……タグにラーメン追加しておこう。
新体制となって、九頭龍亭は凄く働きやすくなった。まあそれは単純に人手が増えたことで過酷なシフトがなくなったのと、発注などの重要な業務を行える人が増えたことが大きい。あ、前も後ろも結局人が増えたからってことで説明がつくな。
「というわけで昨日の売上はこのようになっています店長」
「……ふんふん、平日なのに結構行きましたね。ここ、不自然に売上が伸びてる時間帯は、もしかして団体客でも来ましたか?」
「何やら魔法少女のコスプレをした団体様が。カウンター席とテーブル席を全て埋めたのでてんやわんやでした……」
「あー……それ先に言っておいた方がよかったかもですね。この時期、近くで魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブのイベントやるんですよ。そのときのレイヤーさん達がよく此処に立ち寄ってくれるんです」
しかし変だな……いつもはテーブル席埋まる程度で済むんだけど……。
「実は……どう見ても屈強な漢! って感じのレイヤーさんも沢山いまして……」
「………………」
ミルたんか、それともミルたんみたいな方々がまだまだいたのか。まあとりあえず、いろんな意味でお疲れ様だと言いたい。
「……中村さんは凄いですね。あの状況でも狼狽えることなくラーメンを提供していたのですから」
「いやぁ、立山サンはまだ研修中みたいなところあるから、団体様の捌き方を知らなくても無理無いですよ。今やってもらいたいのは、きちんとレシピ通りに、丁寧にラーメンを作ってもらうことに尽きます」
「はい、分かりました店長」
「……別に畏まらなくてもいいですよ? 僕高校生でお飾りですし」
この、忠誠心みたいなのは本当になんなんだろうか……?
「ウチのオーナーが、徐々に展開していくつもりらしくて、中村サンと立山サンは新店舗の店長候補なんです。だから……店長扱いするにしても、同列ぐらいで大丈夫ですヨ?」
「ですが……」
『5名様御来店です、いらっしゃいませー!』
おっと、今厨房にいる新人達には難しいかもしれない人数だ。
「行きましょうか。僕はホールの方行くんで、厨房のヘルプお願いします」
「分かりました」
さぁて、厨房でなくとも忙しいぞぅ! テーブル拭いたり、お冷のピッチャー、グラスは足りてるかの確認も必要だ。調味料で置いてる一味と胡椒、カレー粉もちゃんと確認しないとなー。
意気揚々と、バックヤードから戦場へと繰り出し……僕と立山サンは思わず固まった。
「ぶ、部長!? それにみんな!?」
「お、おお、お、オーナー!?」
なんと、オカルト研究部全員集合だった! え、今部活中だったのではあなた達?
「はぁい、イッセー。繁盛してるかしら?」
「あらあら、その格好のイッセーくんは新鮮ですわね」
「あはは……ちょっと、みんなでお邪魔しようって話になって」
「……どうも」
「な、なんというか、イッセーさんが職人さんに見えます……!」
上から部長、姫島先輩、木場クン、塔城サン、アーシア。なんだろう、抜き打ち監査みたいで胃が痛てぇ……。
というか、そりゃこの格好は珍しいでしょうよ。頭に黒タオル巻いて、灰色の生地に『九頭龍亭』と赤で印字されたユニフォームのTシャツ、紺の前掛けに長靴ですし。
「あ、あの店長?」
厨房の西条クンがオロオロしてる新人代表として僕に声を掛ける。うーん……他にお客さんいないし。
「あー……キミたち3人はバックヤードで25分ぐらい休んでてください。タイムカードは切らずにお願いします。立山サンはごめん、ホール整備お願いします」
「「「分かりました」」」
「はい、ということは」
ええ、そうです。そういうことです…………。
「……この場合、僕が作るのが筋でしょうしねぇ」
そう言って、厨房に設置されてる水道で手洗い、アルコール消毒して、紙ナプキンでちゃんと拭く。
「では、食券をお預かりします。麺の硬さや味の濃さ、脂の量のご希望はございますか?」
「じゃあ、私はそのままのを貰おうかしら?」
「私も同じく」
「じゃあ僕は麺硬めの味濃いめで」
「……前のと同じものを」
「お、おまかせで」
「かしこまりました、少々お待ちください!」
さぁて、腕がなるぞォ……!
◆◆◆
今回は全員ストレート麺での注文だ。今日の気温と湿度的に、麺のゆで時間は2分50秒が基準。固めでマイナス30秒ってところか……よし。
まず、いつもの様にコンロに火を入れて中華鍋に油を敷き、温まったら5人前の野菜を突っ込む。
それが終わったらストレート麺を5玉突っ込む。タイマーは2分50秒と2分20秒でスタート。
ソーサーと丼を用意して、それぞれに背脂とかえしを入れていく。
部長と姫島先輩のはそれぞれのレードル(小さいお玉みたいなの)で1杯ずつ。
木場クンのはかえし増しになるからもう少し多目に入れる。
塔城サンのは僕のに合わせたのだったから背脂抜きだ、かえしだけ入れる。
アーシアのは……かえし1杯と、背脂をレードルで半分ぐらいかな。
丼の量が量なので交互にゆで麺機の上に置くしかないな。先に木場クンと塔城サンのを置く。
さて中華鍋の方に戻って鍋を煽る。……うん、片面はいい感じに火が通ってるな。
またゆで麺機の前に移動、温まった丼をソーサーの上に置き、残りの3つを乗っける。
野菜が焼き上がりそうだ、皿に避けて胡椒などを振って味付け、鍋にチャーシュー漬けるのに使ってる秘伝のタレを引いてそこに焼けた野菜を再投下。よく混ぜるように煽って煽って煽りまくって完成。また皿に戻す。
2分20秒のタイマーがあと10秒で鳴りそうだ。乗っかってる丼を全てソーサーの上に置き、スープ用のおたまで寸胴から木場クンと塔城サンの丼に注ぐ。
タイマーが鳴った、テボを2つ上げ……一気に振り下ろす!
