兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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Choice:【1】

「…………仕方がない、か。逃げ場がないんじゃ、まだマシな方に着くしかないにゃん」
「そ、それじゃあ……!」

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その25

 

 まずはじめに感じたのは、身体の中の流れを塞き止められる感覚。次いで、胸から伝わる鼓動の一切が無くなっていること。

 

(あ、まず──)

 

 そう思う間もなく一瞬視界が全て黒くなり、白く爆ぜる。

 意識が戻ってきたと思ったら、どうやら自分がぶっ倒れてることに気がつく。……心臓の制御をドライグに委譲、血の巡りを無理矢理作って飛び起き、退く。

 何をされた、なんて廻りの悪い疑問なんて浮かばない。気の制御で心臓そのものを止めに掛かられた。

 

「グ……容赦、無し……!」

「やっぱ殺す程度じゃ死なないか。アンタの言う通り、遠慮なんてしない方がいいのかも」

 

 視界が曇っていても分かる、黒いオーラが眼前の敵より立ち上る。随分と禍々しい、小猫チャンが姉が闇堕ちしたと思ってしまっても仕方がないなコレは。

 

「……入力(インプット):血流・身体制御」

『Output!!』『Count 8』

 

 負けじとこちらもドス黒いオーラを纏う。受けた攻撃を解析し、それに対する耐性を上げ、それを繰り返すことで相手の攻撃の無力化を計る。副作用で意識が飛びそうになるが、どうなっても絶対に目的に向かっていく為の憤怒、『血染めの夜に切歯不心(ブラックアウト・レイジ)』。……耐性を付けていくのは僕が想定していなかったオマケ能力である。

 

「憤怒(ラース)!!」『Charge!!』

 

 悪い意味で思考が凪ぐ。視界に捉えてるのは、黒い猫ただ一匹のみ。もう一度、拳を固めて振りかぶる。

 

「……!」

 

 一瞬の逡巡、そして避けずにガードすることにしたらしい。腕をクロスさせつつ、オーラを腕に集中させた。…………願ったり叶ったり、だ。気を使った防御が見れるし、何よりも。

 

「解放(リリース)」『Wrath:Blackout Breaker!!』

「ッ!?」

 

 ドゴンッ!! と破裂したような音、その後に衝撃。肉を打ち骨を破砕する感触が拳から伝わる……はずなんだが、イマイチ乗り切らない。接触したと同時に後ろに飛ばれたらしい。クルクルと飛んで着地した彼女は、左腕を庇いつつも再起不能にはなっていないようだ。

 

「……勢いと威力が釣り合っていない、呪いに近い縛りね。素人の癖にめちゃくちゃ無茶するじゃないの」

「…………」

「自食作用のように消費してる生命力の行先、ではないか。そっちは仙術の通りが悪くなった何かに関係している、用途を限定した闘気に近い使い方だわ。……推理するのも面倒だわね。だったら適応されない攻撃をするか、飽和させるか。意味深なカウントもあったことだし」

 

 言うやいなや、黒い霧の様な物を放射する。警鐘が正しく機能し、吸ってはならないとガンガン鳴る。それをあえて少し吸い、入力。

 

「入力:毒物」

『Output!!』『Count 5』

 

 3回分減ったことに歯噛みしつつ、更に遠退く意識の手綱を握りしめる。視界は悪いが、自分の感覚は常に黒歌を認識し続けている。

 

「……起動(セット):『循環スル苦痛(ペイン・サーキュレーター)』」

 

 何に適応したのか、その内容が自分に分からない以上、1番憤怒にとって都合のいい技を選択し、起動する。マーキングは十分、押し付け回しの限界突破仕様だ。

 

「ッ! それを対策してないとでも!?」

「…………!」

 

 取り出したるは、黒い紙のヒトガタ。……俗に言う形代というヤツだろう。僕が先の一撃で付与した魔力の欠片をそちらに移し、恐らく苦痛のループから抜け出した。自分だけの負荷が、倍々にかさ増しされていく。……だが、これでいい。

 

「……照準(ロックオン)」『Charge!!』

 

 ミシリ、と右腕肘から嫌な音が鳴る。感じる痛みも苦痛も更に増す。だが、『憤怒』で鈍化した防衛本能が、この場だけは良い方向に働く。恐怖は無く、ただ痛みと不快感だけが蓄積されていく。

 

「発射(バースト)」『Wrath:Blackout Breaker!!』

 

