兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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お久しぶりです、更新が遅くなって申し訳ありません。
えー、1月はくそ忙しく、諸事情で2月もくそ忙しいので今月これ以上の更新ができるかは怪しいです。コンプラ的なあれこれで説明できないのがもどかしい。


その4

 

「うっひゃあ、すっげぇなオイ」

「こ、これが噂のシンカンセンですか……」

「違うわよ、グレモリー家専用の列車だから」

「余計に凄いという感想しか湧きませんわなァ」

「(コクコクコク)」

 

 時刻は夜21時、さぁ早速冥界へ帰省だ! というところで案内されたは駒王町唯一の駅。私鉄だしこの町にある駅ってんで流石に部長の息が掛かってんだろうな……なんて思いつつなすがままに案内されたらいつの間にか地下深くの謎のホームに案内された件。まだ冥界に行ったことないよコンビを組んでるアーシアと並んで口をポカンと開けた。

 これ、個人所有? 家所有? どっちにしてもすんげぇなぁ。ホームに停まってる列車は、アーシアが新幹線と勘違いするのもやむ無しな流線型フォルムかつイカつい見た目をした紅い車両。確かに見覚えのある悪魔の文様が刻まれてるのでそういう列車なのは分かるけども…………。なんか変形してロボになってもおかしくない造形に思える。世の中にはそういうロボアニメもあると言うし、ここは一つ上司殿かサーゼクス様にお願いをするのも手かな?(完全な自分の趣味)

 

「あら、じゃあ好きに作ってみる? 色々な宣伝に使えそうだし」

「与太を真面目に返すんじゃあないよこの女悪魔。もうヤダこのヒト怖いよ助けてアーシア……」

「うーん……イッセーさんがそれを言うと、ちょっと」

 

 暗に『お前も同じ穴の狢』と言われた件。イッセーくん泣いちゃう。

 

「とはいえ冥界の列車事情は知っておいてもいいのかもしれませんね。日本だともう結構な頭打ちで夜行列車はほぼほぼ引退に追い込まれてますが、冥界ならあるいは」

「意外と似たようなものよ、転移魔方陣がある時点でお察しね。とはいえ金持ちの道楽方向に振り切るならまだまだ掘り進められる分野かもしれないけれど」

 

 なーんだ、残念。まあそうそう美味しい話は転がっちゃいないか。今までがおかしかったんだよ、うん。

 しかしとなると、このご立派な列車の需要って正式に冥界へ転移するとか見栄とか以外の理由ってないんだろうか? 勿体ないとは思いつつも、そういうの大事なんだろうなと一人で納得する。何事も、己に見合った身嗜み。

 

「さ、あまりダラダラしているとアザゼルに怒られちゃうわ。こっちにおいで二人とも、ここの魔方陣に二人の魔力を登録しないと」

「「はい、部長」」

 

 そんなこんなで諸々の準備手続きを終え残りのメンツと合流。部長は先頭車両の方に行っちゃったが多分当主専用車両とかそんなのだろう、多分。僕らも専属駅員と思わしき方に促されて乗車する。

 …………中も中で凄まじい。列車という概念に喧嘩を売ってるかの様な広さと豪華な内装。車窓がなければ一流ホテルのラウンジかと思うくらいだ。あまりのブルジョワ空間に僕は胃を痛め、アーシアはふらりと目眩を起こしていた。他の面々はどうやら慣れたものらしく、思い思いに己の定位置を決めて座っていく。…………おいギャスパー。隅っこでダンボールの中に入るのはいいんかソレ。

 

「……僕さァ、家である程度耐性がついたと思ってたんよ。やっぱダメだわ、想像を超えてきやがる」

「イッセーさん、なるべく隅っこに行きましょう、隅っこに。このままだとキャパシティを越えてしまいます……!」

 

 ふらふらと吸い寄せられるように隅っこの方へ。それでも細部にまでこだわったのだろう内装が目に入って精神的に追い詰められそうになるが、それでも気分はまだマシだ。……ギャスパーみたいにダンボールで縮こまるまではしないけれども。

 

「まったく僕らの人生どうなってんだろうね、悪魔だけど。春先から人生の芸風が180°大反転」

「そうですねぇ……私もこうなるとは思ってもみませんでした。とはいえ酷い扱いを受けるものだとばかり」

 

 それは確かに思ったよねぇ僕も。悪魔の下僕だぜ? 人間の魂奪うために馬車馬の如く使い潰されて墓場に沈むとか想像しちゃったもん。まああながち間違った想像じゃあないんだろうけどね、僕たち上司ガチャSSR。…………別の意味で墓場にはぶち込まれてるかもしれないが、余計なことを考えると上司がやってくるので振り払う。

 

