就職することが出来る仕事は提督だけでした。   作:狛犬太郎

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4ヶ月?5ヶ月?ぶりの投稿でございます。

狛犬太郎と申します。

頭の中にストーリーが中々出来上がらなかったので
大分間が空きましたがひとまず、書き上がりましたので
投稿させていただきます。

次回も不定期になりますが、どうぞよろしくお願い致します。


就活戦争32日目

3番手、北上&大井……始

 

時雨に話を聞いてもらい少しスッキリした。

 

あれからお互い無言で空を見上げて過ごし、時間になったので合流地点まで戻ってきた。

 

「お、きたきた。こうちゃん遅いよ〜。」

 

「北上さんを待たせるってのは何事ですか!」

 

「すまんすまん、時雨と空見てぼーっとしてたら時間ギリギリになっててさ…。」

 

「……は?」

 

「え、何それうらや……ゲフンゲフン、まぁいいよ大井っち、あたし達もその時間が回ってきたわけだしさ。」

 

「……そうですね、じゃあ提督、行きますよ。」

 

「おう、じゃあ時雨、夕立と風奏ちゃんを頼んだぞ。」

 

その件の2人は現在、すぐそこにある金魚掬いの屋台に夢中だ。

 

「うん、任してよ。……それと提督、もし、また何かあったら僕に話してよ。話、聞くからさ。」

 

「……ありがとな。」

 

なんやかんやでこの時雨と回った時間が名残惜しい気もしなくないと思っていた俺だが背筋に冷たいものを感じるのだった。

 

「こうちゃ〜〜ん???」「提督さ〜〜ん???」

 

嫌な予感を感じながら振り返ればすぐ後ろに大井・北上コンビが黒いオーラを放ちながら立っていた。

 

「ぬぉ!?びっくりした、脅かすなよ……。」

 

「提督、女の子を待たせるのは良くないよ。ほら、行った行った。夕立〜風奏ちゃ〜ん、二人とも調子はどう?……って、夕立!?取りすぎ!!取りすぎだって!!」

 

……風奏ちゃんはともかく、夕立の動向が心配になってきた。

 

ともかく、これ以上2人を待たせる訳にも行かない。あの二人は時雨に任せよう。

 

「すまん、本当に待たせたな。」

 

「……えぇ!本当に待たされました!」

 

「そうだね〜大分待たされたね〜。こうちゃん、これはこうちゃんの身体で支払ってもらうしかないようだ…。」

 

「き、きききき北上さん!?!?」

 

なんか一人勘違いしてる奴がいるぞ。誤解といて北上さん。

 

「……北上。」

 

「はいはい分かってますよー。でも待たせた分、残り時間はあたし達を楽しませてよねー。」

 

「か、身体で……提督の身体で……。」

 

全っ然分かってねーじゃん!!はいはい、じゃねーよ!!

 

「大井の誤解を解けっての!!分かりましたよ!!身体ってのは俺がエスコートしろってことだろ!?射的でもわたあめでも好きな所連れていきますよ!!」

 

「……へ?」

 

「おー、こうちゃん太っ腹ー。」

 

この2人と回るのは疲れそうだ……。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さて、エスコートする、と言い切ったは良いがはてさて何をしたらいいもんか……。

 

件の2人は近くの縁日の屋台でよくあるパンチボックス(番号を選んでその中身の景品が貰えるやつ)やらに夢中だ。

 

実際、この2人は俺抜きでも楽しめる筈だしな。

 

あれ?俺、いらない子?

 

なーんて思ってると不思議そうな顔をして2人が戻ってきた。どうせ当たった景品がしょぼいとか……またお前かボクカワウソ。

 

「こうちゃん、これなんのキャラか知ってる?」

 

「俺もなんなのか詳しくは知らないんだが、ボクカワウソとか言う奴らしい……。」

 

「謎だわ……。」

 

ここまでよく見かけると何かの縁を感じざるを得ない。なんなんだよボクカワウソって。

 

いや待て、コイツ魚雷を持ってるぞ……大本営、なんかこのキャラに1枚噛んでる感じですかね?

