就職することが出来る仕事は提督だけでした。   作:狛犬太郎

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ドロ刑終わらそうと書いてたら1万字超えてた……。

作者の狛犬太郎です。今回はご報告がありまして、こちらの「就職することが出来る仕事は提督だけでした。」ですが有難いことにお気に入り登録500に到達致しました。

沢山の方々に読んで頂けたようで私も嬉しい限りです。

これからも相良提督と艦娘達の賑やかな日常にどうぞお付き合い下さいませ。

作者の方も皆さんに読んで頂けるよう頑張ります。

八景島シーパラダイスで買った艦これサントラCD聴いてると海に行きたくなる……。『長波、駆ける』とかめっちゃカッコイイ……。




就活戦争25日目

「……本当にこんな作戦でみんなを脱走させられるの!?」

 

「と言ってもこれぐらいしか案は無いでしょ。私とみんなを信じなって。」

 

私と川内さんがいるのは薄暗く、狭い場所……響と電が持っていたドラム缶の中だ。

 

ドラム缶の底をくり抜き、小さな覗き穴を幾つか空けたもの……これで防衛ラインを越えようと言う作戦だ。

 

確かにこの鎮守府には至る所にドラム缶が置いてある。

気をつけなければ分からないかもしれない。しかしそれでも不自然さは残るものだ。

 

「しっかも、これ結構重いし……。」

 

「正直、私もダンボールの方が良かったなー。まぁ提督にダンボールの思い入れがあそこまであるとは思わなかったね。流石にあそこまで言われちゃ譲るよ。」

 

司令官の方はと言うと私達とは反対側から潜入している。私達とは違い、ドラム缶ではなくダンボールで。

 

ドラム缶だって不自然なのにダンボールは流石に気がつくでしょ。

 

『川内、満潮ストップや。もうすぐ金剛と榛名がそこを通るで。』

 

静かにドラム缶を地面に置き、息を殺す。

 

「お姉様!不知火さんが那珂ちゃんを確保したとの事です!」

 

「ぬいぬいもやりますネー!榛名、私達もそろそろticket持ちかテートクを捕まえますヨー!Follow Me!」

 

「はい!お姉様!!」

 

「ふー、行ったか……。」

 

「龍驤さん、この周辺の警察は?」

 

『……その先んとこの倉庫横に霞と曙が居るな。ぐーっと迂回して霞達の反対側から進め。』

 

「了解。」

 

私達の視界はドラム缶に空いた穴のみ。それだけでは確実に誰かに見られてしまう。そこで空母の2人には潜入隊の目の役割をして貰っている。

 

艦載機を飛ばし、物陰から警察達の動きを探り、それを無線で教えて貰っているのだ。

飛龍さんは司令官、私達は龍驤さん。そして響、電の2人は私達の目となる空母達の護衛に付いている。

 

龍驤さんの指示の下、止まる、移動、止まる、移動を繰り返し、ジリジリと防衛ラインを越えていく。

 

この雰囲気、緊張感、戦闘前の偵察に似ている……。

 

確かにこれはゲームだ。だが、やり方によっては戦場の空気を味わう事も出来る。これは一種の訓練にもなる。もしかしてアイツはそれを……!?

 

「満潮!ほら見て!牢屋だ!防衛ラインを越えたよ!」

 

「よしっ!!後はアイツに合わせるだけ……え?」

 

 

「あの時の私は前々から明石さんにお願いしてようやく手に入った期間限定のクッキーを食べることが最重要だったもので……って、頭の中で何かが……?」

 

 

「あはは、赤城先輩らしいですね……もしかしてそのクッキー食べてる時に『お願い券』を見つけてたりして!!」

 

 

「……うーん、どうだったのでしょうか……?今となっては知る由もないですねぇ、誰かが助けて下さったら後で見に行ってみましょうか。」

 

 

 

「その時はご一緒しますよ!私は赤城先輩の護衛艦ですからね!」

 

 

 

「あら、頼もしいわ。じゃあその時はよろしくね。」

 

 

「はいっ!!」

 

 

なんか……牢屋内、和気あいあいとし過ぎじゃない?

