兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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そういうことです。
てんこ盛りにしてやんよ〜!


その9

 

 グレモリー邸に戻ってからは妙に胃がきゅっとなる感じの緊張感に包まれて過ごすことになった。それもそうだろう、帰った時間がディナー時……その時間にはグレモリー家の現当主のジオティクス・グレモリー様とその奥様のヴェネラナ・グレモリー様がいて……ハイ、部長のご両親ですね! そんなお二人と同じ空間で八重垣氏含めた新眷属お迎えパーティーだなんて、胃がひっくり返ってあまりある緊張感ですよ!! 例えその内容が、

 

『一誠くん。ここは自分の()()だと思って気楽に過ごして欲しい』

『ええ、じきに暮らすことになるんですもの。ね?』

 

 なんか既に家族として迎え入れる気満々だったとしても!! ……逆に、どころかシンプル怖ェよ!!!

 思い返しても僕がご家族の好感度を稼いだ記憶が一切無い……(元々墓場まで持ってくつもりだったけど)誑かすし、(関係は修復されたとは言え)婚約者ボコすし、(やったのガン子だけど)殺しかけるし……文字に起こすとひでぇな僕。

 

『……確かに思うところが無いとは言わない。事の顛末はサーゼクスからも聞いている。娘の幸せを願う親として、待ったを掛けようと思ったよ。リアスの相手として迎え入れるには、きみはあまりにも過激に過ぎる』

『ですがあの子の幸せを願うが故に、あなたならばと思ったのも事実。……一誠さんを眷属に迎えてから、リアスは良くも悪くも成長しました。我儘なあの子は、それを我儘で終わらせない努力をすることを身につけました。……それでいてなお、あなたはリアスにとって最後の我儘なのです。応援したくなるのも、仕方のないことでしょう?』

 

 しかし相手はリアスさんのご両親、器のデケぇこと。葛藤があったのか、それとも娘のヒトを見る目を信じてるのかは分からないけれど、やっぱ親ってのは強いと感じたものである。

 

 …………まあ、そんななので。僕はこのヒト達に見限られたら終わってしまう! という緊張感でガッチガチ。少しでも貴族の世界に〜、とか。ウチの親に城をお土産に〜、とか。そんなより胃がギュッとなる会話を心を殺してやり過ごし、気が付けばめっさ広い部屋で倒れていた。……いやこれ部屋って言っていいんかな? 僕の普通判定アイが下手な1LDKより広くて設備も充実していると言っている。実家が改装されてなければ即死だった……!

 

『冗談にもならんことを言うんじゃない。死因:贅沢死なんぞ恥もいいところだ』

「あぁ……ドラゴンの生態からしたらそうだよな……」

 

 宝を蒐集し、貯め込み、それを守る習性があるんだからドラゴンとは贅沢な生き物である。そんな種族が贅沢さにショック死なんて本当に笑い話ってことだな。

 

「……それで、どうだった?」

『潔白と言っていいだろう。……用心深いことだな。それでこそ、とも思うが』

 

 床ペロ状態から立ち上がり、調度品である高価そうな木製の椅子に座る。何も緊張感だけでガッチガチになっていたわけじゃない。

 

「グレモリー家の特性は強力な魔力と、それを反映したかのような紅い髪。間違っても『滅びの魔力』じゃあない。その特性を持ってるのは七十二柱のトップ、大王バアル家だ。……部長のお母様のご実家だね」

 

 別に部長のお母様を疑うワケじゃない……いや、ほんの少し疑ってたけどそこはメインじゃなく。何かしらの方法で無意識にスパイ活動させられてないか? ということを思っていたわけだよ。今回の件、バアル家は何かしらの形で噛んでるだろう……クレーリア様に駒王町の土地を斡旋したのはバアル家なのが濃厚だしな。

 

「別にどう転んだって弁明はできるからやり得な調査だった。後ろめたさもない、大王派がなんでもやるのは過去の駒王町の件でお察しだ、警戒しすぎてし過ぎることはない。死ぬほど増産した装甲板をフルで使う羽目にはなったケド……それであの二人の命が守れるなら安いもんだ」