 

「物は試しだしさ、こうちゃんもこのくじみたいなやつやってみてよ。もしかしたらまた別のボクカワウソ?が出るかもしれないし。私達ももう1回引いてみよっか。」

 

「北上さんがやるなら次は私も引いてみようかしら……にしても何度見ても謎ね……。」

 

「みんなでやるのか……まぁ構わんけど、流石にもうないだろ……。」

 

1回300円なのでついでだからこいつらの分も払ってやった。

 

ーーーーー

 

 

「ほんとなんなんだよボクカワウソって……15種類+シークレットverが3つあるとか聞いてねぇよ……。」

 

俺と大井はそれを見て止めたが、北上は

 

「なんかやってるうちに可愛く見えてきた、ちょっとコンプリート目指すわー。」との事で諭吉を屋台のおっちゃんに渡して箱をパカパカ開けていた。

 

流石ハイパー北上様、謎感性だわ…。

 

てか何これ?ボクカワウソ専用のボックスなの?

 

主砲とか魚雷は分かるんだけどさ、俺が当てちまったシークレットverの1つであるボクカワウソ改(一航戦)とかもうカオス過ぎる訳分からねぇ。

 

「とりあえずどうするか……あの状態になった北上を動かすのは難しそうだし……かと言ってあんまり遠くまで行く訳にもいかんしな。」

 

近くの壁に寄りかかって隣で同じように壁に寄りかかる大井に話しかける。

 

「そうですね……あ、あそこにある綿飴でも食べません?」

 

「お、いいな。そうしよう。」

 

とりあえず北上に一声かけての近くの綿飴屋台へと向かう。

 

「さっきの所で出してもらったので今度は私が出しますよ。」

 

「別にそんぐらい気にしなくてもいいって。」

 

俺の財布を押し退けて、自らの財布を取り出す大井……財布を………

 

巾着をポンポンゴソゴソ、そしてパタパタと自分の至る所を叩く大井っち。

 

「お、おい、まさか……。」

 

ぽかんとした表情から一変、じわじわと目に涙を溜める大井っちがそこにいた。

 

「お、お財布……落としちゃった……。」

 

あー、やっちまいましたかぁ……。

 

「よし、ひとまず落ち着こうか。心当たりは?」

 

しかし大井は首を振るばかり。

 

「とりあえず、来た道を戻ろう。北上がいる店に落ちてるかもしれん。」

 

泣きじゃくる大井を連れて地面に目を向けながら来た道を引き返す。

 

道を戻ればさっきの店の少し先に祭りの本部があるからそこに届いているかもしれない。

 

少し歩いて店に戻ればそこには北上の姿が無い。

 

「まじかぁー、入れ違いになったか?」

 

スマホを取り出し北上に連絡、しかし出ない。この賑やかな人混みに着信音がかき消されてしまったのかもしれない。

 

向こうもこちらがいない事に気がつくだろうし、待っていれば折り返して連絡が来るはずだ。

 

仕方が無いので、もう少し先にある祭り本部まで移動。

 

結果として、財布は届いていなかった。

本部の人がアナウンスで呼びかけてくれるとの事でこの場で待機することになった。

 

「にしても珍しいな、お前が財布を落とすなんて。」

 

泣き腫らした目でキッとこちらを睨む大井。

 

「……あなた、デリカシー無いってよく言われません?」

 

「すまんすまん。いやな、いつもしっかり者のお前も偶にはミスをするんだなって。」

 

大井はちらりとこちらを見ると大きな溜息を吐いた。

 

「はぁ、高校の頃の私を知っててそれを言うんですか?」

「んー、魚雷の命中率が低かったって言うのはミスに入るものなのかね。」

 

「ミスですよ!ほんっとあなたはデリカシーの欠けらも無い人ですね!!だから大淀さんにいつも折檻されるんですよ!!」

 

「その勢いだ。」

 

「え?」

 

「勢いの無い大井っちなんて大井っちらしくないからねー。……って、今の北上に似てない!?」

 

「……ぷっ、全然似てないですよ!北上さんを汚さないでください!!」

 

うがーー!とぽかぽか殴られた。

 

その手がピタリと止まる。

 

「……どうしてそこまで私にしてくれるんですか?私、性格もきついし、めんどくさい女だと思うんですけど……。」

 

潤んだ目でこちらを見つめる大井。

「なんで、だろうな?」

 

「ちゃんと答えてください。」

 

これは何かしら答えを出さないと解放してくれないパターンだな。

 

「……大井が放っておけないから、かな。」

 

「……本当にそれだけですか?」

 

「……どうしてそう思う?」

 

