「ええ。逆に、今を置いて他はない」
「そうか……俺は、まだ早いと思っているんだが」
「それはヴァーリの事情にゃん。……話を聞いて、赤龍帝のだいたいの性根は分かったわ。だから、今しかない」
「まだ弱い今しかないの……あの子を、白音を連れていくには。情に訴えられる隙がある、今しかない」
本日はお日柄も良く、絶好のパーティ日和……パーティ日和ってなんだ?
まあそれはともかく、今日は例のパーティの日だ。礼服の持ち合わせは……ライザー氏が寄越してくれたのがあるけど、今日の場で着ていくには周りと浮くので駒王学園の夏制服でスタンバイ。学校指定の制服は、ちゃんと礼服扱いだしね。ただ、同じ学校に通うシトリー眷属のみんなと被った場合を想定してグレモリーの紋様を記した腕章を着ける。これでOKだそうだ。……しかし、
「パーカー着てないと落ち着かないや……」
『お前のその謎のこだわりはなんなんだ』
「悪いことするとき、顔隠すものがないとダメじゃん」
『そこは鎧を使えよ鎧を』
おっしゃる通りで……だけど趣味ってそういうことじゃないじゃん? 『悪いことをするな』って言われたら、それはそうなんだけど……あ、これ悪魔としては失格か?
『それで、どうして客間で息を潜めておるのだ。今更そういう訓練を……という訳でもあるまいに』
「そうなんだけどね」
僕は特別着飾る趣味がないから早々に準備が終わって待機しているだけで、他の面々は今も格闘中だろう。何と、とはは言わないが。ちゃんと素直に褒められるように準備をしなければね、油断するとつい照れ隠しで『無駄に綺麗』とか言いかねん。
で、息を潜めている理由だが……
「さりげなーく警鐘が鳴ったからさぁ……」
『そうだったのか?』
「あり? ドライグの方には聞こえなかったか。……うん、どーも誰かが攻めてくる様な感じでさァ」
ただ、警鐘……というより僕の個人的な受け取り方なんだけど、『僕はそれを咎める権利を持ってない』みたいなんだよな。習って良かった占星術。
「そしたら、ここまでの展開的に起きることも想像が着くのよ。即ちメタ推理」
『勿体ぶらずに話せ、今すぐに。お前が何事かを抱え込んでいて解決できたことも、良い方向に転がったことも無い故な』
「ひっでぇなぁ……自分の相棒のことをなんだと……」
まあ事実なんだが。なので素直に想像を口にしていく。
「聖剣ン時はあの優男が復讐に目が曇って、そう間を置かずにイリナちゃん達が襲来したろ? 今回は小猫チャンが自信喪失&出自に悩んでいたワケで…………じゃあ来るのは間違いなく、小猫チャン姉だと思うのよ。即ち妹奪還作戦」
『物語の読み過ぎだ、と言いたいところだが二重の意味で否定できん。お前は占い師としての素養を伸ばし、そしてドラゴンだ。そういう巡り合わせは、その読み通りにきっちり起こるだろうよ』
「たはー、参っちゃうねこりゃ」
そして僕が空のお告げを見て『咎める権利はない』となったのも分かるワケだ。小猫チャン姉がどこのどんなヒトなのかは知らないケド、このきな臭い情勢の中で渦中真っ只中の赤龍帝の近くにいる妹のことが心配にならないわけがない。となれば誘拐するしかないよね、うん。
「僕だって同じ立場だったら似たようなことしてそうだし、余計に否定できないよ。…………それをみすみす許してあげれるかは別ってことで、今それなりに神経尖らせてるけどね」
『で、あるか』
どのタイミングかはまだ読めないけれど、今日決行されることは間違いないと見てる。じゃあ一日中ずっと気を張るべきだってなるでしょ。
『それで、リアス・グレモリーには?』
「言えんでしょ、言ったら周りからの評判落ちるのこみこみでパーティを辞退するって言い出しかねない。リカバリーはするんだろうけど、事の真相が割れたらまた小猫チャンは危険だ論争になりかねん。撃退の実績を作っといた方がまだマシな着地をすると思う。リアス・グレモリー眷属なら実力的に殺されない、というラインを作っておけば必要以上に恐れられないだろうって話」
それに、複雑とはいえ憎からず思ってる姉に会えない、というのは違う気がするしなぁ。
「だから後で真剣に怒られるよ、ある意味で小猫チャンの命を危険に晒してるも同義だからね。というわけで変に注視されて問い詰められないように息を潜めているワケ。OK?」
