兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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最後の投稿から今に至るまでに起こったこと
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・引越し
・どスランプ

本当に、本当に遅くなりました…………


その19

 

『分身? 覚えても良いが、先に占星術を十全に扱えるようになってからがスジというものではないか』

 

 という歩行者による至極真っ当な意見によって、僕は訓練の最後までそれに触れることができなかった、がっでむ。部長がその大きくてつっかえそうな胸を撫で下ろしたのを見て非常に腹立たしい気持ちになったのも合わさって、ぶつけようもない怒りが発生したのは言うまでもないことだろう。まあこの慣用句そういうこっちゃないことは重々承知だが。

 しっかしなぁ、見立てを用いるなら分身はかなり便利だと思うんだけどなぁ。基本がなってないとダメ? そんなー。

 

「一人でも持て余すのに二人にも三人にもなったらこっちの胃が持たないわ」

「ひっでぇ、仮にも彼氏に言うことじゃないと思うんスけど!」

 

 かと言って僕も部長が二人も三人にも増えたら(僕のあれこれが)ろくなことにならないと思うので同じ感想ではあるが。似たもの同士? などと考えてたら一気にアルカイックスマイルを浮かべ始めた。本当におっかないよこの上司。

 

 まあそれはそれとして。訓練の後半は特に死にかけるようなこともなく、部長のオトモとして数々の所用をこなしつつ、無事に1ヶ月弱を乗り切ったわけだが。

 

「無事……だったのかしら? 臨死体験を繰り返してた記憶が強いのだけれど」

「話進まないから無事ということにしときましょうよ、五体満足ですし」

 

 恐ろしいことに五体満足なんだよな。まるっとてっぺんからつま先まで。変に見極めが上手くて腹立つわァあの歩行者。

 

「それはともかく、部長的には満足のいく成果だったんですか? 訓練じゃない方」

「ええ、ある程度の調査はできたし、この先の絵図はだいたい」

 

 何も部長は見せびらかす為に僕を連れ回したわけではなく…………いや、ある意味では見せびらかしか。容姿こそ凡庸凡人だが、僕こそが赤龍帝。魔王の妹、リアス・グレモリーに飼われたドラゴン。目立つ要素しかないわけで。

 

「まるで手品でもしている気分だったわ、この私に視線がいかないもの」

「……意外と部長、自分の見てくれに自覚的ですよね」

「自分の武器は理解していて当然よ。磨くことを怠ったこともないもの」

「へー……」

 

 ずずいと寄ってくる部長から目を逸らしつつ、そんな誰もが目を奪われてく的な部長から視線を外さざるを得ない状況は笑えないよねぇ、僕の存在のことなんだけど。

 まあなんてことはない。事前に若手悪魔の集いであったことを()()()()吹聴した上で僕を連れていけば、そりゃあ僕を警戒せざるをえないだろうて。したらその分部長への注目が疎かになって、フリーになった分その優れた観察眼であれやこれや情報をぶっこ抜いてきたというワケで。

 

「いくら親交のある家への挨拶回りとはいえ、不躾に市場調査なんてしたらいい気はしないでしょう? 基本的に貴族は自分の弱みを晒しはしないし」

「それプラス『赤い龍を飼い慣らしてる』ことをアピールすることで、親交を深めた方が何かと都合がいいぞと言うこともアピールする、と。悪い悪魔ですねぇ」

「ふふふ、褒め言葉として受け取っておくわ」

 

 実際のとこ、外交的な価値をあの常連魔王が添加してくれたからな。単なる核兵器突きつけての脅迫外交にならなくてよかったことは素直に感謝しないといけないだろう。

 

「じゃあ夏休みの間にできることはほぼほぼ終わったということでいいんすかね」

「ええ。あとは修行から帰ってくる皆を待ちつつ、ソーナ達とのゲームに備えるぐらい。……どんなルールになるか楽しみね」

「はい、僕も楽しみです! 楽しみ、なんですが……」

 

 部長も同じことを思っているのか、微妙に顔を曇らせた。果たして本当に、みんなは無事に帰ってくるのだろうか、と。

 

「五体満足なのは疑ってませんが、僕も部長もあのザマだった訳ですし、ギャスパーのスナイパー訓練にお供した時も本当にアレでしたし……」

 

 何が可哀想だったって、『神器に身体を慣らしたい』って理由であえて魔眼を受けた歩行者が『ギギギ……!!』って感じで動き始めてから、ギャスパーの恐怖の対象が『周囲を停めてしまう自分』から『この世の不条理(歩行者)』に変わっちゃったことだよね。お陰で神器の使用もよりスムーズになったけど、確かにありゃあ恐怖体験だった。ヤツを閉じ込められる檻はどこにあるのだろう?

