兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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ストレート!


その13

 

「えー…………一応アジュカ・ベルゼブブ様の命令という形で皆様の耳汚しをすることとなりました、兵藤一誠と申します。よろしくお願い致します」

「チッ、一手及ばずか」

「一手どころか王手(チェックメイト)されたわ、こっちが」

 

 色々とすったもんだあってようやっと舞台に上がれたワケだが。具体的には思い出したくもないし記録にも残したくないが、あまりに片手落ちなのでダイジェストで残しておくこととする。

 

 まずサーゼクス様が真意を問いただした。まあそれは当然というか、表面上は3割政敵ではあるので当然の疑問と言えよう。誰がパフォーマンス政敵相手の実の妹の眷属の後見人になる魔王が存在すると思う?

 そしてそれに返すアジュカ様は、ゲームに誘う予定だった人間を横から掻っ攫われた形になったので軽い仕返しをしたくなったとのこと。ゲームとはなんじゃ? と思っちまったがそこは突っ込まぬが華であろう。

 その上でアジュカ様は追撃、一層のこと僕を自分の養子にしてしまえば色々通りも良くなるんじゃないか? 等という本気なのかサーゼクス様をおちょくってんのか分からない提案をし、一同騒然てんやわんや。あんな青筋浮かべたサーゼクス様初めて見たよ……いや数える程しか顔合わせしてないけれど、基本穏やかでしょあのヒト。

 結局今日のところはそういうのは無しにしてくださいお願いします、と僕が土下座を披露したところで沈静化。いやもう本当に怖かったもん、特にウチの上司殿。困ったような笑みだけ貼り付けてたけど内心どんな状況だったのかどうしようもない。

 

 …………しかしマジで平麺サンにはしてやられた。実際どういう意図があってかは分からないけれど、僕にはアジュカ様の息がかかってるというのが白日の元に晒されてしまった。また厄介なのが勢力間での結束力を高めるのを考えると悪くない手であるため、断ることも難しいということだ。……やだなぁ、サーゼクス様だけじゃなくて自分の常連のことも気にして立ち回らないといけなくなるの! まあ先にこっちが利用しようとしたんだから自業自得なんだけれど。がっでむ。

 

 さて、それでは思考をこれからする話に戻そうと思うのだが……はてさて、どこから手を付けたものか。

 

「…………まず第一に。僕はレーティングゲームの運営権が将来的に悪魔から離れていくと考えています」

 

 ザワつく会場内。内心冷汗をかいてるだろう連中、興味のない一部。…………そして僕の考えを納得した表情で受け止めてるごく一部。支取会長は……まあそうだよね、分かってはいるわな。

 

「様々な要因はあるでしょうが、大きく分けて2つ。1つは勢力間でのガス抜きに用いるのにこれ程便利なモノはないからです。手を握り合ったとはいえ、これまでの不倶戴天の敵同士。思うことが山のようにあるでしょう。そんな中で相手を合法的にぶちのめす舞台があれば、多少溜飲も下がるはず。僕の知る限り、こういう戦争遊戯を興行としてやってるのは悪魔しか知らないので、必然その舞台はレーティングゲームとなると考えてます。仮に新しいフォーマットを作り上げるにしても、当座はレーティングゲームを使うでしょうしね。ここまでで僕の思い違いとかありますかね?」

 

 反応は無し。何か言いたげな顔をしてる連中はいるが、背後に魔王がいるとなるとこの場では何も言えんよな? くかかかか、権力ってすごい。

 

「まあ冥界、悪魔でのレーティングゲームのリーグを残すってンなら、その運営権は据え置きでしょうが。ただ……教会の戦士やグリゴリ所属の神器使い、歴戦の天使に堕天使、そこにレーティングゲームのトップランカーが入り交じったバトルと比べて、どっちがコンテンツとして強いかは……まあ、考えるまでもないっスよね? となれば必然、飲み込まれるでしょうよ。その時悪魔側で運営権の主導権を握れるとは思いません。その理由は、皆様が一番理解していると思います」

