兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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「それで、感想はないのかしら?」

「その……目のやりどころに困るくらい似合ってマス……綺麗ですよ、リアスさん」

「…………!? イッセーあなた、悪いものでも食べたの!? そんな素直に褒めるなんて……!」

「もう二度と素直に褒めてやんねーこの悪魔上司」


その21

 

 皆の準備も終わり、客間で全員集合と同じタイミングでタンニーン先生と眷属の皆様方が到着。以前した約束通り現地まで連れてってくれるということになったのだが、

 

「なーにを拗ねておるか、男らしくもない」

「うるせーですよ先生」

 

 それなりの勇気を振り絞った賛辞の言葉を不調扱いされて、僕はそれはもう傷付いた。5分ぐらいは口を聞かないぞ、という構えである。

 

『はっ、自業自得というヤツだなノータリン!』

「黙れクソトカゲ! 因果応報の末に神器になったお前にだきゃ言われたくねー!」

 

 相も変わらず耳に痛い言葉を吐いてくる我が相棒である。あーあーきこえなーい。

 

 ともかくだ。誰がどのドラゴンさんに乗るか……特にタンニーン先生の場合萎縮して誰も乗らないみたいなことになりかねなかったので、我先にと先生に乗せてもらった。

 そして現在は先生の頭の上、角を掴ませて貰いつつ空から冥界の景色を堪能させてもらっている。……ちょっと拗ねながら。

 

「しかし、速度も高度もあるのに風があんまりこないっすネ? 何かカラクリでもあったりするんですか?」

「背中や頭に乗せる用に特殊な結界を発生させている、俺の眷属たちも同様に。せっかく着飾っているのにそれで髪や服が乱れたら大事だろう?」

「はえー……流石最上級悪魔。サラッと気遣いが凄い」

 

 いずれは僕もその域に? …………ないな、ナイナイ。マトモな気遣いが僕にできるとは思わないや。

 

『そもそもが高速飛行補助のものだがな、大気等から受ける抵抗を軽減するための。ドラゴンによってはそれを衝角代わりに使う者もいた。お前も覚えておくといい。……そうだな、徹甲弾なるものがあるだろう。あんな使い方もできる』

「あ、すごい便利。譲渡弾かれた時対策に使えそう」

「……俺の頭の上で次の悪巧みを考え始めるのはやめてくれないか?」

 

 ゲンナリ、と言った様子を隠しもしないタンニーン先生が心底嫌そうに咎めてきた。失礼な、悪巧みなんてあんまりしたことないよ?(とくこう2段階上昇)

 

「そもそもだ、ドライグ。お前には必要の無いものだろうに」

『そうなのだがな、やはり生前の力をそのまま再現とはいかんらしい。聖書の神に封じられているようだ』

「嘆けばいいのやら喜べばいいのやら。いや、今は喜ぼう。こいつに与えてはまずそうな能力だ」

「え、あのガー不ファイア以外にもヤバヤバ能力封印されてる感じ? なんかもう……お前本当にトップオブドラゴンみたいな性能してんなぁ」

 

 『そうだろうそうだろう』と言わんばかりに荒い鼻息が返答だった。……空気抵抗用の結界が必要なくなるような能力、となると『すり抜け』みたいな感じだろうか? ……大まかには合ってるのね、警鐘(オーフィス)殿。『倍加』『譲渡』持ってるドラゴンが持ってていい能力じゃないと思うんですケド、そこんとこどーなんです???

 

『だがそんな俺でも討滅されて封印された。ご覧の通り、人間に寄生せねば意思すら伝えられん身の上だ。…………後悔はしとらんが、こうして空からの風景を別のドラゴンの上から眺めているこの状況は、思いの外クるものがある』

「ハハハハハ、因果応報の末路としてはまだ上等な方だろう! 貴重な体験だ、しっかり刻みつけておくのだな」

『冗談ではないぞ、全く……。クソ、話が逸れた。言いたいことはそういうことではない』

「…………ふむ」

 

 溜息……と言うには湿度が足りない、しかし郷愁や哀愁が混ざったような息と共に、タンニーン先生から茶化したような色が抜けていく。

 

「ああ、分かるとも。名の知れた強大なドラゴンで現役なのは、オーフィス、ティアマット……俺を含めても3匹だ。俺に関しては悪魔に転生しているから、実質2匹か。残りはやられたか、封印されたか、隠居したかのどれかだ。どれだけ強くとも…………いや、強いからこそドラゴンは退治される。恐怖故に、だ」

