくなり、眼下にはシークレットガーデンがみるみる小さくなっていく。

 

上から見るといかに広大な土地が街のど真ん中にあるかわかるってもんだ。おおお!と歓声があがる。トゲピーがうれしそうに笑い、よかったわねとカスミが頭を撫でた。

 

 

「カレンさん、これはコウキのラティオスの景色ですか?」

 

「ええ、そうなの。ぶっつけ本番だけど案外うまくいくものね。これは夢写しというラティアスとラティアスが使える不思議な力なの。片方が片方のみる映像を共有することができて、野生のこの子たちはこうやって自分のみを守ったり、仲間のピンチに駆け付けたりするのよ」

 

 

へー、そんな意味があったのか、映画だけじゃわかんねーわ。

 

 

「ここまでがシークレットガーデンをまわりから隠してくれるラティアスたちの力の限界。これ以上は無理ね」

 

 

木々の真上には、ポッポたちが群れをなして木の実をつついている。日が当たる場所なだけでずいぶんとガーデンの印象がかわるもんだなあ。なんか、ラピュタの上の方みたいだ。

 

つかこれ以上浮上は勘弁してくれ。雲の上からアルトマーレをみるのは絶景だろうけど、映画で心の滴を託してきえてく兄貴を連想しちまうじゃねーか。ふるふる、と首を振ったオレに、どうしたんだ?とサトシは聞いてくる。

 

 

「なあ、サトシ。絶対にラティアスとラティオス守ろうな」

 

「ここのガーデンもだろ?当たり前だよ!な、ピカチュウ」

 

「ぴか!」

 

 

ブシューとなかないピカチュウは可愛すぎて困る。心強い返事にオレは笑う。やがて世界は再びテラスに帰ってくる。

 

おつかれ、とラティオスをねぎらってボールに戻す。今度は兄貴が逆に人工池に飛び込んだ。たぶんしたの水路にもぐったんだと思うけど、ラティオスってなみのりやダイビングって覚えたっけ?オレの世界とユウキさんの世界は仕様が全然違うからなあ。ま、いっか、細かいことはいいっこなしだ。

 

再び飲まれた世界は、シャボン玉のなかのようで、きらきらと七色に輝きを帯びている。はー、と感嘆の息をもらすオレに、知ってるのになんで驚くのかと不思議そうなかおをする。

 

世界は水路にいた。

 

上は水の底から空を見たようにゆらゆらとゆれ、たえまなく泡立てている。生きものたちが呼吸するたび泡が上っていく。水は透明無色だけど、とおくはエメラルドグリーンのタイルを乱反射して水の色と溶け込んでいる。テッポウウオの群れが、オレたちを貫通していく珍現象が起こり、笑いがおこる。スゲー!と興奮気味にいうサトシは、あたりをキョロキョロと見渡した。めまぐるしくかわる景色。カスミとタケシは言葉も浮かばないらしい。カレンは誇らしげに笑う。

 

 

「ゴミがないでしょ?アタシたちの誇りなの」

 

 

やがて人工池のぽっかりあいた水路にもぐっていくと、まるで迷路のごとく入り組んだ地下水路に入る。あれ?こんなん映画にあったっけ?やがてヒカリが差し込まないほど暗くなっていく通路の先には、一気に視界が開ける。

 

 

「これは……!?」

 

「すごい、ポケモンたちがこんなにたくさん!」

 

「古くなった船を沈めてポケモンの巣にするって聞いたことあるけど、これもかしら?」

 

「これはね、ほら、あなたたち大聖堂にいたわよね?あのステンドグラスの間にあった黒いオブジェがあったの覚えてる?」

 

「えっ、あれが?」

 

「氷山の一角というわけですか?すごいな」

 

「あれが、古代兵器の一角。これが二度と使われないように私達のずっと昔のご先祖様が沈められた、封印された古代兵器の成れの果てなの。いまはすっかりさびちゃって、ポケモンたちの巣になってるんだけどね」

 

「ってことは、もしこれが動きだしちゃったら、ここのポケモンたちはすむところがなくなっちゃうってこと?」

 

「ええ。ホントはここは水がないはずなの。もちろん水路につながってるから、ポケモンたちは逃げられるだろうけど、やっぱり困るわ」

 