「それで、アーシア的に最近どう? 困ったこととか諸々」

「直近だと、兄のように思ってる困ったさんが悩みを打ち明けずに暴れたことぐらいでしょうか」

「うっ……言うねェ……」

「私も学びましたので。イッセーさんなら、こうして正直に言った方が後ろめたく感じなくて済むんでしょう?」

「うーん、まあそうか。でもアーシアに対しての後ろめたさは実の所そんなにないんだよね、もう」

「嘘、基本的にネガティブ思考なイッセーさんが!?」

「口押さえて驚くことかなぁ!?」

 

 実際ずっと引き摺っちゃいたし、あの元ホームレスシスターズが古巣に帰っていったのを見て『上手く立ち回ればな』とか思わんでもなかったさ。とはいえそれでも、もう引き摺る必要も無いのかなとは思ったんだよ。それは別にアーシアを軽んじてるワケじゃなくてね。

 

「ほら、二人でミカエルさんに会いに行ったじゃない? アスカロンの件で」

「はい、まさかあのミカエルさまにお会いできる日が来るなんて……と、恥ずかしながらはしゃいでしまって……」

 

 あの程度ではしゃいでるとは言わない……というかめっちゃ落ち着いてる風だったけど実際意外と感極まってたのか。まあそらそうか、転生したとはいえほぼほぼ現役信徒みたいなもんだしなアーシア。そうなると逆に凄いなこの子の自制心と表情筋。

 

「ンで、まあ。ほら。言ってたでしょ。後悔はしてないって。それを僕や部長じゃなくてミカエルさんに言ったんだから、ああ本当なんだなって」

「…………」

 

 別に今までも疑っちゃあいなかったけれど、強がり成分があるかどうかは思ってたんだ。……あのまま堕天使の一派に引き渡していた場合の末路を考えると間違った判断ではなかったと思うけれど、それはそれってね。

 

「なんでこれ以上負い目を感じるのは逆に失礼っていうか、『間違ってる』って思った。僕を家族のように思ってくれる君を、同じように家族のように。だから遠慮の類はやめた。常識の範囲で気は使うけど、そんなのどんな家族でも同じだろ?」

「……イッセーさんって本当に困ったさんですよね」

「知ってる」

 

 今にして思うけれど。アーシアの言葉に時折棘があったのはそういうことだったんだろうなって。かつていた場所で壁を作られて接されたように、僕が負い目という名前の壁を作って接してきたら気分も良くないだろう。意識的か無意識的かは分からないけれど、そんな遠慮なんてしなくてもいいという感じの、ほんの僅かな…………なるほどなるほど。

 

「……私、何かおかしいこと言いましたか? ほんのちょっぴり怒ってるんですけれど」

「え、いやなんで」

「だってイッセーさん、笑ってるから」

 

 ぷんすこなんて擬音が聞こえてきそうだな、なんて思いながら自分の口に触れると……確かにつり上がっていて。ふぅむ、これは。

 

「なるほど…………なるほど、なるほど。うん、僕は謝らんぞ! アーシアが可愛いのが悪い!」

「どーしてですかぁ! 私、イッセーさんのそういうところ嫌いですっ!」

「あっはっは!」

 

 こうして一つずつ、一つずつ宝物を増やしていくのだ。ヒトも、物も、思い出も。そして僕はそれを守るために全身全霊を費やす。兵藤一誠というドラゴンは、そういう生き方をしよう。きっとそれが僕にとっての正解なのだ。

 

 

◆◆◆

 

 

 いつの間にか僕はでっけぇお城の前に立っていた。

 ……いや、ちょいちょい記憶はあるんだ。ぷんすこアーシアのご機嫌取りをしたり、ブルジョワ空間に慣れてきた頃合で全員とお喋りに興じたり、目の下に隈を作ってるアザゼル先生に詰められたり、入国手続きの関係で車掌のレイナルドさんに挨拶したり。そこまでは確かな経験として記憶にあるんだけど、そこから先が酷く曖昧というか衝撃的というか。その件について、僕は隣でニコニコしている女悪魔を問い詰めなければならない。

 

「部長、部長」

「なぁにイッセー。今から屋敷に入るのだから手短にね」

「じゃあ単刀直入に。…………『若様』って何!!?」

 

 今までもそんな胡乱な呼び方されたことあったけどさァ!? もう外堀は埋めたとか言ってたけどさァ!? まさか既に領民の皆さんとかに僕が認知されてると思わないじゃん!!?

 列車からホームに降り立った時にパレードもかくやとばかりの歓声をもって迎えられ、ああ部長はもう筆舌に尽くし難い程のお貴族様なんだな、って思ったら急に僕が当事者になるんだもの、びっくりしたよ!!! 脳が動き出す前に部長に促されてあれよあれよと並んで馬車に座らされて手を振らされたんだけど!!! 何!? アレ何!!?

 

「話はもうちょっと穏当に進めましょうって言ったじゃないですか!!! 話が違いますよ!!!」

「悪魔に主導権を握らせるからこうなるのよ。今更貴方が逃げるとも思わないけれど、縛る鎖は幾つあってもいいでしょう?」

「手際のよろしいことですね!!?」

 

 場所が場所だけに、ヒソヒソと大声で叫ぶ羽目になったが、そうでなければ過去最大声量をもって喉を焼いていたに違いない。ダメだ、現実を受け止め切るには少し僕の脳の処理が追いついていない……!!

