兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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ちゃ、ちゃんと理由あったんですよ……?


その8

 

『ディハウザー・ベリアルの懐柔をしたい、と』

 

『他ならぬ店長の頼みだ、可能ならば助言したいところだが……ふむ』

 

『直接手助けをするわけにはいかないが、知っていて損は無いだろうことは伝えておこう。自分の恥を晒すようで気は進まないけどね』

 

『王の駒というものがある。俺がかつて製造し、その危険性から公にすることを止めた、悪魔の駒の一種だ』

 

 

◆◆◆

 

 

「……という感じで聞いたんです、が」

 

 テーブルに突っ伏すクレーリア様、宥める八重垣氏、『へぇ〜』ぐらいにしか思ってなさそうなホートン氏に、頭が痛そうにする部長。カオスが展開されてる場の空気だが、その元凶が僕なんだよね、あはは。……ごめんて。

 

「なんで、そういうことを、言わないのかしら、こンのポンのコツは……!!!」

「いや本当にすみませんて。そんな大層な話とは思ってなくて……」

 

 いや、結構なスキャンダルネタだとは思ったよ? 部長に伝えなきゃとも。ただそれを言うタイミングを逸してたというか、あまり他所の耳がある場で話せないでしょう? 聞いたの結構ギリギリだったしさァ。

 

「そうだけど、そうだけれども! 見なさいクレーリアさんを! ずっと追ってきたレーティングゲームの闇がこんな形で証明されて力が抜けているじゃない!」

「ふふふ……いいのですリアスさん。こんなことなら直接アジュカ様に確認すればよかったと思うだけで……」

 

 いや本当にごめんなさいて。僕が悪いのかどうかは疑問に思うところだけど、部長に睨まれたら僕が悪いことにしておいた方がいい気がしてくる。

 

「それに王の駒の詳細までは聞いてないですよ? ただ、使うと10倍ないし100倍以上強くなったり、5つぐらい大王派が確保してたり、それを使ってレーティングゲームのランキング調整やってることぐらいなもので」

「答えじゃないのよ!?」

 

 呆れたような警鐘の音がいやに頭に響く。なんだよぅ、僕がこんなんなのは今に始まったコトじゃないだろぅ?

 

「……えっと、話をまとめるとこういうことかな」

 

 困惑しながらも、突っ伏したクレーリア様を慰めながら八重垣氏が整理を始めた。

 

「クレーリアは噂レベルで広まっていた王の駒の存在を調査していた。しかしそれは根も葉もないデマではなく実在している。王の駒を都合良く使いレーティングゲームのランキングを……ひいては興行を操作している大王派にとっては都合が悪かった」

「故に口封じか。都合良く正臣が側にいたから、理由の捏造なぞ造作もなかったろうよ」

 

 実際のところは捏造どころか真実だったわけだけど……いや、真実か嘘かはその際どっちゃでも良かったワケだ。死人に口なし、残った残骸だけが見えてる連中の真実に成るのだから。

 ……何が知っておいて損はない、だよあの魔王。トンデモクリティカルヒットじゃないか、僕みたいな木っ端悪魔に教えてよかったのか? それとも、別の思惑が……?

 

「……イッセーさん、確認したいことがあります」

 

 ……この思考は後にまわそう。身体を起こし、真剣な眼差しでこちらに向き直る彼女の方へ意識を切り替える。

 

「当てましょう。『ディハウザー・ベリアルが王の駒を使っているか、否か』」

「はい。元々私は、兄に掛けられた疑いを晴らすために王の駒の噂を追い始めました」

 

 なるほど、深くは聞くまい。僕みたいな新参悪魔でも名前を知ってるあの皇帝は、相当長くレーティングゲームの頂点にいると教本に書いてあった。長くその座を守っているということは、それだけやっかみも買ってるだろう。根も葉もない噂を……なんて、僕でも想像がつくというもの。

 

「結論から申しますと、彼は王の駒を使っていない。魔王アジュカ・ベルゼブブ様が断言していました」

「……ああ、そうでしたか」

 

 鋭く、固い表情がゆっくりと解けていく。

 

「ありがとうございますイッセーさん。このご恩は一生忘れません」

「いいえ、その礼を僕は受け取れません。……その感謝は、今はもういない時計の悪魔に」

 

 まあ、チクタクと嬉しそうに歯車が弾む音が響いてる辺り、わざわざ言ってやる必要も無いんだろうけど、ね?