 

伊勢さんと翔鶴さんも楽しそうに談笑、大人しく座ってた潮、大潮も先程確保された那珂ちゃんに「笑顔が少ないよー!!スマイルスマイル〜!!」と引っ付かれていた。

 

……はぁ〜、なんか訓練だーとか意気込んでたけど急に恥ずかしくなってきたわ。そりゃそうよね、ドロ刑で訓練になるなら常日頃の訓練はどうなるのかって話よ。

 

……まぁでも、作戦話してる時真面目な顔してたし……普段から少しでもいいからあれぐらい真面目にやってくれれば……アイツ根は良い奴だし、結構カッコイ………

 

「満潮、聞いてる?」

 

「ひゃい!?な、ななな何かしら!?」

 

川内に呼びかけられてるのに気がついていなかった満潮は思わずガタガタとドラム缶を揺らしてしまう。

 

「しーっ!!静かに!!こんな時にどうしたのさ!?」

 

「あ!ごめんなさい!」

 

いやいやいや!!!私は何を考えてるのよ!?

 

あ、アイツの事なんか全然!!

 

「とりあえずほら、深呼吸して一旦落ち着いて。」

 

そう!今は落ち着いて次の行動を……ゆっくり吸って…

ゆっくり吐く…また吸って…また吐いて…。

 

「ごめんなさい川内さん、落ち着いたわ。」

 

「なら良かった。龍驤さん、こっちは定位置に着いたよ。いつでも行ける。」

 

『あいよ〜、ちょっと待っときや〜。飛龍、提督は〜……了解。もうちょいで向こうも着くとさ。向こうが着いたら頃合いを見て合図するで。そしたらアイツらに一丁かましたれ!泥棒の意地見せたれや!』

 

数十秒後、提督が配置に着いたという連絡が入った。

 

後は合図を待つだけ……。これは訓練じゃない、お遊びだ。だがお遊びだからと言って手を抜くようなことは私らしく無いわね。

 

「やってやろうじゃない……。」

 

「お、気合い入ってんね〜満潮!それなら私も負けてらんないな〜!」

突入まで後20秒……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ゆっくり、ゆっくりと確実に前進して行く。

 

逆側は川内と満潮に任せている。潜入プロの川内が付いてるんだ、恐らく大丈夫だろう。

 

まぁバレたらその時はその時だ。そこから作戦を開始するしかない。

 

すると俺のサポートをしている飛龍から無線が入る。

 

『提督ストップ!後ろに間宮さんと古鷹さん!』

 

慌てて物陰に向かいダンボールで身を隠す。

 

間宮さんと古鷹なら巻くことは可能だろう。しかし今回は誰にもバレずに警戒されない事が第1なのだ。

 

じっと警戒していたが間宮と古鷹はこちらに向かってくること無く、角を曲がって行った。

「ふぅ、逃げるのも大変だけどバレないようにって言うのは尚更疲れるな……。」

 

『OK提督、近くには誰も居ないから真っ直ぐ進んで。』

 

全然関係無いけどあれだよな、OK〇〇〇〇って言われると某インターネットが頭浮かぶよな。

 

はい、どんな御用でしょう?って言えばいい?

 

冗談はさておき、ダンボールを引きずらないよう注意しながらゆっくりと前進を再開する。

 

しばらく前進すると不知火の後ろ姿を遠くに確認した。

 

そろそろ防衛ラインに近づいてきたと言う事か、辺りを飛龍に確認してもらうとチラホラ警察組がいらっしゃるらしい。

 

ともかく正面に立っている不知火を退かさないと進めない。

 

退かせなくとも注意を逸らしたい……。

 

辺りに何か無いかと見渡すと……

 

ん?これは……開発に失敗というか妖精さん達が作りだした謎ぬいぐるみ……。

 

机の上、誰かが持ってきたのだろうか?雲みたいなのとペンギンみたいなぬいぐるみ、そして……カワウソ?なんじゃありゃ?でもどっかで見たことある気がするんだよな……?ボクカワウソ!

