エースとキングの恋愛魔法   作:ダラー

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恋愛物って主人公の女の子が自分の本当の思いに確信を抱けるようになるまでが重要だと思う。








時の流れは残酷·····?

 ミッドチルダにある、とある一軒家。そこは絶対に喧嘩を売ってはいけない人達が住んでることで有名な家である。

 不屈のエース・オブ・エースとして多くの魔法世界に名を轟かせている高町なのは。

 心優しき金の閃光と呼ばれ、数多くの難事件を解決してきたフェイト・T・ハラオウン。

 古代ベルカにて名を馳せた聖王のクローンとして生み出された高町ヴィヴィオ。

 

 実力で見れば管理局のトップ魔導師が二人も居て、さらに聖王の実力を引き継いだ娘まで居るのだ。もしも泥棒なんかが誤って家に入った日には決して生きては帰って来れないレベルの過剰戦力が揃っている。

 正に難攻不落の城。どんなことがあろうとも、決して破られることの無い無敵の家だが────

 

「うぅ……フェイトちゃん、お酒持ってきてぇ〜」

 

 今、その家はエース・オブ・エースが酒に溺れていることで崩落しかけていた。

 

「ダメだよなのは。もう10本以上も開けちゃってるんだから、これ以上は身体に悪いよ?」

「いいからぁ!今日は飲むの〜!!」

 

 子供のように駄々をこね、顔を真っ赤にしながら高町なのははテーブルに手を叩き付ける。

 その拍子にテーブルに置かれていた十数本もの空き缶の内の何本かがテーブルの下へと落ち、カンッという甲高い音を奏でたがなのはは気にもしなかった。

 

「もう……これで最後だからね?」

「やったー!フェイトちゃん大好き!」

 

 呆れた顔をしながらフェイトが酒の入った缶を差し出せば、なのははひったくるようにしてフェイトから酒を奪い取り、そのまま直ぐにフタを開けると口を付けて直接飲み始めた。

 普段のなのはならこんなおっさんみたいな飲み方は決してしないのだが、今はそんなことさえ気にならない程に出来上がってしまっているのだろう。

 

「にゃははははははーーーー!!」

 

 何がそんなに面白いのか、腕を振り回して1人で豪快に笑いまくっているなのはを見て、思わず息を吐いてしまったフェイトはテーブルの下に落ちている空き缶を拾ってキッチンの方へと運ぶ。

 そして流し台に持ってきた空き缶を置いた後、テーブルの上に置かれている空き缶も回収するためにキッチンから出ようとしたが、不意に後ろから服を引っ張られフェイトは思わず足を止めて振り返る。

 

「フェイトママ……」

 

 そこに居たのは1人の幼い少女。フェイトとなのはにとって大事な家族の1人である高町ヴィヴィオだ。

 いつもは天真爛漫としていて周りの人々に元気を振り撒く太陽のように明るい雰囲気を出しているのだが、今はその様子が微塵もなく、大きくクリクリとした瞳に涙を溜めて怯えた表情を浮かべていた。

 

「ヴィヴィオ!?どうしたの怪我でもしたの!?」

 

 愛娘の異変に気付いたフェイトは狼狽し、ヴィヴィオの身体を確かめるようにペタペタと全身を触る。

 ヴィヴィオは少し擽ったそうに身を捩りながら、そうではないと首を横に振った。

 

「フェイトママ、なのはママどうしちゃったの?あんななのはママ見たことないよ……」

「あぁ……」

 

 ヴィヴィオの言葉を聞き、フェイトはヴィヴィオが怯えた表情を浮かべている理由に合点がいった。

 なのはとヴィヴィオは親子というより歳の離れた姉妹のように接し合ってる親しい仲だ。その分だけ、自分の知らないなのはの姿を見るのが少し怖かったのだろう。

 

 少し厳しい時もあるが基本的には優しい大人の女性としてヴィヴィオに接しているなのはと、今の子供みたいななのはとのギャップ差は確かに凄い。というか酷い。

 長年親友として付き添い、既に大人へと成長しているフェイトだからこそ今の状況に対して冷静でいられるが、ヴィヴィオはまだ子供。不安になるのも仕方がない。

 

(だけど……)

 

 フェイトは言葉に詰まる。ヴィヴィオの質問に対してどう回答すればいいか分からなかったからだ。

 勿論、なのはがあぁなった原因が何なのかフェイトは知っているが、しかし知っているからこそ素直に話すことが出来なかった。

 

 何故なら────

 

(い、言えない!初恋に破れたから酒に溺れてるだなんて!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。久しいな、雑種」

 

