どのような状況にあっても、等しく全ての生徒に放課後は訪れる。たとえそれが望んでいなくとも、だ。ぶっちゃけ死にそうなので帰りとうございます。
だが、昨日のことがある。昨日の今日で『死にかけてるので帰りマース!』は恥ずかし過ぎる。
それはそうと、昼休み辺りからずっと頭の中で警鐘鳴ってるの本当にやめて欲しい。旧校舎の方からどえらい気配がしてるんだけど。
「私は何も感じないのですが……」
「んー、僕もあまり。でも、イッセーくんだからなぁ」
「ウソだろおい」
倒れそうな身体を無理矢理取り繕ってオカルト研究部に向かう中、部の同級生組……木場クンとアーシアにどえらい気配について尋ねると、そんなもの感じてないと言う。マジかよ。
「い、いや……僕より後輩悪魔なアーシアはともかくとして木場クンは何かしらあると思うんだけど! 僕より先輩なんだからそういうのにも敏感だったりするでしょ普通!?」
「あはは……多少は鍛えてるけど、特別感知に優れてるわけじゃないからね。案外、イッセーくんの方がそういうのは得意なのかもしれないよ」
「そ、そういうものなのか……?」
まあ、そういうものなのかもしれない。臆病がなせる技って? 喧しいわ!(言ってない)
「あのぅ……イッセーさんの、その警鐘? というのは、どういうものなのですか?」
「うん、それは僕も前から気になってたんだ。差し支えなければ教えてくれるかい?」
「んー、まあ別に大したことじゃないけど。なんかヤバいこと、面倒なこと、まずいことが起こりそうな時、そうなってしまいそうな時に頭の奥でガンガン音がするんだよ」
案外神器の機能だったりするのかもだけどな。
『赤龍帝の籠手にそんな機能は備わってはいない。が、神器所有者の中には神器の能力とは別にそういった第六感を獲得する者は、一応存在する』
解説どうも、ドライグ。
「今の鳴らし方だと、生死に関わることはないけど、頗る面倒なことが起こるよー! って喚かれてる感じだ。多分、旧校舎から感じるどえらい気配の主がその面倒事を持ってきたんだろうけど……なんか心当たりある?」
「ふむ……幾つか心当たりはあるんだけれど。そのどれにせよ、イッセーくんの言う通り『面倒事』かもしれない」
木場クンの表情が張りつめたそれになる。空気が重くなって、ただでさえ死にそうなのに余計に死にそうになる。
「だとするならば、急いだ方がいいのではないでしょうか?」
「そうだね。少し走ろうか」
「……こんなこと僕が言うのもアレだけど。信じるの?」
「部長からある程度は聞いてるからね」
「この状況でイッセーさんが嘘を吐く理由がありませんから」
「さいでっか……」
なんか凄いできるヤツみたいな扱いされてるけど、僕って主に新規事業任されてるだけの、中級堕天使ぶっ殺せるぐらいの戦闘力しかない下っ端下級ポーンだよ? ……冷静に考えると普通に期待の新人感がすげぇな、意義を申し立てたい。
まあ、昨日のこともあるし十中八九それ絡みだろうと思うし、僕もこの警鐘を疑ってはいない。竦む脚を無理矢理回して走り、旧校舎の前に辿り着く。そこで木場クンが顔を強ばらせた。
「……なるほど。この距離でようやっと気付けたよ。これは確かに……」
「うへぇ……マジで当たっちゃったかァ」
暗い面持ちでそのままオカルト研究部の部室まで。扉を開いて恐る恐る部室に入ると、めっちゃ機嫌の悪そうな部長と、笑顔を本来の意味……威嚇で使ってる姫島先輩、部屋の隅で誰にも関わりたくねー! って感じで座ってる塔城チャンがいた。
…………そして初めてお会いする、銀髪メイドさんがいた。観賞用とか以前に、これがどえらい気配の正体だと思うとマジで関わりを持ちたくないよ、うん。
「全員揃ったわね。では、部活をする前に話があるのだけど……」
そう部長が言うと、メイドさんはこちらの方に……多分僕と、アーシアの方に向いて口を開いた。
「そちらのお二人はお嬢様の新しい眷属悪魔ですね。初めまして。私は、グレモリー家に使える者、名をグレイフィアと申します。以後、お見知り置きを」
「「あ、はい。ご丁寧にどうも」」
ペコペコと同時に頭を下げる。うぅん、いい感じにアーシアが僕に似てきて、イッセーくんちょぉっと複雑だな!
