兵藤一誠は『異常な普通』です   作:4E/あかいひと

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その5

 フェニックス相手にレーティングゲームは自殺行為ではないか?

 不死身で、フェニックスの涙の製造元。そして恐らくライザーさんは公式のレーティングゲームをやってるはずだ。……勝ち目あんの? いや、さっき籠手構えといてなんだけどさ。

 

「いいでしょう、レーティングゲームで決着をつけましょう。それ以外に道は無さそうだわ」

「へぇ、受けちゃうのか。ただ、俺の方は公式ゲームでの経験がある。今のところ勝ち星の方が多い。それでもやるのか、リアス?」

「ええ、せめてこっぴどく負けるぐらいでもしないと納得出来ないわ。納得は全てに優先する、らしいわよ。倒れるなら前のめりって言うじゃない?」

 

 あ、それも昨日僕が言ったの……でも部長風に言い直してる?

 それはともかく、なんだろうこの『諦めてる風の演技』。まさか、過小評価させようとしてたりするわけ?

 

「それもそうだが。でもそれをキミの眷属は納得するかな?」

「私は大丈夫ですわ、部長」

「僕は貴女の剣です、部長」

「……私も、です」

 

 ライザーさんの問いに、僕より先輩の悪魔達が納得している旨を伝えた。

 

「わ、私も大丈夫です、部長さん……!」

 

 アーシアが、若干怯えながら、しかし覚悟の色を目に宿して言う。荒事に慣れてない筈なのに、いいのだろうか。

 

「ありがとう、皆。……イッセーは?」

「今更聞かれるまでもねーですよ、部長。我が命は既に主人のモノ。如何様にも」

 

 覚悟なんざ疾うの昔に出来ている(言う程昔じゃない)。大丈夫です、部長。

 

「ならいいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。だが、俺が勝てばリアスは俺と即結婚してもらおう」

「ええ、それで構わないわ。皆、ありがとう」

 

 ……とりあえずこれ、レーティングゲームをするという方向で話が固まったということなんだよね? となると、ここからすべきなのは……と不安になって部長を見る。

 すると部長、こっそり僕に向かってウィンクをする。考慮済み、ということだろうか?

 

「承知致しました。お二人のご意識は私、グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がゲームの指揮を執らせてもらいます。よろしいですね?」

「ああ」

「構わないけれど、少しいいかしら?」

 

 部長が厭らしく嗤った……あ、それも僕のヤツ!

 

「レーティングゲームで決着をつけることに納得したけれど……これ、あまりにも不公平よね?」

「まあ、そうだな。どうやらキミの眷属はここにいるだけの人数のようだし、そもそも経験値が違う。それで?」

「私の方から頼むのもどうかと思うのだけれど……そうね、準備期間に3週間程くれないかしら? 人数を減らせ、というのは納得出来ないでしょうし」

「猶予を用意するのに否はないが、流石に3週間は長過ぎる。10日、それが限度だ。それぐらいあればキミなら下僕をゲームの体裁が整う程度までは仕上げられるだろう」

「短過ぎるわね。契約破りについて問い質してもいいのよ? それとも後で『婚約者をボコボコにして組み敷いた悪魔』と噂を撒かれてもいいのかしら? 18日」

「…………2週間だ。それ以上はまけられん」

「ふむ……まあ妥当なところかしら。いいわ、ありがとうライザー」

「その代わり、必ず約束は守るんだな」

「ええいいわよ、何処かの誰か達と違って、私は契約を遵守するわ。悪魔ですもの」

 

 二人の間に火花が散る。当然、僕らも倒すべき敵としてライザーさんを睨む。

 

 しかししかし、はてさて……最悪禁じ手とやらを使わなければならないかもしれないし……。

 

「ドライグ」

『ああ分かった、()()()()だな』

 

 その日僕は、二度死線をさまよった。

 

 

◆◆◆

 

 