 久しぶりに聞いた彼の声はとても大人びたものになっていて、その見た目も子供の時と比べて凄く……それはもう凄く成長していた。

 獅子の鬣の如く逆立っている黄金の髪に、血よりも真っ赤に染まった赤い瞳。そしてイケメン俳優も顔なしになる程の整った顔立ち。

 正に人体の黄金比。完成し切っている彼の姿はただそこに居るだけで1枚の絵画にでもなってしまいそうな程に美しいのだが、しかし身に纏っている服が完全にそれを台無しにしていた。

 

 黒のズボンと黒のワイシャツはまだいい。首に着けている黄金のネックレスと両耳に着けている南京錠みたいな黄金のイヤリングもまだ許せる。

 だが、どうして虎柄のジャケットなのだ。それでは完全にホスト関係の人間としか見えないし、完璧な見た目と相俟って夜の帝王と言われても過言ではないじゃないか。

 

「えっと……本当にギル君、なんだよね……?」

 

 もしかしたら夢ではないか。というか夢であってほしいというなのはの切なる願いとは裏腹に、現実は容赦なく迫った。

 

「……よもや貴様、久しぶりすぎてこの(オレ)の顔を忘れているのではあるまいな?もし仮にそうだとすれば、王たる我を忘れるような不埒者は万死に値する。我自らの手で今すぐその首を切り落としてやろう」

「き、切り落と……!?」

 

 心底不快そうに眉を顰め、睨めつけるようにして鋭い目を向けてくるギルガメッシュになのはは意識を失いそうになる程の衝撃を受けた。

 あまりにも想像していたイメージと違いすぎる。昔の優しかったお前は何処へ行ったと言わんばかりに傲岸不遜な態度をしている今のギルガメッシュに、なのははフラフラとにじり寄る。

 

「ギ、ギル君?どうしたの?ギル君はそんな酷いことを言ったりするような人じゃないでしょ?」

 

 現実を上手く認識することが出来ず、ぎこちない笑みを浮かべながら縋るようにして伸ばすなのはの手を────

 

「触るな、雑種めが」

 

 パシン、と。ギルガメッシュは蝿でも追い払うかのようにして叩き落とした。

 

「え……ギル、君……?」

 

 まさか払い除けられるとは思ってもおらず、呆然と立ち尽くすなのはの前でギルガメッシュは席から立ち上がった。

 昔は同じぐらいの身長だったのに、今では女性のなのはよりも男性のギルガメッシュの方が遥かに身長が高く、まるで天から見下ろすようにしてなのはを見るギルガメッシュの瞳には優しさや温かさといったものが欠如していた。

 

 敢えてその瞳を言葉で言い表すとしたら氷の瞳。取るに足らない虫けらへと向けるものよりも冷淡な眼差しをしていた。

 

「王であるこの我の許可を得ようともせずに、近付くどころかあまつさえ触れようとしてくるとはな。その愚行、貴様の命で以て償うといい」

 

 そう言うや否や、ギルガメッシュはゆっくりとした動作で右手を上げようとして────

 

「すまない、ギルガメッシュ。妹が迷惑をかけた」

 

 その刹那、なのはの隣にはコーヒーとシュークリームが別々に乗っている皿を持っている1人の男性が立っていた。

 その人物はなのはの兄であり、そしてなのはの父の家系から代々伝わる古武術、永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術の現師範代でもある高町恭也であった。

 

「お詫びに父さんと母さんから最高級のコーヒーとシュークリームを貰ってきた。これを渡すから、どうかなのはのことは許してやってほしい」

 

 そう言うと恭也はギルガメッシュの座っていたテーブルにコーヒーとシュークリームを置き、そして頭を下げた。

 

「私からもお願いします!」

 

 それと同時に、眼鏡を掛けている三つ編みの女性がやって来て恭也の隣で頭を下げた。

 言わずもがな彼女は高町美由希。なのはの実の姉である。

 

「え、お兄ちゃん、お姉ちゃん……?」

 

 突然やって来るやギルガメッシュに頭を下げる二人になのはが困惑していると、ギルガメッシュは途中まで上げかけていた右手を下げてドカッと席に座った。

 

「1度だけ許す。2度目は無いと思え」

「あぁ、ありがとう」

「ありがとうございます!」

 

 完全に興味を無くしたのか、シュークリームを食べながらどうでもよさそうにギルガメッシュがそう言うと、二人は深く頭を下げてから状況についていけないなのはを連れてギルガメッシュから離れた。

 そして、バックヤードまで連れていかれるとなのははいきなり美由希に肩を強く掴まれた。

 

「もう、なにやってるのなのは!もう少しで危ないところだったよ!」

「え?え?」

 

 危ないところだったとはいったいどういうことなのか。さっきまでのどこに危ない要素があったのかさっぱり分からない。

 美由希の言ってることが理解出来ずなのはが困惑していると、美由希の隣に恭也が並んだ。

 