「ザンナーとリオンたちは絶対に止めなきゃ!な、みんな」

 

 

俄然やる気を出しはじめたサトシにオレたちはうなずいた。

 

 

「なあ、カレン。水の抜き方は?」

 

「詳しくは分からないっておじいさんはいってたわ。ただ、兵器を奪いにくるって予告が来た以上、ザンナーたちはわかっちゃったんだと思うの」

 

 

はあ、とカレンはためいきをつく。深海にすむらしいパールル系統やジーランスたちがマイペースに泳いでる。

 

 

「大丈夫!オレたちや警備員の人たちでなんとかザンナーたちを捕まえるんだ」

 

「ええ!水タイプのポケモンたちはアタシが守るわ!」

 

「カレンさんはどうかラティオスとラティアスのそばにいてあげてください。自分達がなんとかしますから」

 

「みんな、ありがとう」

 

 

世界がテラスに帰ってくる。

 

オレたちは作戦を練ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウキ、コウキ」

 

「うわっ?!」

 

「コウキ、さっきからどうしたんだ?」

 

背後に感じた冷たい感覚にはっとなると、タケシが立っていた。ほら、と差し出されたコーヒーを受け取ったオレは、アリガト、と座り込んでいた体を起こす。

 

薄暗いから、分からなかった。たぶん、イイコはとっくに寝る時間だ。プルタブを開けて口をつけたら、あまりの苦さにぎょっとする。普通缶コーヒーって甘すぎるほどな感じがするんだけど、なんだこれ。慌ててみると、ブラックだった。無糖とか低糖なんて信用できないから丁度いいけど。

 

あー、そういや頼んだんだっけ。物思いに沈んでて、忘れてた。タケシがオレの様子にほんとに大丈夫かと心配してくるから、わりわり、と謝る。

 

俺たちは二手に分かれて、ザンナーとリオンを待ち伏せていた。カスミは水タイプが多いから、やっぱり水辺が近くにあった方がいいということで、シークレットガーデンの方にいる。

 

はじめはみんなでシークレットガーデンを、という方向だったんだけど、オレがこっちも見張ったほうがいい、と主張して、ジャンケンで今は古代兵器がある大聖堂の奥にあるステンドグラスの間にいる。

 

だって、映画だとここが悲劇の舞台なんだよ。ボンゴレさんも知らないから結局言えなかったけど、この黒いオブジェが古代兵器の起動するところになっている。

 

ラティオスがラティアスをかばって拉致られて、心の雫も奪われて、兵器が起動してアルトマーレが大変な事になっちまう。絶対に防がなきゃと意気込むオレにとっては、やっぱり最悪の事態が頭をかすめちまった。

 

ボンゴレさんとカレンのご先祖様がわざとここに古代兵器を安置したなら、起動する場所はまた別の場所かもしれないけど、やっぱり警戒はしていいと思う。

 

夜はやっぱり冷えるなあ、とぼやくと、ずっと緊張しててもつかれるんじゃないか?といわれた。さすがは年上ジムリーダー、頼りになる。そうだ、よな、とオレはぎこちなく笑った。

 

いつバトルになってもいいように、ポケモンたちのモチベーションは高めてある。ポケモンセンターも行ってあるし、準備は万端だ。でもやっぱり不安は拭えない。はあ、とため息を付いて、オレはベランダを見下ろす。

 

月明かりを浴びて、ステンドグラスからこぼれ落ちた光が、冷え冷えとした黒いオブジェにおちる。きっと満月なんだろう。ラティアスとラティオスが心の雫を老夫婦に渡すステンドグラスは、銀色に輝いている。静まり返った空間の中で、俺は葛藤と戦っていたわけで。俺の手には、心の雫がある。

 

なんどリュックに仕舞おうとしたか分からない。はあ、とため息を付いて、防弾ガラスにおおわれたオブジェを見張っているわけだ。ラティアスとラティオス、そして本来あるべき場所から取り除かれた古代兵器の一片は、ボンゴレさん、カレンと共に憲兵の人たちと身を潜めている。

 

サトシとカスミはガーデンにいる。流石に楽観はできるほど、オレ強くないんだよなあ。

 

