「というわけで、座学の時間よ」
「「はい、部長!」」
時は放課後、場所はオカルト研究部、ホワイトボードを前に部長がいつかのように伊達メガネと指示棒を装備した状態で立ち、新人である僕とアーシアはノートを広げて机に着く。……なんというか、松田の持ってたエロ本に出てくるエロ教師みたいなナリをしてるな、眼福眼福。
「……イッセー?」
「なんです?」
「いえ……何故か不埒な視線を向けられた気がして」
……やっぱり女性って勘が凄いよね。もう余計なこと考えないようにしよっと。
「いや、相変わらず素敵性能高いなぁって」
「素敵性能……?」
「ああ、正しい日本語じゃないから覚えてくれるなよアーシア。単に見た目がいい、綺麗、ロマンがある、とかいうことを遠回しに表現してるだけだから」
なお嘘はついてないんで、部長はそのメガネの奥のジト目をやめてくださいよ。
「どうしてなのかしらね、あなたに綺麗だとか言われても、全く褒められてる気がしないのは……」
「褒めてますよ? ただ美貌に誑かされないように予防線張ってるだけです。やったね部長、ハニトラ対策は万全ですよ!」
「イッセーの場合誑かす云々の前に対象外って気もするけれど……まあいいわ」
とりあえずこれ以上追求する意味は薄いと思ったらしい、呆れたようにため息をついて、彼女は黒マーカーを手に取った。
「基本的な話はしたから、今日は主となる悪魔が下僕悪魔に与える特性の説明をしようと思うわ」
「特性、ですか」
「あ、それ僕のことを『
そう言うと部長は頷いて、黒マーカーの蓋をあけ……
「えいっ」
「「!?」」
あ…ありのまま今起こった事を話すよ!
『部長がマーカーで何かを描き始めたと思ったら、いつの間にかチェスの駒の絵が描き終わっていた』
な、何を言っているのかわからないと思うが、僕も何をしているのか分からなかった!
頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんな手品じゃ断じてない……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……!
「い、今どうやって……!?」
「全く動きが見えませんでした……!」
「慣れの賜物ね」
……インク飛ばして描いたとかじゃなくて良かったー。
「さて、大昔に我々悪魔と、堕天使、天使の三陣営で戦争をした……というのは覚えてるかしら?」
「はい……確か、勝利者が無いまま終わったとか」
アーシアがそう答える。えっと、数百年前に終わったんだって話だよね。
「勿論、悪魔も大打撃を受けたわ。軍団を率いて戦った約三十ぐらいの爵位を持つ悪魔が亡くなり、戦線が維持出来ないほどに」
「え、それだいたい半分ぐらいの悪魔が消えたってことになりませんか? ほら、確かゴエティアの悪魔って72柱って聞いたことが……」
「あら、まだその辺を教えてないのだけれど、博識ね?」
いやぁ、最近は悪魔をモチーフにしたゲームとかもあるから覚えたって感じなんですよねぇ……。
「純粋な悪魔はその時に多く亡くなった。しかし戦争が終わったところで睨み合いという冷戦は続いている。神の勢力も、堕天使の勢力も等しく被害を被ったとはいえ、隙は見せられないわ。そこで、悪魔は個体数を増やすことにした。ここまでは分かるわね?」
「「はい、部長」」
この説明は、初めて部室に来た時もうっすら説明されたので覚えている。
「そこで悪魔は、あるアイテムを開発し、それを使って個体を増やせるようにした。それが、『
そう言って部長はホワイトボードに描かれた絵を指さして言う。種類がそれぞれ……これ、チェス?
