リハビリのための新作です。
その1
正直な所、僕の人生は平々凡々のつまらないもので終わると思っていたのだ。生まれだけに関しては、かなり劇的だったらしいのだが……それは僕じゃなくて、父さんと母さんが劇的だっただけの話だと思うんだ。
とは言え、『だからこそ』僕は平々凡々に過ごしたかった。中々生まれなかった、二人に望まれて生まれた
……ここまで聞いてくれた、恐らく壁の向こう側にいる諸君。君たちは『ああ、コイツは所謂[自称凡人]というヤツか』と思ってくれたことだろう。半分正解だ。
例えば君は、やることなすこと全てが平均値になってしまう子供を普通と思えるか? 少なくとも僕は思えないね。
テストの点数は小数点まで含めて平均値。
体力テストは全国の平均ドンピシャ。
友人の多さはそれなりのウェイ系とオタク系のど真ん中。
性格や嗜好だって、そりゃあ男の子だもんで猥談もするし、それを表に出さない昨今のデフォルトですよ。
どこをどう切り取っても、僕はまるでよく出来たサンプルの様に平均だった。気持ち悪がられることはないけど、印象には残りづらい。そんな人間。
まあ、こんな風に言うと恨み言みたいだが、実のところ前述の通り、好都合であるし……ぶっちゃけ普通過ぎる普通な自分が、結構好きだったりする。あ、ナルシストではないよ。この環境がって話。『異常な普通』だなんて名前
てなわけで、駒王学園高等部2年『異常な普通』などと呼ばれているこの僕、兵藤一誠は。なんども言うけれど、自分の一生が平々凡々で終わると思っていたし……そう在ってくれと思っていた。
……正直、おかしいとは思ってたんだよ。
僕の俗称だけは有名だ。しかし僕自身はマジで印象に残ってはくれないみたいで、初対面以外の人ですらかなりの頻度で忘れられるんだ。いや本当に。中肉中背の凡顔モブだからね、しょうがないね。
でもそんな僕を名指しで、それも
そんでもって、その告白してきた女の子は『天野夕麻』ちゃんって言ったんだけど、まぁレベルの高ぇ女の子だったの。艶やかな黒髪の、スレンダー美少女っていうの? 若干この世のものとは思えない類の雰囲気を纏ってたのが印象的。……脳味噌お花畑だったその時は『一生分の運を使い果たしちゃったかな! あっはっは!』と笑ってたけど、こんな美人さんが僕に告白するとか、美人局疑って然るべきだったなぁと思う。現状、美人局よりもやべーことなってるけどさ……。
……不誠実ではなかったはずだ。そりゃ、誰かを恋愛的な意味で好いたことはなかったから、告白されたって直ぐに天野サンを好きになったわけじゃない。
それでも、自分のことを好きになった人を好きになりたいとは思うじゃん? 本音を言うと好みから外れていたけど、ぶっちゃけ恋愛の行き着く果てなんて、外見よりも中身が合うかどうかだと思うのです。まあきっかけは外面だろうけどな、イケメンくたばれ。
まあなので、いろんなことをメールで、電話で話ました。確か同い年のはずなんだけど骨抜きにされた感じで、その時残っていた僅かな警戒心もふにゃふにゃにされてしまった。まあこっちが良いように受け止めようとしてたらそうなるわな。……尤も、実際は恥ずかしいことこの上ない真実だったわけですが。
そんなことはともかく、初めてのデートだった今日、色々真剣に考えたわけですよ。猥談仲間の手も借りて、本気で向き合おうとしたわけですよ。普段あんまり頓着しない服にも気をつかって! 年がら年中私服はパーカー男が成長したもんですよ。……いや、天野さんが『趣味悪い』と言われないようになんだけどね。ほら、どう見ても釣り合わないじゃん?