 

 

 

 

 

「よかった、俺のお願いが無駄にならずに済んで」

「空気読んでくださいよ阿呆師匠」

 

 

◆◆◆

 

 

「案外、驚かなかったですね」

 

 冥界へ渡航するのに乗った列車……その先頭車両にて。向かい合って揺られる自分の彼女に対して、僕は疑問に思ったことをぶつける。

 

「驚いてるわよ、すぐに報告しなかったことを」

「なるほど、()()()()

 

 そう言うと彼女は薄く、困ったように笑みを浮かべた。

 

「だろうな、としか思えなかったわ。大王派の悪魔が運営を仕切っていることと、ランキングの顔ぶれが変わらない時点で何かあるのは明白でしょう? ……いえ、前までの私なら疑問に思わなかったでしょうけれど」

「……そうですか」

 

 レーティングゲームは、今の冥界の文化に深く根付いている。それは先日部長がしてくれた説明からも想像ができる。……現代日本で言うならプロ野球と同等、いやそれを越える一大エンターテインメントだ。だからショックを受けてもおかしくはない、と思ったのだが。

 

「私としては、あなたの方こそそんなに鈍かったかしらと思ったわ。イッセーの怯えからくる頭の回転は早いもの」

「………………」

「ふふっ、心配してくれたのね。でも大丈夫よ、私はそこまでヤワじゃないわ」

「……。別に、リアスさんのハートが弱いとは思っていません、が……」

 

 イタズラっぽく、しかし諭すようにデコをつつかれて目を逸らす。それに彼女は僕のことを買い被りすぎだ。少なくとも王の駒とクレーリア・ベリアル殺害未遂の件は別物と思っていたからね。

 

「それに、あまり褒められたことでもないです。僕は自分より凹む他人がいたら、ダメージを軽減できるかなって打算で暴露しました。万全を期すならグレモリー領に戻ってからでもよかった。……警鐘にも呆れられるワケです」

 

 クレーリア様にも悪いことをした。恩を感じられても困るというものだ。……常々自分のことをアレなヤツだと思っていたけれど、最近は輪をかけて自分勝手に思える。

 そんな自己嫌悪を見透かしているからなのか、それとも別の理由か。僕を見るリアスさんの顔は非常に嬉しげだ。悪魔かこのヒト、悪魔だったか。

 

「いえね、あまり良くない喜び方をしただけよ。ああ、私愛されてるなって」

「愛、なんスかねぇ。愛というにはちょっと、」

「ふぅ。あなたはどうも、そういうものに幻想というか、夢を見ているフシがあるわね」

「はぁ……」

 

 いや、見るでしょうよそりゃ。恋は下心、愛は真心などという言葉を真面目に信じてる僕である。愛してる……とキッパリと言い切るにはまだ恥ずかしさが勝つが、そう在りたいと思うことは間違ってない……はず。

 だけどリアスさんから放たれた言葉は、身内に対する愛が深いグレモリー家からは想像もできない、ドライな言葉だった。

 

「言ってしまえば、『愛』というのはただの偏りよ」

「偏り、って……」

「物事に対する優先順位とも言うわ。分かるでしょう? 誰かを愛するということは、誰かを愛さないということなのよ」

 

 ガツンと殴られた様な衝撃と、その割に腑に落ちる様な感覚が同時に来た。

 

グレモリー家(わたしたち)はそれが顕著だから、よく分かる。身内と決めた相手に対して天秤を傾け、それを守り、傷付ける相手に容赦せず(を愛さない)。そう聞くと、ありふれた自分勝手なものに思えない?」

「……随分と自虐的に聞こえますが、そうではないんです、よね?」

「ええ。だって自分の大切なものを愛せるなんて、凄く幸せなことでしょう? ……分け隔てなくなんて真っ平御免、そんなものは()愛と言うのよ」

「……なるほど」

 

 なんか、責められてるように感じるのは気の所為……じゃないな。多分、彼女の言う薄愛というのは僕のことを言っているのだ。

 

「あら、責めてはいないわ。……『日常』なんて、『普通』なんて広くてあやふやなものを愛するあなたなのに。今の私はそれよりも天秤を傾けるに値する存在ってことでしょう?」

「…………」

 

 自覚が、なかった。……僕は『やりたいこと』だけをやってきた。その優先順位は、当たり前という基準を守るため、『普通』を『愛』してたから。

 今も変わらず、やりたいことだけをやっている。優先順位が変わっている。悪くもない他者を傷付けてはいけないという普通のことに反して、リアスさんの心情を気にしての行動に変わってきている。それはきっと、

 

「……ははは。なんだか僕、普通の人間になった気分です」

「悪魔よ、あーくーま。……ちょっとずつ、慣らしていけばいいわ。そうやって自分の偏りを増やしていきなさい」

 

 なんだか僕は、前より自分のことが好きになったかもしれない。

 

 

◆◆◆

 

 

「そろそろ着く頃か?」

 

 いい気分のまま揺られていると、先頭車両にホートン氏がやってきた。

 

「ええ、そろそろ着く頃で……」

 

 部長が声を途切れさせたのも無理はない。何処ぞの農夫かと思うようなオーバーオール姿から一転、軍服の様な意匠のロングコートを肩に羽織ったスーツ姿。おそらく、コレがホートン氏の正装というヤツだろう。

 

「えらくイカした格好ですね……誰の趣味です?」

『私の趣味だ。勲章風の装飾も中々乙なものだろう?』

「アイツのチョイスだ。威圧させるにはこういうのはしっかり整えておくべきだと言われてな」

 

 まあだろうと思ったよ。完全ホートン氏チョイスならもっとこう、シンプルなものになると見た。

 

