水の都の護神とオレ(完)   作:アズマケイ

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最終話

ひと足早くラティオスと共に到着。シークレットガーデンの入り口を潜り抜けたオレがみたのは、ザンナーとリオンが逃走に使った白煙が立ちこめる庭園。サイレンが鳴り響き、物々しい雰囲気の憲兵さんたちがたくさんいて、警戒ランプがくらいはずの景色を明るくしている異常事態だった。

 

火事と間違われてるのか?いいめくらましだな、くそ!ラティオスの優れた視覚を頼りにすすむ。カスミとサトシを探して奥にすすむと、ようやく白煙が薄れた地帯で、カスミとあった。何があったのかと聞くオレに、カスミは開口一番とんでもないことをいった。

 

「ロケット団が!?」

 

思わず声を上げたオレに、カスミがうなずく。大変よ!かけてきたので、息があがっている。まじかよ、完全ノーマークだったってのに!不意を突いた奇襲が成功してしまったみたいだ。やられた!ザンナーとリオンめ、手を組んでたのかよ、くそ!オレは舌打ちした。サトシとピカチュウがいない。何があったのかさっぱりだ。

 

「サトシとピカチュウがいないの!コウキ、みなかった?!」

 

「えっ、まじで?!ラティアスがガラス玉持って水路に突っ込んでくのが夢写しで見えたんだけど」

 

「ラティアスが?そんな……カレンたちに聞かなきゃ!急ぎましょ、コウキ」

 

「おう!」

 

ムクホークのはばたきで煙をなぎはらいながら進んでいくと、ようやく視界が晴れてくる。オレたちは息を呑んだ。ひどい!とカスミが憤りに震える。もういやな予感しかしねえ!

 

シークレットガーデンは、崩壊の極みを見せていた。無残にも掘り返された土に花壇が覆われ、蹂躙された水路はがたがた。あたり一面びしょぬれになっている。大木が押し倒され、通路すらままならない。

 

「ロケット団が、マシンにのってあらわれたの。それで噴水を破壊しちゃって!あのガラス玉を探してたみたいなんだけど、見つからないからって暴れまわりはじめてたのよ!」

 

説明をまとめるとこうだ。カスミとサトシはなんとか止めようとしたものの、やはり巨体の機械では太刀打ちできない。だから、わざとあおりたて、水路に脱輪させようとした。引っ繰り返った隙を狙って一気に叩く算段だった。

 

だが、いきなりガーデン全体がゆれたかと思うと、満たされていたはずのみずかさが急激にさがり、人工池にはまったロケット団のマシンはそのままの勢いに任せて排水溝に飲まれるように消えてしまったらしい。

 

そしたら、いきなりこの白煙がどこからともなくやってきて、あっという間にシークレットガーデン全体をおおいつくしてしまったとのこと。カスミに聞こえたのは、ピカチュウの悲鳴とサトシのあわてた声。そして横切ったくろいかげ。

 

追い掛けようにも、視界はさえぎられたうえに、芝生すら見えないほどぼこぼこに耕されてしまった土地では足元すらおぼつかない。水路で戦闘を繰り広げていたポケモンたちをなんとか渦に呑まれるのを食い止めるしかできなかったらしい。アタシのせいだと落ち込むカスミをなんとか励ましつつ、オレはようやく追い付いたタケシとカレンたちと合流した。

 

カレンは青ざめていた。ふらふらなカレンの手を取りながら、ボンゴレさんが真剣さに焦りをにじませながら口を開く。

 

「ラティアスが一度カスミさんとサトシくんが心配で見に行ってしまったんだ」

 

「ラティオスが教えてくれたんだけど、白い煙につつまれたとき、ザンナーたちがピカチュウをつれていってしまったの!」

 

「ああ。どうやらラティアスに気付いていたらしい。助けたければガラス玉をもってこいと……」

 

「止めたの!でもラティアスいっちゃったわ!どうしよう、ラティオスはサトシくんと水路の奥にいっちゃうし、ラティアスはっ!ピカチュウはっ!」

 

水路は入り組んでいる。古代兵器までたどり着こうと思うと、たちまち迷子になってしまう。狼狽しきっているカレンに、ボンゴレさんが肩を抱いて落ち着きなさいと宥めるが、カレンは泣きはじめてしまった。

