兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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CHAPTER2:バーニング・アップ・ユア《マイ》・ハート
その1


 暗い暗い夢の中……いや、ここはそもそも夢の中なのか? 身体は休眠状態でも、今見てるのは恐らく違う。

 

『ようやっと、俺の声が届いた様だな』

 

 眼前にいるのは、赤い赤い、ドラゴン。

 

『お前の心が拒んでいた。お前が真実から目を逸らしていた。故に俺の声は届かなかった。しかし、お前は目覚めさせた。そして認識した、この俺を』

「……なるほど、アンタが『赤き龍の帝王(ウェルシュドラゴン)』ア・ドライグ・ゴッホ。ブリテンの守護龍」

『妙なところで博識だな、今代の相棒は』

 

 知ってる人は、知ってると思うけどね。

 

「僕は、アンタにお願いがあって、ここに来た。一か八かだったけど、ここに来れた。受け入れてくれたことに、まずは礼を。ありがとう、ア・ドライグ・ゴッホ」

『礼などいらん、呼び方も『ドライグ』でいい』

「それは、僕がアンタの言うところの『相棒』というヤツだからか? なら、余計に初めては気を使うぞ。コレから多分、僕は長くアンタの世話になる。そしてアンタは意思ある何某だ。親しき間にも礼がいるんだ、初対面の相手に尽くさない道理はない」

『……真面目な男だ』

 

 そりゃあ、真面目が数少ない取り柄ですからネ。

 

『それで、お前は俺に何を望む。力か?』

「偽装」

『……何?』

「偽装。このままだと僕死んじゃうって」

 

 赤い龍が、少し狼狽えたような表情をした……気がする。だってほら、僕ドラゴンの表情とかさすがに分からんよ。

 

「サラッと聞いたよ。よく分からないけど、僕はいずれ訪れる宿敵と殺し合わないといけないんだって。それは仕方がない。本音を言うとすっげぇめんどくせぇし、もっと言うとこの神器を投げ捨てたい。でも、僕はこの神器の恩恵を受けた。僕になかった『可能性』を掴む手になってくれた。だから……少し愛着が湧いた、受け入れようって気になった。問題は、今のままだとさっくり死んでしまうという事なんだよ」

 

 僕は、弱い。それは、堕天使との死闘で分かったことだ。

 

「アレは、中級の堕天使なんだって後で聞いた。そしてこの神器は神をも超えられる力を秘めた神殺しの道具で、対になる宿敵の神器もそうなんだって。つまり、あの程度で手こずってる様では、僕は然るべき時に生き残れない。それは非常に困るし、恐らくライバルに負けるのはアンタも嫌だろう?」

『故に、偽装……ということか?』

 

 そういうこと、と言って僕は頭を搔く。

 

「力を付けるまで、僕は『赤龍帝』であることを隠す。そして時間を稼いで、死なないように気張る。アンタにお願いしたいのは、偽装することの許可と、その手伝いだ」

『それは俺の許可がいるものなのか?』

「ドラゴンはプライドの生き物だと聞いた。誇るべき名を隠すことは、プライドを傷付けることになるかもしれない、と思った」

『……つくづく真面目だな。いいだろう、構わん。所有者が悪魔になることは稀に見る例外だった。それに、もう1つ例外を重ねようと、大差はない』

「ありがたい。感謝する、ドライグ」

『共に戦うことになる相棒が礼を尽くしているのだ、それに応えねば、それはそれで俺のプライドが許さん』

 

 だが、と赤いドラゴンは口の端から炎を漏らして言う。

 

『俺に『名を隠せ』と言った意味を忘れるな、兵藤一誠』

「ああ、分かっている。どんな時でも諦めずに、『可能性』を掴む為に足掻くことを、僕のプライドに掛けて誓おう」

『いいだろう、今はそれで、いい』

 

 どことなく機嫌が良さげな笑い声を聴きながら、意識が遠くなっていき……目が覚める。

 

「…………物分りのいいドラゴンでよかった」

 

 神器を展開する。その宝玉から、赤き龍の紋章は消えていた。

 

「しばらくの間は、この神器を亜種の『龍の手』という扱いにする。名前は……そうだな」

 

決殺の手(トゥワイス・クリティカル・ブレイカー)』とでもしておこうか。

 

 

◆◆◆

 

 

