兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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未成年飲酒、ダメ絶対


その22

「だいたい俺は聞いてねぇぞ、なぁ? いつの間に魔王様を引っ掛けてたんだよ、それもよりにもよってベルゼブブ様!」

「あ、あのライザー氏? ヒトの目が痛いんでダル絡みするのやめません……? というか既に出来上がってるのナゼ……?」

 

 会場であるホテルに着き、エレベーターで最上階まで向かい、足を踏み入れた先でライザー氏が待ち構えていた件。というか部長並びに眷属一同、僕を囮にしてそそくさと挨拶回りに行きやがった、ガッデム! いやまぁ分かるぜ? 僕とライザー・フェニックス氏が仲良くしてるところを周囲に見せつけるのはかなり大事な外交だってことくらいは。でもだって初手でぶつけていい相手じゃないでしょうよこの酔っ払い!

 

「じゃあお前もぐでんぐでんに出来上がってもらわんと釣り合いが取れねぇな。ということで駆けつけ一杯」

「未成年ですが!? あいむジャパニーズ! お酒は20歳になってから!!! つかパーティの作法的にどうなんですかコレ!?」

「ああん? このパーティの本(・)当(・)の(・)狙(・)い(・)的には正しいことだろ。お前のことだ、薄々気がついてるんだろう?」

「うぐっ……いやまぁ、そういうこったろうなぁとは思ってましたが!」

 

 若手悪魔の為のパーティというのは建前……その実悪魔の名家の方々が交流を行うための口実になってしまっている! ………………というのが表(・)層(・)。若手悪魔の為に冥界の有力者を呼び集め、交流の機会を準備するというのが本当のところ。あまり気負って欲しくなかったり、この程度の裏が読めなければ貴族社会でやっていけないぞ、というのが隠されたメッセージのようだ。

 

 もちろん部長は分かってる側なので積極的に顔を売りにいっている…………ということは実はあんまりなく。部長自身の仕事だったり赤龍帝見せびらかしツアーである程度の顔繋ぎ、交流はしているから、今更積極的に顔を売りに行く必要がない。普通の範囲で挨拶回りをして余(・)裕(・)を見せつけるのが、この場での一番の仕事と言えるだろう。あとは八重垣氏を連れ回して関係各所ビビらせておけば完璧。

 僕を連れて回らなかったのは…………既に『私達は親密な関係ですよアピール』をしておきたい場所には回ってるのと、この間の若手悪魔の集いで(意図して)やらかしたせいで萎縮されるってのがあるからだろうなぁ。同じく部長もやらかしてはいるが、僕と違って信頼稼いでるからね…………。あらま、僕ってばヨゴレ?(自覚アリ)

 

「……まぁ、そういうライザー氏も、演出全開で楽しそうと言いますか」

「はーっ、お前には可愛げがないよな。そういうのは分かってても言わねぇお約束だろう? ……いやはや惜しい、ベルゼブブ様に先を越されたのが悔し過ぎる」

 

 そんな劇物に積極的にコミュニケーションを取ろうとしてギリギリ火傷しないフ(・)リ(・)をするフェニックス家の三男坊。どこまで計算づくなのか分からないけれど、ほんっとうにフェニックス家は政治的立ち回りが上手すぎる。

 

「ライザー氏ライザー氏」

「なんだイッセー」

「こ(・)れ(・)は(・)誰(・)の(・)絵(・)図(・)?」

「お前そういうところだぞ。もうちょっとキャッチボールしてもいいだろうが」

「いやぁ、この場合僕は採点された方がいいかと思いまして」

 

 まだ僕が気が付いていない視線を、警鐘を併用してそれとなく手繰る。僕とライザー氏で作ってるパーティ会場の空白地帯、それを遠巻きから眺める一団……を壁にしている二人組。片方はライザー氏の騎士の一人だったはず……朱乃サンがリタイアさせた面々の中にいた。もう一人は金髪ツインドリルのお嬢様…………レイヴェル・フェニックス嬢じゃね???

 ちょっと想定外の人物だったので、こしょこしょと空気の震えの方向を魔力で調整しながらライザー氏に問いただす。

 

「…………ねぇ、アンタんトコの妹様、僕のこと値踏みしてんの? それとも復讐の前段階?」

「いや、値踏みっつーかなんつーか……。一応危害を加える予定はない、ぞ?」

「嘘は無い……。正直僕、あのお嬢様に恨まれてぶっ殺されても仕方がないとは思ってるからさぁ」

 

 思い出すのは例のレーティングゲーム、レイヴェル嬢を突破するのに取った一手。『循環する苦痛(ペイン・サーキュレーター)』を回し、心臓を最大稼働させ、駄目押しで聖水を飲んでリタイアさせたあの場面だ。

 

「あの時はまだドラゴン化が中途半端だったから、消化器官に聖水流し込まれる不快感と痛みは相当凄かったんだと思うんだよね。下手したら虹色モザイク必須になってたんじゃないかな、って」