 

無理もないわな、予想外のことがおこりすぎて頭がついていかないんだろう。サトシは主人公補正にプラスして無鉄砲だしまわり顧みないし、配慮が足るほど大人じゃない。ましてや親友のピカチュウの危機となれば、なりふりかまってられないだろう。カスミとタケシが宥める。オレはラティオスを繰り出した。

 

「オレいくよ!夢写しを辿れば迷子にならずいけるはず。ラティアスたちがあぶない!」

 

もういてもたってもいられず、オレはラティオスにいこうと指示して、後ろの静止を振り切って飛び乗る。

 

「カスミとタケシは、ポケモンたちをなんとか保護してくれよ!水路に逃げ遅れた水タイプがたくさんいたんだ!」

 

立ち止まるわけには行かなかったけど、いきなりなくなった水の流れに取り残された水タイプのポケモンたちが苦しがってるのを思い出してオレは叫ぶようにいった。警備員さんや憲兵さんたちがすでにパニック状態のポケモンたちの保護にあたっていた。

 

「ラティオス、兄貴たちを助けるぞ!死なせてたまるかよ!」

 

こくり、とうなずいたラティオスとともに、オレはすっかり水のなくなってしまった水路に飛び込んだ。

 

古代兵器が起動してしまったら、アルトマーレ中の海域や町並みはすべてザンナーたちの手に落ちる。窓やドアが鎖状のまがまがしい黒いオブジェに封じられる。大聖堂のプテラたちがよみがえって暴れる。水路のみちひきが自由自在にあやつれたり、竜巻や津波を起こしたりできる。

 

でも、悪しきものに心の雫が触れると汚れるとされてるように、古代兵器が悪いのではなく、使う人間が左右する。リオンは破壊活動に魅入られて暴走。長らくアルトマーレの防衛本能を眠らせていた古代兵器が呼応する形で暴走。あとは、考えたくなかった。くそ、やっぱりこわしときゃよかったとつぶやいたオレに、ラティオスが首を振る。

 

再び始まる夢写し。ピカチュウと引き替えにガラス玉を渡したラティアスがつかまる。ピカチュウが助けようとするが、先に着いていたロケット団に邪魔されてうごけない。ラティオスとサトシが追い付いたが、ピカチュウを助けてロケット団と対決中。

 

ラティアスが苦しんでる。リオンは古代兵器が起動しなくていじってるけど、ザンナーはラティアスをみた。ウインクされる。こっちが情報探ってんのばれてやがる!威嚇して吠えるラティオス。すぐ助けてやるからな、ラティアス!はやくおいでとほほえまれ、オレはくそ!と舌打ちした。

 

『すぐ宝石を頂くから、覚悟して頂戴な』

 

いつぞやの発言が脳裏をよぎる。まさかザンナーたち!思い当たるいやな予感に言葉を失う。いや、まてよ?オレはふと発言の違和感に気付いて、思い返す。そうだ!もしそうだとしたら、やれる!やれるぞ!待ってろよ、ザンナーたち、今までさんざん振り回されたつけ、一気にはらってやる!

 

もし失敗したら、今度こそ心の雫壊すからなとオレはラティオスにつぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリアドス、どくびしで退路を塞いでちょうだい!」

 

ザンナーの命令にしたがって、ロケット団の巨大なマシンが迫りくる中、アリアドスがどくに蝕まれるまきびしをふりまく。じわじわと逃げ道をふさがれていくピカチュウの目の前には、とうとう先ほどの二倍のどくびしが行く手を阻む。

 

どくびしは一度目はどくにするが、二度目からはどくどく効果に上書きされてしまう。どくどくは時間が経過するにつれてダメージが倍増する。ロケット団のマシンに万全の電気対策されてしまっているピカチュウは、消耗戦を強いられており、相性は最悪。

 

奥で捕まっているラティアスを助けるにはここで全力をだすわけにはいかない。力のセーブを強いられ、ピカチュウはぜいぜいと息があがる。アリアドスの動きを封じることはかなわない。

 

「かげぶんしんよ!」

 

