まあ意味深な引きで前のページを潰したけれど、この二人と話し合うことなんてほぼほぼ無い……というか再確認程度の内容でしかない。それでも口を動かし、言葉を交わすことにやはり意味はある。基本的には下手に出てるクレーリアさんと、いえいえそんなと対応する部長の構図なのは分かる。分かるんだが……いかんせん経験と知識の無さでついていけない。ので、自ら八重垣氏とホートン氏の相手をすることにした。具体的にはキッチンに立って昼食の準備だ。
「いやぁ、助かったよ。僕も知った風に頷くしかできなかったからね」
「右に同じく」
「……脳筋?」
ボソリと呟いたらもてなしヤクザにゲンコツを落とされた、痛い……。
「……まあ脳筋は半分冗談にしても、ホートン氏は着いていけると思ってんスけど。警鐘もそう言ってる」
自分の胸を示すジェスチャーと一緒に言うと、意図を察したのかイヤぁな顔をした。それだけで全てが分かるというものだ。
「そうなんですか師匠? 僕は師匠が弁舌奮ってる姿がまるで想像できないんですが……先に腕が出そう」
「的確な評価をありがとうよ阿呆弟子。2人が帰ったあと、覚悟しておくことだな」
「横暴にも程がありませんか!?」
一体俺をなんだと……とぶつくさ言いながら冷蔵庫を物色する彼を見て笑っ──うとまたゲンコツ落とされそうだから噛み殺す。バレてはいるだろうけど手が出ない辺り、自覚はあるようだ。
「じゃあ聞くが、ウォーレンがまともにこなせると思うか? 腹芸を」
「師匠、ごめんなさい。本当に苦労されてたんですね……」
「フン」
本当にどんな悪魔だったんだアイツ。ここまで手のひらを綺麗に返させるなんざ相当だろ。
「基本的に、アレはやると決めたら
「戦闘の概念広すぎないです?」
しかし、そうおかしなことを言ってはいない。〇〇に喩えて考える……ってのはよくやることだしね。となると余計にホートン氏がクレーリア・ベリアル様に着いていないのが不思議というか。
「相手を打ちのめすならともかく、今後の展望を語る場なら俺は不適格だ。グレモリーのお嬢さんはこの2人を利用するために近付いてきたとは言え、徹頭徹尾2人の味方。戦う相手じゃあない故、俺には何もできんというワケだ」
「何この戦うために生まれてきた生物」
「褒めてくれるな、年甲斐もなく照れてしまう」
褒め言葉だったかなぁコレ……褒め言葉になるのかぁ……。
「それを言うならお前の方だって着いていなくて良かったのか? お前に囁く某の声でサポートすることだって可能だろうに」
「まぁ、できたんでしょうけどねェ……」
僕もそう思って隣に着いたはいいけど、途中から『……必要無いんじゃない?』みたいな感じで警鐘がりんりん鳴るから。いや本当、彼女本当に悪魔なの? ってくらいに毒気が無いっていうか。リアスさんだって大概ヒトがいいけど、悪魔らしく性格も大変よろしい感じだから戸惑っちゃって。
「……大方、八重垣氏のお陰なのでしょうが」
「そ、そうかな? 初めて会った時から、クレーリアは純粋で良いヒトだったけれど……」
「被った仮面が馴染んだんだよ、自分の素顔になるまでな」
そんな余裕を殺したとも言うが、なんて宣うホートン氏にドン引き。まあそういうことなら納得だ、好きなヒトにはよく思われたいもんね。うーんラブラブ。
「他人のこと言えたクチか手前。……色々補充し損ねてるな。適当にキャベツのペペロンチーノでいいか?」
「それだと3人もいらないっスね……チキンステーキとサラダとかセットで」
「デザート代わりにリンゴも付けましょう。ニンニク臭に効きますし」
現我が家のキッチンとどっこいな広さだ、野郎3人がわちゃわちゃしても十分なスペースなので作業を3分割。僕の担当はチキンステーキということになった。麺類の方じゃないのかよ。
「どうせチャーシュー作るので肉も焼いてるんだろう? ほら始めた始めた」
「むぅ……」
急かされたらすぐに調理に入ってしまうのは職業病だろうか? 肉焼いてるとか言われたけど鶏肉なんか普段扱ってねーよ……なんて思いながらボウルとまな板、包丁を準備する。
