酷いオリチャーを挟むことになったので急遽更新です。どうしてこうなった。
「待っていた。あのバカが見初めた大バカ野郎は貴様だな」
「「……………………」」
隠密を重視して移動は転移魔方陣で。向かった先は木々が生い茂るジャングルの中の小さな小屋。そこがあの時計野郎の女王であるホートンさんのねぐら。出迎えてくれた彼は、酷く痩せた偏屈ジジイといった風体。妙に白い肌と右眼の位置に着けた眼帯が目立つが、悪魔ファッションかもしれないので突っ込むのはやめておこう。……開口一番酷い言われようだが、このヒトもあの野郎にぶん回された側だと思うとそりゃそうもなるか。
「いやちょっと待ってください。証拠になるもの見せてないっていうか」
「アイツが準備していた貼付を使ってやり取りしてたろう、今更疑う余地もない。もっとも会って確信は深めたがな。秒針の音と少しの空間の歪み。『時計』は確かにそこにある、だろう?」
「……そういう神器か能力をお持ちで?」
「ないな、ただの慣れだ」
怖いなぁ、慣れ。だってこれ、『老いぼれを見たら【生き残り】と思え』云々と同じ類の存在だよね。だってずっと『気を抜くと死ぬから可能なら逃げて』って警鐘が鳴ってるんだもの。…………ああ、うん。あの危機感のありそうで無さそうなお人好し悪魔が生きて来れたのも分かるわ。
『失礼だな。まあかなり彼に負担を掛けてしまったのはその通りなのだが』
「…………今、アイツの残留思念が変なことを言ったんだな」
「だからなんで分かるんですか!?」
「年の功という奴だな。……なにボサっと突っ立ってる。さっさと入りな、客を立ちっぱなしにさせる趣味はない」
とりあえず促されるままに小屋にお邪魔する。…………なんだこのキッチンとテーブルと物置しかない内装は。しょっぱいコテージでも流石にもう少し充実してるぞ。
「俺が生活する分にはこれで十分だからな。お前ら、コーヒーは飲めるか?」
「ええ」
「い、一応……」
促されるままに簡素な木製テーブルに着き、キッチンに向き合うホートン氏を背中から眺める。……豆から炒ってるのか。僕コーヒーの善し悪しなんてまるで分からないんだけど。
そんなどうでもいい不安をよそに、彼は手際良く作業を進めていく。湯気と共にコーヒーのいい匂いがした…………と思いきや、冷蔵庫から何かをカチャカチャと取り出した。
「お待ち遠様。食え、そして飲め」
「ありがとうございます」
「ありがとうござい……え、えぇ……?」
コーヒーと一緒にお出しされたのは、シンプルなベイクドチーズケーキであった。いい感じに焼けたそのビジュアルからは美味しそうという感想が湧いてくる……くる、のだが。これを壮年のイカついおじいさんにお出しされたという状況が脳をバグらせる。
「安心しろ、毒の類は盛ってない」
「そこの心配はまるでしちゃあいないんですが……」
「! イッセー、このチーズケーキ美味しいわよ! ウチのシェフに匹敵する腕前ね……!」
「ああもう既に堪能してる……」
思わずといった様子ではしゃぐ上司に内心で苦笑しつつ、自分も恐る恐るケーキにフォークを差し込み、一口切り取って口に入れる。……うん、美味しい。濃厚なチーズの味わいとレモンの酸味がバッチグーである。これにコーヒーを少し飲んでみればいい感じに口内が幸せだ。
こうなるともう止まらない、ケーキを口に運んではコーヒーを飲み。気がつけば皿と器にあったケーキとコーヒーは無くなっていた。
「美味しかった……」
「そうか、なら良かった。こちとらまともな趣味は料理しかなくてな。機会があれば誰彼構わず問答無用で振舞っている」
「問答無用って…………もし拒否したらどうするんですか?」
「言っただろう、問答無用だ」
ヒェッ、と口から小さな悲鳴が出た。なんだこのもてなしヤクザ。
「ああ、グレモリーのお嬢さん。俺はこれを仕事にするつもりはない。だから勧誘は止してくれ」
「むぅ……恐ろしい程の観察眼にこの腕前……。勿体ない、と思うのは失礼でしょうか?」
「過分な評価だ、嬉しくは思うがな。……さて」
佇まいが直り、まるで刃が空気を切り裂いたような凛という幻聴が耳を貫く。警鐘が、より強く命の危機を訴えてくる。殺意も敵意も無いはずなのに、今までで一番死に近付いてる気分がする。
「知っての通り、俺は八重垣正臣とクレーリア・ベリアルの世話をウォーレンから命じられていた。来るべき日……あの二人の安全が確保できるその日まで、如何なる刺客も、障害も跳ね除けよと。その仕事を俺から引き継ぐように、というのがあのバカ野郎の遺言……ということだな?」
「ええ。私の『兵士』の中にいるウォーレン氏が嘘をついていなければ、なのですが」