 音を置き去りに、赤黒い軌跡と熱が肘の先から伸びていく。余波で射線上の木々は蒸発音と共に消え失せ、地を抉る。これがロケットパンチによる破壊とは誰も思わないだろう。もはや、ビームである。

 まだ気配は消えていない、避けられた。更なる痛みを覚えながら、次の弾を込める様に腕を修復する。

 

「装填(リロード)」『Greed:Create Imitation!!』

 

 再生は訓練の時に何度もやった。治すのに1秒も掛からない。漏れ出た血の中から浮き出るように、ゆらりと腕が析出する。

 

 次の一撃を、と狙いを定めようとするといつの間にか黒歌の気配が増えている、あちらこちらに。気を用いた分身か、意識や視界が狭まった今なら効果的だろう。……僕でなければ、だが。

 

「照準」『Charge!!』

「一瞬だけ迷いが見えたわ。気配の察知の仕方は野生動物的……けれど例の勘の良さで本体が見えているってことか。覇龍(ジャガーノート・ドライブ)の暴走、って感じもあまりしないにゃん。その系譜は感じられるけれど……あくまで流用ってところ?」

「肯定」

 

 隠しても仕方がないし、恐らく彼女はそれを知っている。白い方のそれかなんかを見ているのかもしれない。それに、弱(・)点(・)を(・)突(・)い(・)て(・)も(・)ら(・)わ(・)な(・)い(・)と(・)困(・)る(・)。

 

「そして威力の高さのカラクリも割れた。自分に掛かる負荷が大きければ大きい程、攻撃の威力が増大するのね。私には通用しなかったけれど、相手に痛みを押し付けつつ自分の攻撃力はあげていく。耐性を付けていくのも、より負荷を受け続ける為の構成。効率的で悪辣ね、元人間なのが本当に疑わしいわ」

「…………」

「でも、増大させた攻撃にも回数制限があるでしょ。私の見立てだと………そうね、あと3回ってところかしらん?」

「…………正解」

 

 便利だなぁ仙術!? と言うよりは気を読む力と、経験だろうか。これができるようになれば結構便利だぞマジで。これはいいお手本じゃないか? ……と他事に意識が向かった瞬間、急速に視界が遠退いていく感覚。クソ、本当に扱い辛いな『憤怒』!

 

「意識が飛びそうなのが見て取れるわ。このまま落ちてくれれば……というワケじゃなさそうね。それ、意識飛んでも目的達成まで動く設定でしょ?」

「肯定。……驚嘆」

「お褒めの言葉、どうも。じゃあ、解析だけじゃないってところ……見せてやるわ!」

 

 分身がそれぞれ僕に殺到する、分かりやすくそれぞれ別種の力を込めながら。……飽和させるってのはこういうことか。耐性の付け方を探る目的もあるだろう。……だが、悪手だ。

 

「聖剣、剥離(パージ)」『Purge!!』

 

 掲げた左腕、そこから溢れ落ちる様にずるりと聖剣が現れる。そう……ガラティンだ。

 ねぇガラティン、聖剣オーラぶっぱなしたいんだけど小猫チャンだけ回避することできる? あ、できるの。ありがとうありがとう、巻き添えで僕がソレ喰らうなら? オメーほんと僕のことどう思ってんのかわっかんねぇよ、やるけどさァ。

 

「点火(イグニッション)、暴発」

『Ignition Boost!!』『Transfer!!』

 

 今まで使ってなかった倍加、それも3回分だ。既に9回分してるもんだと思ってただろう相手の思考の隙を突く、とっておきの鬼札。訓練の成果はちゃんと出てんねぇ、ありがとうよ歩行者(ウォーカー)!

 

 音はなく、予兆もなく、光のみ。それだけがこの場を埋め尽くすように景色ごと塗り潰す。

 多少は配慮してんのか、僕の意図を察してるのかはしらないが、3回分の後押しの割にはあまり痛みを感じない。……鎧と、『憤怒』が動いてるからか。不満そうな意志がガラティンから伝わってくる。死ぬぞ僕、死なんけど。

 

 さあ、ここまでお膳立てしたんだ。目は潰した、鼻は本家ドラゴン程は効かない、適度に聖なるダメージ浴びつつ生命力もある程度削れた。某携帯獣ゲームで言うなら赤ゲージの状態麻痺だ。そろそろ搦手じゃなくて直接的な仙術の攻撃を受けたいものだが。

 

