『酷い目にあった』
「僕なんかを宿主にするからだバーカ」
『こちらは相手を選べんと言うのに……』
いつかと同じ様な夢の中。のそりと、首を起こしたばかりの様なドライグが、僕に向かって恨み言を吐いた。
「ともあれお勤めご苦労サン。影の中はキツかったか?」
『無駄に固くて身動きが取れなかったな。所謂ダイラタンシーというのに近い』
「ああ、片栗粉水のアレか」
『その上で9人のお前に囲まれる幻覚を見た。とうとうここまで極まったかとも思ったな』
「マジモンの悪夢で草」
どんだけ影からドライグを出したくなかったんだガン子……いや、使命感の生き物だからそうもなるか。僕はこのパブリックエネミーを野に解き放つのはマズいとは思ってるんだ、一応。
『貴様にだけは言われたくないな。この度仲良く同じ穴の狢、というヤツだろう?』
「違いないね」
色々受け止めてしまった以上、認めるしかない。迷惑度、厄介度だけなら僕は目の前の二天龍に並んでしまった。まあ悪魔でドラゴンですもの、仕方ないよね。
…………さて。僕は、コイツに謝らないといけないことがある。
「悪かったよ、ドライグ。本当にごめん」
『それは、反天使等という存在の贄にしたことをか?』
「冗談。それで謝ったらキレるだろ、多分」
フン、と鳴らした鼻息がその答えだ。その部分についてはあまり怒ってはいない様子。
「謝るべきは二つ。お前の尊厳を踏み躙った様な言動をしたことと、お前にとって不本意な形でアルビオンを煽り散らかしたことだ。……いくら限りなく別人に近いとはいえ。どうしようもなく、反天使ヴォーティガンは僕だ。アレは絶対にお前に対して頭を下げないだろうから、僕が謝るべきなんだ」
『殺すぞノータリン』
「急な殺意!?」
え、やっぱめっちゃ怒ってた? ……怒るよねぇそりゃ! 赤龍帝がヴォーティガン名乗ったのもまずったろうし、毒龍皇とかグウィバーの意味はテンで分からないけど相当酷いこと言ってる気がするし……!
『あのなぁイッセー……貴様、俺のことを見誤ってはいないか?』
「んぅ……? 名前を隠すことを同意した時点で度量自体は大きめに見積もってるつもりだけど。……でもさぁ、ドラゴンの尊厳踏み躙るのはやっぱダメだと思うんだよ、お前相手でも。……何より、それで僕がブチ切れたから、ねぇ」
『そう、そこだ!』
「おわっ!?」
ダン! と前脚で見えない地面を揺らされる。思わず尻餅をつくほどのだったが、それぐらいソコに対しておかんむりらしい。
『そこを謝られる方がムカっ腹が立つぞ、俺は! お前は赤龍帝、今の俺の半身、俺の弟子の様なドラゴンだ! そんな男が、自分の我を通さずしてなんとする!!』
「え、何。お前も急に生えてきた家族枠埋めるワケ?」
『茶々を入れるな、真面目に殺すぞ兵藤一誠!!』
「ご、ごめん」
そ、そんなに怒ることないじゃあん……真面目にキレられると怖いよ……。
『…………俺は。ドラゴンだ。二天龍と謳われし、神をも殺すに至ったドラゴンだ。宿敵と覇を競い合うことにしか頓着しなかった……恐らく、ドラゴンの中のドラゴンだ。そういうものだ、今更頭を下げることなど断じてするものか。もう少しやりようはあったか、という後悔はあれど、自分の成してきたことに対する後悔は微塵もない。……突き詰めれば、ドラゴンはそういう生物だ。周りのことなど気にするわけがない。俺は、俺達は
「……だね。僕も、どうしようもなくドラゴンだ」
結局のところ。僕が誰かの為に何かしてあげたいというのも、僕の欲の形がそうだからってことでしかない。ああそうだとも、ヴォーティガンも言っていた。僕は、やりたいことしかしていないのだ。そのせいで、自分や周りの心に頓着してこなかったツケがあの場で爆発した。
『だが、俺も思うところはある。歴代の所有者の間を渡り歩き、かつて求めた覇によって狂わせてしまったこと。そして今お前の相棒として、お前の在り方を狂わせてしまったこと。……周りを顧みない
「……………………」
『お前が、お前のしたいことをできなくなるまで追い詰めた。お前が、
「まあ、うん」
そこは寛容というよりは……そうだな。『自分もそうだから』で納得はするだろうなとは思ったんだ。だからそこに関しては謝る必要もない、なんならそんなんしたら怒り始めて『ドラゴンというものは……』とクドクド説教されるまである……と思った。…………尊厳を踏み躙ったかも、というところまで怒られるとは思わなかったが。
『俺が文句を言うとすれば、その我の弱さだ。自分が成し、起こしてきた全てに対する誇りと責任感の無さだ。……ああ分かっている、したいことをしているのだろう。申し訳ないと感じ、謝りたいと思ったから俺に対して謝罪をしたのだろう。その全てを無碍にはせん。だがそこには、自分のやってきたことに対する責任逃れの側面がある。……違う、とは言わせんぞ。俺が目を覚ますまでに、さんざ直視してきたろう?』