ようしゃない追い打ち。放たれた電撃が倒したアリアドスはゆらりと消えてしまう。重ねられたかげぶんしんに、蓄積する疲労。頬にびりびりとしているはずの静電気は威力が弱まりつつあった。

 

 

 

「なーっはっはっは!いいぞいいぞ!やっとピカチュウが捕まえられる!」

 

「おとなしく捕まるにゃ!」

 

ピカチュウはいやだとばかりににらみつけて、声を上げる。だが四方はピカチュウのジャンプ力では突破できないどくびし。思う壺だとわかっていながら、ピカチュウはせまりくるマシンから逃れるために、どくびしの広がる瓦礫に飛び込んだ。

 

「つかまえ」

 

「ピカチューっ!!」

 

大好きなサトシの声だ。ピカピ!とピカチュウがうれしそうに声を上げる。暗やみの落ちる通路から、聞こえるサトシの叫び声。その音すら置き去りにして飛び込んだ青い塊が、よこからピカチュウをかっさらう。

 

ラティオスの特性は浮遊。浮いているポケモンに、どくびしは通用しない。ラティオスのうえでしっかりと抱き締めたサトシは、大丈夫か?とピカチュウにきく。頬摺りしたピカチュウは、奥で囚われのみとなっているラティアスを指差す。ラティオスの方向転換。振り落とされないようしっかりと捕まったサトシたちの前に、ロケット団のマシンが立ちはだかる。

 

「あらん、妹思いね。ちょーっとだけあなたの妹さん借りてるだけなの。すぐ返すからみててくれないかしら」

 

アリアドス、バトンタッチよ!と命じて、能力を引き継いだエーフィがあらわれる。もちもの袋を下げているエーフィは一目散にピカチュウたちのところに駆けていく。あ、とサトシは声を上げた。なんと自らどくびしに突っ込んでいくではないか。

 

エーフィは毒状態になってしまう。しかし、エーフィの額がひかる。突然、ラティオスが苦しみはじめた。ラティオス!?とサトシとピカチュウが動揺する。

 

「あら、坊や知らないの?エーフィはね、毒を相手に移し替える力があるの」

 

エーフィは木の実を食べて回復してしまう。ラティオスの飛行能力が落ちる。サトシは、ラティオスに一度距離をとってくれと訴えるがラティオスは首を振った。

 

「ラティオスもラティアスも苦しんでるじゃないか!今すぐやめろよ!」

 

サトシは叫ぶ。ピカチュウも叫ぶ。ザンナーはかたをすくめた。

 

「リオン、そうはいってるけどまだなの?」

 

「まだ交渉の席についてくれるこがきてないわ」

 

「だって。悪いけどぼーやたちはお呼びじゃないわ。ごめんね、先は行かせないわよ!」

 

ピカチュウとラティオスが一網打尽にできれば、幹部昇進の道が広がるとムサシたちの気合いも向かい風。マシンから繰り出される重い一撃を掻い潜ってラティアスに行こうとするが、エーフィの分身たちが行く手を阻む。

 

「エーフィ、シャドーボール!」

 

せまりくる攻撃。かわすので精一杯のラティオスは避けられない。ピカチュウは十万ボルトを浴びせるが、弾かれてしまう。サトシはボールをかざした。

 

「ヨルノズク、つつく攻撃だ!」

 

色違いのヨルノズクが激しい羽ばたきでシャドーボールに突っ込んでいき、ばあん、と攻撃を無効化する。ヨルノズクはノーマル、飛行。ゴーストは無効だ。ヨルノズクの奇襲でシャドーボールを放った本体に攻撃が命中する。ふるふる、としたエーフィは攻撃態勢だ。

 

すかさずピカチュウの十万ボルトがヒット。集中攻撃にエーフィは倒れてしまう。やった!ラティオスはすかさず奥に行こうとする。すると、おもむろに突っ込んできた鋼のこぶしが襲い掛かった。ヨルノズクが弾き飛ばされ、あわててサトシはボールに戻す。

 

「おれたちを忘れてもらっちゃ困るなあ」

 

「今度はアタシたちが相手よ!ザンナーはひっこんでなさい!」

 

「これでラティオスとピカチュウはいただきにゃ!」

 