 

女の子はよく分からないけど可愛いものに反応するって言うしな。コイツらに関しては可愛いというか奇妙なって言う方が合ってる気がするけど……。

 

これを投げて不知火の注意を引きたいけどあの不知火だぞ?物音で注意を引くかもしれないけどコイツらは興味を持たれずに終わるかもしれないな。

 

まぁ物は試しだ。駄目ならまた別の手段を考えよう。物音を立てないように近づき、三体のぬいぐるみを引っつかむ。

 

「ともかく1発試してみるか……なっと!」

 

物陰からぬいぐるみをぶん投げる。隣の建物は体育倉庫だ。投げたぬいぐるみは外に出ていたスコアボードに当たり、ぶつかった衝撃でパタパタと音を立てるスコアボード。

 

音に気がついた不知火はゆっくりと体育倉庫へと近づいて行く。

 

お?ぬいぐるみに気がついたな。さて、不知火はどんな反応するか……。

 

不知火は1度足を止め、ぬいぐるみを一瞥すると何事も無かった様にすぐ横の脇道に入っていった。

 

……まぁ、予想通りと言えば予想通りか。物音がしたから近くに泥棒が居るかもってただ警戒させちまったかな?

 

そうなると不知火の趣味とか気になるよな、何が趣味なんだろ?イメージ通りの趣味ってなると……駄目だ、想像するのが戦術指南書を読んでる不知火の姿しか浮かばない。

 

不知火の趣味はともかく、アイツが居ないうちに………うおっ!?

 

慌てて身を隠す。通りに再び不知火が現れたからだ。

 

危ねぇ、不知火の奴戻ってくるの早えーよ……ん?なんだアイツ、またぬいぐるみの所に……。

 

というかなんか不知火の奴、妙にソワソワしてると言うかなんというか……今も辺りをキョロキョロと気にしている。

 

辺りを確認し終えたのか不知火はこちらも驚くような素早い動きでぬいぐるみを拾うと体育倉庫の中へと消えていった……。

 

え?まさか、そうなの?

 

コソコソと体育倉庫横まで移動し、中の様子を伺う。

 

するとそこには………っ!!

 

「ふふっ……不知火に見つかったのが運の尽き、あなた達は不知火の部屋に飾ってあげます…ふふ……ふふふっ!」

見つかったとか言うから少しドキッとしたが、重要なのはそこじゃない。あの不知火が、無表情で有名な不知火が、笑顔で、ぬいぐるみ達に頬擦りしてるんだ。

 

何故だ、何故こういう時こそ青葉が居ない!!

 

1番美味しい絵だろ!!

 

「……貴方はペンペン、貴方はふわりん、貴方は……この子、何処かで見たような……?ボクカワウソ!」

 

おいおいおい、やべぇよやべぇ、不知火さんぬいぐるみにめっちゃ可愛らしいというかファンシーな名前付けてるよ……いやいや、別になんの問題も無いのよ?人の趣味嗜好にケチつけるような奴は馬に蹴られて何たらって、そこじゃない。

 

不知火の普段は謎に包まれていたからな、しかも普段からクールで真面目って言うイメージがあったし、凄いギャップだった。

 

知ってしまえば意外だったという驚きとホッと安心感。

 

戦闘報告の時も表情が読みづらいというか淀姉さんとはまた違う怖さがあったからストレス発散とか大丈夫かなー?俺なんか作戦やらかしたかなー?なんて思ってたからなぁ……でも少し安心した。怖いと思ってた不知火もこんな風に年相応の一面を持っていたのだ。

 

そう思えば微笑ましい様な嬉しいような、少しだけ不知火の事が分かったような気がしたんだ……そう、この時までは。

 

「ふふ……ふふふ………誰だッ!!!」

 

ぐいんッ!!と振り向く不知火の頭。

 

………………殺されると思った、本気で。

 

「今確かに視線を感じた……まだそう遠くには行っていないはず。誰だか分かりませんが不知火の秘密を知ったからには……徹底的に追い詰めてやるわ。」

 