「……耳が痛いなぁ」
確かに、だ。謝るという行為は、責任を……非を認めると同時に、そこから先の責任を区切り、他所に投げる行為でもある。それにそこを抜きにしても……ここまでの僕に責任感があるとはとてもじゃないが言えないね。
何かにつけて自信が無いから後ろめたさと責任の無さがついてまわり、逃げ癖が極まって死にたくなっていた……と言っても過言じゃない。徐々に改善されていった様に思うのは、その先を想像して大切なヒトの死を背負えないからって理由だからなぁ。ガン子が(ろくでもない)使命感の塊なのも、僕の責任感の無さの裏返しから来る要素でもあるだろうし。
でもそれをドライグに言われるとちょっとムッとする部分はある。
『少なくとも俺は、自分のやってきたことを何ら恥じることは無いと思っている。神や魔王を死に追いやったことも、世界に混沌をもたらしたことも、その他諸々全て。思う様に生き、戦い、そして死んだとも。いずれ俺には、成してきたことの因果が巡ってくるのであろう。俺が封印され、神器となって人間の間を渡り歩いて来たのもその一環なのだろう。俺はその全てを受け止める。何故ならそれは、俺がやってきたことに対する責任であり、俺が遺した軌跡に対する誇りであるからだ』
関心すると同時に、やっぱコイツビックリするほど世界の敵だよなと思ってしまう。宿主が僕じゃなかったらいつか世界を滅ぼしてたかもしれん…………僕が今の赤龍帝で良かったかもしれんって初めて思ったよ、色んな意味で。
「……しかし、『我』ねぇ。やりたい様にやれと言ったり、責任を持てと言ったり忙しないな」
『おかしなことは言っとらんだろうが。自由に生きることと、その責任を負うのはセットで語るべき内容だ』
「それもそうだ」
自分のやってきたことに責任と、肯定感と、誇りを持つ。…………うん、僕が間違わないとは死んでも思わないけれど。思いの外僕は頑張ってきたみたいだから。認めてくれる皆の為になら、そうしようと思える。まあ、何より……
「リアスさんが『こんなのに惚れた盲目女』言われないためにも頑張らないと……!!」
という結論に至った。分かりやすくていいよね。ドライグ的にも満足のいく結論だったみたいで、愉快そうに笑った。
『そうだ、それでいい。お前はもっと我儘に生きるべきだ。誰彼構わず噛み付いて、己のやりたい様に邁進し、そしてたまに軌跡を振り返ればいい。…………これでも愉快に過ごしているのさ。新たなるドラゴンの成長を特等席から眺める。ちと腕っ節が足りないが、お前はどう動くか分からん見事なまでの跳ねっ返り、見ていて気分がいい』
……ああ、さっきは冗談で口にしてしまったけれど。傍若無人で、僕に厳しくて甘いコイツは。成程確かに、僕にとっては兄のようなものなのかもしれなかった。
◆◆◆
「あの、この流れなら目が覚めて〜……ってなるはずなんだけど」
『俺が知るか。……と言いたいが、二三言うことがある。神器関係でな』
意識が現実に浮上しない文句を言うと、思いもしなかった返答が来た。アレ、お前身動き取れなかったんじゃないの?
『その通りなのだがな、意識が表に戻ってきたタイミングである程度のことは把握している。時計が【怠惰】に組み込まれたこととかな』
「あ、そうだよ怠惰のこと忘れてたよ。アレ結局どういう効果なん?」
『分からん』
「使えねーなお前」
『はっ倒すぞボケナス』
まあそれは冗談にしても、効果が分からないというのは結構まずいこと……のハズなんだけど、ドライグはそれを重く受け止めていない様だった。
『ああ。あくまで直感なのだが、分からないことには意味があると思っている。知らない方がより効力を発揮できる効果なのだろうよ』
「知らない方がいい…………そんなことある?」
確かに『敵を欺くにはまず味方から』とは言うけれど、味方どころか自分を欺いてちゃなーんも分からんちゃんだぜこっちはよォ。
『それ以上に、お前の【怠惰】の性質が色濃く出てるのだろう。イッセー、お前は大事な選択や責任の在り処を他者に委ねることがあるだろう。いつかの時は『この命はもう僕のものでは無い』とも言っていたな?』
「ああ……選択放棄という意味で『怠惰』ってコト……」
となると『狂繰る廻る選択蜂起』というのは無意識から出たにしては的を得た表現だったのか。選択をしないから選択肢の方が蜂起した、みたいな……。
『故にその全貌を、俺達が把握しない方がいいのだろう。いずれ判明するかもしれないが……暴走状態の禁手化神器を取り込んだということからも、もしもの時の切札、と捉えておくべきだ』
「うん……ちょっとモニョモニョするけどそうした方が良さそうだ」
ではとりあえず『怠惰』の件は経過観察でFA。他には何かあるのかしらん?
