それはそれとして、これから皆さんには怠惰の能力が使われる度にバッドエンドが生まれているという嫌な思いをしてもらいます(真顔)。
「もはやさぁ、この謎の神器空間に来すぎてて命の危機感がまるでないよね」
『言ってる場合か貴様、緊張感を持て! 今回、あの女郎の手助けは望めんのだぞ!』
たはー、と困ったように笑う僕は現在、周り真っ黒ないつもの神器空間でドライグと膝を付き合わせて困り果てていた。
「というかいつの間にアイツ協力的になったのやら、だよ。今だって『外出中』の立て看板あるし」
『ぬぅ…………思うところがあったのだろうな、と察しはするが』
どこかで繋がりあってるから、感情自体は何時でも読めるんだがな……僕は自分の使命感がどんな動きしてるのかまるで分からんよ。
「なのでそもそもアテにしていいヤツじゃないってことで、割と真剣に考えてはいるんだ。その上で困り果てて笑うしかないってコト」
『万策尽きたわけではあるまいに』
「いやぁ、限りなく近いよ?」
状況を簡単に整理しよう。僕は七大罪に準えた装甲板の能力が一時的に使えなくなっていて、胸の中に白龍皇の宝玉? があると。
「ドライグせんせー質問! 気絶前にものすごく痛かったから結構まずいとは思うんだけど、どういった理屈でヤバいんだろうかコレは」
『…………言わば、飲みやすい毒ということだ』
「矛盾……はしてないだろうけど、すごい組み合わせの言葉だね???」
まあニュアンスは伝わったけれども。吸収しやすくはあるけど毒だよ、と。
『だいたいその認識で間違いない。あの猫又が言った宝玉とやらは『白龍皇の光翼』ないし、『白龍皇の鎧』に付いてるもので間違いないだろう。俺がヤツのオーラを見間違うはずがない以上、虚言の可能性はゼロだ』
「ふむふむ」
『俺とヤツはドラゴンという意味で同属だが、相反する存在でもある。ヤツの力が込められた物質なんてものを取り込んでしまえば、拒絶反応で死んでもおかしくない』
「そういうことねぇ……」
ここでドライグがガン子が手助けしないことに対して危機感を持て、と言った理由が来るわけか。赤龍帝の僕たちに対してガン子は反存在であるわけだから、手助けがあれば中和なりなんなりできる、と。やー、参った参った。
「七大罪の能力が生きてたら……まだ対策も思いつくけど、手札ぶっこ抜かれた上で基礎性能で負けてる。久々にお手上げという感じではあるね」
『ならば、ここで諦めると?』
「まさか!」
そいつはお前に対する裏切りだろう。最後まで可能性を掴む為に足掻く、それは僕とお前の間で結ばれた何より重い契約である。……ただちょっと八方塞がりで困っていただけさ。
「ここまで来たなら、もう手は一つしかない。しかもそれで現状をひっくり返せるかも分からない。それでも僕は、アレしか思いつかないよ。……それは多分、お前が考えている最終手段と同じはずだ」
『で、あるな。……正直、忸怩たる思いだ。この様に必要に迫られてなるものでもない故な』
その辺は……まあドライグだけの、ないし純ドラゴン的な感傷だろう。僕としては、今まで必要に迫られて手札を潤沢にしてきた感覚があるから、今回もその延長線上にある。
「じゃ、探すか。『
文字通りの
◆◆◆
「まず前提というか、くどいかもなんだけど。僕のパーツをなげうって禁手になるのは無理なんだよね?」
最初に聞いておくのはそこ。改めて聞いておかないと踏ん切りがつかないというか、ドライグが正直乗り気では無さそうだから、別案を探してみたくて質問した。返ってきたのは横に振られる首だった。
『もう捧げて良いものは残っていないさ。……まさか、魂を
「え、えぇ……仮にも悪魔の相棒なんだからさ、隙を見せたらケツ毛までむしり取る気概を見せてくれよ」
『アホ抜かせノータリン、俺が帳尻を取ってやらねばならん位というに』
「ひっでぇ」
いや、非道いのは僕か? というのは置いといて。
「まあやらないっていうのは前提としてさ。そこまで嫌がる理由はなによ?」
『お前が、覇の理から開放された男だから、だろうな』