 

 おーおーピリついちゃってまァ。明らかに『何かやってますよ〜』って言ってるようなものじゃないですか。普段なら腹芸なんてお手の物だろうけど、奇襲掛けた形になったからな。対応もしづらかったろう、ウケケケケ。

 まあ口ではこう言いつつも、悪魔だけのレーティングゲームは残り続けるとは思う。オリンピックがあるからと言ってスポーツの大会がそれしか無くなったことは無いわけだから。この辺りは実際にやってみるしかない、検証検証。

 

「……主導権が離れるにせよ、ある程度主導権を握れるように今のうちから準備が必要と。学校を新たに作りたいというのも、その一環という事か?」

 

 上級悪魔の誰かがそう問いを投げてくる。質問タイムには早いよちょっと。……まあ対応するケドさ。

 

「自分はシトリー様ではないのでなんとも。でも確かにレーティングゲームの教育機関を作っておけば、それを天界や教会、グリゴリの方でそういうモノを作る時に転用できるとは思います。その場合、各々の家である程度の基礎を学ばれた上で通うことになる貴族の為のレーティングゲームの学校よりは、広く門戸の開かれた学校の方が役に立つでしょう。何せレーティングゲーム初心者に教えることになるわけですから。その辺()考えておられたと思うのですが、如何でしょう?」

「ええ、兵藤一誠くんのおっしゃる通りです」

 

 急に話を振ったが答えてくれて助かった。後で会長に頭下げに行かないと。……なので訝しげにこちらを見ないでくださいね? 何も企んでは……いや、あるか。

 

「さて、大きく2つ要因があると言いましたが、自分にとっては2つ目の方が主題です。怒らないで聞いてくださいね……?」

 

 これを口にするのは自分としてもかなり緊張する。ぶっちゃけさっきの会長よりも大バッシング受けても仕方がないことを今から言うからね。

 

 すー、はー、すー、はー、と軽い深呼吸で自分を落ち着かせる。よし、言うぞ。

 

 

 

「……悪魔が輸出できる産業って、レーティングゲームぐらいしかないんですよ」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 この期に及んで感情的にすぐさま反論をぶつけて来るようなおバカさんは……流石にいなかったか。だが広間は殺気に満ち満ちている。下手なことを言ってしまえば、次の瞬間には自分の首が飛んでしまいそうな気すらする。…………まあ、警鐘は鳴ってないので大したことでもないのかもしれないが。

 

「これはまた……穏やかではないなイッセーくん。魔王である俺が言うと少々身内贔屓に聞こえるかもしれないが、冥界の産業はそれぞれ偏りはあれどそれなりに栄えている」

「ええ、ここに来るまでに目にした冥界の街並みや景色からなんとなく分かります。細かく確認したワケじゃあないんで、どのようなものが〜……とかはテンで分かりませんが、僕の発言に反感を覚えるってことは、そういうことなのだとも思います」

 

 というか、代表して質問を投げてきたアジュカ様が分からないはずがないだろうに。まあ単純に僕へのアシストなんだろうケドさ。

 

「問題は、それらを産出してるのが悪魔だということですよ」

 

 ……ンまぁ、一部を除いてピンと来てないみたいだな。それもそうか、ここまでは基本的に『悪魔』と『人間』相手にしかしてなかったもんな。

 

「例え話をしましょう。2つ、果物があります。リンゴでもブドウでもオレンジでも、なんでもいいです。大事なのは味も大きさも含めてほぼほぼ同じようなものであること。但し片方は悪魔、もう片方は天界…ないし教会で育てたものです」

 

 まあそれぞれで環境が違い過ぎるから、実際に育てて似たようなものができるとは思わないけれど。あくまで天使と悪魔がそれぞれ同じものを作ったよ、という例えが伝わればそれでいい。

 

