エースとキングの恋愛魔法   作:ダラー

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※この小説には戦闘シーンなどが殆ど登場しません。
日常系魔法ラブコメ路線で行きますので、バトル系がお好きな方は注意してください。
あと、時系列的にはvividに入る直前ぐらいです。







初恋相手は英雄王

 ────高町なのはには好きな人が居る。

 

 それは友達としてだとか家族としてなどでは断じて無い。一人の異性として好きな人が居るのだ。

 その人物となのはが出会ったのは今からもう十数年も前のこと。まだなのはが小学生になるよりも前のことだった。

 

 当時のことはよく覚えている。父が交通事故に遭ったことで意識不明の重体になって入院し、母や兄達が必死になって父が抜けた穴を埋めようと実家のお店で忙しなく動き続ける姿は瞼を閉じれば鮮明に思い出すことが出来る。

 

 今ではともかく、あの時の幼かったなのはでは母達の手伝いをすることが出来なかった。

 母のように料理を作ることも、兄のように沢山の料理を運ぶことも、姉のようにお会計をすることも、なのはには無理だった。

 

 ────でも、自分も母達の役に立ちたかった。

 

 一人ぼっちでただ黙って見ているのは嫌だったから、母達の手伝いをすることで自分も家族の一員として居られる実感が欲しくて────

 

「お願いだから、大人しくいい子にしていてね」

 

 けれど、母はそれを許してはくれなかった。

 

 ……いや、分かるのだ。まだ幼い自分だと料理を乗せた皿を落として割ってしまって怪我でもするかもしれないから手伝わさせる訳にはいかなかったのは、愛する我が子のような義娘を持った今でこそ充分理解出来るのだが、しかし当時のなのはにはそれが理解出来なかった。

 

 ────なんで私だけ一人ぼっちにするの?なんでお母さん達の手伝いをさせてくれないの?なんで私を遠ざけようとするの?同じ家族なのに親と子なのになんで、なんでなんでなんでなんでなんでなんで……。

 

 壊れたラジオテープのように何度も何度も頭の中でなんでと繰り返し再生されたが、その明確な答えは誰も教えてくれなかった。

 ただ「いい子にしてて」と告げられて、頭を優しく撫でた後に自分を遠くに置いて離れた所へ皆行ってしまった。

 一人取り残され、誰からも答えを貰えなかったなのははたった一人で頭の中で渦巻く疑問符に対する答えを出すしか無かった。

 

 母達はどうして自分を遠ざけた?どうして手伝いをさせてくれなかった?どうして家族なのに自分だけ仲間外れにした?

 どうして、どうして、と。狂ってしまいそうになる思考の中で、幼いなのはは懸命になって考え続けた。

 誰にも相談せず、誰にも迷惑をかけず、母達に言われた通りにいい子として一人で考え────その果てになのはは答えを見出した。

 

「わたしがいい子(・・・)じゃないからだ」

 

 母達は言っていたじゃないか、「いい子にしていてね」と。それはつまり、自分はまだいい子にはなっていないということだ。

 では、母達にとっていい子とは何なのか。その答えは割と直ぐに出た。

 

 母達にとってのいい子、それは人形(・・)だ。

 

 誰にも話しかけない、自分から行動しない、言われたことに逆らわない、誰かが触れてくれるまでジッと置いてあるだけのお人形さん。

 母達にとってはそれが『いい子』なのだ。仕事の邪魔にならない、お客様の迷惑にもならない、ただそこに居るだけの存在。

 それが母達の求める物。自分がなるべき物。それを理解した時から、なのはは人間を辞めた(・・・・・・)

 

 口を閉じ、感情を無くし、動きを無くし、存在感を無くし、店の隅っこに自分をひっそりと置いた(・・・)

 これが母達の求めるもの。こうすることでいつかまた自分が高町家の家族の一員として迎え入れられるというのであれば、自分はいつまでも人形で居続けよう。

 

 だって、それが『いい子』なのだから────

 

「まるで人形みたいで気持ち悪いね、キミ」

 