珍しく、相棒の声が変な色をしている。憧憬と、羨望。プライドが高く、器が小さいのかデカいのかよく分からないドラゴンの、奇妙な吐露だった。
『経緯はイレギュラーそのものだったがな。己の意思一つで、我々が囚われたものを食い破った。……歴代の赤龍帝や、俺にすらできんことだった。あの場ではそれどころでなかった故、感傷に浸ることすらできんかったがな』
「その、覇の理ってのは……」
『いずれ直面するだろう。何せ、俺が囚われていたということは必然、』
「白い方も、ってことか」
それが僕が残骸を残して失ってしまった『
『深く考えるな。俺や俺に似た馬鹿共は力そのものを求め、その果てに呪われ滅んだ。お前は別方向に馬鹿で、そして狂っている。俺達よりマシな方に狂ったその姿に、俺が勝手に胸のすくような思いをしているだけだ』
「褒められてるのは分かったけど、そう感じないのはなんでだろうね?」
『結局のところ馬鹿だからだろうな。俺と
へーへー、どーせあたしゃひとでなしですよーだ。
『だからこそ、何のしがらみもない状態で至ってもらいたかった、というのはある。……お前のなりたいものが輪郭を帯びた時、その瞬間にお前は均衡を踏み越えた力を手にするのだと』
「ドライグ……」
なんだかちょっぴり感動しちゃった。しちゃった…………のだが、なんでか睨みつけてくるんだよね。なして?
『……よくよく考えれば、この状況を招いたのも貴様だったということを思い出したからだ、このたわけ!! つくづくお前は俺の言うことを聞かんし無茶をする!!』
「ごめんなさい、反省はしてないし後悔もしてない」
『…………ハァ、もういい。それこそ今更だ。ある意味で俺の仕事はお前を死なせんことにあるのだからな、クソが』
いやぁ、本当にいつもお世話になっております。
……さて、真面目な話。自分の内面に切り込む上で大事な話が今のやり取りで出てきた。
「やっぱり、禁手への最後のひと押しはそれか」
『ああ、その確信が俺にはある。短期間とはいえ激動に揉まれ、鍛えたことでお前は強くなった。だが、そのせいで自分を見失っている。悪魔になったことでお前の拠り所は形を失い、人から外れることで何をしたいかも分からなくなった。魔力がお前に問う以前に、お前が何になりたいのかを自分自身で取り戻す他ない』
何になりたいのか、か。冥界に来てからずっと考えてはいた。
「たださぁ、それ結構長丁場になりそうじゃない? 避けては通れないけれど、あんまり悠長にしてると黒歌サンに逃げられるか、小猫チャン連れてかれちゃうけど」
『俺は言ったぞ、自分を見失っている、と。冥界に来てから、お前が口で、心の内で吐露したなりたい自分とやらは、その延長線上にある。考えろ、そして思い出せ。お前がなりたくて、通り過ぎてしまったもののことを』
通り過ぎてしまったもの……。つまり、一度はそれに触れていたとドライグは言っている。そして僕が考えていたそれらは、断片でしかないと。
大きな野望を語る部長の力になりたいと、僕は思った。
後輩の悩みを聞ける存在でありたいと、僕は思った。
一つずつ見つけた思い出を宝としてそれを守り抜くドラゴンになりたいと、僕は思った。
匙元士郎のように語る
列挙して、そこまでして思い当たった。これらは何も、その場だけの思いつきで浮かんだ話ではなく…………。
「人間だった頃に思い描いてた『胸を張れる自分』の、延長線上か」
口にして、腑に落ちた。そしてこれは無理だと匙を投げそうになる。かろうじてそれを口に出さなかったのは、なけなしの意地だ。だが、僕の胸の内は相棒のドラゴンには筒抜けだった様だ。
『何故だ。一度はそうなれたと、胸を張って言えただろう』
「状況が違う。あの時は、人間の時の延長線上だった。今は、今の僕はもう……人間じゃないから」
両の腕を見る。筋肉はついたと言え、細い腕に細い指。頼りなさそうな腕だ。
