就職することが出来る仕事は提督だけでした。   作:狛犬太郎

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1万字近くなってしまった……。

しかも艦これの話ししてたかって言うと違う話しばっかしてましたわすんません。

軽い飯テロなんかもあるのでご注意を。

みんな 履歴書に書く特技なんて無いって言うでしょ?
そんなこと無いから!!優しさとか聞き上手とかあるでしょ!!

優しさ無いって?

それは貴方が悪魔とかでない限り大丈夫……なはず。


就活戦争3日目

3月31日、気温も暖かくなり、学生であれば春休み明け前日、新社会人ならば明日は遂に初出勤と期待に胸を膨らませるものも居れば「めんどくせー」と大きくため息を吐く者もいる。

 

新たな生活、いつもと変わらない生活が始まろうとする期待と不安、気だるさ入り交じるそんな日…俺はそんな3月31日が好きだった……今まではな。

 

窓の外には春休み最終日とあって遊びに繰り出す学生。

 

リクルートスーツからビジネススーツへと進化し、記念に家族達と軒先で写真を撮る新社会人。

 

就活に躓いた身としてはそんな奴らが眩しく見えて憂鬱になってきた。

 

そんな俺が今何しているかって言うと……

 

『あ、ちょい航希。重量弾余ってない?』

 

『お!?ゴールドウェポンキター!!あ?弱くね?』

 

ゲームだった。

 

違うよ?別に就職諦めてニートとかになったわけじゃない。

 

状況的にそうにしか見えないとか言うなって。

 

俺もそう感じてんだからさ。

 

ともかく、OPEXというFPSゲームを共にやっているのが海軍大学でつるんでいた連中。

 

1人は俺と同じ提督候補だった神谷翔平(かみやしょうへい)。因みに重量弾は余ってない。俺もスピリットファイター使ってるから寧ろ弾が欲しい。

 

もう1人は海軍士官候補生だった大迫勝也(おおさこかつや)。大迫半端ないって!!そんなんできひんやん普通!!言っといてや出来るんなら…。とはなんの関係もありません。因みにそのゴールドウェポン、ゴールドの中で最弱らしいぞ。

 

なんで俺がゲームしてるかっていうのもコイツらとつるむきっかけってのがゲームだった。

 

俺らの学年で提督候補は俺と神谷だけだったので必然的に会話するようになった。そん時に神谷がモリオカートが得意だったり、タイタンフィールドなどFPS等のゲームをやっていることを知り、さらに意気投合した。

 

大迫は俺が学内に持ち込み禁止だったPS VOTAが見つかり、教官からこってり絞られてた時、コイツも俺同様、Swotchを持ってきてたのがバレたらしく、腕立て、スクワット、OKが出るまでエンドレスランニングの刑になった仲だ。

 

ランニング中に大乱闘スモブラで何使いか語り合ってたら夕飯抜きで倒れるまで走らされたのは今となっては懐かしい思い出だ。もう二度としたくない。

 

そんな神谷は鹿児島県近くにある佐世保第3鎮守府へ

 

大迫は函館の海軍基地への配属が決まった。

 

連絡を取るのも難しくなる のでこうしてマイクを付けてゲームしている。

 

『あーこうしてお前らとゲームすんのも最後になるかもしれないのかぁ…。そう考えるとなんか寂しくなるもんだな。あ、1パーティー見つけたわ。ピン立てるぞ。』

 

『あいよ。…にしても俺は佐世保、というか実質鹿児島で大迫は函館、相良は東京でアパート借りてもう1年就活とまぁ見事にバラけたな。補給物資落したから取りに来い。』

 

「あのさぁ…分かってるけどさ、その言葉グサッとくるな。もうちょいオブラートにお願いできませんかね?今の俺にはなかなかキツイ。お、ラッキー!パープルアーマーGET!」

 