「嘘じゃないだろう。アイツは俺との約束を守ろうとしただけだ。死んだ以上、自分に縛り付けたくはないんだろうさ。完遂するまでは別に構わなかったんだが…………まあ、それはいい」
溜息と共に、彼は目を瞑った。何を思っているのだろうか。おそらくは…………いや、無遠慮にデリケートなところを妄想するのは良くないか。
「ともかく、そのことに否は無い。これで肩の荷も降りる。……だが、いくつか条件を」
「条件、ですか?」
「ああ。だが難しいことを頼むつもりはない。一つは正臣の悪魔への転生。それはお嬢さんの方に伝えてはいたが」
「ええ。八重垣正臣さんが嫌でないのなら、こちらこそ願ったり叶ったりですわ」
え、それ僕聞いてないんだけど。いつの間にそんな話になってるのよ。
「あなたに話をすると絶対拗らせるでしょう? 私に駒を使わせるのを申し訳なく思って将来の自分の下僕にする前提で、って言い出しかねないもの」
「今からそうしてもいいんですが……」
「あら、ほぼ決まりの話を覆すほど野暮な男だったかしら?」
いや、割と野暮天ですよ私ゃ……と過去の悪行、具体的にはライザー氏と戦ったことを思い出す。だが今ホートン氏の前で揉めるのは……ちっ、命拾いしたな。
「仲のいい主従なこったな。まあヤツが悪魔に転生できるならなんだっていい。問題は次だ」
ごくり、と生唾を飲み込んだ音が響くがそれも仕方ないだろう。殺意……とも違う、首を冷やして止まない何かがより洗練されて僕らを襲ったのだから。何が恐ろしいって、これでも敵意がまるでないことだ。もうこの男の生態がそういうものだと思うことにする。
「俺を、皇帝ディハウザー・ベリアルに会わせて欲しい」
張り詰めた空気の中で、時計の悪魔の残留思念だけが『やれやれ……』と首を振っていた。
◆◆◆
「別に大した理由ではないのだがな」
そう前置きしてホートン氏は空になったコーヒーカップにおかわりを注いでくれる。だが、部長と僕の表情は険しいもの。それもそうだろう、こんな物々しい雰囲気をした男を、これから自陣営に引き込みたい相手に会わせるなんて……余程能天気でもないとゴーサインは出せないだろう。おそらく善人寄りの感性をしていることは警鐘から把握しているけれど、こんなヤツ連れていったら勘違いされかねない、というのが僕の率直な感想だ。部長も似たようなことを考えていると思う。
「俺は……あー、こう見えても戦うのが三度の飯より好きなんだ」
「いえ、多分誰もそれを疑わないと思います」
「そういうオーラがビシバシと」
「……うん? そうなのか」
それはもう、うん。只者じゃないオーラがビシバシと。
「だから恩を売ってあの皇帝とあわよくば一戦交えたいと思っていた。以上だ」
「想像以上にシンプルな理由ね…………イッセー?」
「……嘘は、ないみたいですね」
本当にこれ以上の理由はないみたいである。うーん、新たな戦闘狂がポップしてきたな……僕こういうの相手にえらい目あわされて来たからちょっと身体が後ろに引いちゃう。
「しかしそうなると疑問があります。悪魔社会にはレーティングゲームが存在します。段取りを踏めばいつかは皇帝と戦う機会もあったのでは?」
「確かに!」
部長の言う通りだ、僕はレーティングゲームのシステムを完全に知ってるわけじゃないけど、勝率を上げていけばいずれは……と思う。警鐘も併せた直感だが、多分このヒトはそれができる悪魔だ。
「ウォーレンがそういうのに興味あると思うか?」
「うーん……無いでしょうね……」
言っちゃ悪いがあの野郎は貴族同士のお遊びに興じるぐらいならその時間を人助けに費やしそうな気がする。お前本当に悪魔なのかよ。
『我欲に忠実と言い換えれば実に悪魔だと思わないかねキミ?』
そういうこっちゃないんだよなァ……。
「しかしそうですね……これは僕の直感なのですが、あなたは誰かの言うことに粛々と従うような、そんなタマでは無いと思うんですよ。やろうと思えば幾らでも手はあった……ような気がします」
「直感? いいや、確信しているだろう。ずっとお前は何かを聴いている。何処ぞの誰ぞにでも魅入られたのか? …………まあ、今気にすることではないか。ああそうだ、俺はウォーレンの意向を無視して動くことだってできただろう。別にアイツとの契約でそういうのを縛られていた訳でもない。基本的にアイツからの命令は、その実『お願い』だ。それがタチが悪いってのもあるんだが」
すんごい観察力……年の功じゃ済まないだろ、コレ。ともかく警鐘による囁きはホートン氏自ら肯定した。ふぅむ、コレはウォーレンが彼の脳味噌でも焼いたのか? みたいな話になるんだが……微妙に反応が鈍いな。そういう訳じゃないのか、