 

 仮にヴェネラナ様が今もバアル家と繋がってる、もしくは何らかの諜報ビーコンにされてるとするならグレモリー領ですら危ない。だから僕は部長に黙ってウォーカーさんに、僕の装甲板を領内にばらまいてくれと頼んだのだ。あとはそれら全体に意識を拡げつつ、肝心の探査はドライグに丸投げして今に至る。丸投げしたとはいえ、意識が遠くに行きそうなのを無理矢理保ち続けるのは非常に体力が必要だった。今更メンタルやられただけで倒れる程、僕はヤワじゃない。部屋で倒れたのはそれなりの奮闘があっただけなのだ。……と、後で部長に見られても良いように言い訳をしておこう。

 そして結果はシロ。少なくとも、そういう反応を見つけることはできなかったとドライグは言った。ヤツは大雑把なようで、結構繊細なことができるから見逃しは無いと考えていいだろう。

 

「それに八重垣氏を見てもお二人とも大した反応無かったからね。警鐘で裏取ってるから問題ない。……ここまで情報を確定させれば、あとは素直にお二人にクレーリア様のことを任せられる。ジオティクス様が事情を知っているのなら話は早いし、そうでなくとも部長の眷属の『コレ』だ。身内の様に守ってくれるはず」

『……付け加えて、暫くはあの雑食が護衛に着くのだろう。気には食わんが、戦闘能力の高さだけは群を抜いている。磐石の態勢とはこのことだな?』

 

 …………まぁ、その。ここまでしておいてなんだけど。八重垣氏とクレーリア様が襲われたとして、素直にやられる図が思い浮かばないのだ。なんでだろうね?(目逸らし)

 

「で、ここからはどうやって大王派を嵌めていくか、という悪巧みする予定だったんだけど……」

 

 元々はクレーリア・ベリアルの抹殺に大王派が関わっていた証明を手に入れてベリアル家を現魔王派に引き入れつつ、駒王町での事件を揉み消した事実を政治的に使える手札にする…………という話だった。のだが、

 

「どうスっかなコレ……あまりに強過ぎて使えなくなったんだけど」

 

 手元の悪魔スマホの画面に映るのは、とある密約の書面だ。一種の休戦協定のそれに思えるが、期限が『クレーリア・ベリアル、八重垣正臣両名の抹殺達成』までとなるなら話が変わってくる。送り主のイリナちゃんから付け加えられた文言は『パパは腹を括ってる』のみ。……余計に使い辛さが増した。

 

『……こういうものは、普通残しておくものなのか? 各々の不正の証拠だろうに』

「考えられるのは三点、一つは良心の呵責。あのイリナちゃんの親だぜ? そっちも相応に善人なのは想像できる」

 

 そうでなくとも僕はトウジおじさんと面識あるから、多分そうなんだろうなという納得がある。……いつの日だったか、イリナちゃんが僕に相談してきたことを思い出す。多分それに掛かってくる話なんだろうな。

 

「もう一つは、教会側がこれを持ってたとしても何も痛くないことだよ。悪魔と、悪魔に誑かされた背教者の抹殺なんて当時では不思議でもなんでもないでしょ。……でも、ドライグが疑問に思ってるのはここじゃないよね?」

『ああ。悪魔側が形に残るものとして書面に残したことが不思議だ』

「考えられる理由三つ目のヒント、王の駒」

『…………目くらましか』

 

 恐らくね。仮にバレたとしても1番バレたくない王の駒の真実に対する最高のクッション、防壁だ。こういう理由であればディハウザー氏も納得はできずとも、理屈は分かるでしょうさ。いやぁ、悪魔が悪魔してんねぇ。

 

「…………尤も、この情報を握ってる僕らが王の駒の真実を握ってなければの話だケド」

『お互いの掟を破ったものへの粛清という体から、あってはならぬ不正の事実を隠蔽するために敵対組織と密約を交わしたという真実に切り替わった…………成程、お前が強過ぎて使えないというのも納得だ』

 