「さて、元人間の転生悪魔の皆さんにお聞きしたいです。悪魔に転生する前の価値観で、ないし一般的な人間の価値観で考えて欲しいのですが。『天使の果物』と『悪魔の果物』……どっちの方が手に取りやすいですか?」

『『『……っ』』』

 

 少し息を呑んだ反応が、雄弁な答えであった。

 

「もちろん、天界と悪魔が同じ土俵で競合することはそこまでないでしょう。各々求められている役割が違います。ただこれから三大勢力間で行う経済活動は、今反応してくれた転生悪魔の皆さん以上に厳しい目をした相手と行わないといけないんですよ」

 

 同じことは天界・教会側や堕天使側にも言えるだろうがね。だが……

 

「無知蒙昧な僕でも、天界・教会側、堕天使側が三大勢力に貢献できるところはパッと出てきます。天界・教会は人を動かせます。天使と悪魔が手を組むという天変地異が起こっても、彼らのおかげで一般社会にはその影響は無いように思います。ひとえにそれは教会が地球最大の宗教組織であること、たくさんの人間が程度の差こそあれ信者として属しているからそれが可能なのでしょう。堕天使と悪魔にはできないことです」

「堕天使の強みは神器研究が何処よりも進んでいることでしょう。コレクションのように神器所持者を転生させてる方もいることでしょうから、その重要性は語るまでもありませんね? それに神器絡みのトラブル……聖書の神の作ったシステムへの不具合や、神器症に代表される問題にも、彼らの研究が活かされるでしょう。天使や悪魔にはできないことです」

 

 …………で、だ。

 

「悪魔には、何がありますか?」

「人の願いを叶える? でも我々は契約に則り対価を徴収します。昨今の契約業務だとなんでも屋の延長線上ですから、悪魔でなくてもいい部分があまりにも多い。それにこれからは天使の目が着いてまわります。すぐにはなくとも、遠くない未来でそうなるでしょう。我々は『悪』魔なんですから」

「戦力的に強い? そんなもの他所の勢力にも言えることだし拮抗して疲弊したからこその協定でしょう? そもそも平和な世界を目指しましょうってところで腕っぷし自慢とか、バカのすることでしょう。テロ組織が存在してるんで壊滅させるその日までは無意味じゃないでしょうけれど、そんな中で強さの喧伝なんかしたら、あれよあれよとテイのいい肉壁にジョブチェンジじゃないですか。対応を丸投げされて命を散らしたいと言うのであれば、皆様方にも戦争で鳴らしたその実力を振るって欲しいものです」

「生物を悪魔に転生させる技術がある? それは確かに認めるところですね。これを天使や堕天使にも転用できるのならさらにすごい。……が、それを悪魔が貢献できる部分とするのは違いますよね? 『悪魔の駒』は、僕の後見人に名乗りを挙げたアジュカ・ベルゼブブ様が創り上げたと伺っています。まさかあなた方……虎の威を借る狐のようなことを、貴族の皆々様方が主張するワケないですよね?」

 

 そもそも人の欲を叶える契約(しごと)だって、こっからは堕天使辺りも乗っかって来ようと思えばできるからな。裏の事情をよく知らない一般人からすれば悪魔も堕天使もそう変わらない。変わらないってことは、どっちでもいいってことでもある。

 

「こうなることは分かっていたはずです。であるならば、掃いて捨てる程度の僕とは違って優秀であろう上級悪魔の皆々様方なら、既に何らかの施策を取っているものと思います。それなら僕が殺気を向けられたのも分かります。バカにしているのか、と。ならば是非この愚かな下級悪魔にご教授願いたい。天使や堕天使が介入してくる可能性が高いこれからの悪魔社会で、天使や堕天使に侮られぬよう肩を並べなければならない悪魔の為に、どんな準備をしているのか、していたのか。それを是非とも教えていただきたい。先行きが明るいとは言い難い視界に、希望を示して欲しいのです」

 

 分かってはいたが。答えが返ってくることは……なかった。

 

 

◆◆◆

 

 

「さて、そうなると本当に、レーティングゲームのシステムを三大勢力間で共有するぐらいしか僕には思いつかないというワケでして」

 

 空気が刺々しいとか通り越して死んでるのも気にせず、努めて明るい声を出す。部長の満足そうな顔のおかげでイッセーくんはまだまだ頑張れそうです!

