兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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次から阿鼻叫喚の地獄絵図……?


その10

 

 首筋に感じる謎の冷気を覚えながらも勉強会で四苦八苦。お昼時というところで今日は解散ということになった。一日中勉強漬けじゃなくて本当によかった。

 解放されたのならシャバの空気は全力で吸うに限るので、僕の部屋でつかの間の休息と洒落込む。疲れた脳が糖分を欲している……チョコかなんかないだろうか?

 

「ほら、俺の自作だ。味わって食え」

「ああ、ありがとうございます」

 

 差し出された一粒のチョコを摘んでそのまま口の中に放り込む。……いい塩梅のビター味。程よい甘さで脳が幸せを感じ、疲れた身体に苦味が喝を入れてくれる。うーん最高。

 

 …………………。

 

「何故ここにいる戦闘狂……!?」

「否定はしないがもうちょっと呼び方どうにかならんのか」

 

 いやいやめちゃんこホラーだよ!? 意識すれば確かに妙な圧を纏ったウォーカーさんを認識できるけど、さっきまで気配も何も無かったし警鐘も反応してなかったよ!?

 

「お前は自分に囁く声を過信し過ぎだな。在る、と分かれば少しズラすことで認識させないぐらい簡単にできる」

「ンなワケあるかァ!!!」

 

 警鐘がコイツやばいとガンガン鳴らす理由に納得する理由、接触する度ふえてくんだけど……こんなのが在野にいた事実が恐ろしくて仕方がない。

 ……しかし、意味無く不法侵入するような方でもないのは分かるので。とりあえず息を整えて要件を伺おう。

 

「ああ、そろそろリアス・グレモリー一行がこの城に戻ってくるからな。支度をするよう伝言を預かった」

「あー、そういうことでしたか。確かこの後は、若手悪魔の集いかなにかでしたっけ」

 

 というか僕らが勉強会してる間、部長達は何してたんだろう? 案内する、ってなことは言ってたから大方グレモリー城見学ツアーしてるんだと思ってたが、ウォーカーさんの口ぶりだとこの城からは出てるみたいだ。

 

「なんでもリアス・グレモリー名義の城だの、サーゼクス・ルシファーの帰省用の城だの、とにかく城を見学してたようだな。最早観光だろう」

「そもそも城ってそんなタケノコみたいに生えてましたっけ!?」

「詳しくは知らんが、日本には沢山あると聞いている。土地のサイズ感似てるのならそんなものかもしれん」

「そうかもしれないけどさァ!!」

 

 なんかこの規模感だとグレモリー家って貴族というより国のトップなんよ。グレモリー家から魔王輩出してるから捉え方次第で間違ってないかもしれないのが笑える、笑えない!

 

「というかそのグレモリー領の城めぐりツアー僕も参加したかったンだけど! 一々ツッコミ入れて困った子ねムーブしたいんだけど!」

「甘え方がシンプルに気色悪いな……」

 

 ……紛うことなき罵倒で泣きそう。いや確かに気持ち悪いけどさ!

 

「そもそも未来の自宅みたいなものだろう? 嫌だと言っても連れ回される図が見える見える」

「待って、その事実はまだ受け止めきれてないんで……」

「……俺にはお前の感性がよく分からん」

「普通ですが」

「断じてない」

 

 バッサリ切られた、酷い!!! 分かっちゃいたけどこのジジイ容赦がねぇや!

 

「まあそんなことはどうでもいい。本題は別だ。……お前の未来の女王として、助言をしようと思う」

「認めてねェですが??? さも決定事項のように話し始めるのやめてくれませんか???」

「若手悪魔同士の会合では、冥界各地の有力貴族悪魔も出席する。出鼻を挫く絶好のチャンスだ、よくリアス・グレモリーと相談することを勧める」

「無視して話を進めないでよ!? …………レーティングゲームの話題、出ますかね?」

 

 まあ十中八九その話も出るだろうと思うが。何せ現代冥界の今までとこれからを考えるのに避けては通れない話題だもの。

 だけどそこに僕が話を挟めるかどうかは別問題。部長は話を挟めるだろうけど、今回の主役の一人である以上あまり変な流れをぶっ込むのも難しい。

 

「そこはほれ、あっちは魔王の妹でお前は魔王の知己だろう。権力も力の内、上手く強弱つけて使いこなせ」

「いきなり無茶言いますね……」

「一例として、魔王から話を振らせる状況に持っていくとかだな。積極的に虎の威を借るのではなく、魔王の我儘として流れを持っていくんだ。ボソリと興味を引くようなことを呟くなどすれば、いい感じのパスになるだろうよ」

「戦闘狂から出てくる交渉系アドバイスがまともなことって有り得ていいの……?」

 

 いやまあトチ狂った戦闘能力と好戦的だろう性格以外まともな大人だものな…………。

 

