兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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あらためまして、新年おめでとうございます。
こちら、正真正銘2025年になって書き始めた一発目です。


その3

 

 それからはまあ…………聞かれるままに、思いつくままに喋り散らかした。元々顔色の良くなかった彼女の顔は、最終的に青色通り越して土気色になってズゥゥゥン……と沈みこんでいた。

 

「わ、私はどうして…………」

「も、もしかしたら僕の考え過ぎだったり的外れだったりで間違ってるかもしれないし」

「先輩、良く言ってますよね……自分の思いつくことは誰にでも思いつくって……私でも思いつけたはずなのに……私だけは姉さんを信じていなければならなかったのに…………」

「んァー……」

 

 こうなると最早掛ける言葉は無い。何言っても沈みこんでいくこと間違いなし。うーんまずったな、もうちょっと伝えた方を考えなければならなかった。とは言え何もしないのはバツが悪いので、少しでも罪悪感を軽減できるように適当にでっち上げよう。

 

「……僕の妄想が正しければ、の前提なんだけど。今までの君の思考や状況はある程度お姉さんの思惑通りなんじゃないかな、とは思うよ」

「姉さんの……?」

「うん。逆の立場になって考えてみてよ。仮に君の方が姉で、自分達の力に目をつけられていて、自分はもう無事で逃げることはできないとなった場合、君ならどうする?」

 

 顔色が悪いまま、小猫チャンは思考する為に意識を遠くに向ける。何度か首の振り子が揺れた後、その答えは出た様だ。

 

「『妹だけは……』ということでしょうか」

「僕もそう思うよ。その上でネックになるのが二人の絆だ。今度はもしもの話を想像してみて欲しいんだけど、周りからの印象や話抜きにお姉さんのこと知ったらどうしてた?」

「……姉さんを、追っていたと思います。何かの間違いだって思って…………あ」

 

 ということだろうね。そうなりゃ仲良くまた放浪生活、今度は追手付きで前より状況は悪いと来たもんだ。小猫チャンからの信用を落とさないと、どう転んでも『事情があったに違いない』とか『姉さんのいない世界なんて……』とかいう理由で後追いするんじゃないかなって。となれば、お姉さんの『力に溺れてヒトが変わってしまった』という演技は酷く都合のいい一手になったことだろう。

 

「以前の姉は最早消えてしまったと思わせられる上に、一人殺せばあとは何人殺したって犯罪者なのは変わりはない。これ幸いと妹の幸せを邪魔するヤツらを始末できる。そして心苦しいけれど、ここまですれば妹は犯罪者の身内だ、風当たりが強くなることで自分を恨んでくれる。恨みはまあまあ生きる気力に寄与するからね、後追いのリスクを低減できる。だからまぁ、自分を不甲斐なく思う必要は無いんじゃない?」

 

 そうなると今度は悪魔側が怪しくなってくるんだが…………恐らく小猫チャンと部長には暗示か何かが掛けられてる。

 

「……私がそういう暗示をかけられるのは分かるのですが、リアス部長もですか?」

「あの上司、眷属のためなら割となんでもするだろ。血筋もそうだけど、祐斗クンの為に教会相手にして諜報活動してたしな。これがもし自分の眷属の姉が冤罪かもしくは嵌められて犯罪者になってるってなったら…………」

 

 容易に想像がついたので、揃って顔を青くする。場合によっては冥界相手に挑んで死ぬまであるので、暗示を掛けた何某…………多分サーゼクス様と僕は見てるが、かなりのファインプレーだと思う。

 

「……なので、部長はこの件を聞かなかったことにした方がいいかと思います。歯痒いでしょうが、機を待ちましょう」

 

 虚空に向かって声をかける。小猫チャンはなにしてんの? と訝しむ様子を見せたが……

 

『焦れったいけれど、仕方ないわね……』

「……え、いやあの。部長、聴いていたんですか!?」

 

 どこからともなく声が投げられたのでやっぱり聴いてたなとなった。多分家自体にそういう仕組みがあるのかもしれない。流石に各々の自室にはそんなことはないだろうけど…………いや、僕の自室は部長の部屋とつーつーになってンのか。プライバシーはどこに行ったんやら。

 

「多分最初っからは聴いてないと思うけど、僕が危ないことしてたら聞き耳ぐらいは立ててるかなって」

「…………歪んだ恋愛関係」

 

 失礼だな。信頼はしてるけど信用してはないだけだよ、互いにね。

 ……しかしまずいな。妄想妄想と口にしてるが、警鐘がそれを否定してこない辺り、大きく的外れな考えではないのだろう。場合によってはVS小猫チャン姉も有り得そうな気がしてきた。

