「お前に分かるか? 逃げ出してるかもしれない教え子の様子を見に来たら右脚をにょきにょき生やしてるところに遭遇した心境を」
「なんかすんません」
「ちくしょうえらく面白そうなことしてるじゃねぇか、なんで俺を混ぜない!?」
「そっちかよ」
よくよく考えればマッド集団でしたね、とため息一つ。
狂気の訓練も終盤に差し掛かったところでやってきたアザゼル先生だが、相も変わらずの様子で何よりである。……10日程だとそんな変わらない? でもこっちの密度が狂ってたからなぁ。
「それで、なんでパーツが吹っ飛ぶことになってんだ? そこまで見境ないわけじゃねぇだろ。お前も、あの男も」
「本人の希望だ。流石の俺も何度もやるのは心が痛む」
ぬっと後ろから顔を出したのはご存知
「はじめまして堕天使の総督アザゼル。バタバタとしていて挨拶ができずじまいだったな」
「気にしなくていい、お前のお陰でこっちも結構助かってるからな。ところで、タンニーンの姿が見えないようだが……」
「領地に残した仕事があるとかでな。すぐ戻ってくるとのこと故、今は昼休憩だ」
「ま、あいつは最上級悪魔だからな」
よく都合をつけられたもんだ、と溢したアザゼル先生に完全同意。この男、どんなツテで彼を引っ張って来れたのやら。
「俺も詳しくは知らないのだが……ウォーレンの主との縁だ。ウォーレン死亡に際しての身辺整理していたらえらく面倒臭い事実が判明してな。その手間賃として今回、タンニーン殿への借りを代理人から譲り受けたんだ」
『ショウ、分かっているとは思うが』
「…………今度はアレが囁いたな? 分かっているさ、ウォーレン。俺からはあの名は出せん」
『助かるよ』
「聞こえてないのに会話成立させないでよ……怖ぇじゃん」
ともあれ聞かない方がいい事情があるのは分かった。……そりゃあの時計の悪魔も転生悪魔だ、となればアレを悪魔にした誰かも間違いなく存在しているワケで。
「それで、イッセー本人の希望ってのは?」
「ああ、はい。間違いなく。今回、僕の課題の一つが『耐久力』の向上だったんですが、鍛える以外にも対策しようがあるなと思って実行したんですよ。僕の装甲板を骨に纏わせて強度を上げるって感じに」
「文字通りの
「事実、目覚しい程に耐久力の向上が見られた。打たれ強さ……物理的な耐久力もさることながら、龍のオーラを濃密に纏っている状態だ、ある程度の魔力、魔術なら鎧を纏わずとも弾ける程に。検証は必要だが、外部からの精神操作の類も基本的には受け付けないだろうな」
「…………話が見えないな。それがどうして、自分のパーツを吹っ飛ばすことに繋がるんだ?」
不思議そうな総督に同意しつつ、その原因たる歩行者を睨む。本当こいつ酷い男だよ。
「強化してなお、この男に腕はぶった斬られるは土手っ腹ぶっ飛ばされるわだったんですよ。コイツ、一挙手一投足がガー不技で構成されてるんです」
「……は?」
「視界に入れば斬れてしまうのだから仕方がない。そも、俺が身につけた術理とはそういうものだ」
「…………その、なんだ。見せてもらうことは可能か?」
「ん」
お望みとあらば仕方がない。適当に手の中で装甲板を増殖させ、歩行者の方に向かって投げる。硬さ、丈夫さに関しては検査でよくご存知だろうからな。その辺の合金なんか目じゃない。
ンで、歩行者はこともなげに
「……なんだこれは?」
「見ての通りです。魔力も、特殊な力も使わずに、完全に技術と腕力だけでやってるそうです。……わぁ、いつもの如く綺麗な断面」
「悪魔になってから時間だけはあったからな、いつか立合う強敵を夢見て修練を重ねたらこうなった」