怖ッ!!怖すぎる!!やっぱまだ不知火の事分かってなかったわすんません!!目がね、あの眼光がね、めっちゃ怖いねん!!……だが幸いにも俺が近くに居ることをまだ不知火は気づいていない。

 

こっちに来る前にさっさと移動して……ブオン

 

ん?この起動音、まさか……。

 

恐る恐る後ろを振り返ると今来た道を走りながら戻るホログラムの姿があった。どうやら移動しようとした時に椅子の角にぶつかってホログラムが起動してしまった様だ。

 

起動したのがクロークなら問題無かった、透明になるだけだから。だがしかし、このホログラムはより本物だと錯覚させる為にも足音がするように設計されていると明希姉が言っていた。

 

今、目撃者を血眼で探している不知火に近くで物音、足音がすればどうなるか、「足音っ!!」ホログラムの足音にすぐ気がつく。

 

そしてそのホログラムの姿は誰か?そりゃもちろん、この俺だ。何も知らない不知火がその姿を目撃すれば自分の姿を見たのは俺だと思うだろうよ。

 

走り去るホログラムに向かって不知火はポツリと呟く。

 

「……見てしまったのね司令、不知火の秘密を。こうなってしまったからには……。司令には申し訳ないですが、手段を選んでられません。」

 

おいおいおい、死んだわ俺。

 

今不知火に見つかったら絶対処されるのが目に見える。

 

今度、今日の事聞かれても全部何も見てないの一点張りで行こうそうしよう。

 

こうして俺は体育倉庫をぐるっと迂回して防衛ラインを突破して行った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『ザッ…あ!良かった繋がった!どうしたのよ提督、急に無線切って……。』

 

「あーすまん、近くに警察……というか不知火が居てバレるとまずいから無線切ってた。」

 

『ザッ…なら良かった。でもそれならごめんなさい、私の索敵が甘かったせいね……。』

 

「不知火は倉庫内にいたみたいだからそれはしょうがないさ。」

 

まぁ、それにより俺は不知火から命を狙われるようになったがな。

 

「それで、この先に警察は?」

 

『ザッ…その通りには居ないよ。あ、でも今みたいに建物内とかに居るかもしれないから気をつけてね!それと川内と満潮もそろそろ定位置に着くらしいから提督も急いで。』

 

「了解。」

 

今度はその通りに誰か居ることは無かった。通りを抜けるとグラウンドの端に到着、反対側を見ればドラム缶が2つ、あれが川内と満潮か。

 

「飛龍、定位置に到着した。」

 

『ザッ…はいはーい、にしてもここが牢屋ってのも厳しくない?こんな開けたグラウンドの真ん中って。』

 

「文句言ったってしょうがないだろこうなってるんだから。とりあえず飛龍、辺りを調べて来てくれ。タイミングが良ければそのまま作戦開始だ。」

 

『ザッ…了解!ちょっと待ってね〜、あー黒潮と陸奥さん、後は隼鷹が牢屋近くを警戒してるみたいだね〜。』

 

3人、それなら行けるか……?いや、やるしかない!

 

「飛龍、川内達に通達。残り時間が30分になったら作戦を開始する。」

 

『ザッ…了解!』

 

今からおよそ1分後作戦開始、恐らくここで脱走させられなければこのまま泥棒は壊滅だろう。

 

だから俺はこの作戦を成功させてみせる!!待ってろ間宮膝枕ぁぁぁーーー!!!

 

 

 

 

 

「……あら?今何か聞こえたような?」

 

「どーしたの間宮さん?誰か見つけた?」

 

「あぁいえ、なんでもないのよ深雪ちゃん。早く私も1人捕まえなきゃって!」

 

「あはは!それならこの深雪様の出番だね!!間宮さんのフォローなら任せて!!」

 

「あら頼もしいわ!じゃあ、深雪ちゃんよろしくね。」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

……残り時間30分定刻となった。作戦開始の時間だ。

 

「よし、飛龍、龍驤やれ。」

 

『ザッ…よっしゃ任せとき!艦載機のみんな、お仕事お仕事〜!!』

 

『ザッ…みんな、頼んだよ。』

 