 だが、待てど待てど衝撃は来ない。身構えているうちに視界も回復してくる。消費し続けてる生命力はともかく、むしろ消費してる分怪我負った部分が煙噴いて治っていく。

 ……分身はもう居ない、聖剣スタングレネードで纏めて消えた。警鐘もその判断を後押しする。だが逆に、周囲の気配が消えている。狭まった視界を振り回して……誰もいないことに気がつく。

 

「ッ!!」

 

 ここで、本来の意味で警鐘が鳴った。だが、あまりにもそれは遅過ぎた。

 

「ガ──」

「大当たり、ってカンジ?」

 

 声は背後より、異物は胸から。鎧は維持ができずに熔け落ち、拓けた視界が捉えたのは、自分の身体から突き出た腕。

 まずい、と思った瞬間既に血を爆ぜさせていた。爆発の指向性はドライグに丸投げし、少しでも距離を取るように、無理にでも腕を引っこ抜かせる為に。

 

 転がりながら修復力に倍加を回していく。……心臓は一旦取っ替えないとまずいかもしれない、異物感が未だに取れない。だがほんの数秒のこととはいえ、悠長にあの仙術使いに隙を晒すのはできない。

 彼女の中ではもう決着したつもりなのだろうか、僕が身体を起こすまで何のアクションも追い討ちもなかった。……事実、警鐘はずっと命の危機を掻き鳴らし続けている。ひっくり返せそうもない感覚は、元カノ堕天使に腹ぶっ刺された時以来である。

 

「……どういう、カラクリ、ですか?」

「あんたの勘を掻い潜った方法? それとも神器が音もなしに解除された方? まあ、どっちもでしょうから、時間稼ぎついでに話してあげる。黒歌おねーさんの課外授業ってやつにゃん」

 

 爛々と光る目が、僕を獲物として捕らえて離さない。……言いたい放題したことを相当怒っているようだ。仕返しする気満々だろう。

 

「僕に、ちょっとだけ稽古をつけてくれた先生は……あると分かればズラせるみたいなトンチキを言ってましたが……もしかして」

「多分違う、絶対違う。ソイツはバグにゃん、覚えておかなくていいわ」

「アッハイ」

 

 やっぱアイツおかしいんだな……いや分かりきってたことだけどね……。

 

「とはいえ全部切って捨てるの違うわね。ズラす、じゃなくて誤認はさせたわ。……あんたが私にそうしたようにね」

「あー……やっぱ根に持たれてるゥ……」

 

 そして誤認と言った時点でだいたいのことは察した。つまりは、だ。

 

「僕の勘……まあ警鐘と呼んでるんですが。それが命の危機かそれに類する部分がメインだと気が付いた。だから誤認させようと」

「そういうこと。さっきまで気……生命力が垂れ流し状態だったから、余計に動きが分かりやすかったわ」

 

 なるほど……多分それは『憤怒』でより分かりやすかっただけで、普通にしててもモロバレだったかもしれない。僕は気の制御なんて覚えてないしな。意識が向いたらグネングネン形を変えそうだ、ビビりだし。

 

「決定打になったのは分身で仕留めようとした時ね。あの時既に本体が分かっていたはずなのに、意識の波が分身全体から引いていかなかった。それでピンと来たわ。ああ、この子脅威度を測ってるんだわ、ってネ」

「こっわ、本職(プロ)に会ったの2人目ですよ」

「何を指して本職言ってるのか知らないけれど、私全部我流でやってきたにゃん。アマもアマよ」

「けっ、才能に溢れたヤツはコレだから……!」

 

 お前もヒトのこと言えたクチか〜? とどこからか聞こえてくるケド聴こえないフリ。言っとくけど僕が戦えたり思いつきを形にできてるのは神器とドライグが凄いだけだから。外付け才能回路である。

 

「だったら誤認させるのは簡単と踏んだ、そして通った。裏があってさえ関係無いほどに、あんたの身体を慮って治療にあたったわ」

「マジの意趣返し……」

 

 しかし、それ自体は本当も本当なんだろうなと確信。ことが起きるまで警鐘が反応しなかったこともそうだし、『憤怒』使った後の反動がまるでない。『強欲』で補填しなきゃならない生命力の方も十分に回復してるみたいだし、胸の異物感以外はマジで身体の調子は悪くない。

 