「……女の子からそれを言わせます?……いや、これはめんどくさい女ですね、ごめんなさい。」

 

2人の間に沈黙が流れる。

 

その沈黙を破ったのは大井からだった。

 

「私はですね、北上さんが大好きです。可愛らしい顔、憎めない行動、全てが大好きです。」

「あぁ、そうだな。」

 

「そして、私にはもう1人大切な人がいます。」

 

「……へぇ、あの鎮守府にか。」

 

「そうですね。」

 

「……。」

 

「出会った時はなんて面倒な人だろうと思っていました。やたらと突っかかって来るし、指示も不可解。でも、私を、私と正面から向き合ってくれた。」

 

「私と同じようにめんどくさくて、サボり癖がある、デリカシーも無くて何度もムカつきました!でも……いざと言う時は頼りになって優しい人で……。」

 

 

「私はそんな人の事もあいし…」prrrr!!!

 

幸か不幸か鳴り出したのは俺の電話だ。

 

「……電話ですね。」

 

「いや、でも……」

 

吃る俺に大井は誤魔化すように笑った。

 

「出ないと電話が切れちゃいますよ!!さっさと出る!!」

 

大井から急かされるようにして電話に出る、相手は北上だった。

 

「…北上、いや、なんでもない。今どこにいる?」

 

『そういうこうちゃん達こそ、あたしを置いてどこ行ったのさー。』

 

「ちゃんと向かいの綿飴屋に行くって伝えたんだけどな……まぁ連絡がついて良かったわ、今祭りの本部に来てるからそこまで来てくれ。」

 

『祭りの本部……あー、あれか。おーい、こうちゃーん、大井っちー。」

 

「なんだ近くに……お前そのボクカワウソの量は頭おかしいわ……。」

 

見れば大量のボクカワウソのキーホルダーを巾着に付けた北上が現れた。

 

「いやー、最初の店でコンプリート出来なくてねー、おっちゃんに聞いてほかの店ハシゴしてたんだわ〜。おかげでほら、こうちゃんに貰ったシークレット含めて3種類揃ったし。」

 

デデン!と掲げた3種類のボクカワウソ達。

 

正直、もういい。

 

「右からボクカワウソ瑞雲祭りVer、秋刀魚漁Ver、」

 

「北上、いい。もういいんだ……。」

 

「なんだよぅ、実はこのシリーズ、第2弾もあって…」

 

「だーーーっ!!もういいわ!!それより今大井が財布無くして困ってんの!!俺は探してくるからお前は大井と一緒にここで」

 

「大井っちの財布?……あぁ、ならあたしが持ってるよ?」

 

今まで俯いていた大井が顔を上げる。

 

「……え?北上さんが……?」

 

「だってほら、こうちゃんと一緒に回る前に大井っち射的するから持っててーって……もしかして、忘れてた?」

 

「……良かったぁぁぁ〜〜〜!!」

 

え?結局、大井のおっちょこちょいって事?

 

「……まぁ何はともあれ見つかって良かったわ。お前気をつけろよな〜。まだまだ大井もおっちょこちょいだな。」

 

「……ムカッと来ました。今度、酸素魚雷の刑に処します。」

 

「理不尽過ぎるッ!!!」

 

まぁ、何はともあれ財布が見つかって良かったわ。

 

ホッとしたのもつかの間、元気な声が俺の耳に飛び込んできた。

 

「あー!!こーちゃんっぽい!!そろそろ私達の時間ーー!!って何してるっぽい?迷子?」

 

「…夕立ちゃん、ちょっと、待って…!」

 

「夕立!!ステイ!!ストップーー!!」

 

夕立と風奏ちゃん、そしてそれを止めるべく時雨が向こうからダッシュしてくる。

 

風奏ちゃんが今にも転びそうで怖い。慌ててテントの外に出る。

 

「夕立〜!危ないから走るな〜!風奏ちゃんが転んじまうぞ!」

 

全く騒がしい奴だ……。次はこいつらと回るのか、持ってくれよ俺の身体……ッ!!

