日間ランキングに載ってたみたいで、それもあって急に伸びたお気に入り登録に驚きながら次の話です。
【④部長と2倍重力トレーニング】
修行、特訓と言えば、それはもう『重力トレーニング室』だ。ドラグ・ソボールに触れたことがある人なら真っ先に出る……とは言わずとも、パッと出てくる人も多いはずだ。
まあ、そんなものは僕は持ってないし、流石の部長も持っていない。作れるヒトに心当たりはあるらしいけど、今ここにいないヒトの話を仕方が無い。
なので、
『Boost!!』
「ッシャア! 僕に掛かる重力を2倍ッ、だァ!! では部長、よろしくお願いします!」
休憩を挟みつつもここまでの訓練で溜まった疲労も合わせて、自分の体重が更に僕に負荷をかける。……ふふふ、今にも倒れそうだけど今から空孫悟もやった重力増加トレーニングをすると思うと気合いも2倍になるってものだ。今度森沢サンに自慢してやろう。
「……イッセー。掛かる重力を2倍にする、という発想は素晴らしいものだとは思うわ。けれど、何故今の今までそれを使わなかったのかしら?」
「単純に偽装剥げて身バレしないためですが」
神器は想いの力で強化されたりもするんだとか。一応これでも、命を賭けて臨んでるつもりだからね。何らかの拍子に気合いが入り過ぎて『赤龍帝の籠手』ってバレるとすこぶるマズい。
「だから既に話をしてある部長の前だったら使ってもいいかな、と」
「まったく……警戒心があるのか無いのか分からなくなるわ。私だって万能ではないのよ?」
と言いつつも周囲に何かしらの結界を魔力使って張ってくれる辺り、本当にこの方は優しい。……絶対に、絶対に、命に替えてでもこのヒトの願いを叶えてみせる。
「では手始めに、そこの岩を背負って山道を往復よ。……でも、ただ負荷をかけるだけなのは芸が無いわね」
そう言って部長は、手のひらにうすーく魔力を表出させ、そのまま直径で2mぐらいはありそうな岩に手を触れた。一体何を? と思ったが、そのまま岩ごと腕を振り上げたことで意図を理解した。
ドスン! と岩を置いて、特に疲れた様子もなく部長は続けた。
「別に方法はコレでなくともいいのだけど、魔力を使ってこの岩を背負ってみなさい」
「え、えー……。そのお恥ずかしい話、僕はまだ魔力を槍状に展開することしか……」
そう言ってブォン! と赤い槍を手元に表出させてみる。アーシアが割とサクサク魔力変換を身につけていたのに対して、僕はこの槍を伸ばしたり太くしたり宙に浮かせるぐらいしかできないのだ。これはコレで便利だと思うけどね……。
「あら、そこまで操作できるなら、ちょっとイメージを付け足すだけで解決できるじゃない。後は自由に曲げるイメージがあれば縄の代わりに使えそうよ」
「で、出来ますかね……?」
でも部長が簡単そうに言うから、とりあえず挑戦してみる。表出させた槍を宙に浮かせて……針金を曲げるイメージで……!
若干額に汗が滲むぐらいに気合いを込め、イメージを練ると、なんとか槍がぐにゃあ…と曲がり、輪っかの形を取る。いや何とかなったけど、これを維持するのすっげぇ疲れるぞ!!
「あら、それはそうよ。疲れることをしないと訓練にならないわ」
さも当然の様にニッコリ笑う部長がおっかない。いやまあやりますけどねぇ!
とりあえず槍を浮かせ、太くし、何とか輪っかにする。霧散しないように魔力の輪を慎重に動かし、僕ごと岩を縛るように縮めた。
とりあえずは上手くいったので、何とか背負うように背中を丸める。重力倍加の影響もあってえげつない程重く感じるが背負えない程ではない。それよりかは、この負荷が掛かっている状況でかなりの集中力を必要とする魔力操作を並行して行う方がキツい。
「では行きましょうイッセー。落としたら往復回数を増やすわよ」
トスン、と背負った岩の上に乗る部長からただの死刑宣告受け顔を青ざめさせながら、僕はいつになったら終わるのか分からない苦行に身を投じることになったのだった。
【兵藤一誠は、魔力輪の形成と集中力を身につけた!】
◆◆◆
【⑤ドライグと……?】
結局5回目の往復で成功、もう息も絶え絶えの状態で別荘玄関の前で倒れ込む。流石にあと10分ぐらいは動けねぇ……。
「お疲れ様、イッセー」
「へぇい……」
もう今日だけでどれだけ地面とコンニチワしたか分かんねぇなコレ。口から虹のエフェクトが出てないことだけが唯一の救いである。いやまあ半分は自業自得だけどな、重力倍加したし。
「じゃあ、そろそろ晩御飯にしましょうか。今頃朱乃達が準備をしてくれているはずだわ」
「りょ、りょーかいで、あふんっ」
身体を起こそうとして、力が抜ける。マジで動けない。手足の痺れもあるし、若干水分が足りてないかもしれない。
「あ、あとから向かうんで先行っててください……身体起こせねぇですぅ……」
「ふふっ、アレだけ頑張っていたもの。仕方ないわね、私がおぶってあげる」
「やめてください、マジで」
思わずガチめの声が飛び出した。自分自身でも驚く程だったからか、僕を上から覗き込んでいた部長はビクリ、と身体を硬直させていた。
「……あ、すんません。別に部長が嫌いだから、というわけじゃなくて、その……流石に無様が過ぎる、と言いますか」
いやでも実際無様ではある。幾ら自分より遥かに強い方ってのが分かっていても、命を賭けると内心で誓った女性に背負われるのは、流石に自死案件。男は見栄の生き物、