「それでお嬢様。その説明は私の方より……」
「結構よ。実はね——」
そう言って、部長が説明を始めようとした瞬間、部室の床に描かれている魔方陣が光出した。
「……え? でも、ウチの眷属揃ってるんだけど」
普通の契約業務してる時によく見る転移のそれだけど、今全員いるから違うのかもしれない。なんだろう……と首を捻っていると、木場クンがコソリと疑問に答えてくれた。
「うん、だけどよく見て。グレモリー家の魔方陣が……」
「……どれどれ」
注視すると、確かに紋様が変わっていく……これはつい最近勉強したから覚えているぞ。確か、『フェニックス』の魔方陣……。
「———ッ!」
点と点が繋がる感覚。昨日のやり取り、そして別の家の悪魔の登場。つまり、リアス・グレモリー様は、フェニックス家の誰かと婚約しているということだ。それも、恐らく今から現れるだろう悪魔と。
そんな感じで、思考に没頭しているうちに魔方陣から炎が渦巻き、噴き出す。余波で火の粉が飛び、学校指定のカッターシャツが少し焦げ付いた。……これ、高いのに。
まあそれはそれとして、案の定ガンガン警鐘が鳴り始めた。しかも今度は『場合によっては死に至る危険』を報せてくる。炎の渦の中で佇むシルエットの主は、そういう存在なのだと認識、覚悟。案外早朝にやらかした取引は、して損はなかったのかもしれない。
「ふぅ、人間界は久しぶりだ」
そう言って腕を軽く振ることで炎を振り払い、現れたのは赤いスーツを着崩した金髪の男。ちょい不良な感じも相まって、どう見てもホストっぽく見えてしまう。アレも一種の観賞用だな、見てて愉快って意味で。あーいうのが女性にビンタされてるシーンは最高に笑えるはず……いやわかんないけど。
「愛しのリアス、会いに来たぜ」
「…………ライザー」
まあ、予想通りの展開だ。そして名前も判明、『ライザー・フェニックス』と。うん、心の中のクロニカ滅殺帳に記入した。
「さて、リアス。早速だが式の会場を見に行こう。日取りも決まっているんだ、早め早めがいい」
「あの、少しよろしいでしょうか?」
ライザーさんが部長の腕を掴もうとした瞬間、挙手をして言葉を挟む。全員の視線が僕に集まって少したじろぐが、それは心の中でのことだ。
「……誰、お前?」
ライザーさんがまるで路傍の石を見るかのような視線で僕を見下す。その感覚に少し安心。そうだよ、基本的に僕ってば『異常な普通』! 路傍の石もいい所だからライザーさんの反応が正しいんだよ!
「リアス・グレモリー様の眷属悪魔、兵士の兵藤一誠です」
「ふーん、それでなに?」
「貴方の登場演出でカッターシャツが焦げたのでその弁償をして貰えませんか?」
「…………は?」
空気が弛緩、全員から『今それを言うか……?』って視線が集まる。
「いやだって僕の予想だと、貴方がリアス様の婚約者なのでしょう。知らなかったですけど」
「まあその通りだが……リアス、俺の事話してなかったのか?」
「話す必要がないから話してないだけよ」
「あらら、これは手厳しい。……それで?」
ライザーさんに続きを促されたので、とりあえず咳払いして口を開いた。
「ゴホン……いやそれでですね。そうだとするならこれはまずいんじゃないですかね? 婚約者の眷属悪魔に配慮できないって風聞が立つのはよろしくないでしょう?」
とりあえず厭らしく嗤ってみるが、多分これは効果がない。実際、ライザーさんが鼻で笑ってるし。このタイミングで差し込んだのは、皆の肩の力を抜くため。焦げ付いたのは想定外だったが、丁度よく突っかかるネタが出来て良かった良かった。
「ふん、まるで当たり屋の理屈だな。まあいい、この程度で五月蝿い蝿が黙ると思えば」
そう言ってライザーさん、懐を探って僕に何かを投げて寄こした。洒落たマネークリップに挟まれた……ドル札。日本円じゃないのかよ。
「それごとくれてやる」
「はい、どうもありがとうございます。多大なご配慮、感謝の極み。余計なことはナシにしましょう、お互いに」
しかし上手く行けば気分を害して潰す云々でゴタゴタに持っていくはずだったんだけど……いやはや手強い。この男、存外懐が深いぞ。態度は悪いけど!