「『悪魔の駒』……」
「……なるほど、だから」
僕は噛み締めるようにその名を呟き、アーシアは納得の色をその言葉にのせた。多分、アーシアはその実物を見たんだろう。
「『悪魔の駒』は、その特性を人間界のボードゲームである『チェス』に似せて作られたわ、悪魔に転生する大半が人間ということもあってね」
「わかりやすい、または受け入れやすい?」
「だいたいその辺ね」
なるほど。となるとこの制度は『チェス』というゲームが形になってからの話になるということか。
チェスの起源(実は将棋も)は、古代インドの『チャトランガ』というゲームだと言われている。それが徐々に形を変えて国へ国へと伝わっていく。それが『チェス』となった……。だいたい今のルールに近くなったのは15世紀末っぽいので、500年前ぐらいの発明ってことになるのかな。
「……変なところで本当に博識よね、イッセー」
「いやぁ、こういうボードゲームは得意なのでその一環ですよう。相手がコンピューターでもない限り、定石を覚えて早指ししてコツコツと嫌がらせしてやれば勝てますし!」
「単なる盤外戦術じゃないの……」
なお精神的に強い人とその道のプロには勿論勝てるわけもない。あくまで普通の範囲で、強いってことです。
でも、相手の嫌がることをするのは、どんなゲームに於いても必須の技能だと思っている。あんまりやり過ぎると友達無くすけどな。トレーディングカードゲームでハンデス(手札を捨てさせること)もデッキ破壊もやり過ぎると殴り合いになるからネ! ウケケケケケ!
「『悪魔の駒』は15個のセットで下僕を持つ資格を持った悪魔……つまり上級悪魔に渡されるわ」
「チェスで15個ですと、『
「そうよアーシア。なぜなら『王』は、主である悪魔……私たちの間で言うなら私のことだから。必要ないでしょう?」
まあ、だよね。
「説明するまでもないことかもしれないけれど、一応しておくわね。特性は5つ……『
……『兵士』が強力とは思えないのだけど、とりあえず後にして話を聞いておこう。
「そして、この制度が意外にも爵位持ちの悪魔に好評なのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。自分の下僕を他者の下僕と競わせるようになったの。『私の騎士は強いわ!』『僕の女王に勝てる者はいない!』と言ったようにね。その結果、チェスのように実際のゲームを、下僕を使って上級悪魔同士で行うようになったわ。私達はそれを『レーティングゲーム』と呼んでいる」
「なんつー贅沢なチェスだ……。というか、それ無理矢理強い下僕悪魔を揃えようと、『やってはいけないこと』しようとする悪魔が出てくるんじゃないですか? だって、『悪魔』ですし」
「……社会問題になってるわね。このゲームが悪魔の間で大流行。大会も開催され、駒の強さ、ゲームの強さが地位や爵位に直結する。『駒集め』と称して優秀な人間を手駒にするのは良くも悪くも流行してるわ」
……将来的にそのゲームに駆り出されるのに否はない。けど、被害者をぶん殴るのは覚悟が鈍りそうだ。
「あのぅ……部長さんは、そのゲームをしたことはあるんですか?」
「いえ、私はまだ成熟した悪魔ではないからしたことはないわね。公式な大会に参加するには色んな条件をクリアしなければならないし、非公式のゲームも……」
と、そこで言い淀む部長。
「……部長さん?」
「大方、家同士のトラブルを解決するための手段といったところですか?」
そんなところかな、と思って冗談交じりで言ってみると、部長の顔が強ばった。おいおいマジかよ……。
「…そういうこと。そういったことも含めて、私と私の眷属達はレーティングゲーム未経験よ」
とりあえず、思ったより悪魔は人間に近いけど、やっぱり闇も感じられて怖いなー、なんて思う。いずれは慣れないとねぇ……それが悪魔にとっての『
「ではそれぞれの駒の適性を説明するわね。では、イッセー。あなたの駒である『兵士』は、まあ他の駒と較べて基本的な能力は劣ってるわ」
「ああ、やっぱり」
胸を撫で下ろす。だよね、モブキャラが騎士とか女王とかじゃなくて良かったよイェイ!