勝手なこといっちゃってまあ、とザンナーは笑う。ラティオスはじわじわとどくどくに蝕まれ、苦しそうだ。サトシとピカチュウは、戦うのは自分たちだからおろしてくれ、待っててくれと説得するがラティオスは頑なに首を振る。ならばロケット団を倒すしかない、とサトシは前を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リオンがスコープと機械にかけ、解析を続けている古代兵器の心臓部からおもむろに立ち上がると、スコープを外した。

 

「いらっしゃい、待ってたわよ」

 

響き渡る声にサトシたちは驚いてふりむく。そこには、ラティオスに待機を命じてつかつかつかと歩み寄るコウキの姿があった。サトシは声を上げる。

 

「ずいぶんと遅いお出ましね。さ、いらっしゃいな」

 

「その間、ロケット団の攻撃をやめさせろよ」

 

「わかったわ。ごめんなさいね、ロケット団のみなさん。ちょーっと大事なお話があるから静かにしてくれるかしら?」

 

ムサシは不満をあげるが、分け前の増量をザンナーが口にすると攻撃が止む。サトシたちはわけのわからないままラティオスからおり、苦しそうなラティオスに、リュックをひっくり返して薬をわたし、解毒させる。コウキの前に現れたアリアドスが、どくびしをわきによけていく。コウキはゆっくりと古代兵器の前にやってきた。

 

「ラティアスは返してあげるから、心の雫をこっちに渡してくれるかしら、坊や」

 

「ラティアスを解放するのがさきだろ?」

 

「やあよ、あなた偽物渡しそうなんだもの」

 

「オレもやだよ。あんた約束破りそうだ」

 

「なら、同時でいいんじゃないかしら?ねえ、リオン」

 

にっこりと笑うザンナーの前で、コウキはリュックを探り、ボールをだした。

 

「中に心の雫が入ってる。じゃあ、いちにのさんで交換だ」

 

ザンナーは確認して、うなずく。リオンはいいわよとうなずく。ザンナーは一定の距離をとり、アリアドスを待機させ、時を待つ。

 

いち

 

にの

 

さん!

 

「うけとれよ!」

 

ありったけの力をこめて投げつけたボールから開かれた心の雫が、アリアドスの蜘蛛の糸で回収されてしまう。ザンナーとリオンは笑う。古代兵器の起動に必要なものはそろってしまった。あ、とサトシはこえをあげた。

 

これでは時間差でタイミングがずれ、ラティアスの解放が遅れてしまう。一瞬だがどちらもわたってしまった。だが、コウキは、笑った。おまえらにいったんじゃない!と叫んだ。

 

「いけ、ラティオス!クイックボールを回収だ!」

 

ボールのポケモンを捕獲する距離は広い。だれも興味をもたなかったボールは、曲線を描いてラティアスにあたり、つかまえてしまう。ぐったりとしているラティアスは、ラティアスにあわせてあった鳥かごごしにボールに入ってしまう。

 

コウキのゴーサインよりまえからスタンバイしていたラティオスが、ボールを回収して、勢い良く旋回。駆け出したコウキを乗せて距離をとる。

 

「あきらめろよ、リオン。アンタのまけだ!古代兵器はラティオスかラティアス、心の雫が揃わないと起動しないんだ!」

 

「ふふ、やるわね。やられたわ」

 

「どうするの?リオン」

 

「大丈夫よ、姉さん。いま心の雫と兵器の欠けらがあるの。一旦引けば……」

 

「むりだよ、あきらめな!」

 

コウキがさえぎる。

 

「また煙幕で、ここに通じる別の水路から外に脱出しようとしてんだろうけど、無駄だよ!すっかり遅くなったけど、アンタらがくるのに使ったガーデンからの通路以外は使い物にならないんだ」

 

「なんですって?!」

 

「知らないの?アルトマーレは毎年水位があがってきてるから、ここにあった水は全部吐き出されるわけじゃない!確かめたよ。どこの道も途中で完全に浸水してた。ロケット団と違って、自らの足で侵入したアンタたちじゃ、ここからでるのはむりだ。水タイプのポケモンいないんじゃ、暗やみの中で迷うのがおちだろ?」

 

観念しろ!と叫んだオレに、あらあら、とザンナーは肩をすくめた。どうするの?リオン、と顔を上げたザンナーは、あら?とつぶやいた。

 

