僕は、ここ最近で普通のパンピーが一生のうちに遭遇するチミドロファンタジー……の5倍程に遭遇したわけだが(※推定)。
まあ、それでも暫くはのほほんと過ごせるんじゃないかって思ってたんだ。だってライトノベル半分程度のチミドロファンタジーだぞ、心臓ぶっ刺されて、唇奪って(物理)、穴ぼこになって、首噛みちぎって、握り潰してだぞ? 一生に一度あるかないかぐらいのバイオレンスフィーバーを5回も体験してるっておかしくなぁい???
……だからまあ、そういう理不尽系ファンタジーには遭遇しなかった。ああそうだ、そんなことは起こらなかった。
「イッセー……私を、抱いてくれないかしら?」
でも、観賞用美女にベッドで押し倒されるっつーエロゲファンタジーもノーサンキューなんだけどォ! 仕事してください運命の神様!?
◆◆◆
そんなワケの分からない状況に至った流れを、簡潔におさらいしよう、整理するために。
まず、部長と2人で帰ることになった。
……脳裏で警鐘鳴っとるし、部長の表情も何処か影があるからヤバい案件でも抱えてるんだろうかと危惧。家に着くまで、適当な話題を振り、探りを入れようとするが鉄壁ガードで躱される。いや、直接的に聞かない僕も僕だけど、そのザマで『なんでもない』は無理がないかな部長?
んで、家に着くと何処か物言いたげな表情になるんで、思わず家に招き入れてしまった。……でもさー、仕方ないでしょう? なんか迷子に見えてしまったんだから。いやほんと、自分の主人にこういう言い方するのどうかと思うけど『人生(悪魔だけど)の迷子』っていうか。店でたまに見かける、進退窮まった人が放つダウナーオーラを若干纏ってたというか。
時間は深夜、父さん母さんはもちろんのこと、仕事を終えて帰ってきてたらしいアーシアも寝てるため、リビングに案内する訳にもいかず、自室へ案内。
そもそもこんな時間にお客さん招くのどうなんだ……? と悪いことしてる気分になりながら。それはそうと、アーシアがいるからいつ如何なる時も見せて恥ずかしくないように掃除片付けをやっててよかったー……。女性に見られるとまずい雑誌も隠蔽済みである。
とまあ鳴り続ける警鐘もなんのその、人生相談も初めてではないし、じゃあ根気強く語りかけて聞き出すしかねぇな……と覚悟をキメた。
そして押し倒された。おさらい終了。
◆◆◆
心臓がバクバクしてる。いやだってほら、自分の好みドストライクの女性に押し倒されたら、観賞用云々は言ってられんよ。いや、自分の身の丈に合った相手と〜って言葉は本心も本心だけど、自分を傷付けたくないが故の逃避&予防線であることは完全に否定することはできないし。
……あ、なんか一気に思考が冷えてきた。やばいやばい、魅了とかそんなことをされる前に、なんとかこの状況を打破する一手を打たないと。このままだと考えることするままならない。
「とりあえず、お茶と茶菓子の用意がまだなんで、どいて貰っても大丈夫ですか?」
「……そうまで冷静だと、逆に腹が立ってくるわね」
「冷静じゃないです、まともな思考できてないです、一瞬とはいえこの僕が『
マウント取られてる状況だと本当に命の危機しか感じない。余計な嘘をつくんじゃなかった、反省。とはいえ完全にピンクな空気は消えてくれたので計画通りである。部長も苛立ちと呆れの表情になったし、僕の側も今まさに恐怖でチビりそうな程だ。
「……いやまぁ本音を言いますと、別に流されてもいいんじゃないか? とは思いましたが。部長なら……とか、命令だし……とか」
「ならどうして?」
「貴女の本意ならいいんですよ、本意なら」
若干力を入れて部長をどかしつつ身体を起こし、心理的アウェー感を消してから、続きを言う。
「
「……っ」
図星なのか、それとも
「いいんですよ、本当ならどんな命令を下されても。僕は貴女の為に在る。そう在るべきだと思っている。なんですけど……」
そう言って、胸に手を当てた。緩やかに、心臓が脈動している。喪って、しかしまた与えられた大恩の証明だ。大丈夫、僕は自分の分を見失わない。