まずは冷凍庫から人数分の鶏もも肉を取り出す。……コレ本当にニワトリの肉かな? 気にし出すとキリが無いので沸いた疑問を無視しつつ、水分操作で分子を適度に揺らして解凍する。
「便利な小技だな、魔力操作を料理に転用する発想もなかった」
「元々水蒸気爆発をやるために身に付けたんですよね。そしたら色んな応用ができて」
「印象に反して物騒なことするね!? ……師匠、師匠? 間違ってもクレーリアに覚えさせようとしないでくださいよ!?」
使い方次第と思うけどと苦笑しながら解凍を続け、適度な柔らかさになったところで肉をまな板の上に拡げる。
鶏肉は独特の臭みがある。その原因は水分……と聞いたことがあるのでキッチンペーパーでしっかり水分を取る。水分操作でやってもいいけど勢い余ってパッサパサにしかねないので今日はやめておく。まだまだ細かい調整はできないんだよね。
さて、触ったところ骨の類は残ってないので、筋の部分だけ包丁で切っておく。あとは肉の厚い部分に切込みを入れて形を平らに整えておく。これを5枚分行い、ボウルに一旦避難。
「あの、ここって料理酒あります?」
「ああ、師匠が準備してくれたものがあったはずだよ」
「あるんですね……洋食メインの雰囲気がしてたんですが」
「日本人に日本暮らしをそこそこ経験してる2人だ、不思議でもなかろうに」
「それもそうか……」
ほい、と手渡されたボトルから料理酒を適量回し掛ける。あとは塩をちょちょい、片栗粉もある? あるのね、じゃあそれも。あとは揉みこめば下準備はほぼ終わりだな
「ふむ……あんまり時間掛けるつもりは無いぞ」
「あ、分かります? でも籠手を使えば時間も早回せるので」
「その使い方はアリなのか???」
アリなんです、ドライグにも文句は言わせねぇ。さっきからウゴウゴ呻いてるケド、今更この程度でなんか言うほど器量は狭くないし。
『納得しているわけではないからな!? 訓練になると判断したから見逃しているだけだ!!』
あははは、ごめんて!
否寄りの黙認を貰ったところで、2回分の倍加を当ててボウルにラップを掛け、冷蔵庫に入れる。
さて、味付けはどうしたものか。適当にハーブソルトにしてもいいが、それでは遊び心がない。となれば……
「作ったことないけど、赤ワインで作ってみるか」
「洒落たチョイスじゃないか
「うわさっむ。オッサン臭いですよ師匠」
「こちとら相応にジジイだアホンダラ」
「あはは……」
言えない、ドライグの機嫌取り故のチョイスだからあながち間違ってないなんて言えない。
「ともかく、それなら家庭料理の範疇で手の込んだものにするといい、口頭で指示を出す。手際は悪くなさそうだからな、いけるだろう」
ではそのご厚意に乗っかろう。先達は〜ということで。でも作業に支障はきたしません? 手伝った方がいいかな。
「あとはパスタをぶち込んで最後にキャベツを和えるだけ、1人で十分だ。……よし、まずは玉ねぎを薄くスライス。それを弱火で色付く程度に炒めていけ」
ほいほい。じゃあ包丁とまな板を洗い、用意してもらった玉ねぎを半分にしてから薄く切っていく。油は……バターなのね? じゃあフライパンに火をかけてバターを溶かしていく。
あったまったらスライスした玉ねぎを入れ、炒めていく。説明の感じだと飴色まではしなくていい感じかな? 火の通りもいい感じに加速していきます、はい(倍加)。
「よし、そしたらここに赤ワインを入れて煮詰めていくぞ」
「師匠、それ秘蔵とか言ってたヤツじゃ……」
「酒は並べて嬉しいコレクションじゃあない。使ってこそ、飲んでこそだろう。めでたい時に使って何が悪い」
「いや、そうは言いませんけれど……機嫌が良いようで僕も嬉しいですが」
ちょっと首元がザワザワしてきたな……相当お値段するヤツと見た。まあ気にしないこととするが。
ドポドポと注がれる赤ワイン、嗅ぎなれない果物の様な匂いとアルコールの匂いが混ざった独特な香りにちょっと頭がクラクラする。
