兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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生存報告(二重)


その6

「……で、合宿ですか」

「ええ、決戦までの時間は無駄にはできないわ」

 

 貧血で倒れそうな身体を奮い立たせながら、気合満々な眼前の上司の顔を拝む。

 時間は5:30、そろそろ早朝訓練の時間かな? と準備をしてたらまさかまさかの部屋の扉から現れた部長がそう言った。

 

「いやまあそれはいいんですけど、何も言わずに2週間も店放置するのは流石に」

「そこも含めて根回しは終わっているわ。と言っても立山さんを臨時店長、補佐に中村さん任命するだけだったのだけどね。あなたが店長業務のマニュアルも作ってくれていて助かったわ」

「いえあのそれ多分マニュアルじゃなくて店に置いてた僕のスケジュール表……」

 

 共用スペースに置いてるので誰でも読めるようにはなってたのはそうだし、全然活用してもらっても構わない。だけどマニュアルと言うには足りない物が多い気が……。あそこに書いてあるの売上目標と実績、発注の管理とあと僕用のカンペ(主にクレーム対応)だからなぁ……。

 

「使えればなんでもいいの。そもそもしっかり仕事を見せてたのでしょう? 緊張こそあれ、特に不安げな様子も無く『任せてください!』と豪語していたし大丈夫よ」

 

 前より悪くなることは無いだろうし、と悪い顔で笑う部長を見て、そりゃそうだと思った。発注に関しては若干の不安が残るが、桁さえ間違えなければ後でどうとでもなるし僕がどうとでもする。それにここしばらく新人教育に力を入れていたこともあって、人員も厚い。前みたいな独りでランチタイムをぶん回すような絶望シフトとはおさらば。今から3週間以内で特別大きなイベントもなく、天候も恐らく問題なし。なら問題は無い、か…?

 

「それに例の2号店計画の準備の関係で、近いうちに立山さんに店長業務をやってもらう予定ではあったでしょう? まさに言う渡りに船と言うやつね」

「マジでチェーン展開狙うつもりなんスねぇ……」

「なんならフランチャイズ展開も視野に入れてるわ。売り付ける先は人間じゃなくて悪魔だけれど」

 

 やっぱこのヒトやり手の悪魔だよなぁ……だなんて思いつつ、となれば反対する理由もないのでそのまま合宿の準備をすることに決めた。まあどうせ上司のお願いだからね、逆らえないね。僕ちん下僕悪魔だもの。

 

「ところでアーシアも合宿に連れていくんです?」

「もちろん、先に話を通しておいたわ。そうじゃないと貴方、あの子の参加を渋るでしょう?」

「そりゃあ、よく僕のことをご存知で……」

 

 だから扉から入ってきたんだなぁ、と納得。そして話の流れからしてアーシアも参加表明したっぽくて付け入る隙が恐らくない。ぐぬぬ……まぁ自衛の為の力が着くと考えたら悪いことではないけど、若干心配だよ僕。

 

「じゃあ6時にこの家の玄関前に集合ね。大体の荷物は準備してるから、用意するのは服ぐらいで大丈夫よ」

「分かりました、じゃあ早速準備始めていきます」

 

 さあ時間が無いぞ、ちゃかっと身支度を済ませよう……と思ったところで、部長が怪訝な顔をしているのに気が付いた。

 

「部長、どうされました?」

「……気のせいか、と思っていたのだけれど。妙に血の匂いがするのよね、この部屋」

 

 何か危ないことでもしたのかしら? と睨む部長に対して鼻血が出まくりました、と平常心を保って返せた僕の鋼メンタルを褒めて欲しい。本当にチビるかと思った。

 

 

◆◆◆

 

 

「死ぬ……死ぬぅ……」

 

 で、コレである。

 荷物を準備して家を出たら、こんもりとした荷物の山とグレモリー眷属達勢揃い。じゃあ行くわよ! と部長が魔方陣を使って僕らを転移させた先が山の麓。うへぇ、ここから修行なのかな? と若干げんなりしたところで『コレとコレとコレがイッセーの荷物ね。神器は使わないこと』と荷物の3割を背負い、部長の意図と僕が死にかける未来を悟った。ちなみに残りの5割は塔城サンが背負い、その残りを他の面々が背負っていた。

