白鷺千聖が苦手です。 作:闇喰らいの蝙蝠
今日は宿泊研修の班を決める日。
クラスでは仲の良い者達が集まって、軽いドラフト会議っぽくなっている。
それを横目に、クラス内でも大人しい部類に入る奴らはしれっと班を決めている。
そして俺は机に突っ伏し、仮眠を取る。
どうやら、周りが騒がしくなってきた。
男子達で乱闘騒ぎになっているようだ。
「俺が白鷺さんと同じ班になる!」
「何言ってる!俺だぁ!」
つまんな。
バカだろこいつら。
まあ白鷺は顔だけは良いからな。
すると担任が男子達を止めて、俺の方に近づいてくる。
まあ一人だけ寝てたらそりゃあ怒るだろうな。
でも俺は怒られなかった。
「春風、人数の関係で男子一人になる班が一つ出来るんだが、どうやら誰も組む相手居ないみたいだからお前そこで良いか?」
「ああ、別に大丈夫です」
さて、これで男子のグループに入って孤立しなくてよくなった。
女子だけだと端から関わることは無いので幾分か楽だ。
まぁ、その女子が俺に関わることがないのが前提だが。
こうして、班決め戦争は終結し、宿泊研修当日となった。
結論から言おう。
どうしてこうなった!
何でこんな班なんだよ。
女子二人と男子一人、ここまでは良いだろう。
そして片方の女子はめちゃくちゃ可愛い。
ここまでは大当たり。
だがしかし、大当たりを外れの中の外れに突き落とす最大の理由。
白鷺が同じ班なのである。
どうやらどこかの班に入れると男子の戦争が終わらない。
しまいには死人が出る。
だから誰とも争う理由のない俺の所に押し付けられた、というわけだ。
まあ周りから見ると悲しいぼっちの俺が白鷺の班に押し付けられたようになるわけなのだが。
結果、戦争は終結した。
全員の負けとしてだが。
バスの中では皆盛り上がっている。
カラオケで歌が上手い奴がいたり、笑える感じの音痴がいたりだとか。
学生っぽい楽しみ方をしている。
俺はこういうバカ騒ぎにはあまり向いていない方だ。
基本的に感情の起伏が乏しいため、騒ぐことはほぼ無い。
「どうしてあんなに騒げるのか……」
「悔しいけど同意ね。私もあまり得意では無いわ」
「悔しいけど俺もその通りだ」
白鷺が俺の溢した独り言に答える。
悔しいけど二人共同意だった。
その後少しにらみ合い、二人共顔を逸らした。
その様子をもう一人の女子生徒がおどおどしながら見ている。
俺は本を読む事にした。
読書に没頭していると気づけば目的地に到着していた。
この宿泊研修でする事は山登りにキャンプファイヤー、といった定番の物だ。
正直、もう帰りたい。
目的地に着いて点呼を終えると、班別に別れて登山になる。
何が悲しくて白鷺と山になんて登らなきゃならねぇんだ。
そんな俺の願いは届かず、登山は始まった。
白鷺達は二人で先に登って行った。
俺はゆっくりと一人で気楽に登り始めた。
天気はとても穏やかで、雲一つ無い青空。
ポカポカとした陽気の中、のんびりピクニックといえば聞こえは良いが俺の心はあまり穏やかじゃない。
基本的に帰りたい、という言葉が常に頭の中を支配する。
この俺の心の中の雲はどんどん大きくなっていく。
雲一つ無かった青空は少しずつ雲が出てきている。
まるでどんどん曇っていく俺の心に比例するかのようだ。
雨が降る前に登りきろう。
そう思って俺は歩くペースを上げた。
俺自身体力がある方では無いので、ハイペースで歩いていても数分すれば元のペースに戻ってしまう。
そうやってハイペースで歩いてはぜぇぜぇと肩で息をする事が続くこと数回。
山の天気は変わりやすい、というがここまで早く変わるとは。
俺が昼食をとってまた歩き始めると、雨が降りだした。
俺はひとまず雨具を使用して気持ち速めに歩く。
そして数分後。
俺達の班のめちゃくちゃ可愛い女子(名前覚えてない)が呆然と傘をさして立ち尽くしていた。
「白鷺はどうしたんだ?」
「ふえぇ…私がさっき迷子になっちゃって、千聖ちゃんが探しに来てくれたみたいで……」
「つまりあいつは遭難したわけか。この雨の中で」
「どうしよう……」
「わかった。君は先生に事情を説明しておいてくれ。俺が探しに行く」
「わかった。お願いね、春風君」
「任せておけ」
俺は決して白鷺が心配な訳じゃない。
目の前で困っている人を放っておく訳にはいかないだけだ。
俺は山の中に入っていく。
大声で名前を呼びながら、奥へ奥へと進んでいく。
一心不乱に探していると、大きな木の陰で、小柄な少女が更に小さくなっていた。
「おい白鷺、小さいのに更に小さくなりやがって。お陰で時間掛かっちまったぜ」
「貴方はこんな所にまで付きまとってくるのね」
会話自体はいつも通りだが、声が震えている。
不安だったのだろう。
よく見ると、制服が透けている。
かなり寒そうだ。
「まあそういう事にしておく。とりあえず乗れ、連れてってやるよ」
「自分で歩けるわよ」
そう言って白鷺は立ち上がろうとしたが、足を挫いている様で転んでしまった。
「泥だらけだなぁ、せっかく顔だけはいいのにそれが台無しだぞ」
「うるさいわね、その……乗せてくれないかしら?」
「チッ、最初っからそのつもりだっての。乗れよ、それと寒そうだから、これでも着とけ」
俺は白鷺に制服の上着を着せる。
そして背中に乗せると、あまりの軽さに、軽っと言ってしまったのは秘密だ。
「貴方って結構頼りになるのね。少し見直したわ」
「ようやく分かったか、俺はストーカー野郎じゃねぇってな」
「でもストーカーにはかわりないわ」
「どっちかというとそこを見直して欲しかったぜ」
俺達は軽口を叩きながら皆の所に向かう。
雨はどんどん強くなってきて、かなり寒くなってきた。
俺達は森を抜けて宿を見つける。
皆は室内にいるんだろう。
宿の入り口には教師が立っていて、俺達は無事中に入る事が出来た。
そしてすぐにシャワーを勧められた。
俺はシャワーの中で、さっきの出来事について考える。
全く、あいつはどれだけ俺の邪魔をすれば気が済むんだ?
お陰で俺の平穏な宿泊研修の予定が丸潰れだ。
今頃皆は夕食食べてるんだろうなぁ。
ハンバーグあるかな?
俺はシャワーから出て着替えると、ちょうど白鷺も同じタイミングで出てきた。
「その…春風君、ありがとう」
「どうした?熱でもあるのか?やけに素直だ」
「うるさいわね!人が素直に感謝してるのに……」
「やっぱ熱あるよな?今日は早く寝ろよ?」
「余計なお世話よ!」
どうやら、元気らしい。