 

 

 

 

「……ねぇ、大井っち。」

 

「なんですか?北上さん?」

 

「こうちゃんに告るなら、私も一緒にさせてねー。」

 

「うぐっ!……すいません、気持ちが先走っちゃって……。」

 

「まー、しちゃったらしちゃったで私もするから良いけどねー。」

 

『『これからも3人で過ごせたら良いなぁ……。』』

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

神社の奥を更に進み、道を進む。

 

木々に囲まれた道を抜ければ私の思い出の場所だ。

 

私の生まれ故郷。そして、彼と初めて出会ったあの場所。そう、こうちゃんと初めて会ってから12年経つのだ。

 

夏休み三日目、1人神社の奥から伸びる道を進んでいたらたまたま今回の目的地である公園を見つけた。

 

そして夏休みに源蔵さんの宿に泊まりに来て、ジャングルジムから海を眺めているこうちゃんと出会ったのだ。そしてその日から毎日のようにその公園に集まり一緒に遊んだ。

 

懐かしいこの道最後の階段を上り、思い出の場所へと足を踏み入れる。

 

「……変わってないわね、ここも。」

 

所々塗装が剥がれたジャングルジム、誰かが下から登ったであろう足跡の付いた滑り台、崩された山だけが残る砂場、風で揺れるブランコ、ここだけ時間が止まっていたかのようにも感じる。

 

あれから何年もの月日が経っているのにまるで昨日の事のようにも思えてくる。

 

……まるでおばあちゃんね。って、私はまだ20代じゃない。

 

クスッと心の中で笑う。

 

私は数々の遊具の中で、ジャングルジムに向かって歩みを進める。

 

ここの時間は止まっているように感じた。しかし私の時間はしっかり進んでいる。あの頃は大きく見えたジャングルジムも今となっては私の背より頭2つほどしか大きくない。

 

今となってはジャングルジムの頂上に登らずともいつか見た海が見える。隣町の港にに煌めく明かりともうすぐ沈む夕日に輝く水平線が美しかった。

 

たった数日海を見ていなかっただけで久しぶりに見るような気がした。

 

そこは私と彼のお気に入りの場所。彼とそこで色々な事を語り合った。学校での事、くだらない事、自分の事、そして、将来の事……。

 

様々な思い出が詰まったこの場所。

 

彼との約束の時刻はもう少し先。

 

私は沈んでいく夕日を眺める事にした。

でも夕日は霞んで見えない。

 

私は私が泣いているという事に今、気がついた。

 

「昔を思い出してる?」

 

突然耳元で声がしたのでビックリしたが振り返ると瑞雲に乗った妖精さんが居た。いつもこうちゃんの傍に居る妖精さんだ。

 

そして、こうちゃんが初めて出会った妖精さんであり、私に『艦娘』の『大淀』としての適性を与えた妖精さんでもある。

 

「そう、みたいですね。ここに来たら色々込み上げてきたみたいで……。」

 

「無理もないよ。ここは君達にとって思い出の場所でもあり、忌まわしい記憶の場所でもある。」

 

丁度今頃ではなかっただろうか 。もうすぐ夏休みが終わろうかと言う12年前の夏、この辺り一帯は深海棲艦の襲撃に遭っているのだ。

 

狙いは向こうに見える隣の港町、深海棲艦の攻撃は日没、黄昏時に行われた。

 

こうちゃんが何故この記憶を鮮明に覚えていないか、それはこうちゃんが深海棲艦の攻撃で命に関わる怪我を被った事から始まる。

 

私は彼を誘い、いつもの様に2人で公園に集まり遊んだ。そろそろ帰ろうかと言う時、この公園から突如として町の至る所から爆音と共に火の手が上がっていくのを目撃した。

 

最初は花火かなと思っていたが、爆発と火の手は一瞬で街全体を覆い尽くす。

 

子供ながらにとんでもない事が起こっているとその状況を理解した。

 

深海棲艦の攻撃は隣町だけに収まらなかった。

 

異形の者達から放たれたカラスのような、はたまた白い玉、黒い玉が空を覆い尽くし、こちらへと向かってくる。

 

その場が危険なのは頭では理解出来た。しかし体が全く動かない。迫り来る爆発、動かない身体、そんな時私の腕を引いたのがこうちゃんだった。

 

こうちゃんは我が身を盾にして私を庇ったのだ。

 

私が次に見た光景は大量の血を流して地面に横たわるこうちゃんの姿だった。

 

そんな彼が息絶えだえで言った言葉、それは

 

「淀姉ちゃん、ごめんね……約束、守れそうにないや……。」

 

その言葉に私は生まれて初めて『死』という言葉を実感した。

 