「想像の通りあまり洒落た服は好かん。が、見栄も武器の一つだ。必要とあらばどんな見た目になろうが構わん。お前も直に分かるだろうよ」

「わはー……」

 

 これからそういうポジションになるんだぞ、と耳に痛い助言である。今のところは朱乃サンが部長の右腕として隣に着くのが、公的な場面では正しいだろうけど…………ゆくゆくは僕の仕事になりそうな気がしてならない。

 

「なんかフード付きのそういう衣装ありません? パーカー着てないと落ち着かなくて……」

「魔法使いなら、ローブでも着てとなるでしょうけど……」

「難しそうですね……」

 

 まあ衣装の話は一旦置いとくにして。しばらくはあの焼き鳥野郎から貰ったスーツ着りゃあ良いだろうしな。

 

「なにかありましたかホートン氏?」

「ああ。列車に揺られてる間、アイツらとこれからのことを相談していた。契約には盛り込まれていないが……お前らのサポートに、俺も加わることにした」

「それは……願ってもいない話ですが」

 

 実際に訓練を付けられたいかはともかく(悪魔なのに何度も地獄を見そう)、よりホートン氏と繋がりを強くしておくことは絶対にやっておかないとダメだ。人間時代ですら二天龍を纏めてぶち殺すバケモンだ、こんなのを敵に回したくない。そのためなら、なれるか分からない上級悪魔になった時の『女王』の枠を予約させてもいいかもしれない。……本人は与太のつもりで話しただろうが。

 

「ん? それは割と本気だぞ。お前はドラゴンだ、着いていれば敵には事欠かんだろう」

『俺は反対だぞ相棒!! この雑食を傍に置いてみろ、あとが酷いぞ!!』

「具体的には」

『反天使と共謀する』

「そこまでかよ…………」

 

 それができるかはともかく、ドライグの心情を加味すると、どうもなぁ。

 

「実のところ、お前を鍛えたいというのが主な理由だ、兵藤一誠」

「僕ですか? 言っちゃなんですが、僕は才能の類に関しちゃ平々凡々。色んなことを卒なくこなす程度が精一杯でして」

「才能なんぞスタートラインが前の方にあるというだけだ。俺もあるわけじゃあないしな」

「嘘……じゃあないんだ」

 

 ゴンゴン鳴る警鐘がそれを証明してくる。才能無しで二天龍殺せるの? やっぱ怖いよこのジジイ……。

 

「……理由は? すぐにディハウザー・ベリアル氏とのアポイントを取れない以上、ホートンさんのご希望には可能な限り沿いたいと思います。ですが、イッセーに危害を加えるようなことをするのなら、」

「逆だ。……もちろん、成長したコイツと戦いたいという欲望も無いではないが。悪魔が『赤龍帝の籠手』を持っている状況……しかも性格は比較的良識寄りとくれば、それを利用しない手はない」

 

 利用すると、清々しくあくどい宣言をする割に、その隻眼から放たれる視線は何処までも真っ直ぐだ。

 

「お前がそれを持っている間、他の人間にそれが渡ることはない。……俺はそれを持った人間の成れの果てを見た。人間の領域に獣の論理を持ち込む、災厄の姿を見た。……それを咎めることはできない、俺も着飾っただけの獣だ。しかし思うところはある……俺は理不尽に立ち向かえと教えられ、銃を構えた『人間』であったが故に」

「ホートン氏……」

「お前は違う。お前は籠手を手にしても、獣の論理を振りかざさない。それはウォーレンが時計を託したことからして明白だ。……だから俺は、お前にその籠手を永く持っていて欲しいと願う」

 

 それは、僕の思いと合致する部分があった。……困った、絆されてしまいそうだ。

 

「なぁ、ドライグ……」

『くっ……利害が一致している間だけだ! ……もし今の俺の愉しみを台無しにすることがあってみろ……その時こそ俺はお前を焼き尽くし、この世から駆逐してやる……!!』

「適度に僕に甘いお前のことが大好きだよドライグ!!」

 

 そう叫ぶと返答もなくドライグの意識が奥の方に引っ込んでくのを感じた。…………ちょっとどっかで本格的にご機嫌取りをしないといけないな。

 

「というわけで部長」

「はぁ……まあ、否はないわ。結果的に危険は遠ざかるでしょうからね」

「感謝する」

 

 そう言って彼は立ち上がるように促し、手を差し出してきた。……傷の痕が目立つ、ゴツゴツとした力強い手だ。

 

「改めまして。今代の赤龍帝でリアス・グレモリー眷属の『兵士』、兵藤一誠です。よろしくお願いします、ホートン氏」

「ん、あぁ……では俺も改めて。ホートン……というのはウォーレンが付けた偽名だ。俺を名で縛るというのもあったんだろうがな。長い付き合いになりそうだ、お前にこの名前を預けておく。──ウォーレン・マリソンの元『女王』、ショウ・ウォーカーだ。よろしく頼む」

 

 そうして僕らは、ウォーカーさんと正式に協力関係を結んだのだった。……なんでか知らんけど、地獄に片足突っ込んだ気がしてならんね?

 




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