「なんの為に、部長が自分を抱けと言ったのかは分かりません。ですが先程の表情から、男女の色恋的な感情から来るものでは無いと断言します。そこで部長の立場、抱かれる必要などから1つだけ、推測できることがありました」
部長の立場というのは、『次期公爵』という『貴族』の立場。抱かれる必要がある状況は、昼ドラなんかを想像したら、何個か候補は出てくる。
それを踏まえて、僕が思うに……
「部長が結婚してるのなら、離婚の要因に。してないのなら、婚約破棄の要因。なんにせよ、そういう何かを台無しにするために、僕を出汁にする必要があった、なんて思うのですが」
「………………」
「その沈黙は肯定と受け取ります」
まあそうだよね……とショックを受ける。だって僕が好かれる要素なんて……。
まあそうだよなぁ……と安心する。そんなことになったら天変地異もいいとこだ……。
「多分、部長は凄く悩まれて、もうこれしか方法がないと覚悟を決めて行動に移したと思うんです。その覚悟をふいにしてしまって、本当に申し訳ありません」
「……謝ることはないわ。どう考えても、私が」
「据え膳食わぬは男の恥、と言いますし、僕が悪いということにしておいて下さい。それに、本題はここからですし」
「本題?」
「このままだと、部長の計画をご破算にしたという事実しか残らないじゃないですか。恩を礼で返すつもりはあっても、仇で返すつもりはないですよ僕は」
乗りかかった船とも言いますし、と言って口の端を吊り上げる。
「死んだ祖母が言ってました、本当に最期まで考え抜いたんなら、暗い顔になんかならないって。結末まで含めて、笑顔で受け止められると。僕はコレが真理なのだと、あの畜生堕天使との殺し合いで確信しました」
実際、心残りはあり過ぎて死んでも死にきれない心情ではあったけど……復讐して、満足して、逝きかけた。仕方がないと苦笑して、受け止められる心境だった。ばあちゃんも孫がこんな風に悟るとは思ってなかっただろうけど。
「最期まで、本当に最期まで、手を尽くしましょう。どんな結末を迎えることになったとしても、それは『納得』と『笑顔』と共に在るべきです、我が主。間違っても、先程の様な表情で迎えるものじゃないですよ」
「……その上で、同じ結論になったら?」
「ははは! 人選はちゃんとしてくださいよ?」
「……まったく、らしい返答ね」
おどけて返す僕に、苦笑を向ける部長。思い留まってくれて、本当に良かった。
「さて、こんな時間だし帰ることにするわ。本当に、ごめんなさいねイッセー」
「いやまあ、それはいいんですけど。今から策とか練らなくて大丈夫なんです? なんとなーく緊急性のある案件だと思うんですケド……」
ご破算にしといてなんだけどね……。
「時間はあまり残されてないわ。けれど、慌ててもいいことはあまり無いし、どうせなら皆を頼ることにするわ。ほとんど独りで悩み続けた様なものだし」
「ならいいんですが……」
なお、現在僕が提示できる助言と言えば、
「闇討ち……吊し上げ……社会的死亡……」
「なんで悪魔よりも先に悪魔の様なアイデアがポロッと出るのよ……」
「え? 不祥事でっち上げて社会的に死亡させるってのは、その界隈では割とメジャーな方法なのでは……?」
「……そこまでする程恨みのある相手ではないから、物騒なことは方針から除外するわ。いいわね?」
「はーい」
そう言って、今度こそ別れの挨拶を交わして、部長は魔方陣使って帰っていった。
さてと、
「……宿題するか」
現実感のある単語を口にして、僕の意識は急速に現実へと引き戻される。そう、これだよ、僕の吸いたい空気はこれ……!
◆◆◆
「お嬢様」
「……まあ、そうよね。大方、何らかの間違いが起こりそうなタイミングで介入するつもりだった……ということかしら、グレイフィア?」
「はい。一夜の過ちは、方々に禍根を残しかねませんから」
「ええそうね、たった今それを諭されたばかりよ。……本当、いい下僕を持ったわ」
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