◆◆◆
とりあえず、正式な紹介はメイドのグレイフィアさんから。
彼の名前はライザー・フェニックス。名門フェニックス家の三男である、純血上級悪魔。
フェニックスといやまさに不死鳥で、不死身かつ強力な炎を扱う一族。古い時代からの名門だったが、昨今レーティングゲームの流行に合わせてその力を拡大させていっている、らしい。
最も有名なのは『フェニックスの涙』だろうか? いかなる傷もその場で癒すことのできる、某携帯獣でいう『かいふくのくすり』だ。製造方法は分からないけど大量生産はできないらしく、一部の上流階級が購入するのが関の山。しかもレーティングゲームで需要が上がったために値段が天元突破。ふむふむ、100ドル札が何枚か挟まったのをポンと投げて寄越されたけど、それも納得のブルジョワさんだと見た。
「ライザー。私は以前にも言ったはずよ、貴方とは結婚しないと」
それはそうと、部室のソファーに並んで座る部長とライザーさん。彼が肩を抱いて馴れ馴れしく触れるのを『いい加減にして』と払い、付け足されたセリフがコレである。めっちゃ嫌われとるやん。まあパッと見た印象だと女にだらしなさそうな感じだけど、実際そうなのかは分からんし。
「ああ、そう聞いたよ。だがリアス、そういう訳にはいかないだろう? キミの所の御家事情で、そんな我儘を言っている場合じゃあないと思うんだが?」
「余計なお世話よ。私が次期当主なのだから婿の相手は自分で決めるのが道理でしょう? 共に家を経営していくパートナーだもの、やりやすい相手の方がいいわ。……そもそも、当初の『契約』では、私が人間界の大学を出るまでは、自由にさせてくれるという話だった」
「もちろん、キミは自由だとも。大学に行ってもいいし、下僕も好きにしたらいい。ただ、その前に俺と結婚するだけだ」
「……なるほど、そういう風に穴を突いてきたのね。まあいざと言う時に私を黙らせるためにそうしたのでしょうけど」
悪魔らしいやり口ね、と賞賛と侮蔑を乗せて部長は吐き捨てるが、ライザーさんは何処吹く風だ。
「必要だからそうしたんだ。ただでさえ先の戦争で純血悪魔が大勢亡くなったんだ。戦争から脱したとはいえ、堕天使、神陣営とは相変わらず拮抗状態。奴らとの小競り合いで純血悪魔の跡取りが殺されてお家断絶、なんて話も無いわけじゃない。純血であり、上級悪魔の御家同士がくっつくのはこれからの悪魔情勢を思えば当然だ。相性なんてものは二の次だ。もっとも、俺はキミと上手くやれる自信はあるぜ?」
「純血悪魔の新生児が貴重なことは同意するけれど、上手くやれるかは甚だ疑問ね。それに、」
半目で睨みつけて部長は言う。
「私個人の意見としては、純血悪魔は『貴重なだけ』よ。この先、どうしたって外からの血に頼らなくてはならなくなる時代が来るわ。だから、それを理由に無理矢理婚姻を結ばされるのは納得がいかないし、ナンセンスと言うしかないわ」
「……正気かリアス?」
「ええ、正気よ」
どうも、古いしきたりと新しい風のぶつかり合い的な話になってきたな……。僕はあんまり関係無さそうだけど。
「数を減らしたのなら増やさなければならない。ええ、その通りね。いちいちごもっともだわ。ところでライザー、純血悪魔同士の子供の出生率って、いくら程のものかしら?」
「それは…………だが、」
「昔ながらの風習を守ることは大事なこと。けれども悪習に縛られて種族ごと沈むのは勘弁よ。いずれ立場のある某がそれを示す必要があるわ。場合によっては『現魔王の妹』が、みたいなね」
その為にこの札は残しておきたいのだ、と部長は言う。
「私の家も、そちらも、揃いも揃って我儘娘だのなんだのと、腹の底では思ってるのかもしれないけれど、舐めないで頂戴。
は、話が大きくなってついて行けない……ついて行けない、が。何となく、嘘だろうなという予感がする。
多分、悪魔の未来について考えているのはそうだと思う。だが、昨日のアレのことを思い出すと、やっぱり婚約を破棄したいのは部長の我儘が起点な気がする。あれこれ言い連ねたのはそれに説得力を持たせるための後付けであり……このやり口は多分、