「まーそもそもわざわざお膳立てしなくとも、仙術はあんたの身体には効いたでしょうね赤龍帝。……人間でも、悪魔でも、ドラゴンでも本来ありえない改造の痕。どれだけ自分で自分の身体に手を入れたか知らないけれど、そういう『不自然』に対して、仙術による治療は凄く効果を発揮する」

「…………」

「実際に触った感じだと、悪魔の駒がものすごいエラー吐いてるみたい。人間を転生させたはずなのに、身体の一部がドラゴン化したことによる食い違いに、聖書の神の産物である神器との癒着。そのせいで身体の至る所がガッタガタの違法建築。自分でそう望んでそう成り果ててるのは十二分に伝わったけれど、存在そのものが冒涜的な生物になってるのよ。そりゃあ私ですら慈悲が顔を出すわ、だから全力で流れを整えた。……そのせいでほら、自分で増設した能力が使えないでしょう?」

「だから機能停止に。……これってもう使えなくなったってこと?」

 

 そうなると非常に困る、とちょっと臨戦態勢に入りかけたら、呆れたように首を振られた。どっちの意味かな……どっちの意味もか。

 

「茹でた卵は元の生卵に戻らないでしょう? じきに今の状態に合わせて使えるようになるわよ」

「ならいいんスけど……随分と大盤振る舞いデスね、いいんですか?」

「いずれ攫う妹が弱いままじゃ話にならないわ。せめてお手本は必要にゃん?」

 

 んまぁ、そういうことだよねェ……。しまったなぁ、不意を突かれたせいで小猫チャンの肉壁としての評価は下がったかもしれん。勧誘したかったなぁ。

 

「とはいえ、まだまだこれからですよ。まだ僕には籠手がある。本来の機能は何ら陰りなく、時間稼ぎと言いましたが、それはこっちだって……」

「嘘(・)つ(・)き(・)」

 

 びしり、と磔にされた様な錯覚を覚える。あがりそうな息を、根性で抑える。

 

「驕るな、騙るな、見え透いている……って言うのかしらね? ええ、見え透いているわ赤龍帝、兵藤一誠。勝ちの目が見えてないことも、異常がないはずの心臓に意識を向けていることも、あんたの気配が雄弁に語っている」

「……あ、いや。心臓にはずっと異物があるな〜って感じがしてるんですけど」

「それマジで言ってる!? あんたの警鐘ってヤツどんな精度してんのよ!! わざわざ私の気をあんたの気に偽装して何重にも封をして忍ばせたのに!! もしかして過去に心臓移植したり爆破させたりでもした!?」

「………………………………シテナイヨ?」

「嘘のレベルが急激に下がったわね……! なんなのもう!」

 

 まあそうだよね、心臓なんて移植はしたことあっても爆破させることはないよね。どうして僕は人生の要らない実績をたくさん解除しているのだろう……悪魔でドラゴンなんだけど。

 

「ま、まあいいわ。事実はどうあれ決着と言って過言じゃないもの。……流石の私でも、神滅具への干渉は何もなしにはできないわ。だからその為の小道具は準備した。あんたの心臓の中に忍ばせたのがそれよ」

 

 警鐘が、より一層命の危機を知らせるようにガンガンと鳴る。隙を見せてはいけないとか考えてる暇はない、今すぐに破裂させろと騒ぎまくる。

 ……ここまでくれば、相手の行動を待つ必要もない。意識して血を心臓に集めようとして…………身体の制御が上手く効かないことに気がつく。おいドライグ、コレって……!?

 

『くっ……嵌められたな。道具が変わって勝手が分からなくなってる状態に近い』

「それを見越してないとでも思った? 対策済みよ。ではではご開帳、赤龍帝を沈める銀の弾丸は〜……」

 

 指を鳴らされたと同時に、心臓にあらゆる力を吸われていく様な感覚。……この脱力感、この感覚を僕は知っている。これは、白いあんちくしょうと戦った時の……!!

 

「白龍皇の宝玉、にゃん♪」

 

 ばきゅん、と銃を打つ仕草と同時に、意識が一気に闇へと引き摺られていく。

 

 僕、マジでここで死ぬかもしれない。




【抹消記録】
 ディオドラ・アスタロトとの交戦後、やぶれかぶれの攻撃によりアーシア・アルジェントが死亡。兵藤一誠は反天使ヴォーティガンへと変生し、世界を滅ぼす。

『Time over』
『Remove』

◆◆◆

インフルエンザって本当にしんどいですね…………

感想等ありがとうございます、励みになります!
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