 

「……送り出したの、早まったかしら?」

「もしかしたら」

 

 訓練の次なる段階として方々に散っていったそれぞれに顔を出す形で歩行者は飛んでいった。2週間ぐらい付きっきりだった僕ほどじゃないにせよ、ちょっとどころではない不安が過ぎる。メンタル歪んでないといいけれど……。

 

 そんな不安を抱えつつグレモリー城のエントランスで時間を潰していたら、警鐘が軽くなった。警報じゃなくて眷属の皆が帰ってきた合図…………なんだけど、妙に物々しい。実際、ちょっと遠くの方から見覚えがありつつ、しかし初めて感じる類の魔力オーラが伝わってくる。

 

「…………あの、部長」

「あー……うーん……」

 

 どうしたものかと眉間に皺を寄せつつ、出迎えに行かないという選択肢はないので入口の方に向かっていく。

 間を置かずに入口が開かれ、彼ら彼女らは現れた。別に身なりがボロボロというわけではないのに、纏う雰囲気は戦場帰りの兵士である。

 

『『『……生きて、帰ってこれました』』』

「「一体何があったの!!?」」

 

 皆の背後で真顔ダブルピースをしているウォーカー氏が妙に憎たらしい。凄惨者表示(わたしがやりました)〜♪ じゃねェんだよこの野郎。

 

 

◆◆◆

 

 

 死んだ目の帰還兵共を、とりあえず(物が1番少ないって理由で)僕に宛てがわれた部屋に集め、報告会という名目で各々恐怖体験を聞いていくこと20分ほど。

 

「魔力操作の変化に肉体ごと巻き込んだァ!?」

「悪魔は魔力で見てくれをどうにかできるのだから、その極地にそれがあるのは自然な流れだろう。()()()()()()()、いけると思った」

「実際、翼を雷そのものに変化させるに至りました。至った……のですが、もう二度とあんな追い込まれ方はしたくありませんわ。飛ぶ斬撃だけでも正気を疑ったのに、それが空一面を覆うほど……」

「おかげで光の如き速度を身につけただろう? いいことだ」

 

「廃鉱山にぶち込んだ!? なんで!?」

「驚くようなことか? 素材を用いて『魔剣創造』の実験をしていたのだろう、なら金属には触れておいて損はない。別にそれである必要はないが、イメージのしやすさは重要だからな」

「触れたというか、操作させられたというか……。崩落の危険性がある場所で知ったことかと襲い来るウォーカーさんを抑えるのに手数がどうしても足りなくて……気がついたらその場に残っていた僅かな鉄鉱石から魔剣を生成していたよ。神器ってすごいね、ははは」

「隙を埋める手段はいくらあっても困らんからな、うむ」

 

「話を聞くに……小猫チャンとは殴り合いしかしてないように思うんデスが……」

「おう。闘気の概念を身につけさせ、逆説的に仙術の習熟に勢いをつけようと思ってな。結局のところ、アレは生命力を鎧う技なのだろう。既に気を纏い、身体も仕上がっているとなればきっかけ一つで形になるだろうと踏んで、そうなった」

「殴り続ければ、自ずと自分の闘争本能の形が分かる……なんてふわっとしたことを言われ、延々と殴って殴られ……。いつしか意識も曖昧になってきて……これが、悟り……?」

「な? ハイスクールの1年でこれは快挙と言って良いだろう」

 

「地獄のマラソン大会が始まってる……」

「地獄とはなんだ、地獄とは。悪魔にとってトラック50周ぐらい大したことないだろう。回復要員は逃げ回る体力が重要、そのための基礎作りだよ。……まあ、最後の1周を何十回かわざと数え損ねたが」

「同じ景色が延々と……大丈夫、大丈夫です。私はまだ頑張れます……!」

「この分ならもっと踏み込んだ訓練でも良かったな。次はパルクールとかどうだ?」

 

「ギャスパーは……うん、本っ当にお疲れ様」

「……正直貴様に関しては不完全燃焼だ。才能だけで全てを解決しおって。だが、自分の特技を活かした俯瞰視点での狙撃はいいアイデアだ。次からの訓練ではゲーム……シュミレーター等も積極的に活かしてみよう」

「ひ、ひぅ……見ないで、見ないでぇ……!!」

「48時間ずっと狙撃返しをしただけだろうに……まったく。ん、そこじゃない?」

 

 …………おおう、これはもう。

 

「いやもうほんと、なんで今まで隠れられて来たんですか?」

「ちゃんと言うことを聞く下僕だったからな。いいか、傭兵は意外と信用商売なんだぞ」

「それだけじゃ説明つかないよ……」

 

 名前縛ってたとか言ってたもんな。ここもいつか妙な伏線として襲いかかってきそう……というのは冗談として。

 

「何にせよ、皆ご苦労だった。俺のようなのに扱かれて随分と疲弊したことだろう。完璧に鍛え上げた……とは口が裂けても言えんが、それでも並の上級悪魔程度なら遅れを取ることは万が一にもないだろう。闘争に絶対はないがな」

 