『ザッ…ファイトなのです!』

 

任せとけ必ずみんなを脱走させてやる。

 

『ザッ…川内、満潮、提督を任せたわよ!全機発艦!』

 

グラウンド手前に待機していた龍驤達の艦載機が一斉にグラウンドへ突入。

 

「敵艦載機発見や!!」

 

「落ち着いて、これは陽動よ!隼鷹、貴女は艦載機を!黒潮、貴女は私と辺りを警戒!!」

 

味方の艦載機が現れた事で牢屋内は盛り上がる。

 

「あれは、飛龍さんと龍驤さんの艦載機!?という事は……皆さん!!提督さん達が助けに来ましたよ!!」

 

「きゃは!那珂ちゃんもテンション上がってきたよ〜!」

 

ドラム缶の中で待機していた川内、満潮もアクションを起こす。

 

「さぁ満潮!私達の出番だ!!先に暴れてくるよ!!」

 

「気をつけてね!!」

 

「満潮も!!」

 

ほぼ同時にドラム缶から飛び出す2人。

 

「来たわよ!黒潮、絶対に通しちゃダメよ!!」

 

「陸奥はん任せとき!!牢屋には1人も近寄らせんで!!」

 

「ちょいちょいちょい!!盛り上がってるとこ悪いけど飛龍と龍驤2人相手にするのは流石に骨が折れるってもんよ!!早いとこ片付けて貰っていいかい!?」

 

「そう簡単に私達は捕まらないよ、そんな事より、私達にばっか構ってていいの?」

 

「アイツはもう近くまで来てるわよ。」

 

陸奥と黒潮はその言葉に身構える。

 

注意して!黒潮にそう声をかけようとしたその瞬間、茂みの端から提督が走り込んでくるのを陸奥は見逃さなかった。

 

「くっ!間に合わない……っ!!」

 

脱走を許してしまう、そう思った時……

 

「そうはさせないわよ!!」

 

「大人しく捕まりなさいこのクソ提督!!」

 

騒ぎを聞き付け近くにいた霞と曙が提督の進路を塞いだ。

 

「ナーイス!!二人ともグッドタイミングや!!」

 

「くっ!こんな時に増援なんて!」

 

まさかの増援で顔をしかめる満潮。

 

「これで5対3……残念だったわね、頼みの綱の提督もこれで逮捕。さぁ川内、満潮、貴女達も観念なさい。」

 

絶体絶命、その筈なのに川内の顔から笑みは消えない。まさかまだ策を!?

 

「あはは!陸奥さん、霞と曙が捕まえようとしてるのは本当に提督かな!?満潮、煙幕!!」

 

「了解!!」

 

満潮が牢屋に向かって投げつけた玉からモウモウと煙が立ち込め、牢屋周辺を真っ白の世界と変える。

 

牢屋内は突然の煙に咳き込んだり「那珂ちゃんアイドルだからそういうのNGだって〜!!」と賑やかだ。

 

「このクズっ!!神妙にお縄につきなさ……って!?透けた!?」

 

「陸奥さんやられた!!これクソ提督の罠だわ!!」

 

満潮が牢屋前に焚いた煙幕……まさか!?もう提督は!!

 

クロークで透明化してるのか提督の声だけが聞こえた。

 

「ふははは!!!残念だったな警察諸君!!君らが追いかけ回してたのはホログラムだぜ!!さぁ、みんな逃げろ逃げろーーー!!!」

 

牢屋からワーワーと一斉に逃げ出す泥棒達。

 

川内が置き土産にもう1つ煙幕を散布した事でグラウンドは火災現場ばりの煙が立ち込めていた。

「よーし、これで全員逃げたな……そんじゃ俺もおさらばさせてもらおうかガシッ……な?」

 

もー川内ったら〜もう泥棒は全員逃げたってのによ〜。

 

「川内、もう全員逃がしたぞそれは俺……。」

 

あれ?今俺さ、透明化してる最中だよね?しかも煙の中、いくら川内でもわかる筈……。

 