「嬉しそうな顔をしてる所悪いのだけど、『兵士』には他の駒にはない特殊な能力があるわ」
「実際のチェスで考えると……『プロモーション』ですか? 相手の陣地に突っ込んだ時に『王』以外の駒に成れるルール……」
「その通り。レーティングゲームでなら敵の拠点、通常時でなら私が『敵の陣地』と認めた場所の、1番重要な場所に足を踏み入れたとき、他の駒の特性を獲得できるわ。『可能性』という点では他の駒以上よ」
「なるほど……」
それは素直に便利だと言えた。完全にあてにするワケにはいかないが、それでもいざと言う時に使える可能性が高いというわけだ。……あれ、これ地味にレーティングゲームでも重要な役割だったりするんでは? 今は気にしないようにしよう。
「次に、アーシア」
「は、はいっ!」
「あなたの『僧侶』は、眷属の悪魔をフォローする能力を持っているわ。具体的には、魔力の底上げ、魔力の操作技能の向上などね。あなたの神器『
「が、がんばります!」
確かに、アーシアは僧侶だよね。シスターだったことも考えると、ハマり役と言えよう。
「次は『
「なるほど、他の駒を飛び越えられるナイトらしい挙動ってわけですね」
イケメンは、駒もイケメンだったということか。うらやますぃー(棒)。
「あとは『
「あ、そう言えば小猫ちゃんがこの間車を持ち上げていたのを見ました」
アーシアの言葉にぎょっとする。ロリでマスコットで怪力とか、キャラ盛り込みすぎかよ。
「最後に『
「つまり、ウチの眷属最強は姫島先輩ということっすか……」
「うぅん、一応その筈なのだけれど……」
と言って、部長は意味深に僕を見る。な、なんだよぅ?
「ざっくりとした基準になるのだけど、『女王』の駒価値は9、『兵士』の駒価値は1、とされているわ」
「確か、実際のチェスもそんな感じだったと……」
普通に天と地の差があるじゃないですか……でも、話には続きがあるようだった。
「あなたは覚えてるかしらイッセー? 私が、あなたを『私の唯一の兵士』って言ったことを」
「言ってましたね。つまり、名誉ある一人目の兵隊アリなのかなぁと」
「間違ってないけれど、それが全てではないわ。実はねイッセー……」
とここで扉が開く音がした。その方向に身体を向けると、姫島先輩が若干困ったニコニコ顔を披露していた。
「お勉強の途中、申し訳ありません。部長、討伐の依頼が大公から届きました」
「ふむ……丁度いいわね。夜の契約業務の指揮はあなたに一任するわ、朱乃」
「承知しました。部長は?」
その問いに部長は僕に1度視線をやってから、こう答えた。
「今回は、イッセーの力を見せてもらうことにするわ。私はその監督ね。アーシアには……まだ早そうだから、次回ってことで」
…………何やら、雲行きが怪しくなってきたぞぅ?
◆◆◆
『はぐれ悪魔』、そういう存在がいる。
爵位持ちの悪魔に下僕として転生した者が、主を裏切ったり、主君殺しをするなどして、宙ぶらりんになったならず者悪魔のことを指すらしい。
悪魔の力は強大だ、僕もその恩恵を受けてるからそれがよぉく分かる。そして、その力を欲望の赴くままに使いたいという連中もいる。
あるいは、無理矢理に悪魔にさせられて、それから逃げるために主を殺す、または去るって連中もいる。
はぐれ悪魔は危険だ、安全装置のついてない銃器に等しい。故にはぐれ悪魔の元主人や、他の悪魔が消滅させることになっている。悪魔だけじゃなく、天使側、堕天使側もはぐれ悪魔を見つけたら、即殺不可避なんだって。……もしかして、スーツの堕天使に殺気ぶつけられたのって、はぐれと勘違いされたからなのでは……? セーフ、セーフ!
……さて、ここまでの話から、『討伐』というのが、はぐれ悪魔の討伐というのが分かるわけなのだが。
「……素人の僕で、なんとかなるものなんですかねぇ?」
「少なくとも自分より遥かに強い堕天使を倒せてるのだから、素養はあるのだと思うわ。それに、倒すことに拘らなくてもいいのよ。今回の目的は、これからの課題を確認したい、というのが大きいもの。恐らく、最終的に私が一撃で吹き飛ばすことになると思うわ」
「お、お強いんですね、部長」
「ええ、才能には恵まれてる自覚はあるわ」
ちょっと自慢げに胸を張る部長、なんかようやっと歳相応の面が見れて可愛いって印象だ。でも、それをこの殺気ビンビンの環境で見たくはなかったかな!