 自覚はあったんだ……というセリフを飲み込みながら真面目モードに頭を切り替えていく。これでも上級悪魔の上取れるぐらいなんだ……まあこんな短期間でそこまでたどり着くのもすごい事なんだろうけど。

 

「あとは本番に備えてゆっくり身体を休め、気持ちを整える段階だ。希望者は俺が疲労回復に効く料理を準備する、食欲のあるものは食いに来ると良い。以上、解散だ」

『『『ありがとうございました』』』

 

 そうして皆、思い思いの場所に散っていく……のかと思いきや、ぞろぞろと食堂の方へと列を成していく。はっはー、餌付けされてやんのー!(同じ穴の狢)

 

 

◆◆◆

 

 

「というわけで案外冥界くらし満喫してるよ」

『よりにもよって冥界で地獄行きになりそうになってんじゃないの。大丈夫? 私が殺すまでに死なない?』

「死なない死なない」

 

 その日の夜、最近店長よりも店長してると僕の中で話題になってるイリ坊に電話をした。いい感じに声が元気そうで何よりである。

 

「それで、一号店はどんな感じ? 夏真っ盛りなのに思ったよりも客足遠のいてなくてびっくりしてるんだケド」

『サラダまぜ麺サラダ抜きが飛ぶように売れてるわ。麺を氷水でしめるからそこで時間は掛かるけれど、前より提供も楽になるし回転率も上がるしでウハウハよ』

「ちゃんと冷やしまぜ麺言いなさい」

 

 提供速度に難のあったサラダまぜ麺からトッピングのサラダを抜くという暴挙に出たお陰で、回転率が無視できない程度に上昇。また素ラーメンに近くなった為かカスタマイズ性が向上し、トッピングの売上も併せて上昇。サラダ分の値段は減ったはずなのに、何故か客単価は上がるというミラクル…………そもそものサラダまぜ麺は僕の発案なので、ちょいと悲しい気持ちになりつつも、夏は乗り切れそうでホッとした。まあ『サラダ要らなくね?』と言ったのも僕なので良しとしよう。

 

『ただ、もっとトッピング増えないのかみたいな声は出てるわね。私も温玉とかあったらいいな、とかは思ったわ』

「それで工程増えて提供遅くなったら本末転倒かなぁ。既存の材料の組み合わせでどうにかなる物なら考えてもいいかもだけど」

 

 それでいくと温玉は割とアリな選択肢かもしれんがね。近いうちに相談しよう。

 

 …………さて。

 

「では本題。調査報告をお願いしてもいいかな」

『あー…………まぁ、そうなるわよね』

 

 『ホートン』という名前が偽名なのは正直最初から分かってはいた。僕には警鐘がある、その手の欺瞞は通用しない。悪意を以て騙してるワケでもなかったので流していただけだ。そんでもって本名が分かれば一応は調べておきたいとなるのはビビりの性なワケで。

 しかし、嫌に歯切れが悪い。いらん事まで調べるヤツだ、まさか箸にも棒にもかからなかったわけではあるまいに……………………え、マジ?

 

『マジもマジ、大マジよ。少なくともイッセーくんの言ってた条件に合うショウ・ウォーカーって名前の人間は、遡れる範囲では見つからなかったわ』

「…………おかしいな、アレだけ苛烈なやつなら、何かしらで情報が残ってそうなものなんだけど」

『どーせ警鐘とやらで話の真偽は判別してるんでしょ? だったら誰かが消した、ってのが答えになってきそうよね』

「…………」

 

 何のために?

 

 誰が、なんて考えるまでもなく。どうやって、なんて気にしたところでどうしようもない。黙りこくった懐中時計がその答えなのは明白だ。

 

「そうか……危ない神器を監視している『神の子を見張るもの』の総督が、先代の赤白をぶち殺した人間を知らなかった時点で異常だ」

『…………嘘でしょ?』

「その段階で気が付くべきだった。間違いなく、目的があって隠されてる。……何のために?」

 

 それを考えるための材料が手元なく、答えを知る時計の悪魔は黙したまま。……ここで停滞するのは、理由は上手く言語化できないけど、してはいけない気がする。

 

「項目を変えよう。先代の赤龍帝に白龍皇が活動していた時期と、その周辺で活動していた傭兵ないし武装勢力」

『……気になってきたから別に良いけどさ。イッセーくん的には別に構わないんじゃないの? 味方なのに間違いないんでしょ?』

「うん、『徹頭徹尾味方』なんだってさ。とはいえ、命の危機を感じてるのも、事実なんだよなぁ」

 

 ……彼の事情に踏み込むことで危ない橋を渡ることになるのなら、その時点で時計の悪魔が止めてくるだろう。ならば必要なことであるか、判断に迷うことかの二択だ。弱みを握る…………のは後が怖すぎるので、

 

「やるか、三下ムーヴ!」

『絶対裏を勘繰られると思うけどなァ……』

 




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