「はぁい、こうちゃ〜ん。とっても素敵なチケットだね。返して欲しい?」

 

振り返るとごつい機材を被った奴がいた。恐らくサーマルゴーグルだ。しかし声でわかる、アイツだ。寧ろ透明状態の俺を簡単に見つけることが出来るのはこのスーツを作った奴しかしない。

 

「あ、あぁ勿論。」

 

勿論返して欲しい。それがあれば俺は間宮の膝枕で昼寝ができるんだ……。

 

「良い子ね。友達も沢山このチケットを狙ってるんでしょう?賭けてもいい。」

 

「49人だよ。でも参加してる姉さんが1番タチが悪い。」

 

マジで主催者張り倒したい。

 

「お姉さんは何処にいるんです?」

 

「分かんないよ。いつも研究室に引っ込んで自分の事ばっかりやってる。開発の依頼してるのにさ。」

 

「そんなことないですよ。きっとその開発に関わることなんですよ。」

 

んなわけねーだろ。プラズマレールガンやら波動砲やらとんでもスーツ作ってる奴がまともな思考してるわけねーだろ。

 

「そっかとりあえずもう行かなきゃ。」

 

「待てや!!」

なんだよ急に大声出すなよ。

 

「行っちゃう?これ置いて行っちゃうの?」

 

それは……っ!?

 

「俺の名前と印鑑入り休暇申請届!?しかも五連休!?」

 

Oh,my boat!とか言ったやつ誰や。

 

「Exactly!!さぁこうちゃんこれが欲しいんでしょ?……受け取りなよ。」

 

ご、五連休……だがしかし……絶対裏がある……ない訳が無い。

 

「何を悩む事があるの?五連休よ、五連休。普通なら淀がOKしてくれないよ?」

 

「………本当に五連休貰えるんだろうな?」

 

「えぇ勿論、大本営からの実印付きですよ?さぁ、どうぞお受け取り下さい。」

 

五連休の言葉に思わず手が伸びる。

 

「そうよ、こうちゃん。休めるのよ、こうちゃん……休むんだ……。」

 

こうして俺は悪魔(明石)の囁きに耳を貸してしまい、休暇申請届を掴んでしまった。

 

「五連休が!!終わったら!!12連勤ですよ!!」

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!!」

 

・相良航希 逮捕

 

・牢屋内に居た泥棒は全員脱走

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

こうちゃんを牢屋に連行し終えた私は通りをプラプラ歩いていた。

 

大本営からの書類も渡したし、お願い券もゲット。ノルマクリアだドン!

 

「はー、こうちゃん確保でお願い券は私の物。何お願いしようかなー?研究費用up?それとも今後の面白い事に使うのも……ひゃん!?」

 

東側の暗殺者か!?

 

突然、体中が痺れて動かなくなった。もんどり打つようにして倒れ込む私を見下ろす影が……。

 

「……やってくれたわね川内ちゃん、とっくに逃げたものだと思ってたのに。」

 

ペイント銃を片手に川内ちゃんは不敵な笑みを浮かべる。実を言うとこのペイント弾には痺れ薬が混ぜてあった。まさか自分で食らう事になるとは思っていなかったが。

 

「いやー悪いね明石さん、私、漁夫の利は得意でさー!それと提督とも約束しててねー!『泥棒を全員逃がしたら恐らく俺は明石に捕まる。そこでだ、お前にこのペイント銃を渡す。後は分かるな?明石からお願い券を奪え。明希姉さんに渡すぐらいならお前の夜戦1週間の方がマシだ』ってさ!」

 

「……マークされてたってわけですか、まぁそりゃそうですよね。」

 

「あ、恨まないでよー?これも勝負だからさ!!じゃ、お願い券は頂いていくよー!!やっせん〜やっせん〜!!」

颯爽と走り去っていく川内。楽しそうだなぁ〜今度戦闘出てみようかな〜。

 

それはともかく、

 

「お願い券の分は連休の時にきっちり楽しませてもらおうかしらね……。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「………不幸だわ。」

 

「あぁ、不幸だな……。」

 