『ああ分かった。そういうことなら何も言わん。……一応、あの雑食には話しておくことだな』
「うーん……ちゃんと黙ってくれるならいいんだけど」
「守秘義務は守るぞ未来の主。約束事を守れないヤツは仕事を干されていく故な」
「………………もはやツッコむ気にもなれないよ」
声のした方向に首を向ければ、列車の時に着ていた軍服もどきの礼服姿で笑みを浮かべていた。急だったモンで、やろうと思ってた三下ムーヴが頭から飛んじまったよ。
「ともあれ兵藤一誠よ、戦いの臭いがするな? これは俺も着いていった方がいいというものではないか? ん?」
「そのために礼服着たんかいこのハッスルジジイ」
もうちょっと擬態することを覚えた方がいいというか、そんな歴戦の勇士感出されると会場で浮くぞ、マジで。
「そこはリアス・グレモリーに話をつけよう。どうせクレーリアも正臣の礼服姿を見たいだろうからな、ちいとばかし唆してくる」
「何を呑気に……と言いたいけど、あのヒトもアンタの弟子だからなぁ……」
「それに、パーティの場にはディハウザー・ベリアルが来る可能性もある。今日のパーティは政府が若手悪魔達に他家との顔繋ぎの場を用意する、というのが一番の目的だろうからな。来るかどうかは分からんが、レーティングゲームの皇帝に打診が行かないわけがない」
「そうかぁ……それならちょっとリスク犯してでもクレーリアさん連れてった方がいいかぁ」
それなら護衛として歩行者を連れ出すというのも分からない話では…………いや待て、そもそも準歩行者級戦力としてもう一人八重垣氏がいる時点で歩行者要らなくない? …………と思ったところでがっしり肩を掴まれた。
「俺はな、兵藤一誠。戦うのも、戦うのを観るのも好きだ。言いたいことは分かるか?」
「分かった分かった分かったから。怖いから躙り寄るな、やめて」
ともかく、部長から許可が降りればということで僕との話は着き、ヤツはウキウキと客間を飛び出していった。このことを微妙に後悔することになるのだが、これはまた別のお話…………。
◆◆◆
「実際何が楽しくて戦うんやら。そう思わないかね匙クン?」
「声掛ける前に声掛けんなよ気色悪い!」
「マジで酷くない???」
心の底からの疑問をぶつけたら罵倒された件。歩行者よりはマシだと信じたい。
「てか何故にグレモリー領に? 部長と会長が示し合わせでもしたの?」
「ああ、一緒に会場入りするってんで着いてきたんだ。で、会長はリアス先輩に会いに行っちまったし、どうしたもんかとウロウロしてたら……」
「やーい、迷子ー!」
「やかましい!」
なお、僕もズルをしなければ普通に迷子になる自信しかない。いやぁ、部長のご両親に許可取って装甲板設置させて貰えて本当に良かったぜ。
「ま、座りなよ座りなよそっちの椅子に。お客人立たせるわけにもいくめぇ」
「お前はこの屋敷のなんなんだよ……」
「……それ聞く? マジで聞く? 正直僕も現実を受け止めきれないんだけど」
「やめろやめろ、目のハイライト消すな馬鹿野郎。けっ、おアツいこって」
「アツいって言っていいのかなこれ」
まあそんな苦労話に見せかけた惚気はともかくよ。
「お互い、随分と見違えたなぁ」
「そりゃあ、めちゃくちゃ鍛えたからな。……お前も、なよっとしてたのにちょっとガッシリしたんじゃないか?」
「食生活から何から何まで全部面倒見られたからな。僕の師匠、やり過ぎなんだよ……」
文句以上に感謝の方が大きいがな。最終日の夜に振舞ってくれた回復料理だってみんなの疲労をきっちり奪い取ってたからな。寝起きで顔合わせたみんなの、何が何だか分からないけれど疲れは取れた、って困惑顔だったからな。正直レシピを聞きたいところである。
「ちなみにシトリー眷属ではどんなメニューをやったんだ?」
「ダメだ、特にお前には教えられねぇ。会長からお前に訓練のデータは漏らすなって言明されてるからな」
「会長にまでそんなこと思われてんの???」
「妥当も妥当だろ。顔合わせの時のお前、本当に悪魔だったんだからな」
「悪魔ですが!?」
そんな酷い罵倒を繰り出したにしては、表情があまり優れない。……僕がなんかしたって感じではないけど、どうしたんだろう?