『そう思うならなんで海軍で提督にならなかったんだよ…。提督候補なら100パーなれただろ。俺なんか海軍士官になるための試験とかあったんだぞ。超高倍率じゃないけどさ。索敵したけど検知無し。』

 

『なんならお前の知り合いだった大淀適性のあの先輩に言って提督にしてもらえよ。提督少ないんだからウェルカムだろ。大迫、ドローン出すからライフ回復させとけ。もうすぐ円来るぞ。』

 

「あっさり言ってくれるねぇ…。まぁ俺は提督になる気は無いんだ。絶対民間企業に受かって軍隊生活とはおさらばだ。」

 

とりあえず淀姉さんの話題を振るな、寒気がする。

 

さっきからメールやら着信やらでひっきりなしにスマホが震えてるんだ。ついでに言えばスマホが震える度に俺も震えてる。

 

怖すぎてメールすら見れん。電話に出るなんてもってのほかだ。

 

淀姉さんには実家に帰ったと連絡し、実際は寮の部屋を引き払った後、アパート借りてそこで暮らしている。

 

海軍大学ではアルバイトが禁止されている。国を守る訓練をするのにアルバイトする暇など無い。代わりにあまり多くはないが支給金が出る。

 

支給金をコツコツ貯めといて良かったと今更ながらに思う。

 

その支給金とは別に両親が先日、幾らか資金を下さったのでそれを使って生活している。就職したら倍にして返す。

 

ゲームも終盤に差し掛かり、残りは自身の部隊を含む3部隊が争う展開となった。

 

1部隊が丘の上、もう1部隊が向かいの建物の中、俺らの部隊も二階建ての建物に立てこもり、次の円がどうなるかという状況。

 

そして収縮を続ける円が最後の安全地帯を示した。

 

『よっしゃ!!円に入ったぞ!!俺達、なかなか運が良いぜ!!』

 

『丘の連中も向かいの家の奴らも円外だから収縮と同時に突っ込んでくるだろうな。シールドとライフ削られてるやつ今のうちに回復しとけよ。』

 

「収縮始まるぞ……3、2、1」

 

円の収縮が始まる瞬間、扉付近に手榴弾の警告マークが

表示された。

 

『来たぞ!!ラスト気を抜くな!!』

 

『こっちからもフラグ飛んできてるから窓の傍に寄るなよ!!』

 

ドッと屋内になだれ込んでくる敵部隊…だが俺達はこれを待っていた。

 

「スモーク焚くぞ!」

 

ランチャーから発射されたスモーク弾が拡散し、家中がモウモウと煙で覆われた。今だ!!

 

「大迫やれ!!」

『ほい来たぁ!!ビーストモード起動!!』

 

俺のキャラクター、カンガロールは辺り一帯に煙を発生させるスモークランチャーを装備している。

 

そして大迫のキャラクター、ブラッディハウンドは煙越しからでも敵を認知することが出来る必殺技を持っているのだ。

 

屋内に飛び込んできた敵は煙で俺らと出入口を見失い、右往左往するしか無かった。

 

そこからは大迫の操るビーストモードブラッディハウンドとサーマルスコープを装備した俺達からの一方的な攻撃だった。

 

「1パーティーやったぞ!」

 

『こっちも2人ダウンさせた!つー事は…ラストワンだ!!あ、おい!!外に逃げるぞ!!』

 

スモークの効果が切れ、屋内が不利と悟った敵は一目散に扉に向かって走り出していた。

 

「追うぞ!これで終わりだ!」

 

『いや、その必要は無い。』

 

なんで?と思った矢先、敵が外へ飛び出した瞬間神谷が操るライフレインの必殺技で要請した救援物資に敵が踏み潰された。

 

デカデカと画面に映る優勝の文字。

 

ラストキルはプロゲーマーの動画で見るような神谷のびっくりキルだった。

 

「はーそこまで正確だとおっそろしいな…。流石、先読みの達人。」

 