 

 まあそうなるだろうな、と。『人間』で『悪魔』な部分の僕は、冷たい感想を弾き出した。『人間』の部分はさらに悪魔も同類だけど? とも思ってるが。

 ……神器に封じても赤龍帝(コレ)だ。強大で、死に難く、封印しても新たな火種を撒く。煮ても焼いても食えないなら、それはもう殺すしかないのだ。だから死にたかった……というのはちょっと前のお話だね。

 

「…………聞いていいコトなのかわかんないンすけど、タンニーン先生が悪魔に転生したのってそこの辺りにあります? あ、いや別に先生がイモ引くタイプとはまるで思ってないんでスけど」

「ハハハ、命拾いしたな兵藤一誠。聞き方を間違えてたら振り落としていたところだ」

「デスヨネー」

 

 一歩間違えたら『殺されたくないから悪魔に転生したんですか?』って意味で受け取られるところだった。つよつよドラゴン相手には逆鱗もいいところである。

 

「ちょっと思ったんですよね。タンニーン先生やドライグって、ドラゴンとしては多分一般的な感性をしてるんだろうな、と。……先生の方が社会性はありますケド」

 

 他人のこと言えた口か? みたいな思念をクソトカゲから感じつつ、ぼんやりとした答えをちょっとずつ言語化していく。

 

 まず思ったのは、レーティングゲームがあるからだろうな、ということ。力の象徴みたいな種族だ、戦いとは切っても切れない関係だろう。安定して長く戦いに身を置くのなら、レーティングゲームは都合のいい舞台なのだろう。

 

「でもこれだと、理由としてはパンチが弱いと思ったんです。だってドライグが『何をとち狂ったのか』なんて言うんですから。……ドラゴンになりかけの僕ですら『リアス・グレモリー以外の誰に飼われてなるものか』みたいな感情があります。元々から純粋なドラゴンだったであろうかつての龍王タンニーンが、それだけの理由で悪魔の軍門に下るとは思えません。手段を問わなければ戦いなんて自分から起こせます。今は亡きグリゴリの幹部、コカビエルがそうしようとしたように。だから、別の部分にも理由があると僕は思ってしまいました」

「…………」

 

 続きを促される気配がしたので、後ろを振り向く。そこにはグレモリーのみんなやシトリー一味を乗せ、列を成して飛ぶ先生の眷属ドラゴンの姿がある。

 

「あのドラゴンの皆さんが、タンニーン先生が転生する前からの付き合いか、転生した後からの付き合いかは分かりませんが、そのどちらでも本質は変わらないでしょう。僕はそこに答えがあると見ました」

「フハハ……俺が寂しがりにでも見えたか」

「どうでしょう、僕には分かりません。ただ、友人が消えていなくなっていくのは嫌だな……と僕は思います」

 

 それに個々の感じやすさに差はあるはずだし。薄情な人間でも寂しく思うことだってあると思う。少なくともさっきの先生の言葉には少しの寂しさが乗っていたように思う。

 仲間を守るためかもしれない。旧友を偲んだ結果かもしれない。龍王タンニーンは、そういう理由で悪魔に転生したんだと、僕は感じた。

 

「……一つ、先達として忠告をしておく」

「はい」

「相手を選んでいるのは分かる。自分なりに踏み込んでいい相手を見極めているのは分かる。だが、お前のその無遠慮さはもう少し自重した方がいいだろう。底無しの洞を覗き込んでいる気分になる」

「ひっでぇ……いや非道いの僕ですね。はい、反省します」

 

 でも口に出さずに想像するくらいは……とか思っちゃダメだろうか? 隠していることを暴きたくなるのは人間のサガ……まあ僕は悪魔でドラゴンなんですが。

 そして少しの沈黙の後、先生は話し始めた。おそらく僕の疑問に対する返答だ。

 

「……ドラゴンアップルという果物がある。ドラゴンが食べる林檎だ。聞いたことは?」

「直球な名前ですね……初めて知りました」

「まあ、今はそういう果実があるという認識でいい。とあるドラゴンの種族には、ドラゴンアップルでしか生存できないものがある。ところが、人間界に実っていたドラゴンアップルは環境の変化により絶滅してしまったのだ。今ではもう、冥界にしか実らない果実となった」