「ふ、ふふ、うそよ」

 

「うそなもんか!アンタらが使ってる水路の地図はない。でも、オレたちにはラティアスやラティオスが夢うつしで見せてくれた記憶があるんだ!もう逃げられないぞ?ガーデンには警察もいるんだ」

 

「うそよ!絶対嘘!せっかくここまできたのになんで邪魔するのよ、信じられないわ!」

 

リオンが叫ぶ。いくら叫ばれても事実だ。まさか毎年アルトマーレを苦しめてる水位の上昇に助けられるとは思わなかったけど、長年にわたる環境の変化には古代兵器も勝てなかったって事だ。古代兵器を起動させれば話は別だけど、ラティアスを助けたから無理。まさに袋のネズミ。

 

後ろで、ロケット団の引き際を相談する声が聞こえる。後ろから、兄貴の回復を終えたサトシたちがやってきた。オレは兄貴にラティアスのボールを渡す。ボールの中のほうが安全だし、このままのほうがいい。

 

リオンが発狂したように、笑いはじめた。ザンナーは、まゆをよせ、近寄りはじめる。

 

「ただでおわらせるもんですか!みんな、沈んじゃえばいいのよ!」

 

「「なっ?!」」

 

リオンが乱暴に機械をおした。まさか水のギミックがこのエリアにもあんのかよ!やめろとオレたちはあわててむかう。だが、がががががっという衝撃がオレたちを襲った。リオンは機械に入力しつづけてやがる!

 

どん、とおとがして、リオンが崩れ落ちた。あれ?

 

「いい加減になさいよ、リオン。約束したの忘れたの、あなた。度がすぎたら殴ってでもやめさせるって言ったでしょう?あーもう、ネイルがはがれちゃったじゃない」

 

はあ、とザンナーがため息を吐く。ザンナーが止めたのか?

 

「あなたったら、いつもそうなんだから。ブラッキーにしたかったからって癇癪起こして、暴走して。止めるアタシの身にもなりなさいよね」

 

そして、ザンナーは振り返る。

 

「くやしいけど、坊やたちにはやられたわ。アタシたちの負けよ、降参。アタシたちは盗賊なの、スマートにいかなきゃ、ね。泥だらけになって逃げるのは性に合わないわ」

 

ザンナーはリオンを抱えて降りる。そしてオレに心の雫を返した。

 

「あの子に付き合ってたけど、潮時みたい。楽しかったわ」

 

「警察に自首する?」

 

「ええ」

 

「あの機械は?」

 

「あんまり教えてはくれないけど、きっとギミックを戻しちゃったんだわ。逃げないと海の藻屑よ」

 

げ!なに平然とやべえこといってんだよ、ザンナー!あわてるオレたちに、後ろから声がした。

 

「こら!なにぼやぼやしてんのよ、ジャリボーイたち!さっさとのんなさい!」

 

「こんなところで死なれちゃピカチュウがゲットできないだろ!」

 

はやくくるにゃ!とニャースが叫んでいる。オレはサトシと顔を見合わせて、笑った。ザンナーが兄貴に近寄る。威嚇するラティオスに、ザンナーは頭を下げた。先にいかなきゃ。すると兄貴がボールを預けてくる。オレはサトシに急かされて急いだ。

 

どどどどどと遠くで音がする。

 

「あなたの妹を傷つけてごめんなさいね。謝っても、意味はないかもしれないわ。でも、これはけじめよ。あなたもいそいでにげなさい」

 

ラティオスは、目を細めた。

 

「ザンナーとリオンとラティオスがのってこないぞ、サトシ!」

 

「えっ!?」

 

「ちょっと!なんで一緒にこないのよ!」

 

「もう時間がないにゃ!」

 

じわじわと広がっていく水。

 

「ラティオス!ザンナー、リオン!」

 

ありったけのこえをあげた。でも霞んでいく姿は動かない。はやくしなさい、とムサシに無理やり中に引き入れられる。うそだろ、そんなのありかよ!ばん!とオレは窓をたたいた。サトシもピカチュウも叫ぶが届かない。

 

確かに謝りもしないザンナーやリオンはいらだちはしたけど、ずるいだろ!なんで兄貴まで!