『ほんとタイミングバッチリで当てるよなぁ…ある意味チートじみてるぜお前。』

 

『褒め言葉として取っておくわ。とりあえず優勝出来たし、締めゲームとしては完璧だな。』

 

神谷は大学で艦娘候補、先輩提督候補らと行った合同演習ではかなり高い勝率を上げていた。

 

その理由はこの先読み能力の高さだった。

 

まるで未来が見えているかの如く、魚雷を撃てば当たり、奇襲を仕掛けた敵を次々に返り討ちにしてきた。

 

「流石これから提督になる奴は違うな。戦局の先を見てるってわけか!こんだけ優秀な提督がいれば日本の海も安心だな。」

 

『よく言うぜ!結局、俺は演習でお前から勝ち越し出来なかったって言うのによ!』

 

「いや、あれはほんとに運が良かっただけで。」

 

『思い出話も良いけどよ、それをするなら飯食う時で良くね?もうそろ6時だし、飯くいに行こうぜ。』

 

もうそんな時間だったか…。集中してると時間が経つのが早い。

 

お、そういやスマホのバイブが鳴りやんでる。淀姉さんもようやく諦めてくれたか…。

 

「ほんじゃ、飯食いに行きますかぁ!俺のバイト先でいいか?」

 

『勿論、俺、あそこの鶏雑炊めっちゃ好きなんだよ。』

 

『神谷、お前いっつも鶏雑炊食ってるよな。』

 

「わーったわーった!ほんじゃいつもの所で待ち合わせな。」

 

『『うぃーっす。』』

 

ゲーム機を終了させ、軽く身支度を済ませる。

 

財布よし、スマホよし、カバンの中で寝てる妖精さんやらポケットの中に入り込んでる奴もいるけどまぁいいわ。

 

それじゃ、待ち合わせ場所まで急ぎますかねぇ…。

 

と言っても

 

「おせーな早くしろよ。」

 

「まじで腹減ったわお前の奢りな。」

 

部屋が違うだけで同じアパートだから家出て目の前集合なんだけどね。あと神谷、奢るわけねーだろ。寧ろこれから稼ぎいいんだからてめぇが奢れ。

 

それはともかくダラダラと歩くこと15分、俺のバイト先でもある駅前の居酒屋に到着した。

 

「お疲れで〜す!親方、連絡してたとおり3名で!」

 

「お、来たな!そっちの二人も久しぶりだな!少しサービスしてやるからじゃんじゃん食べてってくれよ!」

 

「「「ありがとうございま〜す!!」」」

 

この人は高津斉昭(たかつなりあき)さん、この居酒屋『宝船』で働く店長だ。通称親方と呼ばれ、バイト、客からも親しまれている恰幅のいいおじさんだ。

 

席に着き、各々で好きなものを注文していく。

 

俺はここの刺身の盛り合わせと揚げ物は最高だと思っている。

 

神谷は先程の通り鶏雑炊、大迫は串物だ。

 

極論、ここの飯は美味いのだ。

 

親方からビールとお通しの枝豆を受け取る。音頭は神谷が取るようだ。

 

「それじゃ、明日から始まる輝かしい俺らの日々に乾杯!」

 

「乾杯ーーー!!!」

 

「おい待て!!悪意ありすぎるだろそれ!!」

 

あーあ、もういいよ。実際、コイツらは輝かしい人生送れるよ。だっていつでも頭の中ハッピーな連中だしな。

 

まぁ、俺も輝かしい未来が待ってるはずだしな!もしかしたら明日内定が貰える可能性だってある訳だし!うんうん!!

 

そんな事考えてる俺も頭の中ハッピー族だったらしい。

 

ともかく、ジョッキになみなみ注がれたビールを喉に流し込む。

 

「プハーッ!!ビールがキンッキンに冷えてやがるぜぇーーー!!!」

 

やっぱり最初の生は格別だな!