誰も助けは来ない。このままではこうちゃんが本当に死んでしまう。

 

そんな時現れたのがこの妖精さんだ。

 

そしてこうちゃんは妖精さんの力によって一命を取り留めた。

 

涙を流して妖精さんに感謝を伝えた。ありがとう、こうちゃんを助けてくれてありがとう。と

 

しかし、妖精さんから告げられた言葉に衝撃を受けた。

 

妖精さんはこうちゃんを助けるのにあるエネルギーを彼の身体に与える事で命を救った。そのエネルギーは異形の者達、深海棲艦達にとって喉から手が出るほど手に入れたい代物であるという事。

 

エネルギーの力でこうちゃんの身体は保たれているが、深海棲艦がこうちゃんの身体にそのエネルギーがある事を知ればそれを狙っていずれ深海棲艦から狙われる事となる事。

 

そのエネルギーが奪われればどうなるか、エネルギーの力によって保持されていたこうちゃんの命は今度こそ確実な死となる。

 

何とかこうちゃんを守る術はないのかと妖精さんに詰め寄ったところ、深海棲艦に対抗出来るのは『艦娘』しかいない。

 

こうちゃんの笑顔が好き、おっちょこちょいな所も好き、その優しさが好き、挙げていけば尽きることの無い想いの数々。

 

そして、彼を救う選択肢は1つ、こうして私は『艦娘』となる事を決めた。

 

彼を守るため、そして何よりも彼が好きだから。

 

「でもそれは、こうちゃんを提督へと縛り付ける理由となってしまった……。」

 

妖精さんは何も言わない。黙って私の言葉に耳を傾けてくれた。

 

「私を庇わなければこうちゃんが命の危機に晒されることなく普通に暮らせていた!それでも私は彼を愛してしまった!本当なら提督なんてやらないで普通に一般人としての人生を歩んで行くはずだった!でも……」

 

「……離れたくないんだよね。」

 

「我儘だって分かっています……でも私はこうちゃんが好きなんです、この気持ちに嘘はつけないんです。」

 

妖精さんは目を閉じフーっと息を吐いた。

 

「それは素直になった今、本人に直接言ってあげた方がいいかもね。それじゃ、邪魔者は撤退するよ。」

 

そう言って妖精さんが姿を消した先にこうちゃんがいた。

 

あの時と同じ、私が好きな笑顔で。

 

「……今は夕立ちゃん達と一緒にお祭りを回っている時間ではありませんでしたっけ?」

 

「その予定だったんだけどね、神社の奥に道を見た途端、行かなきゃいけない気がしてさ、夕立と風奏ちゃんにはこの後焼きそばとチョコバナナ、イカ焼き、ヨーヨー釣りに射的をやって、花火大会を見て宿に戻ったら一緒に寝るって契約で順番を後にしてもらったよ。」

 

「あらあら、モテる男は辛いですね。このペースだとお祭り終わってしまいますよ?」

 

「茶化さないでくれよ、淀姉さん。」

 

しばし沈黙が辺りに立ち込める。

 

そしてその沈黙を破ったのはこうちゃんだった。

 

「…さて、俺はどこから話せばいい?」

 

「どこからとは……いえ、こんな事言うのは野暮ですね。では、1から行きましょうか?いつでもどうぞ。」

 

まぁまぁ焦るなと言いたげにこうちゃんは首を竦める。

 

「淀姉さん、俺達が話し合うなら取っておきの特等席に移動しようじゃないか。」

「こうちゃん……もしかして……」

 

「おっと、それより先は特等席に座ってから話そう。」

 

こうちゃんはジャングルジムに登ると手を差し伸べた。

 

あの時、約束をしたの時の様に 。

 

私は下駄を脱ぐと彼の手を掴みジャングルジムの頂上まで登る。着物だと少し登りづらかったがこうちゃんが手で支えてくれた。

 

「懐かしいな……ここで淀姉さんに会ってからもう12年、になるのかな……。」

 

頂上に腰掛けて開口一番こうちゃんがポツリと呟いた。

 

「そうですね、長かったような短かったような……。」

 

その言葉を聞いただけで涙がこみ上げてくる。しかしぐっと堪えて続きを促す。

 

「12年前のあの日、俺は淀姉さんに電話でこの公園に呼び出されて、いつもの様に遊んで、夕方になればこのジャングルジムで夕日を見ながら色々なことを話した。」

 