『【傲慢】と【憤怒】はどうするのだ? 此度の件で器から漏れそうでな……下手をすれば発酵するぞ』
「発酵」
『発酵』
腐る……とは違うのか。発酵は自分に役に立つ腐り方でしかないとはいえ。しかしドライグが妙に人間くさい例え方をしたのが妙にツボって、頭の中に何故かパンを捏ねるドライグの姿が浮かんだ。……パン龍帝、アリかな?
『お前なぁ……ラーメン屋の店主なのだから、醤油とか麺とかあるだろうに』
「麺…………ああ、発酵させるのだと老麺とかあるのか」
『それにそもそもお前の好み的には発酵食品といえば納豆なのだろう? 何故先にパンが浮かぶのだ。どっちもやらんが』
「ですよね」
でもなんでかな、『パン』と『ドラゴン』の組み合わせがなんか妙に引っかかるというか……未来に何かありそうというか、警鐘が『ろくでもないことが起こるぞ……!』って凄い言ってるっていうか。
話を戻そう。元々埋まっていた器に追加でジョボジョボと中身が注がれたから、変質一歩手前ってことなのだろう。放置しておけばいざと言う時にその状況に合わせて能力を作れると思ってたし、今回図らずも『怠惰』の方ができちゃったから見送ろうと思ってたのだけど……早目に形にしないとダメか。
『案ぐらいは出してやろうか?』
「んにゃ……場当たりで作るんじゃなかったら、案自体はあるんだよ」
そう言って脳裏にその想像を浮かべる。するとドライグにも伝わったらしく、機嫌良く地面を揺らした。
『ハッハッハ! いつになくシンプルで直接的なアイデアじゃあないか! いいだろう、これなら両方ともすぐに形にしてやれる。これまでの様に神器に意識を潜らせる必要も無い』
「マジか、めっちゃ助かる」
コレが活かされることが無いといいけどな……と思うが、警鐘がナイナイ言ってるので多分役に立つのだろう。ガッデム。
『最後に…………禁手の兆しが見えたぞ』
「え、マジ!?」
順当にいけば最速でも一年……みたいなことを言われてたから、結構驚きがある。……とはいえ、まあ。神器の成長に必要な要素を考えると……
「納得と言えば納得か……今回僕の情緒ぐっちゃぐちゃだったもんね……」
『ああ、それにヴォーティガンが無理に俺達を裏返したことが効いている。要はガバガバになったということだな』
「大丈夫なんかよソレ」
そう聞くと一気に不安になってくるんだが……いやまぁ『禁手化』も神器のバグと言われればそうだから……まあいっか!!(思考放棄)
『だがすぐに至るというわけでもない。……あと一手、何かが足りない。それさえあれば何とかなるとは思うのだが』
「うーん……まあ、しょうがないさ。むしろ前進してるんだから前向きに捉えるよ」
最速で一年も先になるはずだった強化があと一歩でどうにかなるってんなら手放しで喜んでいいことだ。別にそれで努力をやめるわけじゃないからね。
『ともかく、だ。いい感じに手札も増えてきただろう。出力についても都合が着く。となれば……』
「ああ、そうだな」
◆◆◆
というわけで、今後の展望。というか目標。
積層装甲の【9枚目】を、完成させる。
◆◆◆
Next CHAPTER5:アウェイキング・オブ・ザ・ナインデッド
To be continued.
感想、評価等本当にありがとうございます。
励みになり過ぎてここまで来ました、100話って凄いですねぇ(実感無し)。
少し補足
神器症関連:穏当に解決する予定。恐らく初期型は腕輪型のアイテム、データが揃っていけば貼り薬の様なものになる。ともあれリュディガーさんやデュリオさんはにっこにこだろう。いいことをした。
冥界娯楽番組関連:ライダー系ヒーローの枠はギャスパーに、ここのイッセーには深夜系ロボアニメを担当してもらうことに。何故こうなったかと言うとシンプルにイッセーの装備にロボを追加したかっただけという。アンサーアームズ無くなったからね、仕方ないね。
ウォーレン関係:せっかくだからベリアル関連に救いがあってもいいじゃない、都合のいいことにそういうことをしそうな時計の悪魔がいた。
若手悪魔の集い:上司と狂犬大暴れ予定。サーゼクスさんの胃は死ぬ。
章題:『目を覚ませ』と『現実を直視しろ』のダブルミーニングかつ、次の章題に繋ぐ意味も込めてウェイクアップ。
改めて、この作品を読んでいただき本当にありがとうございます。色々あって11月中は普段の私からは考えられない更新速度で駆け抜けました。勢い任せのせいで、読み直すともうちょい手を加えられるかもしれない、と思うばかりです。
12月は更新できるか分かりません。師走とはよく言ったもので、年末に向けて仕事の方が死ぬ程忙しいです。休みどこ……???