 そう思っていたある日。店の隅っこの影に隠れるようにして座っていたことで誰も気付こうともしなかった人形に話し掛けた1人の少年が居た。

 

「人形になればいつか家族が気付いてくれるって?バカ言っちゃいけないよ。キミみたいな不気味な人形に触れようとする人間なんて誰も居やしないよ」

 

 見たことも無いぐらいに透き通った金色の髪。宝石みたいな輝きを放つ深紅の瞳。幼児特有のあどけなさはあるものの大分整っている顔立ち。

 明らかに日本人じゃない。ここら辺では見たことも無いような少年だが、人形は少年に対して興味を抱くことは無かった。

 

「ボクの言ってることが分からないかい?なら、じっくりと周りを見渡してごらんよ」

 

 人形には少年の言いたいことが理解出来ない。けれど、命じられたのであればそれ通りに動くのが『いい子』だ。

 だから、人形は周りに目を向ける。母達は相変わらず忙しそうに動き回っていて、こっちの方なんてちっぽもみてはいなかった。

 

「キミが人形になっていたところで、彼らはキミに触れようとしないよ。だって、仕事をしてる最中に人形遊びに興じてられる暇なんて彼らには無いんだから」

 

 少年の言う通り母達はこちらへと一瞥も向けない。自分の娘よりも仕事の方がよっぽど大事なのだろう。

 そんなことは前から分かり切っていた。だから、今更そんなことを知ったところでどうってことは────

 

「じゃあ、どうしてキミは泣いているの?」

 

 一瞬、人形は何を言われたのか理解出来なかった。

 自分が泣いている?そんな筈は無い。自分には感情なんて存在しない。泣いて誰かに迷惑をかけるような『悪い子』ではないのだ。

 だから、その少年の言葉は単なるまやかしでしかなく……けれど、目から何か暖かい物が頬を伝って零れ落ちたのを人形は自覚した。

 

「人形は涙なんて見せないよ。呼吸をすることも、瞬きをすることも、食事を取ることもしない。なんせ無機物だからね、生きてはいないのさ」

 

 だけど、キミは違うだろう?と。そう問い掛けられた人形は激しい動揺を覚えた。

 自分は人形、完璧な人形。誰にも迷惑をかけない自分から動きもしない言われたことには逆らわない完璧な『いい子』の筈で────

 

「ハッ!これは傑作だ!世界の広さも碌に知らない癖して、その歳でもう完璧だなんて!アハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 突如として腹を抱えて爆笑し始めた少年に、人形は困惑する。いったい何がそんなに面白いのか理解出来なかったからだ。

 

「そりゃ面白いさ!完璧な人形になれたと自称する幼女とか、バカバカしくて笑えてしまうよ!」

 

 アハハ、アハハ、と。狂ったように一人で笑い続けた後、少年は笑みを浮かべたまま人形に視線を合わせた。

 

「キミは不完全な紛い物だよ。どれだけやったところで人形にはなれないし、『いい子』には決してなれない」

「……そんなこと、ない」

 

 久しぶりに出した声は思いの外震えて掠れていたが、それでも人形は少年の言葉を否定しなければならなかった。

 だって、そうじゃなきゃ、自分は、ずっと一人ぼっちで────

 

「ほら、もうダメだ。そう思える時点でキミは不完全な紛い物だよ」

 

 コツン、と。少年の人差し指が優しく人形の額を小突いた。

 

「いいかい?キミは人形なんかじゃない、人間(・・)だ。家族とのコミュニケーションを上手く取れないだけで、ちゃんとした意志を持つ人間なんだ。だから、そんなお人形ごっこはもうやめた方がいい」

 

 くしゃりと優しく微笑んで、少年は手を動かして人形の頬を伝う涙を親指でそっと拭う。

 

「誰かに気付いてもらえるのを待っているだけじゃダメだ。人間ってのは自分から話し掛けたりして目立たないと誰にも相手にされないし、そもそも気付いてさえくれないんだよ」

 

 優しく、優しく、まるで愛しい子へと語り掛けるように少年は言葉を紡ぐ。

 