 

オレたちは、一気に水にのまれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラティアスがボールから飛び出すと、世界がにじいろにかがやく。

 

「あ!」

 

ザンナーとリオンを乗せたラティオスが、波のうねりもかき消す勢いで追い掛けてくる姿がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとか帰還した俺たちを無理矢理追い出したロケット団は、さっさと退散してしまった。ラティアスはポケモンセンターに直行したけど、命に別状はないらしい。俺たちを待ち構えていたのは、ジュンサーさんの勝手に危ない真似をした罰と称したげんこつと説教。

 

ついでに女性陣からのきっついビンタだった。でもラティ兄妹が救えたから、もうなんでもいいやと流してたら、反省しているのかとこっぴどく怒られた。でも無事を喜んでくれたし、お礼もいわれたし、感無量だ。

 

「自殺う?やーねえ、ボウヤ。ケジメはそういう意味じゃないわ。アタシたちは盗賊よ?ちゃーんと引き際は心得てるつもりよ」

 

ま、この子にはぜーんぶお見通しみたいだったけどねえ、と兄貴をみてほほえんだ警察に連行されていくザンナーはウインクした。リオンはこの世の終わりみたいな顔をしてたけど、姉にけしかけられて、二人あわせてラティ兄妹とカノン、ボンゴレさん、そして俺たちに頭を下げて謝った。

 

じんときたオレは間違ってねえよな?やーだ、なんで坊やがないてるのよ、とザンナーに笑われちまったけど。うるせえ!あの場所に残った意味を聞いた俺とサトシは、ようやく二人が心の雫もどきの水晶体をもったままだったことに気付いた。

 

忘れてた!そしたらこれのためよ、と沈みきっているリオンから渡されたのは、ぼろぼろに砕けきったガラスの破片。驚く俺たちにザンナーは笑い、リオンは泣いている。そもそもリオンがあそこまで執着したのは、古代兵器を実際にこの目でみて確かめて研究したかったからだそうだ。

 

だから、このままではまた似たような事態を引き起こすと踏んだザンナーが最後まで残ったのは、リオンを叩き起こして、自らの手で破壊するよう荒療治を施すためだったらしい。復元方法もわかっているリオンだからこそ、二度とできない方法を知っているからとのことだ。

 

なるほど。早く逃げなければ命の危険が迫る中、くらいの逼迫した状況下でなければ、リオンの悪癖の治療にはならない、だそうで。本物かどうか信用はできないので、ガラスの破片は研究所に回されている。

 

二人を乗せたパトカーを見送った俺は、全部おわったんだと実感して、今まで張り詰めていた緊張感が全部全部吹き飛んでしまった。我慢できなくなって兄貴にだきついた。よっしゃあああ!よかった、よかったあああ!兄貴が生きてる!まじで生きてる!涙が止まらなくなって、オレはそのまま号泣してしまった。

 

いきなりの俺の行動に仰天するみんなにサトシが説明してくれた。茫然としつつ、ぎこちなくほおずりされて、オレはもうたまらなくなってさらに抱き締めた。結局俺たちは一晩完徹してしまい、その日は疲れて死んだように寝てしまったのはいうまでもない。

 

次の日、俺たちは警察に説明するためジュンサーさんに呼ばれて、丸一日つぶれた。シークレットガーデンの秘密の関係で、この事件を公にするわけにもいかず、表彰することはできないけどとかわりにリボンをつけてもらった。すげえ!今まで集めてきた中で一番のレアさだ!モンスターボールにつけたリボンがまた一つ加わった。

 

さらに次の日の朝のことだ。ようやく起きたホテルのガラスを叩くやつがいて、驚いて窓を開けると兄貴がいた。はやくこい、といわれてあわてて身仕度をすませ、モンスターボールを腰に付けようとしたオレは、そのまま兄貴に拉致られてしまったのだった。まあいっか、もう危険はないわけだし。

 

つれてこられたのは、シークレットガーデン。あらいらっしゃい、とカノンが出迎えてくれた。ラティアスは今日の午後には退院できるそうで、いろいろ説明してくれた。シークレットガーデンの復旧作業が続いている。

 