 

次々に運ばれてくる美味い料理を食べ、酒を流し込む…これが至福のときってやつだな…。そう言えば刺身頼んだけど、どんな魚を仕入れたのだろうか。

 

「親方、今日の刺身ってなんですか?」

 

「今日のヤツはうめぇぞ!!刺身の鉄板、マグロと春が旬の桜鯛、そして俺イチオシの初鰹だ!今切ってるからちょっと待っとけ!」

 

おぉ!!それは楽しみだ!!

 

「ほら、お待ち!マグロと桜鯛、初鰹の刺身3種盛りだ!」

 

綺麗に盛り付けられた刺身、色も綺麗でとても新鮮そうだ!

 

「めっちゃ美味そうだな」

 

「俺も頼んどきゃ良かったぜ」

 

すると親方は追加で刺身を差し出してきた。

 

「そう言うと思っていたから一緒に用意しといたぞ!お代はいらんから。まぁ俺からのささやかな就職祝いだ!食え食え!!」

 

「マジすか!?」

 

「うっひょー!!ありがとうございます!!」

 

では早速……

 

マグロの刺身を1切れ……美味いッ!!

 

口の中で広がる新鮮な魚の旨み、プリプリとした食感がこれまた堪らない!

 

次は初鰹だ…これも美味いッ!!さっぱりとした味わいで日本酒が飲みたくなる…!!

 

日本酒を追加で頼み、刺身を食らう。

 

やはり最高の組み合わせだ。

 

そして最後に桜鯛の刺身…美味いッ!!!

 

刺身でも美味いがこれは……

 

「親方、お茶漬け貰えます?この桜鯛の刺身にぴったりだと思うんですよ!」

 

「うぉ!それめっちゃ美味そう!!」

 

「親方!俺にもお茶漬け下さい!!」

 

「神谷お前、鶏雑炊食えなくなるぞ。」

 

そして色々な美味い飯を食べて腹も膨れた俺らは思い出話なんかで盛り上がっていた。

「そう言えばさっきお前ら合同演習で勝ち越したとかどうたら言ってたけどあれ結局なんなの?」

「あぁ、それか。俺と相良で演習する事が何度かあったんだけど、なかなか勝たせてくれないんだわコイツ。」

 

「ほー相良、結構強かったんだ?」

 

「なんて言うか、艦隊の動かし方が上手かった。攻めと引きのタイミングが完璧でめちゃくちゃやりずらかった。」

 

…なんか目の前で自分の評価を話されるとむず痒いな。

 

「そしてやたらと撤退戦が上手い。」

 

「それは何となくわかる気がするわ。相良、OPEXでもそうだったし。」

 

それは俺が常に逃げ腰って言いたいんか神谷。大迫、お前も分かってないわ。

 

「コイツと良く組んでる軽巡と駆逐の連中もなかなか動きが良くてな。なんであんなに上手く出来んの?」

 

「…アイツらとは高等部の時から組んでたからな。そういう事もあんじゃねーの?」

 

まぁ腐れ縁ってやつだよ。一癖も二癖もある連中だから大変だったけどな。

 

「そう言えばお前高校から海軍学校だったか。まぁそれを考えたら結構場数踏んでるし、付き合いの長い連中ならお互い何となく考えてる事が分かるってことか。」

 

「やっぱり大学からの提督候補と高校から提督候補じゃ経験の差があるって事か。」

 

「いや、だからたまたまだって。」

 

「いや、それにしては謎が多いんだよお前、やっぱり思うけど演習中のあの運の良さはなんなんだ…。」

 

「どういう事なんだよ?」

 

「…ようやく追い詰めて、これで決まりって時になると主砲が故障したり、不発弾だったり、確実に直撃コースだったのに艦娘が転んで当たらなかったりと様々よ。こういうラッキーが結構あるんだよ。」

 

「なんだそりゃ?」

 

「1番驚いたのは航路実践演習の時よ。」

 