 クックック……と厭らしく笑うクソトカゲに笑い事じゃねぇぞと鼻を鳴らす。

 

「こうなると作戦はおじゃん……いや、核兵器のスイッチをこっち側で握ってると考えると実に平和してていいけど、なあなあで現状の不和を見過ごすのも癪に障る」

 

 ……ま、ここは一人で考えてもどうにもならないでしょう。個人で戦える程強くなった覚えも傲慢になった覚えもありませんよっと。なんなら部長の方が上手く使うだろう確信がある。なのでぇ、

 

「レーティングゲームの闇単品で突くのは意外と通りそうだよねェ……!(ニッコリ)」

『通るのか、本当に? 窮鼠猫を噛むというのを体現してるお前が、それを知らんとは言わせんぞ』

「うん。レーティングゲームの運営権を大王派が握ってるから現魔王派は押され気味で、だからこそどんな傷を負ってもそれを守り通そうとするだろう。けれどね……」

 

 頭の痛いことに、悪魔が胸を張って出荷できる産業って……レーティングゲーム()()()()からさ。

 

『…………?』

「きひひひ……良くも悪くも悪魔は『悪魔』であることに胡座をかきすぎたのさ。三大勢力で協定を結んだことがどんなデメリットを産むのか、それを想定できている純血悪魔は一体どれほどいるんだろうね? 部長が言ってたろ、冥界の⬛︎⬛︎を手に収めるって。このアドバンテージを使って連中の足を引っ張ってやる」

 

 近い未来に手放さないといけないパイに対してどれ程の労力を払えるのか……じっくりと搾り取ってやろうぜ、なァ?

 

 

◆◆◆

 

 

 なーんて頭良さげにフフンしてた昨日の自分をぶん殴りたい。

 

「つまり、上級悪魔にとって社交界とは──」

 

 現在、お城の一室にて机に齧り付いてノートをガリガリと書いてる男がいる。僕だ。

 

「ぐぅ……!」

 

 そして隣で唸っている男性もいた、八重垣正臣氏である。

 ……なんてことはない。僕も八重垣氏も上級悪魔に婿入りないし結婚することが決まってるようなもんだから、今のうちに貴族社会について勉強しろということだ。多分八重垣氏の面倒を見るのにこの項目も入ってたんだろう。手を振るクレーリア様に見送られながらドナドナされる彼を、僕は笑えなかった。だって一緒にドナドナされたからね! やだーっ! 勉強やだーっ!!

 

『いや、僕の場合悪魔になった身体に慣れてないからだけどね?』

『視線で会話を仕掛けてくるんじゃないですよ!? 今そんなことをすれば……』

「ふむ、まだまだ余裕がありそうですね。では、もう一段階ギアをあげていきましょうか」

「「うぎゃーっ!?」」

 

 教育係の先生悪魔さんが眼鏡をキラリンとさせて宣告、哀れおバカ男共撃沈。

 

「飲み込みが早いのは結構なことですが、先達としてミリキャス様に恥じるような姿を見せないように。特に若様は」

「あ、もう僕その呼び方で決定なんですね……」

 

 ともかくそれに関しては本当に申し訳ないと、困ったように先生と僕らの間で視線をさまよわせている彼を見て思う。……そう。僕、八重垣氏、ミリキャス様の三人は悪魔社会、それも上級悪魔……貴族社会の勉強をしていたのだ。

 うぅ……内容は初歩も初歩なんだろうけど、着いていくのに必死だよぅ……。必要だからと悪魔文字を覚えてたせいで、講義の資料全部悪魔文字だから脳内変換大変だって……!

 

「……しかし、集中力も途切れる頃合ですね。15分休憩としましょう」

「「「はい、先生」」」

 

 ぐでぇ、と机に突っ伏す。心底勉強が嫌というワケじゃないけど、お貴族様の常識は小市民の脳に酷く重くのしかかる……。

 

「僕、やっていけるんですかね貴族社会で……」

「やるしかないとはいえ、ちょっと舐めてたところはあるよね……」

 

 八重垣氏も貴族の基本的な考え方は慣れ親しんだものではないのか、僕ほどではないにせよ疲労感が見て取れる。まあ清貧を重んじる教会の出だから仕方がないのかもね。……もしかして転生したばかりの祐斗クンとかもこんな感覚を味わっていたのだろうか?