火力に倍加をかけると話が変わってくるので、時間に対象を絞って倍加を掛け、煮詰める速度をあげていく。うぅむ、時計のおかげか時間に対して譲渡する分にはかなり楽にできるな。アクを取るのが忙しない感じになるケド。
「いい塩梅だ、恐らく赤ワイン特有の渋みも抜けている頃合だろう。……折角だ、こいつも入れてみろ」
「あ、いつの間にか隣であっためてたヤツですね。すごい牛スジっぽい匂いしますけど、それは一体?」
「フォンドボー」
「「はいィ!?」」
実物は初めて見たけどそれ知ってる、べらぼうに時間かかるおフランス出汁じゃん!? 家庭料理とは一体…………。
「八重垣氏、八重垣氏。ホートン氏って本当にプロ料理人とかではなく?」
「人間時代は傭兵をしていた、以外は聞いたことないよ……。料理も趣味だとしか聞いてないし……」
「金取れる程の腕はしちゃいねぇ、本当に趣味の範疇だ。だいたいフォンドボーなんぞ、今なら缶詰なりペーストなりで簡単に買えるだろう。他への使い所に困るってんなら顆粒のコンソメで代用もできる」
戦慄する僕らを余所に、容赦なくホートン氏が赤ワインを煮詰めた鍋にフォンドボーを入れる。……あ、いい匂いする。
「こいつを1/3ぐらいになるまで煮詰めろ。正臣、コイツが冷蔵庫に入れてた肉を寄越せ、こっちのコンロが空いたから焼き始める」
「仕事取られた……」
まぁ5枚分焼くこと考えると仕方がないか、と思いながら引き続きアクを取りつつ煮詰める。隣では潰したニンニクをオリーブオイルで火入れしつつフライパンを暖めている……お腹がめっちゃ空いてくらぁ。
「本当なら重しを乗せて焼くところだが、小技を見せてもらったところだ。魔力で押し付けながら焼くことにする」
「
「2回分くれ、並行して今からパスタの方も仕上げる。正臣、」
「キャベツはここに、芯は潰してあります」
「上出来だ」
いやぁ、便利だな籠手。ドライグの不機嫌そうな唸り声には申し訳なさを覚えるけれど。
「今の間にバターを溶かして小麦粉と和えておけ、煮詰めてそれを濾した後にそれを混ぜてソースはほぼ完成。味見して調整したら皿にソース敷いとけ」
「了解っす。…………」
「……? 何か疑問点でもあるのか」
「あ、いえ。そういうワケでは」
……本当のところ、適当に流しつつ2人の『本当のところ』を見透かしてやろうかと思っていたのだけれど。特に八重垣正臣氏は元教会の戦士だ、腹の底で悪魔のことをどう思ってるのか、それとなく聞き出すつもりだったのだ。しかし、
「(今この場で思考と料理以外に意識割けないしなぁ……!)」
追加の1品提案したり、ソースを作ろうと思いついたりで自分の手間を自分で増やしてる現状に頭が痛い。……いやまぁ少しの会話と挙動で何となく人となりは見えるケドそれはそれ。
「どうしたんだい一誠くん。なんだか余計なことをしてしまった、みたいな顔をしているけれど……」
「いや、本当に何も無いんです……」
「フン」
全てを見透かしているホートン氏が、呆れも隠さずに鼻を鳴らす。何でもかんでも思いついたら即実行、には思わぬ落とし穴が潜んでるんだなぁ。
◆◆◆
「……ご馳走様。非常に美味しかったのだけれど、短時間でできるものなのかしら?」
特にコレ、と指さされるは赤ワインソースのチキンステーキ。そうだよな、作ったのは素人だけどいいとこのお嬢様なら分かるよね……と思いながらリンゴで口の中を潤す。
「家庭料理の範疇だ、ソースを作ったのもコイツだしな」
「僕はラジコンになってただけなんで……」
「……ふむ。ホートンさん、真剣にプロを目指してみませんか? 趣味だからこそ……ということもあるのかもしれませんが、腐らせるには惜しい才能です。何よりその方が悪魔社会にとって平和だと思いますの」
「そうですよ師匠! 僕、師匠の料理が食べれるなら毎日でも通います!」
「ええ、その通りですわ師匠! 主に私たちの安寧のために!」
「キサマらなァ…………」
隠しもしない料理の腕への賞賛と戦士としての畏怖に、彼のコメカミが引きつっている。本人も自覚あるのか堪えてるところが芸術点高い。
