フェニックス相手にレーティングゲームは自殺行為ではないか?
不死身で、フェニックスの涙の製造元。そして恐らくライザーさんは公式のレーティングゲームをやってるはずだ。……勝ち目あんの? いや、さっき籠手構えといてなんだけどさ。
「いいでしょう、レーティングゲームで決着をつけましょう。それ以外に道は無さそうだわ」
「へぇ、受けちゃうのか。ただ、俺の方は公式ゲームでの経験がある。今のところ勝ち星の方が多い。それでもやるのか、リアス?」
「ええ、せめてこっぴどく負けるぐらいでもしないと納得出来ないわ。納得は全てに優先する、らしいわよ。倒れるなら前のめりって言うじゃない?」
あ、それも昨日僕が言ったの……でも部長風に言い直してる?
それはともかく、なんだろうこの『諦めてる風の演技』。まさか、過小評価させようとしてたりするわけ?
「それもそうだが。でもそれをキミの眷属は納得するかな?」
「私は大丈夫ですわ、部長」
「僕は貴女の剣です、部長」
「……私も、です」
ライザーさんの問いに、僕より先輩の悪魔達が納得している旨を伝えた。
「わ、私も大丈夫です、部長さん……!」
アーシアが、若干怯えながら、しかし覚悟の色を目に宿して言う。荒事に慣れてない筈なのに、いいのだろうか。
「ありがとう、皆。……イッセーは?」
「今更聞かれるまでもねーですよ、部長。我が命は既に主人のモノ。如何様にも」
覚悟なんざ疾うの昔に出来ている(言う程昔じゃない)。大丈夫です、部長。
「ならいいだろう。そちらが勝てば好きにすればいい。だが、俺が勝てばリアスは俺と即結婚してもらおう」
「ええ、それで構わないわ。皆、ありがとう」
……とりあえずこれ、レーティングゲームをするという方向で話が固まったということなんだよね? となると、ここからすべきなのは……と不安になって部長を見る。
すると部長、こっそり僕に向かってウィンクをする。考慮済み、ということだろうか?
「承知致しました。お二人のご意識は私、グレイフィアが確認させていただきました。ご両家の立会人として、私がゲームの指揮を執らせてもらいます。よろしいですね?」
「ああ」
「構わないけれど、少しいいかしら?」
部長が厭らしく嗤った……あ、それも僕のヤツ!
「レーティングゲームで決着をつけることに納得したけれど……これ、あまりにも不公平よね?」
「まあ、そうだな。どうやらキミの眷属はここにいるだけの人数のようだし、そもそも経験値が違う。それで?」
「私の方から頼むのもどうかと思うのだけれど……そうね、準備期間に3週間程くれないかしら? 人数を減らせ、というのは納得出来ないでしょうし」
「猶予を用意するのに否はないが、流石に3週間は長過ぎる。10日、それが限度だ。それぐらいあればキミなら下僕をゲームの体裁が整う程度までは仕上げられるだろう」
「短過ぎるわね。契約破りについて問い質してもいいのよ? それとも後で『婚約者をボコボコにして組み敷いた悪魔』と噂を撒かれてもいいのかしら? 18日」
「…………2週間だ。それ以上はまけられん」
「ふむ……まあ妥当なところかしら。いいわ、ありがとうライザー」
「その代わり、必ず約束は守るんだな」
「ええいいわよ、何処かの誰か達と違って、私は契約を遵守するわ。悪魔ですもの」
二人の間に火花が散る。当然、僕らも倒すべき敵としてライザーさんを睨む。
しかししかし、はてさて……最悪禁じ手とやらを使わなければならないかもしれないし……。
「ドライグ」
『ああ分かった、
その日僕は、二度死線をさまよった。
◆◆◆
身体が思うように動かない。慣れない異物が体内にあるせいだろう、起こすことすらできない。
全身を駆け巡る焼けるような痛みは更に増していた。……無理矢理作り変えられてる感覚。身体を弄られた改造人間達は、最初はこんな感じだったのかもしれない。