基本的に僕には、何もかもが足りてない。平均で平坦な糞凡人だ。だから僕はいざと言う時に手段は選ばない。そこにあるものを何でもかんでも利用しようとする。
分かりやすい例で言うと、『赤龍帝の籠手』の件だ。アレは確かに厄ネタの宝庫であり、バレると面倒事にしかならないものだ。だが、その最初は『異常である事実から目を逸らしたい』という僕の現実逃避があってのこと。説得に使った理由は本心からくるものであれど後付けであり、『こう言えば納得してくれる』という打算があった。
多分部長はそのことに気が付いていたけど、納得したから触れずにいただけで、僕がやったことを理解していた。だって常日頃から『平凡バンザイ!』とか叫んでたもんね。
……多分、昨日の夜必死で対策練ってたんだろうな。それで、多分僕のやり口を真似したんだろうさ。
部長は部長で、他者を言いくるめるのは得意だ。だがそれは意識を誘導するそれであって、その話術は基本格上には通用しない。なるほど、こういう時『逃げ場を塞ぐ』僕のやり方は確かに効果的だ。
「……だが、キミがどれだけ声高に叫んだところで、俺とキミの結婚は決定事項だ」
「決定ではないでしょう? 時期を無理矢理早めただけで、本来は大学を出てからの話。契約の穴を突いただけで、そもそもの話は変わってはいないわ」
部長の言葉を受けて、ライザーさんの顔に怒りの色が浮かぶ。
「……キミがキミで冥界のことを思っているように、俺も俺で冥界のことを考えている。俺はフェニックス家の看板を背負った悪魔だ、この名前に泥を掛ける訳にはいかない。故にこの婚姻を破棄するわけにはいかない。キミの下僕を全て燃やし尽くしてでも、冥界に連れ帰る覚悟があるぞ、リアス」
ライザーさんが炎を纏う。部長もそれに合わせて滅びの魔力を纏う。ただそれだけで吐きそうな程に息苦しい。
だが、しかし、死にそうだからってだけで膝を着く理由にはならない。少なくとも、主人が意志を示した。故にその為に我が生命を磨り潰すは確定事項。だって、それは僕の意志だ。
左腕を構える、籠手が現れる。『
「お嬢様、ライザー様、そこまでです。これ以上は私も黙って見ているわけにもいかなくなります」
外からの声に、冷水をぶっ掛けられた様に意識が冷えた。今の台詞は2人に投げ掛けられたと見せかけて、その実僕に向けて放たれた。……バレている。いや、多分部長が真実を伝えた、信頼できるウチの1人ってことなんだろう。
ともあれ僕も、周りも、2人も、殺気立った空気は納めた。多分、この人凄い強いんだろうね。
「……最強の女王と称される貴女にそんなことを言われたら、俺も流石に怖いよ。化物揃いと評判のサーゼクス様の眷属を相手にしたくはない」
強いなんてレベルじゃなかった。サーゼクス様と言えば、現魔王ルシファー様じゃないかやべぇよ!?
……というかちょっと待って。確かこの人グレモリー家のメイドさんで、そして部長にはお兄様がいると聞く。そしてさっき部長から『魔王の妹』とかいう恐ろしい単語が聞こえた気が……うん、僕は何も気が付かなかった!
「こうなることは、旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の方々も重々承知でした。正直に申し上げますと、これが最後の話し合いの場だったのです。そして、この場で決着が付かない場合を想定し、最終手段を取り入れることとなりました」
「……最終手段。成程、そう来たのね。家同士のいざこざを納める常套手段、我儘娘を黙らせるには都合のいい手、ということ」
……えっと、それってつまり。
「はい。御自身の意志を押し通すのであれば、ライザー様と『レーティングゲーム』で決着をつけるのは如何でしょう?」
こ、これはひっじょーに不味いのではなかろうか……!?
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