 朝の眩しい光と荷物の重さ、あと昨晩の後遺症で嫌な汗が止まらない。普通にキッツイんだわ、これ。

 ……だが、荷物自体は思いの外すんなりと持てている。コレには部長も驚きだったようで『早朝の訓練が実を結んだのね』とお褒めの言葉を戴いた。いやでもおかしくねぇ? 数週間でどうこうなる強化じゃないと思うんだけど……。

 

『貴様、どういう意図で俺に自分の一部を投げ売ったのか忘れたのか?』

「(あ、そーゆー……)」

 

 僕にだけ聞こえる呆れたような声で、左腕に眠る相棒がその答えを教えてくれた。単純に生物として強くなっただけのようだ。身体は心底ダルいが、狙った効果が早速現れているようだ。

 

『意図していたのかそうでないのかはともかく、お前の採ったあの選択が思いの外功をそうしている。だがそれは、お前の身体が人間どころか悪魔からも掛け離れていくということだ。今はまだいいが、何処かで対策を講じなければ解る者には見ただけで正体を看破されるだろう』

「(赤龍帝ってバレなきゃなんでもいいよ……龍の手の亜種ならこんなこともある、って思ってくれたら万々歳だ)」

 

 そう上手く行くかは知らないけどね、と思いつつそこそこに険しい山道を進んでいく。天候も相俟って景観も相当いいはずなのだが、それを見る余裕は無い。舗装されてない地面と、そこに吸われる垂れて落ちる汗の滲みしか見えん。

 何とか顔を上げると、かなり先に自分以上の荷物を背負った塔城サンが割と軽快に進んでいくのが見えて気が滅入る。後輩に負ける先輩って格好が付かねぇなぁオイ。

 

『さて、思いの外負けず嫌いな我が相棒。負けてられるのか?』

 

 嘲るように、煽るように言う憎き左腕の相棒に返す答えは一つだ。

 

「いんや、無いね」

 

 気力を振り絞り、脚に力を入れ、何とかペースを早歩きまで持っていく。疲労が溜まっているからなのか、それともドラゴンパワー的な何かなのかは分からないけど、力を込めた場所が熱を持ち、気持ち軽く足を前に踏み出せるようになる。

 片手で水分補給用の水筒を握りしめ、せめて自分より重い荷物を持っている後輩よりは早く、と無意識にペースがジョギングレベルになり、すぐに塔城サンの横を通り過ぎる。

 だが、負けず嫌いは僕だけではなかったらしい。

 

「……む」

 

 と声が後ろの方から聞こえ、すぐにザッ、ザッ、と荷物がテンポよく揺れる音が大きくなり、すぐに僕の横まで並び、

 

「……お先に」

 

 と過ぎ去っていく。よろしい、ならば競走である! と僕も何とか脚の回転を速くし彼女を抜く。そしてそれを受けて彼女もまた速度を上げ僕を抜く、という繰り返しが始まる。なんかもう途中から脚の感覚無くなってきたけど、僕から始めたもんだから辞められず、不毛な抜かし合いが目的地の建屋に着くまで行われることになった。

 結局無様に負けて地面に倒れ伏した僕を、皆がなにやってんだと呆れた目で見下ろすので、あのドラゴンに乗せられるんじゃ無かったと後悔することになった。トホホ…。

 

 

◆◆◆

 

 

『身体を酷使する結果にはなったが、その分交換したパーツの定着が早く済んだ。訓練には間に合って良かったな』

「そういう意図があるなら先に言えよ……」

 

 脳内で返事を返すという余裕もなく、今僕は目的地の建屋……部長が所有してるらしい木造の別荘、そのリビングで倒れていた。

 

『フン、情けない。それでは白いのには勝てんぞ』

「え、いや今別にそんな未来の宿敵のことなんて考えてる余裕が」

『付き合いは浅いが俺には分かる。お前に近い未来の目標を与えるとロクなことにならん。故に無理矢理未来のことを意識させることにした』

 

 え、何? 僕ってば太く短く星人に見えてたりするワケ?

 

『その通りだ、愚かで度し難い我が相棒。貴様、なるべく普通っぽく見せる立ち回りだけは完全に熟す癖に、目の前の課題に関してはなりふり構わず、文字通りの全身全霊を賭して、考え無しに突っ込むだろう? 凡そお前に理性という物はない。感情で考え動くよく分からん生き物、それがお前だ』

「アレ、これ相当馬鹿にされてますよね僕ちゃん」

 

 事実、自分のしたいことしかしてないのは否定しませんけどね? そんな人格破綻者みたいな言い様はどうかと思いますことよ?