慣れてきて、ようやっと身体を起こせるようになる。口の中は鉄の味、拭えば手にこびり付く、紅より赤い『赤』。これはもう赫とか言った方がいいかも知れない。少なくとも、これは僕の血の色ではなかった。
これは見られるとまずい。起き上がり、ベッドのシーツと枕カバーを外して、適当に押し入れの中に突っ込んだ。替えのものを準備しないと。
時刻は早朝4時、誰も起きてないことを確認して自室を出て1階へと降りる。キッチンで水を飲む。鉄の味を無理矢理嚥下して、意識と息を落ち着かせる。
「ハァ……ハァ……」
視界が霞んでいる、手が震えている。明らかに重症だった。自己改造の副作用と思えば納得だが。
『恐らく、明日にはその【——】も【—】も馴染むだろう。先に【——】を慣らしておいたのはやはり、間違いではなかったな』
「それ本当だろうな……場合によっちゃ、2週間後には僕が不死鳥殺しやらないといけないんだけど」
『……兵藤一誠。無慈悲なことを言うようだが、お前には不可能だ』
聞き分けの悪い駄々っ子を諭すような落ち着いた声で、赤い龍は言う。
「正体がバレることを承知の上で禁じ手を切れば?」
『そうするつもりはないのにか?』
「必要とあればするよ、どうなんだ?」
『……五分五分、といった所だろうな』
神をも屠れる力を与える神器の禁じ手を使っても五分五分な辺り、僕の才能……というより、戦闘力の低さはいっその事笑えるレベルだな。まあ、本来普通の男子高校生にそんなもの求められても困るんだけど。
「まあ、だからといって最初から諦めるのは趣味じゃない。なんの為に【—】まで置換したと思ってるんだ」
『……底上げが理由ではなかったのか?』
「それが半分。『赤龍帝の籠手』で使うにしろ『決殺の手』で使うにしろ、この神器は元の力が強ければ強い程、効果が上がる。単純に倍になった時の増加量から考えてね」
だが、ぶっちゃけそれは【——】で事足りる。というか無理して死ぬ思いをしてまですることじゃなかった。
「結論、僕がその最期まで諦めず、燃え尽きることがなければ大丈夫なんだ。……自分を駒のように使い潰すことができれば、多分フェニックスは倒せる」
『……成程、道連れを狙うということか。
「そゆこと」
もし完璧に恩に報いるとしたら、ここだろう。ここで何も出来なければ、僕に価値は無いとさえ思う。それなら、価値のある内に使い潰すのが正しい駒の使い方だろう。
そうだ、僕はあのヒトになら全てを捧げてもいい。何の間違いか、惚れてしまったのだ、仕方がない。
「お前にとっても悪い話じゃないだろうドライグ、僕が早々に死んでくれた方が。今度は才能あるヤツに取り憑けよな」
『……お前は、死にたいのか?』
「まさか。死ぬのは嫌だ、そもそも痛いのも嫌だ、怖いのだって嫌だ……でも、格好がつかないのが1番嫌なだけだ。だって、男の子だからね」
元々死んだ命だ、今度こそカッコ良く最期を飾りたいじゃないか。それで恩人を救えたなら文句無しだろう。……父さんと母さんには申し訳ないけれど。でも、悪魔になってたなんて言えないから、やっぱりそこそこのところで死んでなきゃダメだ。
「……まっ、最初から諦めてるわけじゃないよ。それだと約束破りも良いところだしね。『何れ訪れる宿敵と出会うまで、力をつけて、勝ち残る』。忘れてないよ、大丈夫。結果的に死ぬことになる可能性はあるかもしれないけど、生きることを諦めることは絶対にしないから」
『………………』
2杯目の水を呷る。もう、鉄の味はしなくなっていた。
これ、前話にくっつけた方が良かったのでは……?
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