「なのは、あまりもうギルガメッシュに関わるな。アイツの機嫌を損ねる訳にはいかない」

「は……?」

 

 兄の口からまさかそんな言葉が出てくるとは思わず、なのはの思考は一瞬だが停止した。

 

「お兄ちゃん、なに、言ってるの……?」

 

 恭也はなのはがギルガメッシュに初恋を抱いているのを昔から知っているメンバーの1人だ。

 他にはそこに居る美由希とキッチンに居るなのはの両親、あとは1部の親友達が知っているが、皆揃ってなのはの初恋が叶うように応援してくれた人達だ。

 

 その中でも特に応援してくれていたのは間違いなく恭也だ。妹の幸せは自分の幸せと公言するぐらいにはシスコンである恭也だからこそ、先程の言葉はあまりにも彼らしくなかった。

 

「ギル君もだけどさ。お兄ちゃん達もどうしちゃったの?今まではそんなこと一言も……」

 

 自分の記憶にある兄達と、今目の前に居る兄達が違いすぎてなのはは薄気味悪い何かを感じた。

 やっぱりこれは夢なんじゃないかと思いたくて────

 

「なのは、よく聞いて。もうギルガメッシュ君に近寄っちゃダメよ」

「アイツへの恋は諦めた方がいい」

 

 でも目の前にあるのは紛れもなく現実で。

 

「なんなのそれ……!意味わかんない!!」

 

 目の前の現実を認めたくなくて、なのはは勢いに身を任せて家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 以上までが家に帰ってくるや否やフェイトに抱き着いて泣き喚いたなのはの証言である。

 フェイトとしてはその話を聞いて確かに不可思議に思うところもあったが、1人の親としてはなのはの兄達に少しばかり賛同していた。

 

 彼らの立場になって考えてもみてほしい。自分の大切な妹が明らかにホストじみた男に恋をしているのだ。そりゃ止めたくもなるだろう。フェイトなら確実に考え直すように諭すに違いない。

 

 だが、なのはにとってしてみればそれは行く手を阻む敵になったのと同義。受け入れることなんて断じて出来ないだろう。

 ……と言っても、なのはとしてはそっちよりも肝心の初恋相手が大きく変わりすぎてることの方がショックを受けたに違いないが。

 

 さて、そんなことを素直にヴィヴィオに言えば、間違いなくなのはの母親としての威厳が無くなるし、後で自分が怒られる可能性が高い。

 真実は時として多くの人を傷付ける。だから、フェイトは当たり障りのない返事をすることに決めた。

 

「大丈夫だよ。暫くしたらいつものなのはに戻るから、それまでは少し1人っきりにしてあげようね」

「本当……?」

「うん、本当」

 

 ヴィヴィオの不安を少しでも払拭する為に、フェイトは優しくヴィヴィオの頭を撫でた。

 

「さぁ、明日も学校でしょ?そろそろ寝ないと寝坊しちゃうよ」

「うん……」

 

 どこか釈然としていないものの、フェイトの言葉に一応の安心感を得たのかヴィヴィオの表情が少しだけ和らいだ。

 

「ねぇ、フェイトママ。今日は一緒に寝てもいい?」

「うん、いいよ」

「本当!?」

 

 わーい!久しぶりにフェイトママと同じベッドだー!と。無邪気にはしゃぐヴィヴィオの姿にフェイトは思わず微笑んでしまう。

 性別や年齢に関係無く、子供というのはいつ見ても可愛らしいものなのだ。

 

「あははははははははははははは!!」

 

 そして、子供のように無邪気に笑う大人(なのは)もまた可愛らしくはあるが、フェイトはそれを見ても微笑ましい気分にはなれなかった。

 むしろ見ていて痛々しくて、悲しい訳でもないのに涙が零れてしまいそうだった。

 

「フェイトママ?どうしたの?」

「な、なんでもないよ!?」

 

 そんなフェイトの様子に気付いたのだろう。首を傾げて不思議そうにしているヴィヴィオにフェイトは少し慌てる。

 

「さぁ、早く行こ!」

「ちょ、フェイトママ!?」

 

 背中を押され、強引に部屋の外へと連れ出されそうになったヴィヴィオが驚きの声を上げるも、フェイトはそれを無視してヴィヴィオの背中を押す。

 大人と子供。その体格差と筋力差は言うまでもなく大人であるフェイトの方が高く、ヴィヴィオは押されるがままに部屋の外へと押し出された。

 そして、ヴィヴィオの後に部屋の外へと出ようとしたフェイトだったが、出る直前に立ち止まってなのはの方へと振り返る。

 

(大丈夫、なのはの母親としての威厳は私が守るよ!)

 

 グッとサムズアップして、部屋の外へと出ていくフェイト。

 

 その後ろからは泣くようにして笑い続ける女の声がいつまでも聞こえ続けた。


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