今回の騒ぎで判明した水のギミックは、リオンとザンナー立ち会いの実況見分で判明次第、二度と発動することがないように破壊するとのこと。再び水に沈んだ古代兵器が日の目を見ることは二度とないと思いたいな。

 

「ねえ、サトシくんたちを午後にでも呼んできてくれないかしら?みんなで写真とりたいの」

 

「おう!もちろん!」

 

すると後ろからはやくこい、と急かされるように押されたオレは、カノンのあきれ顔に見送られてガーデンの先に進む。なんだよー、兄貴、どうしたよと聞いてもなにも教えてくれない。ただ進んだ先には、芝生のじゅうたんの広がる区画、風にゆれる木とブランコがあった。

 

倒壊免れたんだこれとつぶやくと、ラティオスが木漏れ日のしたにいく。ゆっくりと進んだ。

 

ブランコに座って兄貴をみると、リュックが邪魔だとさされておろすと、うしろにまわって押してくる。あー、サトシとラティアスみてずっとやりたかったのかと聞いたら、うなずかれた。あっさりうなずかれた。

 

照れながらうれしそうにたちのりしてくる。何この破壊力っ!うわあああ、でれた!兄貴がでれたっ!かわいすぎるよ、兄貴!オレは思わずだきついた。そうだ!オレはブランコから飛び降りるとリュックを探る。

 

「噴水、水晶体なくなったから、おくやつないだろ?これ、飾ったらよくね?」

 

ガラス細工の民芸品をならべてどっちがいいかとラティオスに押しつける。ひとつは水上レースのやつ、もうひとつはキャンペーンでもらった景品だ。もらったはいいけど、あっちの世界に帰ったら帰ったで置き場所困るんだよな。プレイヤーの目の届かないエリアなんて限られてるし。

 

いいのかと戸惑いがちに見上げてくるから、うなずいた。そしたら、心の雫を老夫妻にラティ兄妹が渡す場面が立体的に球体の中央にほりこまれたそれを受け取ってくれた。目を細めたラティオスが、おもいっきりだきついてきて、オレは後ろに引っ繰り返る。

 

なんとか起き上がると、よしよしとせなかをなでた。あーあ、笑って別れるつもりだったってのに。こみあげてくるものがあって、肩を震わせる。オレだってさみしいよ、別れるのやだよ、でもな、仕方ないんだ。こればっかりはどうしようもねえさ。

 

オレは、ラティオスに額をくっつける。あはは、兄貴も泣いてんのかよ、おい。

 

「元気でな、ラティオス」

 

こくりとラティオスはうなずく。

 

「ラティアスやボンゴレさん、カノンたちと仲良くやれよ?」

 

こくりとうなずく。

 

「最後だしさ、ラティオスだけにははなしとこうかな。なんでオレがおまえらを探してたのかっていう、本当の理由」

 

オレは、話すことにした。アルトマーレを救うために自らを犠牲にした、水の都の守り神の話を。映画のラティオスの分だけ、兄貴には生きててほしいから。

 

まあ信じるかどうかはラティオス次第だけど。

 

「だからさ、一つ約束してくれねえかな?ぜったいに、なにがあってもさ、大切なやつを泣かせるような真似だけはしないでくれ」

 

つぶやいたオレに、力強くラティオスがうなずく。これなら大丈夫だよな!

 

「二度と会うことはな、いてててっ?!ごめん、ごめん、ラティオス。さっきのなしな、えっと、また会おうな」

 

うれしそうにラティオスはないた。

 

そしてラティアスを迎えにいったら、ここでサトシとラティアスのキスイベントが発生して、兄貴が無言でピカチュウを威圧し、気付かないサトシとラティオスに挟まれてピカチュウが悲鳴を上げたのは別の話。

 

全員集合の写真を撮った俺たちは、翌日波止場にいた。行きと同じ船に乗り込み、ボンゴレさん、カノン、ラティオスとラティアスたちに見送られて、見えなくなるまで手を振った。そしてサトシたちに別れを告げたオレが一足先に船乗り場に一歩踏み出すと、いつものミオシティの船乗り場にたっていた。

 

いつものプレイヤーの存在を感じる感覚が戻ってくる。オレはこっそりポケットを見て笑った。そこには、忘れようのない思い出が記録されている。

 

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