『いいですか部長、これは厄ネタです! これはこれ以上ない厄ネタです! バラしてはいけない……バラしたら狙われる……!』

『え、ええそうね』

『僕は何とか隠せる様に交渉します! だから部長も、眷属と信頼できる上役以外には絶対に漏らさないでください……! これは下手をすれば、部長達も巻き込みかねない爆弾なんです……!』

『わ、分かったわ』

 

 といった話をしたはぐれ討伐から少し経った。

 

 ……いやだってさぁ、ライバルにあたるドラゴンが封じられた神器の所有者と殺し合う運命にあるとか、アホみたいに強いドラゴンなんだとか、歴代所有者の末路とか聞いてるともう嫌な予感しかしないよ。でも無視し続けるワケにもいかないじゃん! 神器って剥がすと死ぬんでしょ! じゃあ受け入れなきゃダメじゃん! それに比べたら、部長の魔力が触れる対象を滅殺する滅びの魔力だってことも『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』ってことも大した情報ではなかった!(いや、重要情報ではあるが、それで命狙われるってことはないだろ、多分)

 

 というわけで、神器の中の(ひと)ことドライグにも手伝ってもらって、『龍の手』の亜種(いわゆる同種ではあるけど別バージョンになったソレを、元の神器と比較してそう呼ぶらしい)という風に偽装した。亜種という扱いにしたのは、堕天使に殺された理由から疑われた時にのらりくらりと躱すためだ。『龍の手』でも、亜種ならもしかしたら危険視されるかもしれないなー……みたいな。

 

 ただ隠すだけでは意味が無い。僕は少しでも強くならなければならない。それは来るべき日に備えてのことだ。できればスルーしたいけど……まあ無理だろうとは無慈悲なドライグの言だ。マジで厄ネタ。

 故に、部長に頭を下げて自分を鍛えてください、と言った。部長も同じことを思っていたのか、二つ返事でそれを引き受けてくれた。

 早朝、訓練、部長の為だと思えば……!

 

「……まあ、気合いだけで乗り切れるなら、人類みな勝利者ですよねぇ」

 

 へばりながら、スポーツドリンクをがぶ飲みする。

 まず部長が僕に求めたのは、『忍耐』と『基礎能力』だ。その理屈は確かに分かる。中学時代はバスケ部に入っていたのだけど、その練習は時として効率的なそれではなかったりする。必要以上にしんどいことをすることで、極限の状態に耐えうる精神を養成することが目的なのだと聞いた。でないとコートで倒れちゃうからね。基礎能力の向上は言わずもがなだし、僕の場合神器の関係上、基礎能力が高い程、神器で上げられる能力の上げ幅が大きくなるということなんだ。

 ということで、僕は早朝から訓練をしている。朝日に焼かれ体力を奪われながら、20キロマラソンと100本ダッシュ、バラエティに富んだ筋トレメドレーと、何処のスポーツ選手だ? ってメニューをこなしている。率直に言おう……死ぬ。

 最初は出されたメニューをこなすことすら出来なかった。学校には通わねばならず、久方振りに授業中に居眠りするハメになった。根性が足りてない……。

 でもやって行くうちに適応してきたのか、効果が現れてきたのか、ようやっと出されたメニューを時間内にやりきることが可能になってきた。平々凡々、中肉中背がデフォルトだった僕の身体が、若干筋肉質になってきたのは悪い気はしない。

 でも部長? 『ではもう少しギアを上げましょうか』って言ったのは冗談ですよね?

 

「冗談ではないわよ。慣れてしまっては意味が無いわ」

「……そうですね!」

 

 強くなりたいとは言ったが、その前に心が死にそうな気配がしている。……だが、無視は出来ないんだよな……頑張るしかあるまい。

 

「僕は『普通(あたりまえ)』になりたかっただけで、『異常(こせいてき)』になりたかったわけではないんだけどなぁ……」

 

 呟く言葉は、宙に消えていく。さぁ、運命に流されようか。それが『普通』、それが『普通』……。

 

 

◆◆◆

 

 

 アーシアも下積みのチラシ配りを終えて、契約業務に入ったらしい。気合十分で『私もイッセーさんみたいに!』と言っていたが……僕を参考にするのはどうかと思うよ。部長も妙な表情してたし。

 そういや、部長と言えば最近物憂げな表情をするようになったなぁ。僕には根本的な原因聞き出せないからどうしようもないけど。だって何聞いたって『気にしないで』と言われて追求できないじゃん……。

 