航路実践演習とは実際の海域攻略を想定したトレーニングで、撤退や攻略戦などのシチュエーションをスタート地点から訓練終了地点まで、燃料や残弾数を考えながら戦闘と移動を繰り返しながら行う訓練のことだ。

 

「相良はな、俺や先輩後輩連中がボスマス以外に到達したり、かなり大回りする針路に進んだりする中、1発でかつ最短でボスマスに到達するんだよ、何度もな。」

 

それに関しては俺自信が1番びっくりしてた。

 

でもまぁ確率の問題だからそん時たまたま上手いこといっただけだと思っている。

 

だからもし俺が提督になってたとしたら戦艦や空母部隊と4連戦ぶち当たってボスマス以外のゴールマスで終わる人生になっていると思う。

 

「まぁ不思議な事かもしれないけど、無いわけじゃないからさ。次やったら俺はおそらくスタートした次のマスでゴールしたり、戦艦空母機動部隊と連戦させられると思ってる。」

 

嘘くせー、信用ねー等など散々なこと言ってくれるけどまじで分かるわけないだろ!!俺が知りたいわそのメカニズム!!

 

「いや、まじで思うけどなんでお前提督にならなかったんだよ?同じ提督候補だった神谷がここまで言うんだから疑問でしかないわ。」

俺はもう軍隊生活には疲れたの!!これからは普通に働いて門限とか外出許可証とかに縛られずに金曜日に同僚と酒飲みに行ったり、有給使って音楽フェスとか行きたいの!!

 

「っと、話し込んでたらこんな時間になってたか!明日朝イチの飛行機で向こうの鎮守府に行かないと行けないんだ。」

 

時刻は11時をちょうど回ったところ。そろそろお開きの時間だ。

 

「提督さんは大変だな。つっても俺も明後日から勤務だから明日の昼には函館行きの飛行機の中か。」

 

実感するとやっぱり寂しくなるもんだな。

 

「…またこうして3人で酒を飲もうや。」

 

「そうだな!」

 

「とりあえずお前は就職先見つけろよな。」

 

最後の最後まで痛いとこついてくる奴らだぜ全く。

 

少し残っていた日本酒を飲み干し、会計を済ませる。

 

「寂しくなるなぁ、常連客が居なくなるほど居酒屋やってて悲しいことは無いぜ。」

 

「親方、九州からまたこっちに来た時には必ず店に寄らせてもらいますよ!」

 

「俺も函館の美味い魚持ってきて親方に捌いてもらおうかな!」

「そいつぁいいや!来てくれたらまたサービスするよ!…そういや神谷君、提督さんになるだってな!そしたらうちの娘が世話になるかもしれんから、そん時はよろしくな!!」

 

世の中狭いもんだな。親方の娘さん、艦娘だったのか。

 

「へぇ〜そうだったんですか…因みに娘さんはどこの鎮守府で?」

 

「重巡摩耶の適性持ちで今は佐世保第3鎮守府で働いてるって言ってたな。」

 

佐世保第3鎮守府って……

 

「……それは驚いた、明日から俺の務める鎮守府ですよ。」

 

「ガッハッハッ!!そいつは奇遇だ!!ちょいと癖のあるやつだが根は良い娘なんだ。神谷君、娘を頼んだぞ!!そしてお前ら就職おめでとう!!また来てくれよな!!」

 

こうして、最後の最後で親方の娘が艦娘という意外な事実が発覚したが、俺達3人は『宝船』を出てアパートに帰るため住宅街を歩いていた。

 

「まさか親方のとこの娘さんが艦娘やっててそれが俺が行く鎮守府で働いてるとは思わなかったぜ。」

 

「案外、世間は狭いもんなんだよな。意外なところで人脈は繋がってるんだよ。」

 

あ、そうだ。食パン切らしてるんだった。明日の朝飯が抜きになっちまう。

 

「すまん、ちょいコンビニ寄らせてくれ。食パンを買いたい。」

 