 

「まあだから必要以上に凹むのは無しにして、ここから先に目を向けるべきじゃあないかと思うわけだよ僕は」

「ここから先?」

「お姉さんの真実がどうであろうと、僕らが力をつけるのは必須だ。恩赦を得られるようにするにも、狂ったお姉さんと対峙するにしても、だ」

 

 結局のところ、パワーがものを言う世紀末社会なのには変わりないからなぁ裏側。

 

「でも、今の私は……」

「いやぁ、そう凹むことはないよ。だって話す前と今じゃ前提が違うじゃないか」

「!」

 

 遠回り……とは違うけれど、コンプレックスの源泉を辿るために少し時間を掛けたが、思わぬ方向で問題が解決したかもしれない。いや、彼女の才能に対してどうアプローチすればいいのかは分からないけれど。そこは頼りになりそうな堕天使総督も居るってェわけで。

 

「それにさ、仮に小猫チャンが力に溺れそうになっても見捨てない連中しかいないでしょ? 安心して訓練すればいいと思うよ。もちろん、僕だってね?」

「……自己肯定感が上がるから?」

「今そこ掘り返す!?」

「冗談、です。……本当に、ありがとうございます先輩」

「いいってことよ」

 

 力になれたようなら、これ程嬉しいこともない。そうニコニコしてると、ふとここに来た本来の用事を思い出した。

 

「あ、なら僕の訓練にもほんの少し付き合ってくれないかな? 実は神器の新技が二つ出来上がってサ」

「そういうことなら喜んで。…………えっと、使って大丈夫な技なら」

「し、信用ねェ……」

 

 なお、小猫チャンからの感想は『効果より使用場面の想定に性格の悪さが滲み出ている』であった。解せぬ……!!

 

 

◆◆◆

 

 

「お前、除湿機で生計でも立ててるのか?」

「開口一番何わけのわからんことをほざいとるんですかアザ公」

 

 翌日の正午、談話室にて。冥界帰省の打ち合わせを部長、朱乃サン、僕でやっていると『おっ、やってるかい?』みたいな個人居酒屋の暖簾をくぐる位のノリでウチやってきたアザゼル総督が見回すように視線をあちこちにやった後、そんなことを言ってきた。

 

「ま、それでお前が湿気って腐ってりゃお話にならねぇんだが……今のところ問題はねぇか。ともかく空気が改善したなりゃ結構結構。俺も指導に気合いが入るってもんだ」

「…………独特な表現ですケド、小猫チャンの精神的不調には気がついていたと?」

「ああ、それとなーく朱乃にもお願いされていたしな」

 

 へぇ、朱乃サンが。チラりと視線を向けるとにこりとアルカイックスマイル。ありゃアザ公にキレてンな。

 

「少々馴れ馴れしくはありませんか、アザゼル先生」

「いいじゃねぇか、生徒と教師の範疇だ。それに、『堕天使総督』としての俺ではなく『教師』としての俺に助力を乞うたのはお前だろう」

「…………そう、ですわね」

 

 こりゃ一本取られたと笑みに苦さを滲ませつつも雰囲気が和らぐ。……えーっと、個人的に関係があったりする、のかな?

 

「以前イッセーくんにも少し話したわよね、私の出自について」

「はい、確か朱乃サンは元々ハーフ堕天使という話を。それでなんらかの密約を交わして部長の眷属になったんだと推測してましたが」

「ええ、大正解。お兄様立ち会いの元で密約を交わした相手こそ、そこの総督。だから面識自体はあったのよね」

「そういうこったな」

 

 ふぅん、そんな繋がりが。…………ちょっと待って欲しい。裏取引に総督が出張って来るような朱乃サンの出自is何???

 

「ああ、イッセーくんにはまだ言っていませんでしたわね。忌々しいことに、私の血縁上の父親は堕天使バラキエルなのです」

「…………なんかもう、一周まわって驚きが鎮火しましたよ」

 

 堕天使の中でもビッグネームの一人、『神の雷光』を意味するとされるその名前。グリゴリの幹部堕天使じゃねぇか。……あの、部長。色々正気ですか?