「さ、話すべきことは話したから行った行った。まだ着いてはいないが、女を待たせるなぞ趣味ではなかろう?」

「……なんか釈然としないけど、ありがとうございます。ございます……なんですが、僕上級悪魔は目指しても眷属取るつもりは無いですから!」

「なんだ、女王は嫌か? なら兵士8つなり、戦車2つなりでも構わん」

「そういう話を! して! いないッ!! そもそも下級悪魔の僕の前に、部長辺りに売り込みに行くのが筋だろ!? 部長も取らねぇと思うけど!!」

「はっはっはっは」

「笑って誤魔化すな!!」

 

 なんなんだ全く、一体この男は僕に何を見てるんだ……!?(恐怖)

 

 

◆◆◆

 

 

「かなり疲れてるねイッセーくん……そんなに勉強がスパルタだったのかい?」

「急に生えてきた戦闘狂。あとは察せ」

「あぁ…………」

 

 若手悪魔の会合に向かうのに、3度目の専用列車に乗ることになった。……精神的な疲れを少しでも癒そうと車窓のそばでグデーとしていると、心配に思った祐斗クンが声を掛けてきた。

 

「見るだけで脅威度が推し量れるような戦士を、僕はこれまで見たことがなかったよ。ルシファー様ですらあそこまでは……」

「サーゼクス様の場合、ちゃんと隠してるからだと思うけれどね」

 

 そしてあの男は隠そうと思えばそれができることがさっき判明した。実は敵でした、とかなったらグレモリー領は一瞬で陥落するだろう。劇物にも程がある。

 

「まあ僕のことはいいんだ。八重垣氏はどんな感じだい?」

「凄く真面目でいいヒトだよ。……()()紫藤さんと知り合いなのには驚いたけれどね」

「知り合いというか、近所のお兄さんというか……」

 

 まあアレの関係者で悪魔に転生するなんて驚いても仕方ないわなとは思う。八重垣氏の場合はなんというか、双方の闇に磨り潰され掛けたからそっち考えると不思議でもなんでもないんだけど。

 

「一応それ関連でイリナちゃん冥界に来るから。オマケでこっそり因子融通してもらうことになってる」

「…………はい!?」

「声デケェよ」

 

 この優男との会話で話す因子と言えば聖剣使いの因子である。つまり、八重垣氏に因子を注入する。

 

「え、その……いいのそんなことして!?」

「良かねぇよ、全く良くない。でも複製して元の場所に戻せば一応大丈夫だろ。……ミカエル様は黙認するって言ってたそうだし」

「根回し早くないかい!? 部長とイッセーくんが八重垣さんとあったの昨日だよね!?」

「とは言ってもなァ……」

 

 大体その話つけたのイリ坊と恐らくトウジさんだし。僕は『いざと言う時に八重垣氏に聖剣握ってもらいたいな〜』って言っただけだし。くはは、『覚えてなさいよ……』って恨み節で返してきたあの女の声は暫くネタにできそうだぜ。

 

「別に彼が持ってるわけじゃないけれど、この先お前の聖魔剣とか、僕のアスカロンとか貸すこともあるかもしれないからさ。せっかくの元教会の戦士、フルスペックにできることに越したことはないよ」

「あいっかわらずだね…………部長は知っているのかい?」

「もち。ウォーカーさんに対する誠意は幾ら見せてもし過ぎることはないってさ」

 

 アレを敵にまわしたくないからな、うん。…………しかし未来の眷属にするのは嫌だ。怖すぎる。

 

「とはいえ僕の独断でやったことにしているので大っぴらに言い回らないように。ほら、僕が暴れる分には『また赤龍帝がなんかやったよ』で処理できるし、現状部長以上に首輪になれる存在もいないってことでそっちのお咎めもなし! いい塩梅に無敵のヒトだぜ! 僕悪魔でドラゴンだけど」

「……吹っ切れてから、余計に無法者になってるね。もう誰にも止められないよ」

「止める気があんの?」

「無駄なことはあまりしないタチだよ」

 

 肩を竦めてため息吐く姿もサマになるなぁこのイケメン。……僕がコイツぐらい面が良ければ部長とのことも早めに踏ん切りついてたのかしらん?

 

「ま、仲良くやれるんならなんだって構わねぇや。特にお前は教会関係者に対して思うところがあると思ったからさ」

「ある程度は振り切ったつもりだよ。……それに、ある意味で似たような立場だから、悪魔になった先輩として親近感もある」

「そっか」

 

 時期的に多分あっちが先だろうけどな、というセリフは喉の手前で留められた。イッセーくん、意外と空気は読める子である。

 

「ただ少し、気になることがあって」

「ん? 怪しい動きをしてるとか?」

「うーん、なんだろう。怪しい動きと言うよりは、怪しい動き(物理)なんだけれど」

 

 何そのカッコ物理。警鐘が鳴り始めたからマジでろくでもなさそう。

 