…………欺瞞だ。僕の腕は、見た目がそうなだけで。とっくのとうに、ドラゴンのそれと遜色がない。この腕は、容易に人間を砕き、切り裂き、殺してしまえるだろう。既に鯉は滝を登り、蛇足は削げ落ちている。…………縋りたかった四肢なんて、もう存在してないのだ。
「こんなザマで、どうして胸を張れるなんて嘯ける。守りたいものを壊してしまいかねない、こんなバケモノが、どうして」
『壊せたのか?』
怒りと、嘲笑のこもった声が、ドライグの口から放たれる。
『欲でなく、使命感で以て世界を滅ぼそうとしたお前は、実際に世界を滅ぼせたのか? それに足る力を以て、滅ぼせたのか?』
「それ、は……」
『笑わせてくれるな、我が後続、我が相棒よ。そういう感傷はな、
本心ではあるはずだ。実際赤白の戦闘の余波で魔王に聖書の神をぶっ殺したドラゴンだ、悪い意味で説得力が違う。こいつ本当にパブリック・エネミーだよ。……だが、その配慮のない励ましが妙にうれしい。
『それにだな……人間でなくなったところで、お前の何が変わったというのだ。友に交友を絶たれたか? 親に見捨てられたか? いいや、されていない。どれだけ強くなろうと、人外性を表に出そうと、お前が胸を張れる人間になったあの時から変わっていない証左ではないか』
「…………」
『まだ人外になってしまったと嘆くのであれば、『人間』の部分も欲張って手に入れろ。ドラゴンも、悪魔も、人間だって、そのぐらいはする欲深き生物だぞ』
人間の部分も、か…………随分と無茶苦茶を言いやがる。だが、迷いは晴れた。
「…………全部僕だ、全部やってきた。間違ってでも戦ってきたのも、みんなの力になりたかったのも、思い出を大事にしたいのも、全部僕だ。僕が、やりたかったことだ。胸を張ってやりたいと言える、僕の生きる理由だ」
全て束ね、そして。
◆◆◆
崩れ落ちそうになる足に力を込め、踏み留まる。意識を飛ばしていたのは一秒にも満たないほんの数瞬のことだったらしい。
「くっそ……!! 最大ダメージ更新だぞクソッタレ……ッ!!!」
光の槍で腹ぶち抜かれたときより激しく、ジクジクドクドクする痛みが心臓を中心に広がっていく。だがこれで僕の中での元カノ堕天使の価値が消えた、素直に喜ばしいことである。はははザマァ見晒せ、そして死ね!!(死んでる)
「………………!」
「おいおい、どうした野良猫。勝利宣言はしないのか?」
さっきまで勝ち誇っていたはずの彼女の顔から余裕が消え失せている。ケハハハ、見たくないもんでも見たかよ、オイ。
「ダラダラすんのもヤメだ、目的は果たされたんだからな!! 行くぞドライグ……『9枚目』だ」
『良いだろう我が相棒、殻を破る時だ!』
『Set:All Frame!!』
白龍皇という毒に侵された身体が悲鳴を上げる。文字通りの自殺行為だが、これでいい。
「させるかっ!!」
真正面から、黒歌サンが掌底を心臓目掛けて打つ。さっきまでなら、いや今でさえも命を刈り取るに十分な一撃であった。だが、遅かった。
「グッ……ゲハッ、ゲハハハハハハッ!!! 『
『Evolution:No.9!!』
機能停止していた装甲板が影の中で蠢動し、混ざり、溶け合う。そうして生まれた泥が、僕を呑み込んでいく。
泥は僕を呑み込みながらも、氾濫するようにどんどん、どんどんと肥大化していく。周囲のものを呑み込みながら、僕自身も沈めながら、大きく、巨きく。
『Revive:Nine Heads Devil Doragon!!』
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
神器が壁を越えたとき、僕の視界は
『おはよう、
『ああ。おはよう、
振り返れば、鎧を纏った九つの頭を持つ『僕』が、鎧を纏った人型の『僕』を見下ろしている。どっちも自分であることが、不思議と自然に飲み込めている。
『じゃ、やるか』
第二幕の火蓋は、九つに重なった咆哮と共に下ろされた。
【1】の失敗
→禁手を身につけていなかった
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