こつこつこつ、と足音がする。ああ、巡回の時間だな、とタケシが言った。ガーディをつれた警備員さんが、電灯片手に見回りしている。お疲れさんです、と俺は敬礼した。ニッコリと笑って、警備員さんがかえしてくれる。

 

 

「心の雫なんかだして、どうしたんだ?」

 

「ああ、うん、ちょっと」

 

「やっぱり、心配か?」

 

「まあ、ねえ?」

 

「確か、ザンナーとリオンが狙ってるんだよな?ラティオスと一緒に譲り受けた大事なものなんだろ?大丈夫だって。コウキのポケモンはよく育ってるよ。心配しなくても、とられたりしないさ。むしろ、コウキがそんなんじゃ、ラティオスたちだって困るんじゃないか?」

 

「あはは、サンキュ。いや、確かにそれもあるんだけどさ、うーん」

 

 

心の雫を握りしめて、オレは思い切ってずっと頭の中にあったけど、なかなか実行に移せないことを口にした。

 

 

「これ、壊そうかなって」

 

「え?」

 

「ボンゴレさん、言ってただろ?最悪の事態はいくらでも思いつくって。なーんか、芽は潰した方がいいかなって思ってさ」

 

一度思いついてしまったものの、未練がありすぎてできない自分がなんか悲しい。プレイヤーが映画で入手して、やっとこさ手に入れた心の雫。

 

サファイアのユウキさんが手に入れて、オレにくれたアイテム。もちろん、壊しちまえば、二度と修復なんかできっこないし、代替出来るアイテムなんて存在しないはずだ。似たようなのでごまかしても、流石にプレイヤーはいつか気づいちまう。

 

ただでさえバグ疑惑があって、ちょっとリセットを迷う思考を受け取ったときには戦慄を覚えたけど、今オレが守りたいのはラティオスたちなんだよなあ。なんか、嫌な予感がする。

 

映画だと、カレンがボートでサトシをホテルまで送り届けたのを確認して、しかも見回りをしていたボンゴレさんが油断した隙をついて侵入して捕まえてるし。でもサトシはもちろんみんなここでザンナーとリオンを待ってる状態だ。

 

もちろんオレがずーっと邪魔してきたのはわかってるはずで、なんかしてくる気がする。機械を発動させること自体が、兄貴の死亡フラグだから、なんとしても阻止しなきゃなんない。自分がトリガー引くなんて最悪すぎる。絶対嫌だ。

 

 

「考えすぎじゃないか?思いつめすぎだよ、コウキ」

 

「でもさ、やっぱ不安で仕方ないんだよ、オレ。正直、これ持ってんのがすっげえ怖い」

 

はあ、と息を吐くけど、心拍数は下がらない。心臓の音がうるさい。オレの表情をみて、うーん、とタケシが困ったように腕を組む。

 

 

「友達にもらった、だいじなものなんだろ?」

 

「そう、だな」

 

「ひとつしかないんだろ?」

 

「おう、もちろん」

 

「でも、今はもってるのすら、苦痛なんだ?」

 

「ぶっちゃけ」

 

 

心の雫は公式大会だと禁止扱いだし、ダイヤモンド版のオレの世界だとバトルタワーしかないから、そもそも持っていたとしても効果は発揮されない、ただのステータスアイテムと化してる。でも、通信対戦ではすっげえお世話になってるし、大切なものなのは事実だ。

 

 

「コウキの好きにしたらいいんじゃないか?もったいない気がするけど」

 

「そうだよな、ありがと、タケシ。なんか楽になった気がする」

 

 

やっぱ後押しはいいな。後悔しないうちに、とオレは腕を振り上げる。

いくらアイテムとはいえ、構造的には水晶と変わらないから過度な衝撃には弱いはずだ。勢い良く振り下ろしたオレは、モンスターボールが開くのを聞いた。そしてすさまじい勢いで、手が弾かれる。

 

 

「ラティオス、お前」

 

 

心の雫を抱えたラティオスが、今にも泣きそうな顔で必死に首をふる。

やめてくれ、考え直してくれ、とばかりに鳴き、今までになく自己主張するラティオスに、気圧される。今まで一度も拒否反応示されたことがなくて、驚きのあまり言葉を失うオレに、タケシが肩を叩く。

 

 

「やっぱり、元の持ち主の意見も聞かないとダメみたいだな」

 

「あ、はは。やっぱだめ?ラティオス」

 