「キミだって嫌だろう?誰かに気付いてもらえるまで誰にも相手にされず、部屋の隅っこの影に隠れながらずっと一人ぼっちで居るなんて」

「……うん」

 

 少年の問いに、人形は頷きを返す。

 

「家族に迷惑をかけたくない?相手にされないのが怖い?家族じゃなくなるのが嫌だ?ハンッ、そんなのはただの言い訳さ。たった1度拒否されたぐらいで諦めるぐらいだったら所詮キミの想いはその程度さ。家族から離されるのが絶対に嫌なら決して諦めちゃいけない」

「うん……!」

 

 大粒の涙をとめどなく流し、震える声で必死に頷く。

 

「さぁ、キミがするべきことは何か。もう分かったよね?」

「うん!!」

 

 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を服の袖で拭き、暫くしていなかったせいで若干ぎこちなくはあるがしっかりとした笑みを浮かべる。

 

「────キミは何をしたい?」

 

 少年からの問いに────少女(・・)は胸を張ってこう答えた。

 

「私は、お母さん達とお話をしたい!!」

 

 自分が感じた苦痛や寂しさ、それら全てを踏まえた上で少女は────高町なのはは大切な家族との話し合いを望んだ。

 もう決して諦めない。自分の話を家族の皆がちゃんと聞いてくれるまで、絶対に何度でも語り掛ける。

 その決意を宿した瞳を見た少年は、満足そうに笑った。

 

 思えばそれが切っ掛け。少年のおかげでなのはは家族との対話をもう一度試みるようになり、そして見事に家族と和解した。

 母達はなのはに辛い思いをさせてしまったことに対し深く反省し、もう一人ぼっちにはさせないことをなのはを抱きしめながら固く決心してくれた。

 こうしてなのはは再び高町家の一員に戻り、以前までの天真爛漫な女の子としての姿を取り戻した。

 

 それだけでなく、なのはは店の手伝いも母達から任されるようになった。

 流石に料理を作るとか重たい料理を運ぶとかは無理なので、お客様におしぼりを渡しに行ったりするような簡単な仕事を手伝うようになったのだ。

 

 当然ではあるが仕事は忙しく、途中で転けてしまったり持ってくるおしぼりの数を間違えたりと何度かミスをしてしまうこともあったが、なのはは懸命になって働いた。

 その姿がとても愛嬌満載らしく、店に来た殆どの客はなのはのたどたどしい姿に和やかな気持ちを抱き、まるで自分の子や孫に接するかのように優しく応援してくれた。

 

 その気持ちはなのはにとってとても嬉しいものだったが、しかしそれよりももっと嬉しいことが彼女にはあった。

 

「こんにちは、なのはちゃん」

「ギル君、こんにちは!」

 

 自分を救ってくれた少年────ギル君ことギルガメッシュが定期的に店へと来てくれるようになったことがなのはにとって何よりも嬉しいことであった。

 

 会う度になのはは自分からギルガメッシュに話し掛けた。昨日あったことや今日あったこと、もしくは明日の予定なんかを包み隠さず自分の感情を剥き出しにして話した。

 時に笑い合い、時に悲しみ合い、時に怒り合い、時に喜び合って、とにかく色んなことを毎日飽きもせずに話したものだ。

 

 子供の頃は、それが新しく出来た友達と話せることに対しての喜びだと思っていた。

 けれど、大人になった今なら分かる。あの頃から自分はきっとあの少年に“恋“をしていたのだ。

 

 それも、そんじょそこらの恋とは違う。人が一生に1度だけしか経験できない“初恋“だ。

 あの優しくて、カッコよくて、私に語り掛けて救い上げてくれた男の子に、高町なのははどうしようもなく恋心を抱いていた。

 

 そして、それは今でも変わることなく────

 

「わぁ、懐かしいなぁ!」

 

 久しぶりに帰ってきた故郷。前にこの土地を出てから何年も経っているというのに、久しぶりに見た故郷の町並みは自分の記憶にある昔の物と殆ど変わっていなかった。

 

「ギル君、元気にしてるかな……」

 