「俺も喉渇いたしお茶でも買ってくか。」

 

「俺もアイス食うかな」

 

3人で途中にあるロー〇ンへ寄り道、店内は客は居らず女性店員さんがタバコの補充をしているだけだった。

 

各々買いたい物の売り場へ散っていく。俺は食パンを買う予定なのでパンのコーナーで食パンを1斤手に取る。

 

そして少し店内を物色、店に来るとさ目的のもの以外にも目移りしてなんか色々買いたくならない?俺はある。

 

結局、追加で妖精さん達と食べようと3連プリンを手に取り会計へと足を向ける。

 

ふとコーヒーメーカーとすぐ隣のイートインスペースで先に買い物を終わらせた2人に目が行った。

 

大迫、なんでそんなに震えてんの?

 

神谷、お前震え過ぎてカップからコーヒーめっちゃ零れてるぞ、熱くないのかそれ……。

 

てかなんなんだよお前ら、〇鬼のたけしみたく震えて…。

 

まぁいいや、とりあえず会計済ませるか。再度タバコの補充をしている店員さんに声をかける。

 

「すいませーん、お願いします。」

 

「はーい、ただいま!」

 

えーと、財布財布…って妖精さん達なんで全員カバンの中にいるんだよ、ミッチミチじゃねぇか。しかもなんかコイツらまで震えてるしホントなんなん?とりあえず財布取れないからちょっと退けって…。

 

そこでポケットにしまっていたスマホが鳴り出した。

 

十中八九淀姉さんだろう、無視無視。

 

「お、おい…相良、携帯鳴ってるぞ!出なくていいのか…?」

 

「そ、そうだよ!早くでた方がいいぜ!!」

 

コイツら何言ってんだ?今会計してるところ見りゃ分かんだろ。じゃなくても電話なんか出るか、出たら最後魂を抜かれるわ。てかマジで妖精さん退いてって!

 

「お客様、あの…」

 

ほら言わんこっちゃない!めっちゃ不審がられてるだろこれじゃあ!

 

「ちょっと待ってくださいね!財布が取りづらいところにあって!」

 

「それは構いませんが、携帯鳴ってますよ?よろしければそちらを…」

 

「いやいや、大丈夫ですよ!ほんと大した電話じゃないんで!後で掛け直しますから!」

 

「おい相良!!早く出ろ!!」

 

「あぁ…死んだな……。」

 

なんなんだよこいつら…うるせぇな。

 

お、やっと財布取れた。

 

「お客様、電話には出られた方が良いですよ。じゃないと、取り返しのつかないことになりますよ…?」

 

財布を無事に取り出し、顔を上げた先で俺を待っていたのは……

 

スマホを耳にあて、笑っているけど目に光のない…淀姉さんだった。

 

ハイライト仕事してお願い。

 

「……あっ、ハイ。」

そっと財布をカバンに戻し、スマホの通話ボタンを押す。

 

「モシモシコウキデスケド、ヨドネエサンデスカ…?」

 

「はい、朝からずぅっと電話し続けたけど居留守され続けた大淀です。」

 

淀姉さんがレジカウンターから出てきて俺をジリジリと追い詰める。

 

「イエ、アノ、キョウハチョットヨウジガアリマシテ…デンワニデルコトガデキナカッタンデス。」

 

「私の電話よりも重要な事があったのですか…。それは大変でしたね…。それでも、掛け直す暇はあったのではないですか?」

 

「ア、イエ、ナンテイウカ……戦略的撤退!!」

 

俺は一目散に出口に駆け出した!!!が無情にも自動ドアは俺の為には開いてくれないのだった……。

 

「そ、そんなっ!!なんでっ!?開けよ!!頼む!!開けゴマ!!……開いてくれぇぇぇーーー!!!」

 

「無駄ですよ、今この店の出入口という出入口は完全に封鎖されてますので、ネズミ1匹出入りすることは出来ません。」

 

こうなったら話し合いに持ち込むしかない!!光れ!!100社落ちたけど俺のトーク力!!