「あぁ……」

 

 話が見えた。死んでも口には出せないが、身売りしたみたいな感じになったのね。

 

「察しの通り、ドラゴンは厄介者だ。堕天使にも悪魔にも忌み嫌われている。タダでくれてやる道理は無いわけだ。……だから俺は悪魔となった。ドラゴンアップルが実る区画を領土として手に入れるために。上級悪魔以上になれば、魔王から冥界の一部を領土として頂戴できるからな」

「それで、そのドラゴン達は……?」

「ああ、お陰様でそいつらは絶滅を免れたよ。そうなれば話は次の段階に進む。ドラゴンアップルを人工的に栽培する方法、そして今の人間界で栽培する方法を研究すること。非常に特別な植物だ、時間は掛かるだろう。だが、少しでも可能性があるなら、やった方がいい。だろう?」

「生ける偉人じゃん……ドラゴンで悪魔だけど」

「いや、その表現は間違っていないのだろうが、純血悪魔の一族だと一族の祖が存命なことはままあることだぞ」

「うわぁ、長命種族あるあるぶつけられた」

 

 なんかちょっと自分が長命種になったことに気持ちがぐんにょりしてくるなぁ。まぁずっと暗いところでもリアスさんもいてくれるからヨシ! あと30秒は口聞かないけど。

 

「少しは足しになったか? どうせ貴様のことだ、なりたい自分とやらの参考にするためなのだろう?」

「やっぱバレますよねぇ? …………はい、大変参考になりました、龍の王よ。そしてありがとうございます。おそらく僕は、貴方という前例がいたから生かされています」

「がははは、よせよせ! 赤龍帝(オマエら)の殊勝な態度はむず痒くてかなわん! ……しかしまさか、同胞を救おうと切り開いた道そのものが、後続の助けになるとは。生きていると何が起こるか分からんな」

 

 いや本当に、全く……としみじみ思う。巡り合わせに救われてる感が半端ない。こういうのもドラゴンの特性と言われているが、実際どうなのやら。……お■様(オーフィス)の意向マシマシかもしれん。警鐘なんも言ってこないけど。

 

「結局のところ、俺達はやりたいようにやるだけだ。お前が俺のことを良いドラゴンなどと言ったところで、その事実は変わらん。そもそも良いドラゴンなんてものが存在するとして、そいつは悪魔になんぞならんだろう」

「……確かに?」

 

 なんてこったい、良いドラゴンというのは幻想か!?

 

「じゃあ僕が目指してみるか、悪魔だけど良いドラゴン……」

「『寝言は寝て言え』」

「揃いも揃って酷くないか!!?」

 

 到着するまでの小一時間、全力で反論し続けたが暖簾に腕押し糠に釘。酷いドラゴン共である。

 

 

◆◆◆

 

 

「やっぱ持つべきものは自分を飼ってくれる良い上司です。時代は悪魔、キてますよコレ」

「あら、いつの間に手のひらをドリルに改造したのかしら?」

「不条理を貫くために男の子の手はいつだってドリルなんですヨ。それに5分経ちましたしネ」

「不条理の擬人化が何か言ってるわね……まあ貴方は悪魔なのだけれど」

「あっ、僕のセリフ取られた!?」

 

 まあそんな毒にも薬にもならない会話の応酬はともかく。我々はパーティ会場……グレモリー領の端っこにあるホテルへと到着した。…………えれぇ高いビルだしちょおハイソな気配を隠しもしないその佇まい。森の中にそんなのが建ってるもんだから違和感が半端ねぇ。

 

「ではな、俺たちは大型悪魔の専用待機スペースへ行く。会場で顔を合わせたら適当に挨拶してくれ」

「ありがとう、タンニーン。このお礼は必ず」

「ははは、よしてくれリアス嬢。ただの先行投資だ。だろう?」

「先生までそんなこと言うんスか……?」

 

 『誰』に対しての、を言ってないが故にとてもゲンナリ。どうしたもんかと悩んでいる間に、タンニーン先生達は再び空へと羽ばたいていった。

 

「……わざわざ専用のスペースに行かなきゃいけないとか、大型悪魔って生きるの大変そうだ」

「自分の領地で生活する分には然程苦労しない、と聞いてるわ。そうでなくともポリシーのある大型悪魔以外は場所に合わせて姿を変えるから、あなたが思ってる程繊細なことにはならないハズよ」