私は黙ってこうちゃんの話を聴く。その言葉を一言一句聴き逃さぬように。

 

「色々話をしてそろそろ帰ろうかと言う時……ここは深海棲艦の襲撃が行われた。」

 

「……はい。」

 

「俺はあの空襲の時、淀姉さんを庇ってその後病院で目覚めて、その日の記憶が曖昧だった事に気がついた。」

 

こうちゃんは懐かしむように悲しげに話を続ける。

 

「いつもの様に淀姉さんと遊んでいたのだろうということは想像していたのだけど、具体的な内容を思い出そうとするとモヤが掛かったようにその時の記憶が思い出せなくなっていた。」

 

「……えぇ。」

 

私の心が締め付けられる。

 

あの時に体が動いていれば、という懺悔が頭をよぎった。

 

苦い顔をしている私の肩にこうちゃんは優しく手を置く。

 

「……でも、偶に夢を見るんだ。」

 

「……え?」

 

顔を上げ、こうちゃんの顔を見ると彼はニッと笑顔をつくる。

 

「その夢では、場所は公園、夕日が綺麗な場所なんだ。顔はモヤが掛かって分からなかったけど、いつも最後に約束をするんだ。」

「……こうちゃん。」

 

お互い一呼吸置くと、こうちゃんは話し始めた。

 

私は耳に全神経を集中する為目を閉じた。

 

「淀姉さん、あの時の約束の言葉は_______ 」ドンッ!!!

 

言葉を遮るように爆音が辺りに響く。

 

私は閉じた目が開けられない、いや、開けたくない。

 

その音は普段から聞き覚えのある音。全身に警戒信号が走る。

 

目を開けた時それが花火であればどれだけ良かっただろうと思った。

 

しかし現実は違った。

 

「淀姉さん、淀姉さん!!」

 

彼の声に呼び戻されるように目を開ける。

 

そこには、

 

『忌まわしい過去の記憶の光景が目の前で再び起こっていた。』

 

数々の異形が沖に姿を現した。私は怒りを覚えたが私の今すべき事を思い出す。私は『艦娘』、『大淀』だ。どんな時でも焦りはしない。

 

「こうちゃん、今すぐに大本営に連絡して横須賀近辺鎮守府から応援を呼んでください。貴方はそのまま車で大本営に向かって下さい。」

 

「何言ってるんだ!俺も一緒に行くに決まってんだろ!淀姉さん、車まで行こう!俺は大本営に連絡するから淀姉さんは祭り会場にいるみんなに連絡して車まで来るよう」

 

「ごめんなさいこうちゃん、私はやらなくては行けないことがあるの……。」

 

「やる事は連絡……まさか、淀姉さん!?」

 

私は軽巡『大淀』とリンクする。

 

浴衣は制服に変わり、身体に艤装を展開、どこも異常はない。

 

「私はここから出ます。早く駆けつけないと間に合わなくなってしまいますからね。」

 

「正気か!?単艦であの数の深海棲艦とやり合えばどうなるか分かるだろ!!1度みんなで集まって」

 

「こうちゃん、今この間にも深海棲艦の攻撃は行われています。私は軽巡『大淀』、深海棲艦と戦う為、襲われている人を救う為、大切な人を守る為に居るの。」

 

「淀姉さん、待ってくれ!俺はまだ、あの時の約束を……」

 

「大丈夫よこうちゃん、私は沈まないわ。必ず戻ってくる。……でもその前に『淀川恵』として我儘を許して。」

 

「あぁ、なんでも言って___」

 

唇に温かく柔らかい感触、全ての時間が止まったかのように思えた。このままずっとこの時間が続けばいいとさえ思えた。

 

けど私は行かなきゃ、町を守る為にも、そして彼を守る為にも……。

 

「じゃあこうちゃん、みんなの事、頼んだわよ。約束の答えは私が帰ってきたら聞くわ。」

「……待って!待ってくれ!!淀姉さぁぁぁん!!!……ズルいなぁ、自分だけ我儘言って行くなんて……俺も行くか。」

 

私は沈まない、約束の答えを聞くまでは、沈めない。

 




大事な話には邪魔が入るもの。

ハイパー北上様の部分は申し訳ないと思う私でした。

次回もどうぞよしなに。
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