 

「……何が望みなんです?」

 

「言わずもがな、と言いたいところですけどそれでは流石にこうちゃんが可哀想なので選択肢をあげようと思います。」

 

せ、選択肢……?

 

「1つ、このまま大人しく提督になる。2つ、何としても私から逃げ、一般企業に就職する。さぁ、どうします?」

 

なんか明らかなトラップが用意されてる気がするが、罠でも進まなければならない。

 

「……因みに後者を選んだ場合どうなります?」

 

そんなに可愛く小首をかしげても無駄だぞ。今の俺には深海棲艦の姫級や鬼級よりもアンタが怖い。

 

「う〜ん、そうですね……。まぁ私がどうなるかは分かりませんって言うことだけは確かですね!」

それ、選択肢って言わなくね?Dead or AliveじゃなくてDead or Deadじゃん。

 

「提督になればAliveになりますよ。」

 

いやほんと心読むのやめて。

 

それは難しいですね。

 

なんで心の中との会話続行すんだよ止めてよ。

 

「無言は肯定と捉えてもよろしいですね?」

 

「いや今心の中で会話してたじゃん!!」

 

クッソ!!話し合いなんてこの人の前では無意味だ!!

 

少し手荒になるが淀姉さんを振り払ってでも!!!

 

ガッ!!⬅足払いの音

 

ドタッ!!⬅相良倒れ込む

 

ガシッ!!⬅淀姉さんからのホールド

 

「それで、良いお返事は聞けそうでしょうか……?」

 

まだ淀姉さんのホールドに力は入ってない……。

 

背に腹はかえられぬ……。とりあえずここは了承して、脱出の機会を伺うしかないか…。

 

「…わかりました!提督職、引き受けます!引き受けますから!!」

 

すると淀姉さん、ポケットから録音機を取り出し

 

「ありがとうございます!今の言葉はしっかり録音しておきましたからね!」

 

……この人の何が怖いかって確実に逃げ道を塞いでくるんですよ。

 

「いや〜でも良かったです。こうちゃんが了承してくれて!手荒な方法を取らなくて済みました!」

 

後者選んだら手荒な方法が待っていたのか…。

 

「ではこうちゃん、行きましょうか。舞鶴鎮守府まで!」

 

……え!?今から!?

 

「ちょいちょいちょい!!淀姉さん、今からって言ったって俺なんの準備も……」

「はい!もう荷物は送りましたし、アパートも解約済みです。高津さんにもお話は通してあるので大丈夫ですよ!」

 

仕事が早すぎるよ淀姉さん……。

 

がっくりと項垂れる俺に同情と戦慄を覚える男二人の視線が……。助けてって言いたいところだけど逆の立場になって考えてみれば俺だってそれしか出来ない。

 

では……と俺の目の前に立つ淀姉さん。

 

ん?何その手に握られた布と薬品は?

 

「さてこうちゃん、今日はお疲れでしょうから舞鶴鎮守府までゆっくりお休みになってください。」

 

あ、なんかこれOPEXで見たことあるわ。ライフレインの課金処刑モーションじゃん。注射器が布に変わっただけじゃん。

 

待って!手荒な事しないって言うたやん!!話が違っ!!……あ、この甘い香り、クロロホルすやぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




諦〜めて淀姉さん〜!

あおい期待は私を切り裂くだけ〜!

あの人に伝えて〜『また3人で飯いこうな…。』

「「相良ぁぁぁーーー!!!」」


あ、またまた沢山のお気に入り登録ありがとうございます。評価つけて頂いたり、コメント頂けたりで、とっても嬉しい限りです。

次回からようやく航希くんが鎮守府での生活を始めることができます。

まぁ、逃げ出すかもしれないからどうなるか分からないですけど。

次回もよろしくお願いします。

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