 

こくこく、と頷かれて、オレは肩をおとした。そっか、ダメか。なんだよー、一人でうだうだ考えてたオレがバカみてえじゃねーか。わかったよ、と言ったものの、手を差し出しても心の雫をくれないラティオス。

 

 

「あのなあ、ザンナーとリオンの狙いは、ラティオス。お前も一応対象に入ってんだぞ?心の雫ももってたら、あぶないだろ?さっさとボールに戻れってば」

 

「たしかに、今回はボールで留守番の方が安全かもしれないな。でも、どうやらラティオスはそれがいやらしいぞ?コウキ」

 

「……まいったなあ」

 

オレの忠告にわかった素振りを見せながら、タケシの言葉に嬉しそうに鳴きやがる。はあ、とため息を付くしかない。なんでいきなり反抗期。

 

なんか、ラティ兄妹と知りあってから、自己表現に幅が出てきたなーとは思ってたけど、まさかここまで自分の主張をはっきりとするやつになるとは思わなかった。特に兄貴とはなんかずっとしゃべってる気配あるし、なんか吹き込まれたのか?あーもー、仕方ねえなあ!

 

 

「わかったよ、ラティオス。出番が来たら、呼んでやっからさ、ほら返せってば。でも、今度指示を無視するようなことがあったら、いくら古参のお前でも外すからな?わかってるだろうけど、リオンとザンナーが使ってくるポケモンはお前の弱点ばっかだから、期待すんなよ?」

 

 

ようやく納得したのかかえしてくれた。ボールに収まったラティオス。

オレは心の雫をリュックにしまうことにした。

 

 

「あはは、なかなか厳しいな、コウキは」

 

「まーね。だって、エーフィは同じエスパーだし、アリアドスは虫だし、メタグロスにラッキーなんて相性悪すぎるだろー?初見ならともかく、あっちには技の一部がバレてるんだ。注意しないと」

 

「ああ、そうか。ってことは、おれが頑張らないとだめだな。よろしくな、コウキ」

 

「おう」

 

 

顔を見合わせて、笑った。その刹那。じりりりりりりりりりりりり!

警報装置が鳴り響く。そして、数発の爆発音。俺たちは、慌てて階段をかけおりた。

 

 

 

 

 

一気に視界が遮られる。避難訓練で使われてるような、甘い匂いのする、うっすらと色のついた白煙が

一気にステンドグラスの間を覆い尽くす。オレはあわてて、かたわらのスイッチを全部押して明かりをつけると、換気扇を回した。

 

 

「ムクホーク、この煙ふきとばしちゃって!」

 

「クロバットも協力してくれ!」

 

 

吸い込まないよう、姿勢をかがめつつ、かいだんを降りる。大広間ではずっと警報装置が鳴り響いており、耳鳴りがするくらいうるさい。ざわざわ、ばたばた、と喧騒が生まれ、騒がしくなってるのがわかる。なんとか視界がひらけたとき、そこにいたのは、ザンナーとリオンだった。

なんで?!もうザンナーとリオンがここにいるんだよ!

 

まさかラティ兄妹守れなかったのかと一瞬混乱するけど、二人はふたりだけだ。無理やり拉致られてきたポケモンはいない。拍子抜けしつつ、オレはほっとした。でも、周囲に散らばるのは、防弾ガラスの破片。どうやらさっきの爆発はこれだったらしい。

 

それを上回る位の威力ってどんだけだよ、ポケモンでも使ったのか?

物騒な出で立ちのリオンが、オブジェに手をかけているところだった。

 

「何してるんだよ!」

 

「あら、怖い言葉遣いしないで頂戴。予告通り、古代兵器をいただきに来たのよ」

 

「そうはさせないぞ!コウキ、いこう」

 

「おう!」

 

すかさず、ムクホークたちを呼び戻す。ザンナーはエーフィとメタグロスを繰り出してくる。リオンは参加する気はないのか、ザンナーに目配せするだけだ。

 

「あら、やだ。やっぱり来てたのね、あなたたち。でも邪魔はさせないわよ、ここはアタシがあいてしちゃうわ。さあ、おいでなさい」

 

「お願いね、姉さん」

 

「ええ、手短に頼むわよ」

 

「もちろん」

 