『『『おお……』』』
と感嘆の声がカウンターから聞こえるが、基本技能ですよコレは、新人クンたちでもできる。
そして麺を丼に入れ、トングで解すように返し、皿に乗っけた野菜を適量盛ってチャーシューを1枚!
「お待たせしました! お先こちらが濃いめ固めです! こちらが背脂抜きです! 残りのお客様、少々お待ちください!」
と提供してる間にまた残り10秒だ。また寸胴からスープを注ぎ、タイマーがなったら、テボを上げて湯切りをする。麺を入れてトングで返し、野菜を盛り付けてチャーシュー1枚。
「お待たせしました、こちらが醤油ラーメンですねー」
と同時に部長と姫島先輩の前に置き、
「こちらが背脂少なめでございます。ごゆっくりどうぞ!」
あとは、中華鍋を水でゆすいで一連の流れは終了っ! うーむ、我ながら手際良くやれたな。で、
「……どうでした?」
『『『どう見てもプロ』』』
「そりゃ、ユニフォーム着てお客様の前に立てば新人だろうがなんだろうがプロですよ」
前店長に教わったうちで数少ない納得したお言葉である。
制服を着てお客様の前に立てば、彼らから見れば等しくプロなんだ、だからその振る舞いに責任を持て……というのは本当にその通りだと思う。
「さっ、冷めて伸びると美味しくないので食べて下さいよ」
しばらくの間、僕はみんなが食べるのを見てニコニコしていた(但し寸胴は焦げ付かないように混ぜつつ)。
概ね満足して帰っていったようなので、僕としては安心だ。胸をなでおろしたって感じだった。
とりあえず、新人クン達にはちゃんと伝えておかないといけないね……『あの赤い髪の高校生は、この店のオーナーだから、気を付けて対応すること』って。
◆◆◆
一応余程のことがなければ、最近の僕は12時には上がる。店を11時に閉めて清掃と締め作業、明日の仕込みをしているとその位の時間になるのだ。一人でやると……2時間はかかる。
法律違反に関しては、僕が悪魔なので特例を認めさせてる様だ。夜間働くことはあまり宜しくないのだけど、ぶっちゃけ悪魔の契約業務のことを考えると今更感が強い。むしろ他の皆よりも早く帰れるまである。まあ、それでも清掃が終わった時点でバイトの皆には帰ってもらうので、最後なのは間違いない。
「ふんふん、今日も悪くないですね。人件費は増えましたけど、これならプラス収支です」
チュルチュルと、メニューにない汁なしラーメンを啜りながら確認する。なお汁なしなのは洗い物の手間と、作り置きでも十分美味しいからだ。
「平野曰く、仕入先の見直しをすればもう少し原価を下げられるかもしれない、ということです」
同じく隣でチュルチュルと汁なしラーメンを啜る立山サン。あ、美味しい? これ、新メニューで出してもいいかもね。
「その辺は、本っ当に分かんないから丸投げするしかないっすね……あ、でも麺だけは慎重にやってもらわないと、ですねぇ」
カレー粉を手に取って少し掛ける。ラーメンに入れてもだけど、意外と合うんだよなぁ……カレー粉たっかいけど。
「店長、100円出すのでチーズ掛けてもいいですか?」
「お、いいですよ。……なるほど、粉チーズは盲点だった」
じゃあ僕はチーズに加えてコーンも入れてやれ。もちろん、ちゃんとお金を払って、だけど。
なお、粉チーズにコーン、あとバターはウチでも人気のトッピングである。かえしの代わりに味噌を使う味噌ラーメンだと、よく一緒に頼まれるんだなぁコレ。
「しかし、今日のオーナー達の反応から、やはり女性客にはウチのラーメンはキツいみたいですね」
「あー、美味しいのと胃にきついのとは別ですからねぇ……」
と、ここでトッピングが追加された汁なしラーメンを見る。
いや、汁なしラーメンをすぐ追加するわけではないけど、トッピングてんこ盛りラーメンは、見栄え的に女性ウケしそうだなぁって。もちろん綺麗に盛ることが前提だけど。
「……麺半分で、スープの量を少し減らして、トッピングをいっぱい載せたものを、一杯分に近い値段で提供するって案はどうでしょう?」
「背脂の量も減らさないと、それでもきついように思いますが……でも、悪くないと思います」
「今度中村サンと平野サン、あと張サン集めて試食会かな。それで美味ければ、バイトの皆にも試食してもらって。……一応完全に任されてるけど、部長にも話をしておかないと」
「そうですね」
あれやこれやと議論を交わしながら、試作のメニューを考え、ノートに纏めていく。あんまり学生らしくないけれど、とても楽しい時間になった。
そしてハイスクールDxDでラーメンに触れる意味。
……白いアレが楽しみです。