「……それで、どういう形で話を着けたんだ? 何を語るにしてもまずそこからだろう」
「はい。リアスさん達に保護してもらう代わりにお兄さま達への口利きをすること、正臣さんを悪魔に転生してもらう代わりにリアス・グレモリー眷属の戦闘訓練を含めたバックアップを行うこと、大王派の力を失墜させるに相応しいタイミングまで潜伏を続けること。大きくこの3つを約束しました」
「妥当なところか。だがお前の魔力は目立つぞクレーリア。姿形は如何様にできても、そこは歪められない。ウォーレンが既のところで介入できたのもそのおかげだが、隠れ潜んでいたお前が狙われたのもそれが原因だ」
ふむ……クレーリア様の、というかベリアル家の魔力特性って確か『無価値』だったっけ? 皇帝ディハウザーがそうなら、多分クレーリア様もそうだよね? ……響きから察するに、常に消しゴムマジックしてるようなものになるのかな? そりゃあ目立つにも程があらァな。
「それに関しては対策済みですわ、ホートンさん」
そう言って部長は懐から腕輪の様なものを取り出す。神器検査の時に着けたのと似た意匠だから、恐らく堕天使アイテムだな。
「こちら、堕天使が悪魔社会に潜入する際に使っていた、魔力と光力、翼を偽装するアイテムです」
「唐突にスパイアイテムじゃん!!?」
というかそんなもの作ってたのかよ『神の子を見張る者』!? ……作るわなぁ、だってトップが愉快犯系技術者だもんなァ!?
「『今までバレたという話は聞いていない』との事でしたので、せいぜい使い倒してフィードバックしてさしあげましょう」
うっわぁ、まあまあキレてんなぁ部長。どうせ『悪魔の警備はザルだな!』とか余計なことを言われたに違いない。
「それに、仮にそうなってくれたら手間も省けるというもの。……ね?」
「反攻の構えか、面白い」
「……実際のところ、そうあることを願っている部分もあるのです師匠。私が命を狙われた理由を知りたいのです」
ん? それって教会の戦士だった八重垣氏とズブズブだったからということではなく?
「いいえ、一誠さん。それが理由であれば少々不自然なのですよ。醜聞を気にするのなら私の格は高くなく、傍から見れば『悪魔が教会の戦士を誑かしている』という構図になるように立ち回っていました。危ない橋を渡っていた自覚はありましたので、もちろん細心の注意を払っていました」
「教会からの密告があったのならそれでも納得できるんだけれど、僕もヘマをした覚えは無いからね……。ウォーレンさんが可能な限り検証してくれたから、そこは間違いが無いはずだよ」
「ふむ……皇帝ディハウザー・ベリアルの失脚を狙って、なら?」
「それならば、余計に私を生かしておいた方がいいと思うの。その方が色んな演出に使えるはずです」
「なるほど……いやなるほどじゃないですが」
なんかようやっと悪魔の片鱗が見えてきたなこのふわふわレディ。しかし……となると確かに怪しいというかきな臭い感じがあるよね。うぅむ……む、
「……ふむ」
「どうされましたか一誠さん?」
促され、じっと顔を……目を見る。理由を知りたいと言っていたが、これは……?
「知りたいというより、答え合わせ?」
「あら」
「えっ」
そうなの!? と言わんばかりに八重垣氏が彼女の方に振り向く。……やだなぁコレ。皇帝の妹分が教会の戦士と愛し合ってました以上のスキャンダラスな情報握ってるってことじゃないの? 八重垣氏に伝えてないのがその証拠だよ。
「そうですね、私たちとあなた方は最早一蓮托生。妄想のような私の想像をお話してもいいのですが……引き返せなくなりますよ?」
「ええ、構いません。……よね?」
部長に確認を取って、息を整える。どんなやばい話が飛び出るのかと、心の対ショック姿勢を取る。
「『
「あ、それ
「……えっ???」
…………あれ?
感想等ありがとうございます、励みになります。
お久しぶりです、生きておりました。仕事の方で色々忙しくしていて、何とか落ち着いて続きに着手した次第です。