「仙人でも目指してんのかお前。……しまったな、先に小猫にあてがえばよかったか?」
うん、僕もそう思う。多分ジャンルとしてはその辺だよね。もっとも、仙人は仙人で仙気だの闘気だのというものを使うそうなので完全に同じ系譜ではないみたいなんだけど。
「まあ、普通の攻撃の方はタンニーン先生がちゃんとテストしてくれたのでそれはいいとして。ウォーカー氏のお陰である気付きを得ました。こちらが常套な耐久を引っ提げても、それを無視してくる攻撃をしてきたら、それに太刀打ちできねぇぞ、と」
「流石にここまではないだろうがな……実際魔術や毒の類が物理的な耐久だけでは耐えられないわけだから、その懸念自体は間違ってない」
「そんなわけで、そういった攻撃に対しての耐久対策として思いついたのがゾンビ戦法です。まあゾンビなのは名前だけで、強欲による複製をストックして、それを瞬時に馴染ませるって感じで移植みたいなもんです。今までやってきたことを瞬時にできるように調整しました」
複製、と言っても腕そのものをストックしておいたって腐るし、収納場所があったとしてもそれを瞬時に取り出して接合するにしても時間がかかるわけで。
なので僕は、腕の『素体』のようなものを複製できるようにしたのだ。いや、できるようにしたのはドライグなんだが。で、それを虚飾の能力で外見内面共に整えて馴染ませる。他人の命を複製した経験がここで活かされたってカンジ。
「で、消し飛ばしたり斬り飛ばしたりをお願いしてたのは、それをシームレスに行えるようにする訓練ですね。上手くいけば、自分以外にも使えると見てるので」
「なるほど、アーシアが脱落した時の対策も兼ねてるのか」
「ですです。悲しいかな、回復要員は貴重でしょうからすぐ狙われるでしょう。なので、耐久力もある程度底上げされた僕が別な回復手段を持ってることは結構意味があると見ています。ま、そもそも誰かが盾になるでしょうから、ゲームの序盤から落ちることはそうそうないでしょうけどね」
テセウスの船的な問題は、悪魔化、ドラゴン化してる時点で今更かつ乗り越えた問題だし、命さえ取られなけりゃ大丈夫。……大丈夫(自分に言い聞かせ)。
「そういった事も含め、訓練の進捗はこちらのノートに纏めてある。引き継ぎに支障がないようにな」
「見た目に反してマメだな…………。お前また変なことしやがって」
「へへへ」
どれを見たかは分からないけれど、その嫌そうな顔にイッセーくんご満悦である。
「しかし、魔力の扱いについてはドラゴンブレス以外に特に記述が無いようだが、これについては?」
「ん? ああ、こと魔力操作に関しては、俺は兵藤一誠未満だ。教えられることはほぼほぼ無い」
「また極端だな……。全く使ってないワケじゃないだろ?」
「晒してもいいが、いい加減に本題に入ったらどうだ? 総督ともあろう者が俺のような木っ端が気になるなぞ、不思議を通り越して不審だ」
「おいイッセー。これは素か?」
「素です。自分はある程度強い、以外の自負がまるでありません。警鐘のお墨付きです」
「なんだかなぁ…………」
これである程度、レベルの認識なのおかしいってマジで。とは何度も思ったし、タンニーン先生も同様の感想だった。自己認識歪んでんな(ブーメラン)。
「まあいい、ついでの用事があったから進捗について確認したかっただけだ。それ次第でこっちの指導内容を調整しなければだしな」
「ついでの用事とは?」
「グレモリー夫人からの伝言があったんだよ。もし座学の時間があるならこれを頭に入れておけってな。ほれ」
「また本が増えてる…………」
グレモリー邸にいた時も思ったけど覚えること本当に多いね、と手渡された分厚い本を見て思う。でもねぇ……