……デート自体は楽しかったよ。水族館デートを推してくれた元浜を神と崇めたかった。ショッピングモールは悪い選択肢じゃなかったと松田に頭を下げたかった。お小遣いの関係で、洒落たところでご飯、という訳にはいかなかったけれど。
でも、嫌な予感はしてたんだ。朝っぱらから微かに残った理性が、今まで踏んできた場数が、警鐘を鳴らしていた。『逃げろ』って。『まだ引き返せる』って。それに確信を持てたのは……デートの終着地点であった公園に着いた時。まだ日が沈み切ってない夕方だったのに……人払いがなされたように、僕ら以外誰もいなかったんだ。
『今日は楽しかったね』
と彼女は言う。ああ、デートは楽しかったと僕は返した。
『ねぇイッセーくん』
『……なんでしょう、天野サン』
『私たちの記念すべき初デートってことで、一つお願いを聞いてくれる?』
目が覚める、警鐘はとうの昔に鳴り終わり『
『ええ、なんですか?』
表面上は慌てることなく、聞いた。内心の怯えを隠し、膝の震えを気合いで止める。
『今日は本当に楽しかったわ、あなたと過ごした僅かな日々は。初々しい子供のままごとの様で、とても微笑ましかった』
だからね、と続けて、
『死んでくれないかな』
それはまるで、夜に奔る雷のように……
◆◆◆
……と、ここまでがさっきまでの話。只今絶賛、まっちろい非実体系の槍をぶん回して、時折投げてくる少女から逃げてる最中である。あっるぇ、なんか知らんウチに真っ黒い羽まで生えてませんか天野サン? この状況から察するに、僕ってば夢も希望もないファンタジー世界に入り込んでませんか? あの元カノどう考えても堕天使とかそういう生物でしょぉお!?
「ちょこまかと……! 大人しく死んでちょうだい!」
「死ねと言われて素直に死ぬ人間がいるとでも……!?」
なお、元カノちゃんかなりオコな模様。死んでくれないかな? と言われた瞬間に砂を目潰しで投げたからかと思われ。最初の一撃を辛うじて致命傷を免れ、今もこうして逃げきれてるのは視界妨害があってのことだろう。ああ、左腕が焼ける様に熱い。あまりにも痛過ぎて痛みを感じないっていうアレかもしれない。二の腕辺りから漏れる緋い液が、白だった服を赤く染めていく様を見ても大したこと思えない位に思考が上手く回ってない。……血が足りてないのかもね、と変なところで冷静だけど。
……致命傷じゃないけれど、致命傷じゃないけれども、多分ここで僕は死ぬ。その悲しい事実を、なんとか受け止めようとして……『覚悟』をキメた。
せめて、マトモな一生を送れなくなった分の恨みだけは、晴らしてから逝こうと。
松田、元浜。彼女持ちになったこと自慢して悪かったな、お陰でバチが当たったみたいだ。お前らはこうはなるなよ。
……父さん母さん、本当にごめん。親不孝者な息子で本当にごめん。だけど、最後に意地だけは魅せて逝くから。天国で二人の幸せを祈ってます。
勇気を振り絞って、振り返る。その隙を見逃さず、元カノちゃんが僕の腹に光の槍をぶっ刺した。例えようもない痛みで神経を焼かれながら、これ幸いと最期の力を振り絞って、元カノちゃんを抱き締めた。
「ちょ、止めてちょうだいよ! この服が汚れるじゃない!」
「へへっ、悪かったね……ごフッ……! で、もさ……折角アン、タの要望通りに、死、んでやるんだから……ごフッ……。コッチの願いだって、通させろ、っての……!」
左腕で抱き寄せ、右腕は後頭部に添えて。そして僕は彼女の唇を奪った……
視界も、意識も朦朧としてきた中で、口の中で彼女の柔らかな唇の感触が、嫌に残る。
「 ────、────────!」
へへへっ……、何言ってんのかさっぱりわかんねぇ。でもまあ、そのお高くとまったその面、台無しにしてやれたぜざまぁみろ。
「……嗚呼、糞。ここまで、か」
…………意識が、闇の中に堕ちていく。
◆◆◆
「……堕天使の気配がしたと思って来てみれば」
「……恐ろしいわね、ここまでぐちゃぐちゃにされて、まだ微かに息の根が残ってる」
「……これも何かの縁、なのかしら?」
「どうせ死ぬなら、私が拾ってあげる。あなたの命、私の為に生きなさい」
◆◆◆