「おい、前も言ったけど俺の方が相当酷い目に合わされてるからな???」

「あはー」

 

 それはそれこれはこれ。というか女性相手に効きそうな尊厳破壊も狙っての処置だから、実は名誉の面ではレイヴェル嬢にしたことの方が酷いまである。…………いや本当に早々にリタイアしてくれて助かったよ。

 

「では分解……する前に何か飲みます。舌の回りを良くしないと」

「それならこのワインなんかどうだ?」

「未成年飲酒、ダメゼッタイ!!!」

 

 それに余計なことまで喋っちまいそうだし、ドラゴンを酔わせて退治する……みたいな逸話もあるし。飲める年齢になってもあんまり酒には手をつけない方がいい気がする僕であった。

 

 

◆◆◆

 

 

 雑談を挟みながら飲み食いをして、いい感じに緊張がほぐれたところで中断した話を促される。会場の端の方から突き刺さる視線のこともあるしね。

 

「まず、このヒトの目しかない場でライザー氏を初手で僕にぶつけてやろうとした何某は、相当ヒトの心が無いと思います」

「自己紹介か?」

「あっは、悪魔でドラゴンなのにヒトの心を期待してるんですか?」

「開き直りやがった…………」

 

 いやまあ……あるつもりでいるんですがね? でもこの方がどなたかの意図には沿うかな、ということで演技。

 

「ライザー氏と我が上司が婚約関係にあったことは……恐らく有名だったと思うんですよ。若い二人、期待できる純血悪魔の次世代。今をときめくフェニックス家の三男坊に、見目麗しい魔王の妹。センセーショナルな話題になってたんじゃないスか?」

「リアスが……というより、お前が全部ご破算にしたけどな」

「ええ、ええ。我が上司の願い通りに、僕はあなたと対峙して勝ちました」

 

 普通ならここで両家の交流にヒビが入るものだろうけど、どういう因果かそうはなってない。そこは『赤龍帝』が使えるとか、ライザー氏の器がデカかったとか、フェニックスの涙関係で新規事業おっ立てたとか色んな要因があるとは思うが。ともかく関係各所以外には表になってない事実である。

 

「恐らくコレは、人間に限らず悪魔もそうであると思うんですが。我々は分からないものに恐怖します。真相はともかく、客観的に見て女性を取り合った形になった男二人が仲良く談笑している図…………当事者じゃなけりゃ僕は怖いです。『何が起こってんの……?』と」

「……そうだよな。改めて客観視すると俺らが友人関係なのかなり不思議だよな」

「ねー」

 

 揃って笑うと周りがザワつく。ちょっとおもろいな……。ラーメン屋の店主と常連が核にある、なんて事実をぶち撒けたらさぞ宇宙猫を量産できるに違いない。宙に彷徨った視線をすり抜けていけばお手軽に宇宙旅行ができそうだ。

 

「だからぶつけたんだと思いますよ。周りを牽制したいのか、僕を孤立させたいのかは分かりませんがね。こんな冴えないナリしても、一応僕は赤龍帝。リアス・グレモリーの飼い竜にして後見人に魔王アジュカ・ベルゼブブ様が着いている男。いくら扱いづらそうでも利用できれば元なんていくらでも取れそうですから、火中の栗を拾う勢いで接触してくる方もいないわけではなかった、かも。……ライザー氏が初手でつるんでくるまでは」

「…………あいつも災難だな」

「?」

 

 どういう意味の感想だ……? と思いつつも、とりあえずまるきり的外れなことを言ったわけじゃ無さそうなので一安心。警鐘さんは今日も絶好調ということで。…………本当に使い続けていいんだろうか、とは思うが。

 

「で、点数は?」

「そもそもそういうのじゃない、単なる利害の一致でお願いを聞いただけだ。あー……お前の言う何某は、善意でそう組み立てた」

「善意ィ……?」

 

 突き刺さる視線から動揺の気配、隠していたことが暴かれたような反応。……嘘はねぇな。

 

「やったことの流れは合ってるが、意図は違う。採点するなら途中式に対しての部分点だ。……お前は本当に自分の負い目に対して厳しいな。ある程度踏み倒す気概がないと食い物にされるぞ」

「いやいや、悪いことしたら恨まれるって普通(あたりまえ)の図式じゃん……」

 

 というか善意? ……実際腹芸しなくて済んでるし、肩の力抜けてるのですげぇ気楽で助かってるっちゃ助かってるのはそうなんだけど。そこまでお膳立てしてもらえる謂れはないはず……だよね?