「だとすると、このパーティでそれをやってないのは」

「演出」

「……あぁ」

 

 大型に限らず、悪魔そのものが生きづらい生き物なのかもしれないなぁ……。

 

「さ、ぼーっとしてるのもいいけれど、そろそろ場所を移さないと後が使えるわ」

「え、もうそんな離れてないからこっから徒歩…………じゃない!? リムジン来てる!!」

 

 気が付けば部長と僕以外は既に乗り込んでるしで慌てて乗り込む。リムジン…………リムジンかぁ…………人生初、というか一生縁遠いものだと思ってたんだが。

 

「なによ、専用列車よりは現実的でなくて?」

「妙に現実的な分、感じ方も違うというか。現実離れと夢みたい、は違うでしょう?」

 

 流石にもう胃がキュッとすることはないけれどね。ここしばらくでブルジョワ耐性はかなり付いた、恐らく。

 

「(ところで、別ルートでクレーリアさんと歩行者来るって聞いてるんデスけど、そっちはどうなってんです?)」

「(ここはグレモリー領よ、直通の転移魔方陣がちゃんとあるわ。そこから適当に紛れ込む、と言っていたわ)」

「(…………大丈夫なんだろうか。師匠は確かに変装もできるけれど、威圧感を常に放っているし目立ってしまわないかな……?)」

 

 八重垣氏の懸念は考え過ぎではないだろう。長い間共同生活を送っていたのだ、むしろ僕らより詳しいまである。…………が、

 

「(でも僕の警鐘(気配察知)上回って来るからなぁ。気配とか切れるんじゃないんですか?)」

「(何それ知らない……!?)」

 

 弟子すら知らないのかよあの気配遮断。マジで底が知れない戦闘狂である。

 

 ……とはいえ、素直に隠れてるとも思えないンだよなぁ、と部長の顔を見る。彼女は不思議そうに顔を傾げるだけだが。

 

「あら、時間差で見蕩れた?」

「見蕩れる云々に関しては初対面からずっとなんスけど」

「……普段から()()なら正気を疑ったりしないのに」

 

 ははーん、なんか知らんが勝った。たまには自分の顔まで紅くさせて周りに生暖かい目で見られりゃいいんだ。

 

 まあそれはいいんだよ、本題は歩行者……というよりクレーリアさん絡みの方。生暖かい目集団に加わってる八重垣氏の顔を見る。……何の偽装もしていない。

 

『(それの何が問題…………ああ、こいつの顔も割れてなきゃおかしいか)』

 

 そういうこと。むしろ『王』の駒に関わってる悪魔の間では積極的に周知されてなきゃおかしい。もしかしたらクレーリアさんからその話を共有されてるかもしれない人間だ、教会が始末してなきゃそっち側で始末したくて堪らない存在なんだから。

 それでこの状況、『王』の駒に関して詳しく知ってそうなリアス・グレモリーと愉快な仲間たちの中に、教会が殺したはずの元戦士…………いい反応が見られると思わない? それに合わせてクレーリア・ベリアルもチラリと顔見せしたら…………おお怖、戸締りしとこ。

 

『(……この女もいい具合にお前に感化されてきたな。それが良いことだとはあまり思えないが)』

 

 ()いことでしょ、悪魔なんだから。僕を噛ませなかったのは…………まあ僕顔に出るからね。今回の悪巧みには向いてないと判断されたんだろう。警鐘もそう言ってる。

 

「……まあいいわ。どうせその余裕綽々な態度もすぐ刈り取られるでしょうし、いい気味ね」

「何その不吉な予言」

 

 警鐘も後押しするんで本当に胃によろしくない。唐突にリムジンが霊柩車に思えてきた。一体僕はどこの火葬場に連れていかれると言うんだ……!?

 

 

◆◆◆

 

 

「お、ようやっと来たかイッセー! つーか俺のやったスーツはどうしたんだ? こういう所で着てこそだろうが!」

 

「ねぇ、初手ライザー氏は違ぇじゃん!!?」

 

 襲来、焼き鳥野郎(ライザー・フェニックス)。満を持して(つづく!)




原作だと引きこもってたよなライザー・フェニックス氏……!?

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