どういうことだよ、何考えてんだ、この盗賊姉妹。ますます考えが読めなくて困惑する。でも、とりあえず勝負を仕掛けてきたザンナーを倒さねえと!俺たちは、顔を見合わせて、頷いた。

 

「クロバット、メタグロスに超音波だ!」

 

タケシの声が響く。エーフィもメタグロスもきついけど、強敵はメタグロスだ。混乱状態になったメタグロスがふらふらとおぼつかない足取りになる。

 

集中砲火より、やっぱり落としとくべきとこは、いっとくか。少しでも負担を減らさなきゃ。やーん、とザンナーが叫ぶ。交換に繰り出されたのは、ラッキーだった。

 

「お返しにやっておしまいなさい、エーフィ。サイコキネシスよ!」

 

「させるかっ!ムクホーク、エーフィにブレイブバード!」

 

スカーフ型はメジャーだけど、やっぱり頼りになる。本当ならエーフィの方が早いんだけど、スカーフのおかげで素早さに補正がかかる。おかげで以降はひとつしか技が出せなくなるけどありがたい。

 

攻撃態勢に入る隙をついての強襲に、不意をつかれたエーフィはくらって倒れてしまう。スカーフはアドバンスジェネレーションから導入された道具だから、もしかしたらと思ってたけど、やっぱりしらないらしい。

 

あはは、悪く思うなよ、本気で頑張らせてもらうから。そのかわり、がががっと削られていくHP。反動がでかいなあ。

 

 

「わるいな、コウキ。ありがとう」

 

「いんや、サポートしてくれてサンキュ」

 

 

初めて味方側でクロバット見たけど、結構でかいなこいつ。ばっさばっさとせわしなく飛び回るクロバットとともに、次に備えるムクホーク。攻撃力に任せてつっこめ!って感じだしなあ、うちのムクホークは。

 

攻撃力をがくんとさげたらおもしろいかなーって入れてる、フェザーダンスはともかく、ほかの技がすてみタックルに、インファイトだし。攻撃後に防御力と特殊防御力が下がるなんて、凄まじすぎる。まさに攻撃は最大の防御。

 

ザンナーはメタグロスを再び繰り出してきた。げ。

 

 

「クロバット、もどってくれ!よし、たのんだ、ロコン!」

 

「さっきのお返しよ。子どもが大人にはむかっちゃだーめって教えてあげるわ。メタグロス、ムクホークにお仕置きしたげなさい!バレットパンチ!ラッキーは、10マンボルトよ!」

 

磁力で浮き上がったメタグロスが、容赦なく疲労が溜まっているムクホークに剛腕を振り下ろす。ムクホーク!と声を上げたものの、やっぱり圧倒的な攻撃力には耐えられない。

もともと鋼タイプに飛行技は半減だ。くっそ、これで一対一か。お疲れさん、とオレはムクホークを戻す。そして、ラティオスを繰り出した。

 

ラッキーからの攻撃をくったものの、ふるふる、と首を振って、再び戦闘態勢にはいるロコン。よかった、イケそうだな。

 

 

「ラティオス、凍える風でロコンを支援だ!」

 

 

意気揚々と飛び出してきたラティオスが、叫ぶ。すかさず、凍てついた風を巻き起こす。これで素早さはダウンだ。

 

 

「メタグロス、バレットパンチ!」

 

「よーし、よくやったぞ、ロコン!今度はこっちの番だ、いっけー!かえんほうしゃ!」

 

 

蓄積してきたダメージが響いて、効果バツグンの技をくらってしまったメタグロスが倒れる。よっしゃー、と俺たちはハイタッチした。あとはラッキーとアリアドスか、いける!

意気込む俺たちを尻目に、なかなかやるわね、と目を細めたザンナーは、笑った。ちら、と視線を走らせる。なんだ?