 

「ま、こっから先は本人に聞いた方が……ん?」

「あの……いなくなってません?」

 

 気が付けば視線の発生源……レイヴェル嬢を見失ってしまった。警鐘使って探してもいいけど……うーん、ここは流した方がいいだろう。

 

「全く、我が妹ながら思いの外シャイだな。自分を売り込むやり方にしても婉曲というか……」

「売り込むゥ? 誰が、誰に?」

「レイヴェルが、お前に」

「……………………」

 

 既に歩行者が僕の女王の座を狙っていることは、既のところで喉から出ずに済んだ。絶対責められる。

 

「圧倒的不利から勝利にまで繋げた手腕に、あいつは大層ご執心だったぞ。俺としては内心複雑だがな」

「の割には協力的じゃないスか。正直、ライザー氏の眷属のどなたかがパーティには来てると思いましたけど、まさか本人来てると思いませんでしたもの」

「そうだな、どっかの誰かが俺の風評に傷つけたもんな? ん?」

「ぐぅ」

 

 本気で気にしては無さそうだけど、弄れる時には弄ってくるよなぁ……! この程度で収めてくれてることに感謝すべきなんだけど、それでも性格の悪さに歯噛みしたくなる。

 

「とはいえだ、あの後もお前がいい感じに暴れたり立ち回ったお陰で情けないボンボンって評価から、赤龍帝相手に健闘した被害者にまで回復してな。だったら更にお前を利用しない手はないわけだ。言ったろう、利害の一致だと」

「あー…………」

 

 実際悪評もきっちり積み上げた感じはある。そんな中でライザー氏が僕と仲良くやってるってのは周りから見たら恐怖案件ではあるけど、ライザー氏の評価は上がりそうである。あ(・)の(・)赤龍帝と仲良くなれる男…………自分で言うと恥ずかしいってレベルじゃねぇな!

 

「あとはお前が俺のやったの着てくれりゃ完璧だったんだがな」

「勘弁してくださいよ、他のメンツと合わせるつもりでいつもの制服着てきたんスから……」

「他のメンツぅ?」

 

 そう言ってライザー氏はグレモリー一味に視線を向ける。…………おん、言いたいことは分かるよ。

 

「ついでに言うならあの中に一人、女装男子がいます」

「…………!!?」

 

 驚き過ぎて声も出ねぇか、気持ちは分かるよライザー氏。レーティングゲームん時にいなかったメンツで女子っぽいの一人だけだもんな。……やっぱ公式な場で女装ってどうなんだろ? 悪魔だからそういうのもありなのかな?(性自認はともかく肉体なんていくらでも変えられるだろうから)と思ってたけど、反応見るに違うっぽい。

 

「…………追加の言い訳をするなら、僕ともう一人ぐらい高校生範疇で普通な男の格好した方がいい気がしまして」

「ああうん、何も言えん。グレモリー眷属はバラエティに富んでるな」

「オブラートに包みすぎて飲み込めないフォロー、真剣感謝(マジアザ)ッス」

 

 まあそんなワケならライザー氏もここにいるのは納得よな。レイヴェル嬢が自分を僕に売り込むっていうのは……あまりよく分からないけれど。趣味が悪いんじゃないか?

 

「まあ実際、お前とは気が合いそうではあるんだよな。じゃなけりゃお前にアイツを勧めん」

「マジか」

「オーソドックスなルールじゃなくても使いどころが沢山あるだの、痛覚を循環させないパターンと使い分けできるのがいいだの、他の感覚も回せるかもしれないだの……ペインサーキュレーターだっけか? それの考察だけでもどれだけわちゃわちゃと話されたか……」

「色々腑に落ちたけど、お宅の妹様の性根って大丈夫?」

「目の前にいる馬鹿ほどではない」

「「あはははは!」」

 

 どうしよう、確かに味方としては欲しい人材だけど、僕を遥かに越えた知性で僕のような非道いことをされると僕の存在価値が無くなるんだが。ワタシまだ(利用価値が無くなるという意味で)死にたくないわ!?

 

 まあそんなことは良いのよ、と引き続き毒にも薬にもならない雑談でもしようかと表面上の笑いを引っ込めたところで。視界の端に小猫チャンが困ったようにちょいちょいと手招きをしているではないか。これがホントのまねき猫……いやちげぇし笑い話ではなさそうだ。

 

「ライザー氏ごめん、ちょっと席外すわ」

「お、なんだ。厄介事か?」

「否定できない自分が恨めしいね。ライザー氏の思惑に乗り切れてないのが申し訳ないところなんだけど……」

「構わん構わん、十分付き合ってもらったさ」

 

 いやもうホント、話が早くて助かるわァ……。実際相応に仕事したとは思うけど、そこはそれ。親しき仲にもなんとやら、だ。

 

 …………さーて、僕の思ったような展開になるといいんだが。

 

 

『Sloth:Counterclockwise』

『Choice:【2】』

 




「ど、どう切り出したものかしら……そもそも赤龍帝も気まずいでしょうし……」
「よぅレイヴェル。お前がモタモタしてる間にイッセーはどっか行ったぞ」
「え''!?」

◆◆◆

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