「上流階級の振る舞い……いわゆる社交場でのルールを頭に叩き込むのは分かるんスよ。腹ァ括った以上僕はあのヒトの横をどこまでも着いてく所存ですし。必要とあらば社交ダンスだって踊ります」
「叩き込もうか?」
「できるのかよ……」
……まぁ、できそうだよなこの歩行者。対外的な折衝は全部こいつがやってたそうだから。
「でも、急に増えだした経営学に関する書物に関してめっちゃ疑問なんですけど、これは一体……?」
そう訊ねると、ふいっと視線を逸らされた。ぜってぇなんか知ってるなこの黒幕教師。
「曲がりなりにもラーメン屋の運営を任されてるからじゃないか? そういうのも勉強しておいた方がいいってことだろ」
「逃げなくてもいいですよコノヤロウ。……だいたい想像つきますし、こっちにゃ警鐘だってあるんすよ。ただ、早くね? と思っただけで」
若手悪魔の集いにて部長が宣言した『冥界の経済を握る』発言で、部長ならびにリアス・グレモリー眷属の方針は決まったと言っていい。ガッタガタになるだろう冥界経済に対し、この機に乗じてという感じで乗っ取りにかかるって感じだろうさ。
僕の知らないところで進んでる特撮計画も、なんか妙にスポンサーがやる気に満ちてるロボアニメ計画も、なんなら九頭龍亭の運営だってその計画の一部だ。だからいずれは、僕も本格的にそういうのを学ばなければならない……とは思っていたけれど。
「それにグレモリー家は素で人間社会での商売を成功させてる家ですし、早いうちから僕が付け焼き刃を身につけたところで戦力になれるとは思わないんですよね」
「ふむ……俺も実際のところの思惑は分からない。多少は齧っているが、商売に明るいわけじゃないからな。ただ一つ言えることはある」
「それは?」
「お前は基本的に判断を誤れないだろうな、ということだ」
耳をトントンと指すジェスチャーに、それが何を指してるのかがすぐに分かる。
「お前は変な意味で人の機微に敏感なところがあるから正直杞憂だとは思うんだが……恐らくグレモリー夫人はお前が『勝ち過ぎる』ことを警戒している」
「やり過ぎて敵を作り過ぎる、ということですか?」
「それに加えて味方を育てられない、とかな」
「うぅむ…………」
それは…………あるかもしれない。ここ最近で使用感がかなり変わったけれど、基本的にはやはり警鐘は警鐘だ。自身の危機に対して働く、面倒でお節介な
「だから正解の解釈を広げようとしているんだろう。直前の正解を拾うか、後の正解を拾うか。その判断をするにも、お前に知識が備わっていないとできない。だから早めに手を入れたいんだろうぜ。娘の隣にいるんだからな、余計にな」
「はー……」
手渡された本からの重圧が増した気がする。……僕凡人だし、期待に応えられるかは分からないけれど。悪い気はしない、か。
「困ったな……流石に俺でも、経営学では戦えない」
「「戦えてたまるか」」
渾身のツッコミであった。
◆◆◆
「ところで、他のみんなの進捗はどんな感じなんスか?」
昼食後、抜き打ちでされた占星術に関してのテストを乗り越え、ふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。表情が目に見えて明るくなった辺り、基本順調そうだ。
「概ね予定通り……どころか予想を越えて仕上がり始めてるな。細かく聞いていくか?」
「お願いします」
まず我らが上司殿は、基本的な訓練を主にやっているらしい。
「そいつは素のスペックが高いから、ってことですか?」