 

 

「悪いんだけど、アタシたちはバトルしにきたワケじゃなーいの。ごめんね、悪いけど、足止めはここまでにさせてもらうわ。戻りなさい、ラッキー、メタグロス」

 

 

「なんだって?」

 

「足止め?」

 

ここの兵器は、心の雫もラティアス、ラティオスもいなければ、動かないんじゃ?なにいってんだ?一瞬理解できなくて戸惑うオレたちを尻目に、ザンナーがオブジェに身軽な様子で駆け上がる。誰もいない操作盤をいじっていたらしいリオンを止めようとあわてて向かう。がががががっ、という何かが外れる音がして、大聖堂全体が揺れる。おわっ、と俺たちは体制を崩した。

 

 

「できたわ!やっぱりアタシの理論は正しかったのよ!あとは、シークレットガーデンで!」

 

「なっ?!」

 

「何も無いのに、発動だって?」

 

「古代兵器を起動させることと、この邪魔な水没のギミックを外すのはまた別なのよ、坊やたち。じゃあまたね、楽しかったわ」

 

「まてっ!どういう事だよ!」

 

「ふふ、アタシたちだけじゃ、ないのよ?」

 

「じゃあね、チャオ!」

 

「まてっ!」

 

「にがすかよっ!」

 

 

ザンナーとリオンだけじゃない?まさか他にもメンバーが居るのかよ、聞いてねえぞ?!ラティオスたちが威嚇する。予想外の展開の連続についていけず、オレは戸惑ったままだ。チャオ、とウインクしたリオンは、懐から何かを取り出す。

 

そして二人はすかさずなにかを顔に当てる。あれは・・・・・!とっさにオレはラティオスをボールに戻して、両手できつく抱え込む。ぼふん、という鈍い音がして、再び煙幕がシークレットガーデンの間に広がった。

 

しまった、ムクホーク戦闘不能だから、風がっ!タケシの声がして、飛び出してきたクロバットが少々時間はかかるものの、吹き飛ばしてくれる。そこにはすでに、誰もいなかった。

 

 

「コウキ、大丈夫か?」

 

「オレは大丈夫。タケシは?」

 

「おれも大丈夫だけど、ラティオスと心の雫は?」

 

 

あわててリュックを探ってみる。よかった、無事だ。ほっとしたオレは、胸をなでおろした。とりあえず、げんきのかたまりでムクホークを回復させる。

 

 

「ザンナーとリオンだけじゃないってどういう事だろう?」

 

「他にも協力者がいるってこと?二人の狙いって、古代兵器じゃないのか?」

 

 

ますます読めなくなってきて、俺たちは首を傾げる。すると、ばしゅ、という音がして、また勝手にラティオスが飛び出してきた。何かを訴えかけるように、詰め寄ってくるから、落ち着け落ち着け、とたしなめる。でも、いつになく取り乱してるもんだから、嫌な予感がしてオレは聞いた。

 

 

「どうした?ラティオス」

 

ラティオスが、咆哮する。すると、突然の浮遊感が俺たちを襲う。世界が、一転した。

 

 

「これは・・・・・・・・」

 

「夢写しだな。ラティアスかラティオスの視点だろう」

 

「って・・・・・え?」

 

 

俺たちは絶句した。深く深くに潜っていく、視点の主の手に抱えられているのは、なんと心の雫もどき、もとい古代兵器の一片を封じているガラス玉。ごぽごぽと泡が立っていくからして、きっと水路だろう。だが、おかしい。明らかにおかしい。だんだん水量が減ってきているのは気のせいだろうか。

 

水ポケモンたちが逃げていくのを逆行する形で、視点の主は進んでいく。抱えている手は赤い。

 

 

「ラティアスなにやってんだよ、おい!」

 

 

夢写しは視点を共有できるだけであって、思考まで共有することはできない。その場にいるとはわかっているものの、オレは思わず叫ぶ。

 

 

「なにかあったんだ。いそぐぞ、コウキ!水路から水がなくなってる!」

 

「おう!ありがとな、ラティオス!」

 

 

大声で呼ぶと、夢写しの世界が終わる。俺たちは、急いで、大聖堂をあとにした。

 

 

「タケシ、乗れそうな足の早いポケモンはいる?」

 

「いや、いないな」

 

「じゃあさ、ギャロップかすから、オレ、先に行かせて。ラティオスは流石に2人も乗せられないんだ。ごめん」

 

「わかった。すぐ追いつくから、ラティオス、コウキ、あとはよろしくな!」

 

「おう!」

 

 

ボールを預けて、オレはラティオスに飛び乗る。怖いとかどうとか言ってられない。いくぞ、ラティオスと呼びかけると、呼応する。一気に世界が加速した。

 

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