「身も蓋もない話をするなら、命の恩だ。俺が悪魔に転生することとなった理由に、死にかけていたというのがある。頭の右半分ぐらいごっそり持っていかれてな」
「ヒェッ」
「流石の俺も、流石にもうここまでかと思ったな。まあアレと死合って死ねるのなら本望、とも思わんでもなかったからそのまま死ぬでも良かったんだが」
…………あの、何故に僕を見てウンウン頷いてるんでしょうか? 警鐘も『危険! 危険!』ってずっと言ってるし、ドライグの唸り声も聴こえてくる。
「だから転生した時に、命を拾って貰った時に、俺は一つの制約を自分に科し、それをあのバカに宣誓した。『主人ウォーレン・マリソンが死ぬその時まで、俺はお前の剣である』と」
「なるほど……」
「まぁ、それもウォーレンが老い先短い身だったからという身も蓋もない理由があったわけだが。あの野郎、俺が転生した時点で既に寿命が100年あるかないかだったからな」
アイツどんだけ寿命削ってたんだよ、怖ぇよ。でも人間の寿命で考えたら長生きしただろう? みたいなことを言いそうで嫌だ。
ともかく、本性はちょっと分からないが義理堅い性格をした戦闘狂なのは分かった。自分の方は問題ないように思うのだが……部長はまだ少し決めかねている様だった。
「何を悩んでいる。お前らだってあれこれ言いつつ、アイツらを政治的に利用しようってハラだろう? それを俺は否定をしたり咎めたりはしない。が、なら俺だって好きなようにやらせてもらいたい」
「いえ、あなたの希望にはなるべく沿いたいとは思っているので、必ずやディハウザー・ベリアル氏からアポイントメントを勝ち取ります。ですが……」
そう言って部長は眉間を揉んだ。何が問題なのだろうか……ちょっと僕には想像がつかない。
「タイミングが悪いと言いますか、今ディハウザー氏に何かあると困ると言いますか……」
「ふむ」
ああ、なるほど。ちょっと時期が悪いのと、周りに気取られたくないって話なのか。確かに和平がなったこのタイミングで大きく動けば酷く注目を浴びてよからぬ想像をされたりもするか。実際ディハウザー氏の引き込み作戦はなるたけ秘密にしていきたいという部長ないしサーゼクス様の意向だから、実際の力関係はともかく万が一ディハウザー氏が大怪我でもなってフェニックスの涙でも癒えない後遺症とかなったりでもしたら……。
多分、部長は……少なくともレーティングゲームで戦う彼の姿を見たことがあるのだろう。だから『もしかしたら』という想像が頭を過ったに違いない。確かに……それに足る存在感は今なお放っているわけだし。警鐘うるさい。
「なるほど、政治の話か。そういうことなら飲んでやらんでもない。世捨て人に片脚突っ込んでいる俺ですら、今の世情はきな臭い物を感じるしな。それに話を着けたからと言ってすぐに戦えるとは思ってもいない」
数十年単位で待ったわけだしな、とコーヒーを煽る姿に二人でそっと胸を撫で下ろす。なんでかは分からないけれど、目の前の悪魔が自制が効いている事実が酷く奇跡的なものだと思えてならない。
「……それに、そうだな。今から正式にレーティングゲームに殴り込むというのも悪くないのかもしれん。どうだ、兵藤一誠。それこそ俺を『女王』にしてみないか?」
「いやまあ確かに約束したのでいつかは上級悪魔になろうとは思いますけども……いつになるか分かったもんじゃないですよ?」
「そうか。ならその時次第だな。まあ頭の片隅にでも置いておいてくれ」
『やめろ、こいつだけはやめておけ相棒!! 絶対、絶対ろくなことにならん!! なんなら今此処で殺した方が良いまである!!』
唸っていた相棒が、ここに来て口を出してきた。な、なんだよぅドライグ。腕っぷしが強そうな爺さんだぞ、ドラゴン的に好感が持てるタイプのヒトじゃないのかよ。なんかずっと生命の危機感じてるのはそうなんだけど。
「相も変わらずだな、赤龍帝。しかしどうやら丸くなったらしい。……仇討ちと言うならやめておけ、お互い様だろう」
「ど、どういうこと……?」
「ん? ああ、簡単な話。先代の赤龍帝を殺したのは俺だ」
「え、は───???」
ど、どうでもいいところで人間関係が複雑化している…………!! 僕も相手も悪魔だけど!!!
余談:実の所、時計の悪魔ウォーレン・マリソンの『女王』は未亡人系にしようとしてたけれど、ジュニアハイスクールDxDとか読んでるうちに『ちょっとテコ入れいるかもしらんね』と思ってたらこうなった。先に言っとくとホートンという名前はウォーレンが付けた偽名。こいつの本名は……
感想等本当にありがとうございます、とても励みになります。