現在僕と部長は、町外れにある廃屋近くにいた。辺りが草木で生い茂って視覚が確保しづらく、精神的な恐怖を助長するロケーションだ。
今回の依頼は、人を喰うはぐれ悪魔が部長の活動拠点でもあるここに逃げ込んだから、その始末をしてくれ、というものだった。
「ああ、そうそうイッセー。あなたにとっては敵地も当然だから、プロモーションの許可を出しておくわ。慣れないうちはあまりオススメできないのだけど、どうしてもって場合は遠慮なく使うといいわ。でも、『女王』へのプロモーションは、身体への負担が大きいから注意して」
「了解です」
と、ここでようやく警鐘が鳴った。珍しいね、殺気ビンビンだったのにまだ鳴ってなかったよ。つまり堕天使よりは面倒な相手ではないということか、やったぜ。
「不味そうな匂いがするぞ? でも美味そうな匂いもするぞ? 甘いのかな? 苦いのかな?」
腹の底に響くような、ひっくい声音。不気味さだけなら過去一番だ。
「はぐれ悪魔バイサー。あなたを消滅しにきたわ」
部長は、まるで確定した未来を告げるように言った。表情を見るに、それは自惚れでもなんでもないらしい、自分の才能から裏打ちされた自負だ。
とりあえず、このケタケタって笑い声ほんっと怖いんですけど、本当に僕やれるのかな?
とここで暗がりからぬぅってナニカが姿を表した。
最初は、裸の女性の上半身。そして重い足音と共に見えてきたのは、獣の身体。ケンタウロス系かな? でも尻尾とか蛇っぽいし、脚めっちゃ太い。爪も見てわかるほど鋭そう。
総評:バケモノ。自分の警鐘信じないわけじゃないけど、ぜってぇ強いだろこれェ!?
「主のもとを逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れ回るその暴挙、万死に値する! グレモリー公爵の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!」
「こざかしぃぃいい! 小娘ごときがぁあ! その紅の髪のように、おまえの身を鮮血で染め上げて……グギャァア!?」
「えっ?」
怖いので、名乗りの最中に忍び足で駆け寄って、龍の手を装備した左腕で敵の右前脚に貫手どーん! 例によって例の如く、貫通力と、あと腕力と脚力を倍にした。
『Boost!!』
『龍の手』は、使うと自分の力が倍になるが、文字通り全て倍化しちゃうので、維持が大変難しい。
故に僕はちょっと訓練をすることで、倍にする力を選択できるようにした。その感覚は元カノ堕天使を斃す際に使ったので身体が覚えていたから、修得自体は実にスムーズだった。
とりあえず骨まで貫通、左腕を骨肉が更に傷付くように抜き、骨を折った。バランスを崩した……えーっと、そうそう。はぐれ悪魔のバイサーさんは、痛みに絶叫しながら横に倒れた。
「敵の前でくっちゃべるとか、舐めてますのん? いや、舐めてくれたお陰で脚1本奪えたようなものですけど、ネッ!」
『Boost!!』
「ぎゃぁぁぁぁあああああああ!?」
強化項目を変更、『脚力』と『重量』。倒れたので僕でも攻撃できる位置に来てくれた。ありがたーく、その武器を持った危ない両腕を踏み抜く。ぐちゃり、と肉と骨が潰れる音がした。
「うん、確かに堕天使よりはやりやすかったのかな」
『Boost!!』
……にしてもこれ、うるさいなぁ。音がなる度に力が増していくのはいいんだけど。自己訓練してる間に変な機能ついちゃったなー。
「さて、はぐれ悪魔サン? 辞世の句でもよんでみては?」
「殺せ」
では遠慮なく、と強化項目を『腕力』と『握力』に変更。首を掴んで、握り潰した。生首が転がる……うぇっ、殺し方考えれば良かった。
とりあえずコレで終了。まあ汚かったけど外道相手に配慮する必要もないでしょ、と部長の方に振り返ると、表情が凍り付いていた。
「イッセー……その神器、よく見せてちょうだい」
「いいですけど……」
1度戻した『龍の手』を、もう一度展開する。そう言えば、壊れた玩具みたいにブースト! って叫ぶようになってから、翠の宝玉に赤い龍のマーク浮かぶようになったよな。もしかして、故障?
「……そう、そういうことなのね。1個の『兵士』で転生できず、全ての駒を使って転生させなければならなかった理由は」
「…………えっ?」
今ものっそい恐ろしいこと言わなかった? 兵士の駒、全部?
「よく聞いて、イッセー。あなたの持つこの神器は『龍の手』なんかじゃない。もっと恐ろしいもの……。『
「……は、」
ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!?
◆◆◆
Next CHAPTER2:バーニングアップ・
To be continued.
真実は残酷である。
というわけで、1巻分の内容はとりあえずコレで終了です。
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