「そういうことだ。才能に身体能力、魔力の全てが揃っている。鍛えることをしなくても将来的には最上級悪魔になれる逸材だ。鍛えることを基本しない悪魔において珍しく自己研鑽を怠らないタチでもある。順当に基礎訓練をやっていけば自ずと頂点に立ってるタイプだ」
なのでアザゼル先生からの課題のメインは、レーティングゲームのデータを頭に入れること、なのだとか。基礎無くして、なのは間違いないからね。変なアイデアで埋める僕とは大違いである。
「でもそれだと目覚しい、って感じにはならないっすよね? ということはクレーリアさんからの指導にタネがあると見た」
「その通り。とはいえ基礎訓練の範疇ではある。クレーリアからの指導は、シンプルな魔力操作だった」
思わず眼帯の悪魔を見る。訳知り顔で頷いてるが、さっき僕より魔力操作が下手と言った男である。何隠してるんだテメェ。
「循環させて消耗を抑える魔力運用。魔力を身体から切り離すのではなく、身体の延長として魔力を行使する手法。なるほど確かに単純だが、難度の高い魔力操作だ。俺も思わず手を打ったよ」
「んん……? それ何か珍しい要素が?」
「悪魔にとっては、魔力は基本的に有り余っているもの。使うことは息するのと同じ様なものだが、使い回すと話は別……とクレーリアは言っていたな」
なーるほど。なんとなくだが話は見えた。
「元は俺が少ない魔力をやりくりするのに使った手だ。不必要にポンポン飛ばせばすぐに枯渇する故、武器として固定化できないか? という発想だ。その一つの結論として、魔力の通り道を身体の少し外まで伸ばすことによって、消費をほぼゼロにしつつ武器のように扱うことに成功した」
いいながらヤツは自分の手の中に青白い光の剣を出現させた。羨ましい、シンプルかっこいいやつじゃんかよ。
「よく僕より魔力操作が下手とか言えたな、超絶技巧の類じゃねェのこれ」
「火や水に変化させたりできんのだ。俺にはまるで素養がない」
「どうして弟子にこれを教えられたんだ? 明確にお前の強みだったろうに」
「強い相手が増えるに越したことはない、俺の楽しみが増えるだけだ。なんなら俺自ら教えてやろうか、アザゼル」
「やめておく、お前に教えを乞うたら後が怖そうだ」
などと言いながらも先生は先生で緑色の魔力でできた剣を手に出現させてるが。…………あれ、おかしくない?
「せんせー、魔力って悪魔にしか備わってない能力のはずなんですけどー」
「いい質問だイッセー。教材があったもんでな、試しに空気中に舞った使用後の魔力をかき集めてみた。やるもんだろ」
「アンタも大概チートキャラだなオイ」
サラッとやっていいことじゃないと思うんだよな……流石は研究者集団の長。
「話を戻しまして……つーことは部長は近接戦闘であれば消耗を気にせず滅びの魔力をブン回せるようになったってこと? 無法じゃん」
「何も至近距離だけじゃなく……おっと、この先は直接アイツの口から聞いてやれ。いやに張り切っていたからな、お前の口から褒めてやれ」
立場的に逆な気もするけど……いやまぁ、それで部長が喜ぶんなら幾らでもするが。
「朱乃も同じ魔力操作を身につけつつ、こちらは堕天使の力の制御を主軸に訓練をしている。ここは俺の指導の賜物だな、順調に光力を扱えるようになったぜ」
「自画自賛はともかく、光と闇が合わさって最強と言うやつでは」
似たようなことを優男ン時に言った気がするけど、実際すごいことだよそれは。
「悪魔同士のレーティングゲームでなら、光力を扱えるだけで必殺だからな。流石にバラキエルのように雷光とまではいかないが、悪魔ならではの力で面白い進化をしてるぞ」
「ふむ」
悪魔ならではと言うと、そこは魔力ということになるんだろうけど。魔力と天使、堕天使の光って食い合わせ悪くなるもんじゃなかろうか?