 

「というか何故に好意的!? 現状僕はどこともしれん馬の骨ですよね!?」

「ああ、馴れ初めは脚色を加えてそれとなく流しておいたわ。いい感じに受けも良くて一安心ね」

「手際ァ!!!」

 

 というかコレあの焼き鳥野郎も噛んでやがるな!!? ちくしょう、空に『私がやりました』の生産者表示がピースサインと一緒に浮かんでくるようだいっぺん殺す!!!

 

「というか貴方の心配事なんて大方その辺だろうと思っていたのよ。先んじて潰しておいたわ」

「そういや似たようなこと学校でもやってましたねアンタ……!」

 

 想像できなかったこちらの落ち度とばかりに胸を張ってくるのでガックリ肩を落として白旗を振る。僕は一生このヒトに勝てんのだろうなぁ……。

 

「んんっ。よろしいでしょうか?」

 

 小声とはいえ漫才やってりゃそりゃバレるよな。なんかメイド隊筆頭みたいなツラして駅からここに至るまで案内してくれたグレイフィアさんが咳払いと共に注意をしてきた。いかにも私メイドですよという顔をして(実際そうなのだが)、その正体は魔王サーゼクス様の奥さん…………僕が目指すべきはこのヒトなのかもしれん。強くそう思った。

 

 何はともあれ案内されるまま深紅のカーペットに沿ってテクテク歩く…………うぅ、列車で身につけたブルジョワ耐性が剥がれつつあるのを如実に感じる。なんで建屋の中に門があるんだよ、デカすぎんだろ……。

 何度目か分からない、胃がきゅっとなる感覚を覚えたところで最後の門をくぐり抜け……おそらく玄関ホールと思しき空間に辿り着いた。前方には二階に繋がる階段、天井にはシャンデリア。RPGなんかで出てくる国のお城なんかの入口でしか見たことのない壮大な空間だが、実際に目の当たりにすると『運動会でも開けそうだな』なんていうアホの感想しか出てこなかった。現実逃避である。

 そんな感じでぽけーっと意識を中に飛ばしていると、玄関ホールで控えていた執事、メイドさん達の列の中から小柄な影が飛び出してきた。

 

「リアス姉さま、おかえりなさい!」

「ええ、ただいまミリキャス」

 

 紅髪の可愛らしい美少年…………なるほど、彼が噂の甥っ子のミリキャスくん、ということか。サーゼクス様もグレイフィアさんも美形だから、そりゃあ生まれる子供も美形だわなという至極当たり前の感想だ。

 しっかしまあ仲のいい姉弟なことで……(正確には叔母と甥だが)。飛び出してきたミリキャスくんは部長に抱き着くし、部長は部長でそれを聖母か何かのような眼差しと共に抱き締め返すのだから。素晴らしきかな家族愛。絵になるなぁ、眼福眼福!

 

「……何家族の輪を外から眺めてるのよ。あなたも『家族』よ」

「唐突なファミパンにイッセーくん裏返りそう。……ともかく。部長、その方が」

「ええ、お兄様の子供。私の甥のミリキャス・グレモリーよ。ミリキャス、この子は私の新しい眷属のイッセーよ」

 

 促されたのでなるたけ丁寧な所作を心掛けて頭を下げ、自己紹介。

 

「お初にお目にかかります。自分は兵藤一誠、リアス・グレモリー様の『兵士』であります」

「はじめまして一誠さん、ミリキャス・グレモリーです。噂の一誠さんにお会いできて光栄です!」

 

 うーんいい意味で育ちの良さが出てキラッキラしとるな……擦れてないっていいよね、うん。『噂の』にはつっこみませんが。つっこみませんよ、つまんなさそうな顔するんじゃあないよ上司殿。

 

「さて、予定が押してるから簡単にお父様とお母様に挨拶をしておきたいところなのだけれど」

「予定、ですか? 暫くはお家に滞在すると聞いていたんですが」

 

 しゅんとした様子のミリキャスくんを見てちょっと申し訳なくなる。ごめんよ、上司殿を忙しくさせちゃったの僕なんだよね……でも対応しないわけにもいかないし……。

 

「旦那さまも奥さまも所用で外出中です。夕刻までにはおかえりになる予定ですので、夕餉の席でお顔合わせをしたいとのことでした」

「そう、わかったわグレイフィア。そしたら私達もそれを目標に話を着けてきましょう。皆は一旦、それぞれの部屋で休んで貰っていいかしら」

「「「はい、部長」」」

 

 …………それじゃあ、頑張るか。未来の僕らが安心するための一手を打ちに。

 

「グレイフィア、私達はこれからウォーレン・マリソン氏の『女王』……ホートン氏に会ってくるわ。例の件でね」

「……承知しました、ご武運を」

 

 さてさて……皇帝への手土産、どう飾り付けたものかねェ?

 




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