 

『よく言う。事実、自分の立場が悪くなるかもしれないと気付きながらも、自分の命を落とすことになろうとも、貴様は貴様の感情のままに突き進み、我を通した。これを愚かと言わずしてなんと言う!』

「……………」

 

 言い返せなかった。あまり意識したことは無かったけど、多分自分を生まれた時から見てきた中の(ひと)にそう言われると、確かにそうかもしれん、となる。

 

『だが、()()()気に入った』

 

 不死鳥如きに遅れをとることは許さんぞ、そう言い残してクソトカゲの意識は神器の深く深くまで潜った……と思う。気に入った云々の真意を問い質すために何度呼び掛けても反応が帰ってこなかったので、多分睡眠に近いもんに入った、気がする。感覚的なモノなので上手く表現ができなくてもどかしい。

 

「……どの辺りが琴線に引っかかったんだろう?」

「なんの話だい?」

「おわっ!?」

 

 独り言を呟いてたら木場クンに聞かれていたでござるの巻。急に話し掛けられるとキョドるからやめて欲しい。根っこの部分は陰キャなんだよ僕……。

 

「あー、口から心臓出るかと思った」

「ははは、驚き過ぎだよ。別に今は気配を消してたわけじゃないのに」

「サラッと気配消せるって言ったな君?」

 

 なんだコイツ人外かよ? ……人外だったわ(悪魔)。

 

「それで、琴線にっていうのは何の話だったんだい?」

「ん? ああ、なんでか知らんけど、割と部長に目をかけて貰ってるから、なんか琴線に触れる部分あったんかな? って思ってさ」

 

 息するように口から出た嘘。現状僕の神器の中身については、部長と副部長、あと部長の上司にあたる魔王様だけ知ってるトップシークレットだ。まあ近いうちに木場クンや塔城サンにも伝えないとまずいとは思うが、今ではないと思う、多分。

 とはいえ、口をついて出た言葉の内容については僕の偽らざる本音だ。副部長から『グレモリー家は情愛の悪魔の一族』というのは聞いたけれど、それにしたってとは思わないでもない。いやまあそれを言うなら悪魔とは不倶戴天の敵である元教会勢力、堕天使勢力のアーシアに対して、眷属になったとはいえ、ほぼ家族では? みたいな距離の近さだし、やっぱその辺おかしくなかろうか? ということを口にする。

 すると木場クンは苦笑して、そう思うのも無理はないよね、と言った。

 

「でも、確かに兵藤くんに対しては特に目をかけてるとは思うよ」

「あ、僕の自意識過剰とかじゃなかったのね」

「何となく僕もその気持ちが分かるからね。目を離してると兵藤くん死にそうだし。平気で無茶しそうだから不安に思って、若干甘くなるのも仕方ないんじゃないかな?」

「あー……って納得しちゃダメか。程々に反省しますぅーっと」

 

 まあ変える気あんまりないけど、と心の中でだけ呟いて身体を起こす。左腕の中の相棒が言った通り、昨晩感じていた体内の異物感は消え、幾分か身体が軽い。手を握って開いてを繰り返し、特に痺れがないことも確認する。

 その間に、「はいこれ」とさり気にグラスに注いだ水を寄越してくるイケメンムーヴも、僕が要介護者に見えてるからなのだろうか。ありがとう、と受け取りながらそんなことを思ってしまう。

 

「じゃあそれ飲んだらジャージに着替えてくれるかな? そろそろ特訓を始めるって」

 

 え、もう? と思って木場クンをよく見たら、既に彼はジャージに着替えていた。やばい、もしかしたら僕待ちだったかコレは?

 

「急いで着替えてくるわ、30秒も待たせないから」

 

 慌てて荷物を引っ掴み、階段を駆け上がろうとして、

 

「あ、2階は部長達が使っているから、浴室を使うといいよ」

「……何から何までごめん」

 

 確かにコレは見てて危なっかしいだろうなぁ、と何処か客観的に自分を見ながら浴室の方まで駆けていくのだった。

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