 

 しかしへばってばかりではいられない。夏休みの課題もまだ終わらせてないし、何より僕のメインジョブのラーメン店の店長業務がある! その場にいないとはいえ、1号店の発注等は僕の仕事。祐斗クンや匙クン等の働き手を一時失ってる以上、それ以外の部分でバイトさん達に負担を掛けられない。そう思いながら昨日と現時点での売上の記録を悪魔スマホで確認する。……むぅ、暑いせいか雨でもないのに売上微減なのは見えてたけれど、それ対策で始めた夏季限定爽やかサラダまぜ麺が思ったようには売れてない。イリナちゃんの一言メモで『工程が多い、提供が遅くなる』となってるのが思っきり答えっぽい。

 

「……かと言ってバッサリ切れる程に売れてないワケじゃない。なんならお客様アンケートだと評価悪くないし。なら工程を減らす方法を考えるべきだけど、」

 

 これは平野サンと中村サンに確認取りながら相談した方がいいな。メッセージアプリのグループトークのところにメッセージを投げながら、天気予報と売上予測で大まかな発注量を決めていく。えー、警鐘サマ警鐘サマ。明日はどのメニューが1番売れそうですか? ……家族連れが多いのかぁ。世間は夏休みだものね。じゃあソフトクリームとお子様ラーメンが1番売れそうか。

 

「あとはお子様対応が得意な子にホールに出てもらった方がいいか…………ん?」

「「…………」」

 

 考えを口に出しながらポチポチと明日の予定と店への提案を纏めていると、そんな僕を二人が興味深そうに眺めていた。

 

「あ、ごめんなさい。席を外してからの方が良かったですね」

「あ、いえ! あの一誠さんのお仕事を間近で見られて嬉しいです、勉強になります!」

「『あの』?」

 

 確かに初対面の時も『噂の』とか言われてたし、気にはなってたのよな。どうにも部長を誑かした(自虐)みたいな方面だけじゃなさそうだし。

 どういうこっちゃ? と先生悪魔さんの方を向くとすぐに回答が返ってきた。

 

「今年度のリアスお嬢様眷属の契約実績で、若様がトップの成績なのはご存知のことかと思います」

「ええ、まあはい。かなり飛び道具を使ってるとは思うのですが」

 

 それに本来特殊な仕事しかしない部長の手を借りての成績なので、個人的にゃあ誇れるものでもない、と思っているのだが。

 

「若様の成績は眷属の中だけでなく、冥界全体で見ても下級悪魔でトップ100入りするものです。転生したての悪魔としては異例の実績と言えましょう」

「え、えぇ…………」

 

 なぁるほど? 部長の相手としてなんか受け入れられてるのってそういう面もあるんだな。どーせ部長は自分が手を貸してることを全部は報告はしてないだろうから結構な分僕の手柄になってるワケだ。涙ぐましい工作の跡が見えるなぁチクショウ!

 

「そういうことですので、我々グレモリー家使用人一同。若様の実務の面にも期待しているのです。力を合わせ、共にグレモリー家の更なる飛躍を目指しましょう!」

「は、はぁ…………」

 

 まあ、部長に連れ添うってことはそういうことだし、全力出すのも吝かでないって言うか……。

 

「明らかにやる気が漲ってきたね一誠くん、もしかしてツンデレ?」

 

 うるさいよそこォ!!!

 

 

◆◆◆

 

 

「…………と、こんな様子で。経営に関してはまだまだ甘いと言いますか、そもそもの知識が足りていません。ですが、現場指揮に関してはかなりの才能があると思います。どうでしょう、お母様?」

「成程、あの成績もあながち虚飾だらけというわけではないのね。わかったわ、教科の中に経営学を入れましょう。私が直接教鞭をとってもいいわ」

「ありがとうお母様、よろしくお願いします」

 

 




主人公「おかしい……寒気が……」

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