 

「そうなるとレーティングゲームは政府が運営指揮をした方がいい国営事業のようなものにするのが自然でしょう。悪魔が出せる精一杯ですよ? ()()()()()()()()普及させたいじゃあないですか。少なくとも僕なら、トップランカーの顔ぶれが変わらないっていうのは八百長をやってるか、シンプルに運営が下手かを疑います。そんな方々に、一歩間違えたら悪魔の命運が掛かってる事業を任せたくは……ないですね?」

 

 レーティングゲームの学校を作るって面と向かって言う=バカにしてるってそういうことよ、テコ入れの必要があるって思われてるってことなんだから。まあ、会長が態々レーティングゲームの学校を目標に掲げたのは別の理由だと睨んでいるが……それを話すのは違うのでお口チャック。

 

「故に最終的な結論としましては、どのような理由からソーナ・シトリー様の将来の展望を嘲笑したのか、まるで分からないってことですよ。確かにこれまでやられてなかった試みかもしれませんが、分解していけばそうおかしなことでもありませんし。となると僕としては、『レーティングゲームを貴族悪魔だけのものにしたいが為の工作か?』となるワケでして。いやぁまさかそんなことはないですよね? だって偉大な上級悪魔の皆様が、そんなこすっからい悪事程度で収めませんもんね? 僕ですら『適当にノせて暴利付きで支援して失敗させて家ごと吸収する』ぐらいは思いつきますのに! 上級悪魔ならこれ以上の悪魔的発想がポンポン出るものだと思っているンですが!」

 

 半ば本気でワクワクと返答を待ってたら、返ってきたのは部長からのゲンコツであった。痛いィ……。

 

「私の赤龍帝が申し訳ありません。どうにも、発想が悪魔より悪魔的と言いますか……」

「えっ、この程度で?」

「あなたは悪魔をなんだと思っているのよ……」

 

 おかしいな……『王の駒』関連だとえげつないことしてたっぽいのにと思わずにはいられない。いられない……が。潮時よ、と目で訴えかけられたら僕も黙るしかない。まあサーゼクス様の顔が赤とか青とか通り越して今もう虚無な笑顔だもんな。いやはや本当に申し訳ない。あと隣の常連殿、『チッ、つまんねーの』みたいな顔しない。

 

「さて、このような引っ掻き回された空気の中で言うのも気が引けますが。最後に私の将来の夢を、皆様に聞いていただきたく思います」

 

 1/4ぐらいあなたの指示ですケドね、と呟きつつも、今度は心の底からワクワクしながらリアスさんの宣言を待つ。いやぁ、憔悴した彼らがどれだけ反応してくれるのか……。

 

 死んだ空気が恐怖を纏う。今しがたこの場をぐちゃぐちゃにした赤龍帝、その飼い主はどんなことを言ってくれやがるのか。悪い意味での期待の中で、弾けるような……怖気が走るような笑顔を浮かべて、我が最愛の上司殿はこう言い放ったのだ。

 

 

「私、リアス・グレモリーの将来の夢は。冥界の経済をこの手に収め、若者の夢を笑うような輩に対して札束で殴ることです」

 

 

 ……生きた心地がしなかった、とは後のサーゼクス様のセリフである。

 




「悪魔同士で増えられないからこんなことになってんでしょ? 純血主義拗らせすぎて血が近いんですよ。そういう不具合出てきてません? 子供が出来づらいのもそういうことでしょう? あなた方は、アジュカ・ベルゼブブという善意の飼育員に飼われた絶滅危惧種です」

というセリフをどっかで入れたかったですが、あまりにも不憫なのでボツとなりました。

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