「そこはそれこそ木場の聖魔剣という教材があったからな。混ぜるのではなく巻き込む形で光力を魔力によって変質させることができるようになったわけだ」
「それって、光力の方で魔力の真似事をできるってことです? ……とんでもねぇことやってんなぁ」
「それもこれも、クレーリア……ひいてはウォーカーの魔力制御があってのものだが」
そりゃ先生も歩行者に対して『魔力に関しては何も教えてないのか?』にならァな。多分才能が無い側だからこの短い期間で身につけられないって判断だろうぜ。
「そもそもお前、赤龍帝だろう。魔力をケチる必要もしばらくはない。いずれは覚えておいて損はないが、それで劇的に戦力が増すわけではない故後回しだ」
「そこについては同意だな。もっと基礎能力あげろ、もっと」
「へーい」
みんなと違って下地が無いわけだしね。……それでもドラゴンと戦闘狂に追い回される地獄なのはどうなんだ? と思うけれど。普通に死ねる(腹貫通)。
「木場に関しては、禁手状態の長時間維持を課題として出した。本当の戦闘だったら先に魔剣や聖魔剣を生成して準備するので間違いないが、レーティングゲームではルール上不可能だからな」
「あ、ちなみに僕みたいに自分の装甲板を増やして神器の中に格納するのってどうなんですかね?」
「問い合わせが必要だな。恐らく持ち込む量に制限が掛かるだろう。ゲーム中に増やす分は抵触しないはずだ。創造系の神器に関してのルールが適応されるだろうからな」
ふむふむ、時間がある時に平麺サンに聞いてみよう。運営には携わってないけれど、
「神器の応用に関しては、
「そこは何も言えねぇや。サブカルバンザイ」
「……問題は、剣士としての訓練の方なんだが」
眉間を揉む仕草をし始めたので、とりあえず歩行者の方を向く。警鐘が『コイツ! コイツ!』って鳴ってるし。
「……元々は、木場自身の剣の師匠がいたそうでな。そいつに面倒を見てもらう予定だったんだが、八重垣も着いていくことになってな」
「あっ」
そういや訓練用の木刀で綺麗な断面作るって、そういうことじゃねぇか!? これ八重垣氏に特別な才能がある……ってよりかは歩行者のあの技術が他人にも教えられる程度の再現性ある劇物ってことじゃん!!
「自分の装備を魔剣や聖魔剣に頼らなくても良くなったのはかなりデカいが……このままいくと、アイツはゲリラになるんじゃねぇか?」
「得物を選んでるようでは三流だからな、ようやっと一人前になったということだろう」
「得物が無くても戦えるアンタが言っても説得力がなぁ……」
……どうしよう、イケメンフェイスの魔剣士を変な方向に歪めてしまったかもしれない。そもそもワイヤートラップとか変な剣作らせた側だから7割程責任を感じてる。
「まあ戦い方の幅が増えるのはいいことだ。冷静さも頭の速さも兼ね備えている、運用には困らないだろ」
「僕みたいに持て余すとか無さそうですしねぇ」
ぶっちゃけ『傲慢』と『憤怒』は持て余してるからな。使い所サン何処よ。
「ギャスパーに関しては…………目を開けられるようになったぞ」
「めっちゃ大進歩じゃないですか!!? 元引きこもりですよアイツ!!?」
「まあそうなんだがな」
元々神器の魔眼のせいで周りを停めてしまう、という恐怖も引きこもりの一因だったのだから、目を開けても生活できるようになったってのはすごいデカいことだ。精神面での強化もさることながら、神器を使う際に『目を開ける』プロセスが必要なくなったということでもある。
「この間の一件が成功体験としていい方向に働いたみたいでな。その時の感覚を思い出しながらの反復訓練だった。そして魔眼の制御を克服してしまえば、素は高スペックな吸血鬼の身体だ。順当な基礎訓練をしていけばいい。ただ、少し悩んでいてな」
「と言いますと?」
「現状、お前と組まないと決め手に欠けるんだ。例の鎧を装備させる能力を使うことを前提に、色んな体術を覚えさせてはいるが……」
あー……ギャスパーは僧侶だし、普通にウィザードタイプではあるもんなぁ。うーむ……
「アザゼル。その僧侶は目がいいのか?」
「ああ、吸血鬼と悪魔の身体能力に加えて神器の補正もある」
「ならば良し、昔取った杵柄だ。俺が狙撃の心得を叩き込んでやる。魔力を組み合わせれば、神器の能力も合わさって百発百中を目指せるだろう」
「……………悪くはない、が。イッセー」
「……はい、訓練の時は僕も同行します」
許せギャスパー、お前が強くなるためだ……! デビハンでもボウガン使ってたしな!