牢屋代わりのゴールに仲良く並んで体育座りしてるのは俺と山城。

 

ゲームの方は今現在も継続中、残り時間が20分ぐらいか。もう疲れたしゆっくりしたいところだが……

 

「まさか私が捕まったタイミングでみんな脱走だなんて……。」

 

コイツがいる。

 

「タイミングが悪かったとしか言えねぇなぁ……。と言うより、俺としては何故ドロ刑しただけでお前が大破するか理由が分からないんだが……。」

 

「……提督は暴走車両に撥ねられた事ある?」

 

いや、あったらこんな所でピンピンしてない。

 

「無いでしょ?私は今日撥ねられた、長門さんという暴走車両に。」

 

……あぁ、理解したすまん。

 

まだ駆逐艦追っかけ回してんのかアイツ……。

 

「だから覚えておいて、日常なにが起きるか分からないのよ。」

 

「……了解です。」

 

流石今日撥ねられただけあって言葉の重みが違う。

 

「まぁ、あれだ。もう捕まってるしあと20分ゆっくりしようぜ。あれだったら寝ててもいいぞ?時間になったら起こしてやるから。」

 

「……私が寝てる間に変な事したり」

 

「しねーよとっとと寝ろ。」

 

はーやっと静かになっ「あ、司令官!お疲れ様です!実はなんですけど〜」……。

 

「青葉、俺は今とてつもなく嫌な予感を感じてる。それ以上何も言わずに回れ右して帰れ。」

 

「いや〜、そう言われましても……皆さんやる気満々でして〜。」

 

「……『皆さんやる気満々』?確かに始まった時はやる気満々だったけどまだみんなやる気満々ってのはどういうことだ?」

 

「あ、すいません端折り過ぎましたね。えー重巡青葉、司令官に報告致します。出撃していた艦隊が帰投しました。それでですね、大井さん、北上さん、叢雲さんが飛び入り参加。大本営に行っていた大淀さんも帰投したので参加するとの事です!」

 

………ま、まぁ落ち着けつ、落ち着つけ。俺はもう既に捕まってる追われる理由も無い。あと20分ここで過ごせばいい。

 

「………そ、そうか、いいんじゃないか?こういう息抜きも大事だろうし!はは、あははは!」

 

「でここからが本題なのですが、さっき明石さんから連絡があってですね、あ、録音しておいたの流しますね。ガチャ『あ、青葉?今ね出撃組と淀が帰ってきて参加するって言うからこうちゃん復活させよう!あ、お願い券また渡しておいてね!あ、参加するのは大井、北上、叢雲と淀ね。残り時間20分だし、みんな警察でいいや!うん、うん、了解〜じゃあよろしくね〜!』って事なんで……じゃあこれお願い券です!」

 

バシッと背中に貼り付けられるお願い券。

 

「い、嫌だ!!もう良いだろ!!十分やったじゃん!!」

 

一遍アイツらに追われてみれば分かる!!鬼ごっこがどれだけ怖いか理解出来るぞ!!

 

「あはは……私としても撮れ高は十分なので大丈夫なのですが……彼女達のボルテージが最高潮でして……。」

 

「勘弁してくれ!俺はもう部屋に帰る!」

 

「司令官それ死亡フラ」「見つけたわよ!!」

 

……今、聞こえないはずの声が聞こえたよ。

 

この場に叢雲がいるはずないじゃないかHAHAHA。

 

「こうちゃーん、見て見ぬふりするのは構わないけどそのチケットは置いてってもらおうかなー。」

 

「………北上さん、北上さんは右から、私は左から行きます。」

 

「おっけー大井っち、いつも通りにね〜。」

 

「アンタが大人しく私にチケットを渡してくれれば事が済むのよ。だからさっさと渡しなさい。」

 

やっぱ幻聴じゃなかったよ……北上、大井、叢雲集結しました。オラまだ死にたくない……。そして………

 

「こうちゃ〜ん、勿論、私にチケットを頂けますよね……?」

 

この心臓を鷲掴みにするような声、俺の知る限り一人しかいない。

 

冥王召喚?ジャッジメント?