「それに今、僕も汗ダラッダラかつ汚れて汚いワケですし、大丈夫ですよ。10分経ったら無理矢理でも向かうんで、放置してくださいな」
「…………わかった、わ」
何処かしょげた様な……いや違う、ハッキリと傷付いた顔で、部長はこの場を後にした。言葉のチョイスをミスったのか、それともお家の特性の問題か。もしかしなくてもかなり酷いことをしてしまったんじゃないだろうか? …………この間も恥かかせちゃったしなぁ。
それでも僕は、自分が勘違いしないために予防線を張り続けなければならない。認めてはならない、こんな感情。なんとしても己を騙し続けなければ。
「はァ……」
日は沈み、眼前に拡がる空には星が瞬き始めている。ガスの影響が少ないのか、それとも僕の視力が上がったのか、とても綺麗によく見える。
「全く、僕ちゃんはすこぶる弱いなぁ……」
誰もいないというのに……いや、誰もいないからこそ弱音が口をついて出る。
コレでもちょっとした自負はあったのだ。不良相手なら2対1までなら上手に立ち回れてきたし、独力で中級堕天使やはぐれ悪魔を倒したことだってある。だけどどうやら、それだけではまるで全然足りていない。今日の訓練で分かった、僕は眷属の中で1番弱い。同じ新人悪魔のアーシア相手でも、今の感じだと魔力攻撃で早々に沈められる未来図が浮かぶ。
いや、眷属最弱なのはまあいいんだ、良くはないけどまあいい。問題は、そんな僕よりも強いメンバーが揃って尚、部長が……と言うより、この早期の結婚に持ち込もうとしてる面々が、部長とその眷属ではフェニックスに対して勝ち目がないと考えてることがマズい。現状マジで勝ち目が無いぞ……。
……グレモリー眷属の訓練合宿とは銘打たれてるけど、本当のところは、まだ使い物にならない僕とアーシアを仕上げるのが本命なのはノータリンの僕でも分かる。故に皆が僕らの訓練に掛かりっきりだ……多分これは良くない。僕より強いみんなを、より強く仕上げた方が勝ち目がある、ような気がする。
「せめて、僕が溜めた倍加を他人に付与することができたら悩まんくて済むんだがなぁ」
『可能ではあるぞ』
『Dragon booster second liberation.』
どうやら僕のボヤキを聞いていたのは僕だけでは無かったようだ。左腕にいる相棒が呼んでもないのに神器を表出させ、光らせていた。
『
「それは一体……」
頭の中が疑問で埋め尽くされる中、左腕の光が収まり、より鋭くなった姿を表した段階で氷解した。使い方が頭の中に流れ込んできたからだ。
「……『
なるほどコレなら確かに、僕がさっき言ったように、僕が溜めた倍加の力を味方に分配することができる。……だが、
『ああ。機能自体は解放してやったから、偽装状態でも使えんことは無い。が、たかが2倍では旨みが無い。それはその通りだ』
「じゃ、じゃあ意味ねぇじゃねぇか。偽装剥げってか?」
『強要はせん。貴様は必要となれば自分の願望に逆らってでも剥ぐだろうから、そこはどうでもいい。重要なのは、貴様の手札が増えたということだ、相棒』
こう言い換えよう、とドライグは続ける。
『貴様のよく遊ぶ、トレーディングカードゲームとやらにはこういう言葉があるらしいじゃあないか。手札の数は可能性の数、と』
「!」
『さあ可能性は提示したぞ、兵藤一誠。貴様はこの可能性をどう使う?』
……思考する。ただ倍加するだけでは弱いが、ポイントを絞ればどうだろう? 僕が『決殺の手』を使う時は維持をしやすいように強化するポイントを絞る。貫通力だったり、今日みたいに重力だったりだ。それを味方に…………
「…………いや、
『……フフ、フハハ! 代価を受け取った時にも思ったが、貴様の着眼点にはいつも笑わせられる!』
機嫌が良さそうな赤い龍の笑い声が、脳内に響く。
「でも、なんで。神器は意志力で強化されるって」
『それだけ、貴様がこの戦いに対する意気込みが強いということだ。無自覚では無かろう? 必死に、必死に、自分を騙そうと目を逸らし続けているのだからな』
「……………ちっ」
癪に障るクソトカゲだ。…………だが、本当に、本当に有難い。
『俺は神器の偽装をより強固なモノにする。そうすればこれからの訓練でも常に使ってられるだろう。お前は倍加の維持と譲渡、そして魔力の操作により一層の力を入れろ。ギフトが解放したことによって、幾らか操作もしやすくなった筈だ』
「アンタ、なんでそこまで」
『貴様が可能性を掴むことを、足掻くことをやめない限り、俺は力を貸す。そういう契約をしただろう?』
だから強くなることを諦めるな、あとトカゲ言うな殺すぞ……そう言い残してドライグの意識は落ちていった。
正確には、それは偽装の許可だけの話だったはず。それでもこう言ってくれてるのは、それだけ僕のことを応援してくれている、ということだった。打算はあるんだろうけど、なんだか嬉しくて目に涙が滲む。
身体を起こし、目を拭う。疲れているが、妙に気合いが入ってる気がする。いつになく暗くなったメンタルも持ち直した。まだ頑張れる、まだ戦える、腐ってる暇なんて無い。
「よし、死んででも勝つぞ!」
『…………ハァ』
また浮上してきたドライグの溜息を無視して、僕は意気揚々と別荘に向かうのだった。
【兵藤一誠は、『