「アーシアは神器の効果範囲を拡げる訓練をしてもらっている」
「……ああ、確かに触れないと回復できないんでしたっけ。でも、『聖母の微笑』ってそんなことができるんです?」
「研究で得たデータを解析して、理論上は可能という結論が出た。神器のオーラを全身から発してその中にいる全員をまとめて回復、ということができるってわけだ」
「なるほど、そりゃすごい。すごい……ですが、」
「お前の懸念は分かるぜイッセー。乱戦では使えないって言いたいんだろ?」
「まさしく」
若干スレたりしてきてはいるが、基本的にはイリ坊も認める聖女の名に恥じない精神性の持ち主だ。そんな子が敵味方の区別を付けて回復するとかできるだろうか? 時間を掛ければ可能かもだけど、そういう全体回復が必要な場面って急を要するタイミングだしなぁ。
「いずれはともかく今は難しいだろうな。しかし範囲拡大は身に付けるべき技術だ。お前の回復技も合わされば敵の大技も実質無傷でやり過ごすことが可能になるだろう?」
「確かに」
「それに話はここで終わらない。光力を魔力で絡め取る技術、これを『聖母の微笑』のオーラに対して使えないかって意見が朱乃の方から出てな」
「………それ、実現したらすごいことでは?」
「実現したんで凄いことだな。回復のオーラを狙ったところに飛ばせるようになったぞ。それも効果の減衰無しで、だ」
なるほど、魔力操作に関しては僧侶であることも合わさって悪魔の中でも高い方のはずだ。歩行者の変態魔力運用もある程度はこなせる、ということか!
「とはいえ魔力を消費するから何度も多用できる技じゃないがな、戦術の幅が広がる」
「そいつにも狙撃術を」
「「やめてくれ」」
思ったけどやめてくれ、少なくとも今はやめてくれ。アーシアが銃を担ぐ姿なんぞ見たくない!!(過激派)
「最後に、小猫なんだが」
「……あまり芳しくはない感じですか?」
「いや、そんなことはない。誰かがカウンセリングに乗ったお陰で、アイツは自分の種族の力を使いこなすことに前向きになった。周囲の気を読むことで気配探知能力が上がり、体術にも一層磨きが掛かった。実に厄介な戦車になったのは間違いない。ないんだが……」
「教材がない?」
「そういうことだ」
そもそも猫又……というか猫魈という種族が扱えるようになる仙術とは生命の力の流れを扱う技術とのことで。使用者も特殊な妖怪の類や、修練を重ねて至った仙人に限られるのだとか。
「データ自体はあるから、それを元に教えることは可能だ。だが、俺自身が扱えるわけじゃあないから限界がある。ここに来て『百聞は一見にしかず』ということわざをそのまま体験することになるとはな」
「なるほど……ウォーカー氏?」
「できんぞ」
だよねぇ、流石に無理か。
「だが『闘気』と呼ばれる技術があることは知っている。それは仙術を身に付けることで得られる能力の1つだ。だが、稀に修練の果てに仙術を見に付けずに闘気を会得する者もいると聞く。俺自身それの片鱗に触れたことはある故、それに関してなら伝えられんこともない」
「アンタ、何を持ちえないんだよ」
「魔力」
その魔力だって……と口に出しかけてつぐむ。ともかく、これで後半戦の目処は立ったってことじゃない?
「……となれば、残り5日はタンニーン殿に任せた方がいいのだろうな。少し予定がタイトになった故、先にグレモリー領に戻らせてもらう」
「え、いいんですかウォーカー氏?」
「目的は粗方達成できた。基礎能力の底上げ、思考の切り替え。そして考えついた策の取捨選択に、実践級へのブラッシュアップ。それならば、残りの5日間はここまでで手を付けてこなかった『ドラゴンとしての戦い方』を叩き込んだ方がいい」
「わぁいやったぁ!」
「グレモリー邸に戻ってきたら覚えておけ、占星術の運用もある程度噛みたいからな」
「戻っても地獄じゃんヤダーッ!!」
まあここは既に冥界なんだけどね! というセルフツッコミで現実逃避をしつつ、タンニーン先生が領地から戻ってくるのを待つのだった。
となると、原作通りのゲームにしていいものか……?
感想等ありがとうございます、励みになります!