 

「正気だったら貴方も眷属に転生させてなかったかもしれないわね」

「じゃあ部長のSAN値が逝ってることに感謝しときましょう。…………ああ、それで朱乃サンのメイン武器が電気系の魔力操作なんですね」

「あまり私としては嬉しいことではないのですが……。とはいえ、いつまでも足踏みはしていられませんから。利用できるものは利用します」

「…………成程、以前言っていた折り合いをつける為の一歩ですか」

 

 状況から……というかモロに朱乃サンと小猫チャンの境遇は被っていた。自分の出自、身体に備わった力を嫌悪していた。だから自分を重ねてアザゼル総督に話を通したのだろう。

 とはいえ堕天使のことを自分の中で消化し切れず憎んだままだから、アザゼル総督を『堕天使』ではなく『部活の担当教師』として頼ることにしたと。詭弁かもしれないけど、こういう割り切り大事だからね。できなかったから病んだ僕がいたわけだし、わははは! …………あ、待って待って影がざわめいてる、頼むから出てくんなよガン子。

 

「……全く、ガキの成長ってのは早いもんだな。すぐ自分の手を離れていっちまう」

「しみじみしてるところ悪いけど、そもそもアンタ何の用事で? 大方引率の先生役辺りでしょうケド」

「話が早いことは悪くねぇが、もうちっと感傷ってもんをだな…………ああ、そういうことだよ。今日の夜向こうに出発すんだろ? 俺も同行することになったんだ」

 

 おや、当てずっぽうだったのに大正解だ。…………この勘の良さはやっぱ、お⬛︎様(オーフィス)に繋がってるせいなんだろうか。正解の音は鳴るし『心配しなくてイイヨー』みたいなこと囁いて来るし、コレ放置しない方がいいと思うんだよね。今は言えないけれど。

 

「あまり大っぴらには言えないが、恐らくレーティングゲームをするのは決定事項だからな。向こうでビシバシと鍛えてやる必要ができたってわけだ」

「それ、本当に? 同盟締結にテロリスト集団『禍の団』の存在。鍛える必要はあるとは思うけれど、我々がゲームに興じている余裕は無いはずよ」

「頭が少し硬いなリアス。俺から言わせればだからこそ、だ。お前らなら分かるか?」

 

 話振ってくるなよ面倒だなぁ。なんか急に先生みたいな挙動するじゃん。先生だけど。

 

「『テロリスト如きに振り回される冥界ではない』というプロパガンダでしょうか? ただでさえ同盟で揺れているでしょうから」

「僕もそう思いました。あとは民衆のガス抜きも兼ねてンじゃねぇかと。ローマの闘技場がどんな使われ方したかって思うとそんな気がしてくる」

「その辺だろうな。いやぁ、いい右腕に彼氏じゃないか。足りない部分を補うのは、何も腕っ節だけじゃないからな」

「そういうアナタは大概シェムハザに丸投げでしょうに……全く」

 

 毒を吐く朱乃サンに同調するように頷く。見えてる部分が全てとは思わないけど、基本このヒト趣味人だし面倒な仕事はある程度周りに投げまくってる印象があるよ。じゃなきゃ頻繁にウチ来れねぇしそもそも人間界に常駐とかできんでしょ。

 

「それで回ってんだから、グリゴリはそれで正解ってことだ。組織の在り方の正解も星の数ほどあるってな。ともかく、自然に若手を訓練するお題目として便利なツールだからな、レーティングゲームってヤツは。現魔王の連中は案外、こういう状況を想定して創ったのかもしれねぇな」

 

 うーんどうかなー……いや、全く想定してなかったとは思わないけど、このゲーム最初に作ったの平麺サンだからなァ。ぜってぇ最初は趣味とかだぜ。それにゲームの運営権自体はぶん取られてるって言ってたし、その辺の思惑は色々混ざりあってるんじゃないかなぁ。……いや、それが分からない総督じゃないか。教材として使うならこの辺りが妥当って線引きかもしれない。

 

「ところで、お前ら三人で雁首揃えて何してんだ? 雰囲気的には打ち合わせって感じだが、今回はそんなガチガチに準備が必要ってわけじゃないだろうに」

 

 その疑問に、三人で頭を悩ませる。ことがことだけに、迂闊に別陣営の頭に言っていいものか…………。

 

「……どうしようかしら。私としては話してもいい気はするわ。味方につけておいた方がいいでしょうし」

「私も賛成です。精々うまく扱き使ってあげましょう」

 

 などと感じていたのは僕だけの様であった。うーん、この女悪魔共。都合良くアザ公を利用するつもりだぞぅ。

 

「はァ……運が悪かったですね、アザゼル先生。まあ早いか遅いかだけの違いでしょうが」

「……猛烈に嫌な予感がしてきたから一旦自分のねぐらに、」

「「「ディハウザー・ベリアルの完全な引き抜き工作の計画をしていました」」」

「畜生逃げきれなかった!!」

 

 爆弾を落とされて頭を抱えるイケおじの姿に、僕は十字を切ったのだった。アーメン……痛っ!?

 

『そもそもお前は強制的に爆心地に飛ばされるのだがな』

 

 現実逃避はさせてくれよ相棒!!!

 




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