「……ってわけで、僕も色々悩んでるんです。お待たせしました、ストレート固めです」

「どこも大変だね……あ、ありがとうイッセーくん」

 

 いつもの九頭龍亭、時間は10時であと1時間で閉店である。今日は立山サン休みなので、アルバイトの子達を指揮するのは僕の仕事だ。この時間になってくると、寸胴からスープを全て角ポットに移してIHヒーターで温めつつ、寸胴を洗ってもらっている。これを早くやっておくと、早めに背脂が炊けるのだ。明日のスープの仕上がりはこれで決まる。

 

「あ、そうそう森沢サン。新メニューで半熟味玉飯始めましたよ。240円ですけど」

「あれ、結局始めたんだ?」

「新しいオーナーの意向で。米の仕入先も見直しすることで原価も大分抑えられましたしね」

「道理でご飯の量が増えた気がした。んー、じゃあ頼んでもいい?」

 

 そう言って、森沢サンは財布から小銭を出して250円を出した。釣り銭は……っと、あったあった。

 

「はい、10円のお返しです。少々お待ち下さい」

 

 そう言って味玉をつけダレに漬けて少し温めつつ、業務用の炊飯器からご飯をよそい、温めた味玉を匙で割る。ネギを振り、一味を振り、最後にチャーシューのつけダレを掛けてやれば完成。提供速度は格段に早いね、味玉から作らないからなんだけど。

 

「お待たせしました、半熟味玉飯です」

「あー、これだよこれ。いやぁ、自分で作ってみようと思ったけど、半熟ゆで卵が思いの外難しくてさぁ……」

 

 そう言ってラーメンと玉子飯を交互に食べる森沢サンを見て気分が良くなる。ここの所色んなことが有りすぎて心が荒んじまったよ……へへっ。

 

「まあ、そう簡単に作られちゃったら僕らの立つ瀬がありませんって。年季と経験ですよ、お客さん」

「言うねぇイッセー店長」

 

 私語はあまり褒められたものではないが、お客様とのコミュニケーションは必要だ。客も少ない平日夜中だし、コレぐらいはいいだろう。

 

「店長、寸胴洗い終わりました」

「分かりました、ではバックヤードの冷蔵庫から背脂2ケース出して、それを寸胴に入れて水を張って強火に掛けてください。分量は覚えてますね?」

「はい、大丈夫です!」

「よかった、ではお願いします」

 

 そう指示を出すと、田所サン(駒王学園の大学部に通う大学生アルバイターさん)がバックヤードに向かう。いやほんと、高校生が店長やってて本当に申し訳ない。

 

「なんだ、立派に店長やってるじゃないか。お飾りって言ってた癖に」

「後輩指導に関しては、やってることは前と変わりませんからネ」

「そういうものか……ん、ご馳走様イッセーくん。また頼むよ」

「ありがとうございました、またどうぞ!」

 

 そう言って森沢サンが帰り、あと店内はテーブル席が何個か埋まってるって感じか。……この分だとビールがまた出るかな? って感じで麺類やご飯が出そうな気配はない。

 田所サンも背脂を炊き始めた。あとはしばらく放置だろう。

 

 ……うん、ならば。

 

「バイトさん達、タイムカード切らんでいいのでお願いがあるんですけど」

 

 試作メニューの感想を、貰うことにしよう。

 

 

◆◆◆

 

 

「ふぃー、疲れたー」

 

 今日の売上を纏めつつ、チュルチュルと1人でラーメンを啜る。微妙にスープが余っちゃったからね、翌日のに使ってもいいけど1杯分なら角ポット入れるだけ冷蔵庫圧迫するし、賄い食べてなかったから使い切ることにした。うまうま。

 清掃は終わってるので、バイトさん達は上がってる。いずれは閉め作業も覚えてもらいたいけど、まだ先の話だね。

 

「あー、終わった食った。じゃあシャワー浴びて帰るかー」

 

 そう言ってノートを閉じて、カウンター席から立ち上がろうとした時に、店の入口が開いた。

 

「あ、すみません。本日もう閉店で……あれ、部長?」

「こんばんはイッセー。そろそろ終わったかしら?」

「ええ、丁度今からシャワーでも浴びて帰ろうかと」

「そう……なら、一緒に帰りましょう?」

「…………ええ、まあ、いいですけど」

 

 ……警鐘が鳴り始めた。命の危機ではなさそうだけど、相当面倒臭いことが始まる気がしてならない。

 

 




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