「なぁ、兵藤。俺、先生になるのが夢なんだ」
「……夢、か」
「ああ。会長が、身分を問わずに入学できるレーティングゲーム専門の学校を設立しようと考えてるのは、知ってるよな?」
「うん」
なんせ、解説させられたからな。いくら詫び代わりとはいえ公開処刑かっての。
「俺は、そこで先生をしたいと思ってる。いっぱい勉強して、いっぱいゲームで戦って、色んなものを蓄える。それで俺が『
「そう、なのか」
あまりにも真っ直ぐに、熱く語るものだから、眩しくなって思わず目を逸らしてしまう。少しばかり羨ましいなと、そう思ってしまって。
「お前も知ってるだろ、昔の俺。お前と違ってヤンチャばかりしててさ。バカなこともやって、親にも迷惑かけたし、周りの人間からも嫌われてた。でもよ、そんな俺でも協力して欲しいって会長が言ってくれてさ。だから、なりたいんだよ……学校の先生に。生涯会長の側で、その夢を支え続けたい。それが俺の夢なんだ。……お袋にも、話したんだ。悪魔になったことは言えなかったけど、先生になるんだ、って宣言してよ。あの安心した顔は、今でも忘れられねぇ」
バチリ、と視線がぶつかって火花が散った気がした。ああ、その目は見慣れている。僕がずっと無意識に向けていた目。不出来な己を蔑むと同時に、周りに向けていた目。……即ち、嫉妬心だ。
「だからよ、兵藤。俺はお前を倒したい。……悔しかったんだ。俺よりも、会長の夢を解ってたお前に、めちゃくちゃ嫉妬してるんだ」
「…………」
「……すまん、お前は悪くないのは分かってるつもりなんだ。でも、お前と話してる会長を見てたら、ちょっと堪えられなくて」
りんりん、と優しく鳴り始めた警鐘を強く制した。無粋なことはするなと、親に怒鳴りつけるように、強く。
「それが、お前の
「……?」
「ごめん、こっちの話。あんまりにも真っ直ぐ言うもんだから、一周まわって嬉しくなっちゃってさ」
「お前、そんな特殊なタイプのドMだったか? 何かしら言い返されても仕方ないぐらいに思ってたんだが」
特殊なタイプのドMとは失礼だな、とクスクス笑いながらも、その嬉しさを何とか言語化していく。
「いやね、嫉妬されるぐらいに認められてると思ったらちょっと嬉しくてさ。……匙クンは知らないだろうけど、僕は相当自分に自信がないヤツだから。そういうのが地味に嬉しくてね」
「お前が、か?」
「意外?」
そういうと、訝しげに頷かれた。……ま、外から見たらそうなるわな。その辺客観視できるようになってきたあたりも自分の成長を感じる。
「それに、羨ましいのはこちらの方だ匙元士郎。……僕もお前と似たようなモンだけど、熱量が違う。僕は部長のやることを叶えてあげたいとは思うケド、お前みたいに真っ直ぐ夢だとは語れない。達成できるなら僕の力じゃなくてもいいと思っちゃうし。それだけ会長を想い……他人に嫉妬する程の夢があって、本当に心の底から羨ましいんだよ」
こういうところ、僕はまだまだ中身がないな、と恥じ入るところだ。語る中身は増えてもまだまだ自分の無い⬛︎⬛︎⬛︎、ということだ。
「僕にゲロ甘な部長ですら、他人に夢や目標を委ねるなって苦言を呈するレベルだぜ。お前に比べたら僕なんてひよっこ通り越して卵ン中だ。そう思ったら、僕なんかに嫉妬するのもおかしく思えてこないか?」
「……そこまでは思わねえけどさ。でもやっぱお前変人だよ」
「ひでぇな」
なのでまあ、と返す言葉を考えるうちに口の端がつり上がる。良くないな、とても良くない。殻付きの癖に、多分
「お前が僕に勝ったら、僕は嫉妬するまでもない雑魚。僕がお前に勝ったら、お前の勢いピヨピヨ以下。こりゃあ……お互い負けられなくなったな?」
「お前、自分を追い込むのに俺を巻き込むなよ!? いや負けねぇけどよ!!」
「あっはっは、その意気その意気!」
「その顔ムカつくなちくしょう! あったま来た、絶対後でボコボコにしてやるからな!」
この後、部長達が来るまであーでもないこーでもないとくだらない口喧嘩を繰り広げた。……嫉妬される方が、素直に賞賛されるより嬉しかったのは、リアスさんにも言えない僕の秘密となったのだった。
頑張れお姉ちゃん、頑張れ匙くん。このラスボスをやれ!
感想等ありがとうございます。とても励みになります。