 

全てを奪われた提督が一言、犬はお帰りください。もしくは超になって出直してきな。

 

ってそんな事どうでもいい、我が鎮守府のハーデス、淀姉さんまでもが集結してしまった。

 

「……青葉、そういやお前、新しい一眼レフカメラ欲しいって言ってたよな?買ってやるから……いや、差し上げますから。」

 

「司令官すいません。私も今は自分の命が可愛いです。」

 

「頼む助けてくれ!お前の司令官の命が掛かってるんだ!」

 

「駄目です、7時半から空手の稽古があるんですよ!」

 

「今日は休め!」

 

頼み込むも「司令官、頑張って下さ〜い!」と逃げられた。

 

「山城、起きろ起きてくれ!!俺の命が危ないんだ。」

 

「……私を起こさないで、死ぬほど疲れてる。」

 

それ俺のセリフぅぅぅーーー!!!

 

こうして俺と艦娘の第2次ドロ刑大会が幕を開けたのであった!!

 

ただ一言言うのであれば、「明石許さんからなァァァーーー!!!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

16:00 執務室…

 

バサバサと言う音で夕立は目を覚ました。

 

「……あれ?夕立、寝ちゃってた…っぽい?フワァ~」

 

6月にしては爽やかな天気、窓の外から吹き込んでくる風が心地よい。ふと時計を見れば……

 

「16時!?こーちゃんヤバいっぽいまだ全然仕事終わってないっぽい〜!!ってえぇーーーっ!?」

 

飛び起きて辺りを見渡せば風に吹き飛ばされたのか書類が散乱していた。

 

踏んだり蹴ったりとはこの事か。

 

「って、こーちゃんまだ帰ってなかったっぽい?」

 

こーちゃんが工廠に行って2時間以上経っているがまだ戻っていないようだ。工廠で何かあったのだろう。

 

「ならチャンスっぽい!!こーちゃんがいなかったから仕事は進まなかった!それで行けるっぽい!!とりあえずこの書類を集めなきゃ〜!!」

 

わたわたと書類を集め始めた夕立。そんな床に散らばった紙の中で一際目立つ金色の紙を夕立は見つけた。

 

「ん?何かしらこの紙?」

 

こんな書類あったっけ?と拾い上げてみるとそれには

 

「『提督に1つお願い出来る券』……?」

 

記憶を辿るが、眠る前までこんなのは無かった筈だ。となれば、誰か置いていったのか、もしくは風に飛ばされたのか……?って!とりあえず書類集めな

 

「あー疲れ……ってなんじゃこりゃーー!?」

 

そんな事考えていたらこーちゃんが帰ってきてしまいましたっぽい。

 

「あわわ……こーちゃん違うっぽい!!夕立が散らかしたんじゃなくてこれは風で飛ばされたみたいで!!」

 

「とりあえずいいから窓閉めろ窓!!」

 

……舞鶴第2鎮守府の慌ただしく騒がしい日常はまだまだ続くようです。

 

「めでたしめでたし……っと。」

 

「おい!明石!!見てんなら手伝え!!ドロ刑でお前に嵌められた事忘れてねーからな!!」




布団の中で〜夢を見ていた〜冴えない夢だった〜

変わりまくった毎日と〜重なって〜ふと思う〜

友よ〜この頃〜元気で〜暮ら〜してるかい?
どこか〜心は〜傷んでないか〜い?

知らな〜いうちに提督にさせられていたなんて〜

あの頃は想像しないかった〜じゃれあって過ごした日々〜友よ〜また〜会おう〜そ〜し〜て〜また笑おう〜くだらない話を〜しようよ〜

「アイツ、結構疲れてきてる感じ?」

「そりゃそうよ叢雲ちゃん、だってこうちゃん今日10連勤目だし。」

「後で佐世保に着任したアイツの友達に連絡して貰おうかしら?」

「いいと思いますよ。あ、その友達の鎮守府に演習の申し込みしたらどうです?演習で行くか呼ぶかすればその友達にも会えるでしょう?」

「あ、いいわねそれ。後でやっとくわ。」


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