 身体が思うように動かない。慣れない異物が体内にあるせいだろう、起こすことすらできない。

 全身を駆け巡る焼けるような痛みは更に増していた。……無理矢理作り変えられてる感覚。身体を弄られた改造人間達は、最初はこんな感じだったのかもしれない。

 慣れてきて、ようやっと身体を起こせるようになる。口の中は鉄の味、拭えば手にこびり付く、紅より赤い『赤』。これはもう赫とか言った方がいいかも知れない。少なくとも、これは僕の血の色ではなかった。

 これは見られるとまずい。起き上がり、ベッドのシーツと枕カバーを外して、適当に押し入れの中に突っ込んだ。替えのものを準備しないと。

 

 時刻は早朝4時、誰も起きてないことを確認して自室を出て1階へと降りる。キッチンで水を飲む。鉄の味を無理矢理嚥下して、意識と息を落ち着かせる。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 視界が霞んでいる、手が震えている。明らかに重症だった。自己改造の副作用と思えば納得だが。

 

『恐らく、明日にはその【——】も【—】も馴染むだろう。先に【——】を慣らしておいたのはやはり、間違いではなかったな』

「それ本当だろうな……場合によっちゃ、2週間後には僕が不死鳥殺しやらないといけないんだけど」

『……兵藤一誠。無慈悲なことを言うようだが、お前には不可能だ』

 

 聞き分けの悪い駄々っ子を諭すような落ち着いた声で、赤い龍は言う。

 

「正体がバレることを承知の上で禁じ手を切れば?」

『そうするつもりはないのにか?』

「必要とあればするよ、どうなんだ?」

『……五分五分、といった所だろうな』

 

 神をも屠れる力を与える神器の禁じ手を使っても五分五分な辺り、僕の才能……というより、戦闘力の低さはいっその事笑えるレベルだな。まあ、本来普通の男子高校生にそんなもの求められても困るんだけど。

 

「まあ、だからといって最初から諦めるのは趣味じゃない。なんの為に【—】まで置換したと思ってるんだ」

『……底上げが理由ではなかったのか?』

「それが半分。『赤龍帝の籠手』で使うにしろ『決殺の手』で使うにしろ、この神器は元の力が強ければ強い程、効果が上がる。単純に倍になった時の増加量から考えてね」

 

 だが、ぶっちゃけそれは【——】で事足りる。というか無理して死ぬ思いをしてまですることじゃなかった。

 

「結論、僕がその最期まで諦めず、燃え尽きることがなければ大丈夫なんだ。……自分を駒のように使い潰すことができれば、多分フェニックスは倒せる」

『……成程、道連れを狙うということか。()()()()()()()()()

「そゆこと」

 

 もし完璧に恩に報いるとしたら、ここだろう。ここで何も出来なければ、僕に価値は無いとさえ思う。それなら、価値のある内に使い潰すのが正しい駒の使い方だろう。

 

 そうだ、僕はあのヒトになら全てを捧げてもいい。何の間違いか、惚れてしまったのだ、仕方がない。

 

「お前にとっても悪い話じゃないだろうドライグ、僕が早々に死んでくれた方が。今度は才能あるヤツに取り憑けよな」

『……お前は、死にたいのか?』

「まさか。死ぬのは嫌だ、そもそも痛いのも嫌だ、怖いのだって嫌だ……でも、格好がつかないのが1番嫌なだけだ。だって、男の子だからね」

 

 元々死んだ命だ、今度こそカッコ良く最期を飾りたいじゃないか。それで恩人を救えたなら文句無しだろう。……父さんと母さんには申し訳ないけれど。でも、悪魔になってたなんて言えないから、やっぱりそこそこのところで死んでなきゃダメだ。

 

「……まっ、最初から諦めてるわけじゃないよ。それだと約束破りも良いところだしね。『何れ訪れる宿敵と出会うまで、力をつけて、勝ち残る』。忘れてないよ、大丈夫。結果的に死ぬことになる可能性はあるかもしれないけど、生きることを諦めることは絶対にしないから」

『………………』

 

 2杯目の水を呷る。もう、鉄の味はしなくなっていた。

 




これ、前話にくっつけた方が良かったのでは……?

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