ワザモノ!   作:ハレル家

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2劇:予想外なリザルト

「……はぁ……」

 

 学校の昼休み。

 ある者は持参した弁当や買っておいたパンやおにぎりなどの商品。

 ある者は食堂にある学食。

 各々の自由に昼食を食べようと動く中で一人の女性――二ノ宮が自身の席から外を眺めていた。

 スタークが人間ではなく吸血鬼と本人からカミングアウトされた翌日、二ノ宮は大きくため息を吐いた。

 見た目も相まって絵になるが、彼女の頭の中はとある悩みで埋め尽くされていた。

 

「…………」

 

 その悩みを語るには、彼女がスタークを殴った後について話さなければならない……

 

 

 

 ◇

 

 

 夕陽が差し込み、周囲がオレンジ色に染まる教室。

 影の黒もオレンジの明るさを際立たせ、より一層コントラストを美しくさせる中で一組の男女が相対していた。

 言わずもがな、スタークと二ノ宮である。

 

「……いてて……躊躇なく殴ってくるとか、原始人でもしないぞ」

「なにか言った?」

 

 二ノ宮の先制攻撃である拳がスタークの腹部にめり込み、そのまま死んだスタークが目を覚ますまで待ってた二ノ宮がスタークから理由を聞こうとする。

 

「……というより、しゃべり方とか違うよね?」

「吸血鬼だとバレない為に極力喋る事を避けていたのだ。これが私の素だから文句を言われる筋合いはない」

 

 やけにフランクかつ饒舌に喋る様子を指摘する二ノ宮にスタークが答える。彼女はアイドルの裏側を知ってしまったようなガッカリした様子をみせる。

 

「……なんだね?」

「……いやさ……寡黙なキャラだと思ってたら、すごい拍子抜けな性格なんだけど」

「ふん。他人の勝手な考えを押し付けないで欲しいものだよ」

 

 二ノ宮の言葉にスタークは鼻で笑い、スタスタと教室のドアに向かって歩き、二ノ宮に振り向く。

 

「ごきげんよう。また明日」

「あ、またあし……って待ちなよ!!」

 

 帰ろうとしたスタークに二ノ宮が待ったをかけた。

 

「なんだね? 何か忘れているのか?」

「忘れてる。大事な事を忘れてる!」

 

 首をかしげるスタークに対して、二ノ宮は教室に響くような声量で答えた。

 

「僕、君の事を殺してない!!」

「新手のサイコパスかね」

 

 まさかの答えに一周回り、逆に落ち着いたスタークがツッコミをいれた。

 

「大体、君が私の秘密を漏らさない。私も君の秘密を口外しない……それで納得じゃないのかね?」

「いや! 安心できない……だから、ここで諸悪の根源を絶つ!!」

「……いつから諸悪の根源となったのか、この際スルーするとして……無理だと思うが殺っ――」

 

 瞬間、スタークは心臓が貫かれたような衝撃と共に絶命した。しかし、なかったかのように蘇り、また殺され、蘇りが繰り返された。

 時には折り、時には砕き、時には潰す彼女の猛攻に成す術なく殺され、蘇るスターク。

 割る、蘇る、裂く、蘇る、斬る、蘇る、抉る、蘇る、絞める、蘇る。

 時間にして十数分。しかし二ノ宮にとっては数時間に及ぶ攻撃の二ノ宮の勢いが落ちていき、呼吸が荒くなって攻撃をやめた。

 

「……なんで……なんで、死なないの……」

 

 殺そうとする内に何度も生き返るスタークに攻撃しても無駄だと判断した二ノ宮をスタークは見つめていた。

 

「言っただろう? “吸血鬼”だからさ」

 

 そんな彼女にニヒルな笑みを見せるスターク。

 

「……諦めずに私を殺そうとする君を見て、余程知りたくない事だと理解した……そこで、取り引きをしよう」

「……取り引き?」

 

 突然、取り引きを持ちかけるスタークに警戒しながら、二ノ宮は聞き返す。

 

「君の原案ノートを見てしまった私だが……個人的におもしろい作品だと思う。しかし、残念な部分もある」

「……吸血鬼に関する描写が少ないって事でしょ?」

 

 スタークの言葉に渋々答える二ノ宮。

 

「そこは仕方ないよ。吸血鬼に関する情報が少なすぎる……あっても、それがデマの可能性だって……」

「そこでだ……吸血鬼に関する情報を私が提供しよう」

 

 まさかの展開に驚く二ノ宮の様子を尻目にスタークが話し続ける。

 

「君は私の秘密を口外せず、私は君の秘密を漏らさないように細心の注意を払って、君に吸血鬼に関する情報を提供する……君にとって有利な取り引きだ。悪い話ではないだろう?」

 

 ……確かに悪くない……悪くないけど……話がウマすぎる……

 まるで姿形がない霧のような存在と話してるような気味の悪さを覚えながら、二ノ宮はスタークに質問する。

 

「……君にメリットはあるのかい?」

「あるとも」

 

 即答。迷いなく答えるスタークに二ノ宮は動かずに警戒する。

 

「しかし、ここで話すわけにはいかない……ゆっくり考えてから、答えを教えてくれ……お互い、秘密を守りたいからね」

 

 そう言って、スタークは教室のドアに歩いていく。その姿を見ていた二ノ宮は自身が吸血鬼の情報を探していた時に『吸血鬼は夜の王と呼ばれる種族』とデマの情報が載ってたサイトを思い出し、あながち間違いではなかったと認識した。

 

 余談だが、数秒後にスタークがドアの角に足の小指をぶつけて死ぬ姿を見てしまい、やっぱりデマだったと再認識した。

 

 

 

 

 その後、スタークは約束通り秘密にしてくれている。そもそも寡黙なキャラを演じている彼が急に饒舌になったら誰でも驚くだろう。

 二ノ宮も彼が悪い人間もとい、吸血鬼ではないことは勘だがわかる。わざわざ自分に有利な話を持ちかけてきた……しかし、信じる事ができない。

 

「……………」

 

 自身の悪癖を理解して治そうするが、今回はそれを抜きにしても信じられないと断言できる。

 

「………………あ…………」

 

 なんとかあの男の事を知ろうと考える二ノ宮はある人物が頭に思い浮かんだ。

 すぐさま、彼女はある人物に会う為にいるであろう場所に向かった。





 活動報告にて新連載アンケートダービーやってます!

 期限は4月14日までなので、暇でしたら、ご参加していただくと幸いです。

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