 思い出すのは好きな人のこと。中学を卒業した時に管理局へと入隊したことで、それ以来ずっと機会が巡って来ないせいで今でも会えずに居る大切な男の子。

 もうかれこれ十年近くだろうか。それだけの年月が経っていれば、きっと昔よりもかなりカッコよくなっていることだろう。

 

 となれば、必然的に気になることはただ一つ。

 

「彼女とか、居るのかな……」

 

 昔から優しくてカッコよかったのだ。ならば、成長してイケメンへと変貌したに違いないギルガメッシュを世の女子達が放っておく筈がない。

 もし既に誰かの物になっていたとしたら……。

 

「うぐっ……」

 

 痛む。心が凄く痛む。

 初恋は実らないとはよく言われているが、なのはとてまだ恋愛に夢を見る年頃。可能性が0ではないのであれば、まだ希望を捨てる訳にはいかない。

 

「頑張れ私……諦めるな私……!!」

 

 自分に気合を入れ、なのはは力強い歩みで故郷の街を歩く。

 何年も見ていない久しぶりの街だが、まるで変わっていない街並みになのははまるでタイムスリップしたかのような錯覚を覚える。

 

「あ、ここは……」

 

 ふと、前方に人の居ない小さな公園が見えてくると、なのはの記憶が刺激され昔の記憶を思い出した。

 

「ギル君とよくここで遊んだっけ……」

 

 遠い遠い昔の記憶。まだ心が純粋だった頃に大好きな人と遊んだ記憶。

 ブランコで遊んだり砂場で遊んだり、内容としては他愛のないことではあるが、それでも大切な記憶の一つだ。

 

「他にも色んな所で遊んだなぁ」

 

 その記憶が呼び水となったのか、なのはの中で昔の記憶が一気に蘇ってきた。

 どれもこれも全部ギルガメッシュと一緒に遊んだ記憶ばかりで、やっぱり自分は昔から彼のことが好きだったんだと自覚して少し恥ずかしくなる。

 

「それで、遊び疲れたら私の家に寄って休憩して……」

 

 思い出された記憶に沿って街中を歩くと、暫くしてなのはは実家へと辿り着いた。

 

「あはは、全然変わってないや」

 

 建物の外見も、中から漂ってくる美味しそうな匂いも、外まで聞こえてくる人々の楽しそうな声も。

 何一つとして変わっていない。自分が知っているままの実家がちゃんとそこにはあった。

 

「なんか緊張しちゃうなぁ……」

 

 実家に帰ってきたというのに、まるで知らない場所へと来てしまったような謎の感覚を感じ、なのはは思わず緊張する。

 

「すぅ……よし!」

 

 深呼吸して覚悟完了。ドアノブに手を掛け、勢いよく扉を開ける。

 

「ただい────」

 

 店の中だけでなく店の奥に居る両親にも聞こえるようになのはは元気よく帰ってきた挨拶をしようとしたが、その言葉は途中で止まった。

 平日の朝にも関わらず沢山居る客達。ウェイターとして働いている兄と姉。珈琲を入れている父と料理を作っている母。

 それら全てで遮ったとしても、決して覆い隠せない輝きを放つ金髪の男性が店の隅っこに居るのが目に留まり、なのはは驚きのあまり言葉を失った。

 

「うそ……」

 

 口からポツリと零れた言葉は虚空へと消える。これは夢でもなければ錯覚でも無い。

 金髪の男性が座る席。それは幼い頃、なのはが両親に頼んで絶対に彼以外には座らせないようにした特別の席だ。

 自分と彼が出会った思い出の場所。そこに座れるのはたった一人しか居ない。

 

 つまり、今その席に座っている男性は────

 

「ギル、君……?」

 

 呆然と呟いた名前に反応し、金髪の男性はなのはの方へとゆっくりと振り返る。

 

 そして────

 

「ほう、久しいな。雑種」

 

 完全なる俺様系へと変貌していた初恋の相手を見て、なのはは自分の中にあったイメージがガラガラと崩れ落ちるのが確かに聞こえた。

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