「この列車にはトレーニングルームがついてるんだ。せっかくだからってことで一度手合わせをしたい、ということで少し木刀を交えたんだけど……」

「ふんふん」

「これ、見てくれる?」

 

 そう言って優男がどこからか取り出したのは、真ん中あたりでスパッと切り落とされたのだろう木刀の残骸だった。

 

「木刀同士で打ち合ったんだよな?」

「うん」

「魔力は」

「使ってないよ、もちろん。八重垣さんは転生したてなこともあって魔力を扱えてもいなかったね」

「……奇跡的に綺麗な断面になる感じで折れた?」

「そうだったら僕もこんなに不思議に思わなくて済むんだけれど」

 

 顔を見合せる。嘘言ってる感じはないし、何らかのトリックって感じも無さそうだ。魔力の残り香みたいなの無いし。

 

「もっと興味深いのがさ、力加減を間違えた……ぐらいの感じだったんだよね。ねぇ、イッセーくん。彼に訓練をつけたっていうウォーカーさんっていうのは、一体全体どういうヒトなんだい?」

「………………………………」

 

 なんなんでしょうね、アイツ。

 

「まあアレの話をしても仕方がない。建設的な話をしよう。いいタイミングだ、お願いしたいことがあったんだ」

「イッセーくんの建設的な話って、嫌な予感しかしないんだけれど。主に共謀させられるとかで」

「失礼だな。不幸な事故を偶然起こす準備と言ってくれよキミィ」

「内容と表情があってないよ……」

 

 まあ不幸な事故を起こしたことなんて過去に1回しかないのだけど。まあそれは黙っておくとして。

 

「真剣に試して欲しいことがある」

 

 そう言って僕は懐から幾つか小瓶を取り出す。中身は液体やら破片やら、色々だ。

 

「『魔剣創造』が、現実にある素材を元に剣を生成できないかの実験。してもらおうと思ってたけどかなり後回しになっててさ」

「……つかぬ事を聞きたいのだけど、これらの中身について教えてもらえるかい?」

「僕の血、僕の肉片、聖水、拾った擬態の聖剣の破片、アスカロンの破片、装甲板の破片」

「何を作らせる気なんだい僕に……!?」

「本当ならガラティンの破片も渡したいところだったけど、焼かれて抗議された。アスカロンは素直だったんだけどな」

「それもう諦めとかそういうものだよね……? 多分ガラティンの反応の方が正常だよ……?」

 

 それは僕も思う。

 

「ただ、最初からこの正気を疑うようなラインナップで試して欲しいワケじゃあない」

「よかった、その辺の自覚はあったんだね」

「これでも普通を標榜してるからな。……そもそも魔剣創造による魔剣生成に素材を挟む余地があるのならば、みたいな話になるんだけれど」

「うーん……」

 

 そう言って祐斗くんは胸の前辺りで手をかざした。しばらく待つと、翠色の光と共に柄しかない魔剣が表れた。

 

「一応、できたみたいだね」

「早すぎねぇ……?」

「罠やワイヤーを作るよりも、出来て当たり前だって思えたからかも」

「ふーむ」

 

 概念的にゃあまんまその通りだものな。無から生み出すわけじゃないからもしかして普通の生成より楽だったりしない?

 

「そうだね、いつもより楽に生成できた気がするよ。けれど……」

 

 彼はもう一度同じ構えをとって剣を生成しようとして……表れたのはさっきとほぼ同じ意匠の柄だけの剣だった。

 

「これは力を込めると風の刃を形成する魔剣。そこにある空気を混ぜて作ってみたよ。2回目はそこに別の属性混ぜようと思って作ってみたけれど」

 

 渡されたので、それぞれに力を込めてみたが……同じような風の刃しか出てないな。

 

「どうも素材を使って生成すると、素材に沿った魔剣にしかならないみたいだ」

「なるほど……?」

 

 そうなると準備した素材が高級であるほど面白そうな剣が作れそうだが。

 

「……間違っても、イッセーくんの腕を僕に寄越さないでくれよ?」

「おめーも朱乃サンと同じこと言うんだな」

「言うよ、何も言わなければいつの間にか準備されてそうだからね」

 

 へぇへぇ、自分の身体は大事にしますよっと。

 

「……でも、これは使えるかもしれないね」

「?」

「イッセーくん、後で僕と訓練しよう。可能なら、遠距離攻撃を主体に戦って欲しい」

「そりゃまたなんで……って、ああ。そういう?」

 

 恐らく、僕と彼は同じことを思いついたようだ。これを形にできれば…………木場祐斗にはほとんどの攻撃が効かなくなるということになる。

 

「お安い御用だぜ、優男。それまでにちゃんとイメージを形にしておくんだな」

「ふふっ、できれば助言も貰いたいところだね」

 

 疲れた気分も盛り上がる。夏休みの自由研究をするような面持ちで、僕らは向かい合って意見交換を始めた。

 




感想等ありがとうございます、非常に励みになります。
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