兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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感想、評価ありがとうございます。
評価バーが赤いのが初めてで手が震えてます。

あと皆さん、この主人公のこと一体なんだと……()


その9

【⑥兵藤一誠の心折講座……え、僕!?】

 

 副部長とアーシアが用意してくれた豪華な夕食……食べたことがなかった猪に豊富な山菜を使った料理を涙を流しながら食べ終わり、これはもう僕も負けてられないな! と本職ラーメン屋店員としてのプライドを密かに燃やしていると、夜の訓練に備えて一度汗を流しましょう、という部長の号令により温泉に入ることになった。もう何も驚かんよ僕は。どんだけ金持ってるんだグレモリー家。

 んで、あのドエロコンビならいざ知らず、僕に覗きなんてする理由はないので温泉イベントなのに盛り上がることも無く、死んだよーに湯に浮かぶ僕と背中の流し合いを提案してくる木場クンという誰得な絵面が展開された。木場クン、今誰もいないからいいけど、間違ってもこの話学校でしないでね? ネタにされるから。なんか最近流行ってるらしいんだよ、僕とキミのカップリング。そういう趣味を否定はしたくないけど自分が巻き込まれると話は別である。ナマモノはダメだろナマモノは。

 湯に疲れが溶けたところですぐに訓練再開! ……とは流石にならず、ホワイトボードを活用してのレーティングゲームのお勉強を先に挟むことに。とは言っても僕やアーシアに限らず、全員がレーティングゲームが初めてなので、軽く教本の読み合わせという形になった。

 

「まずこの教本を翻訳するのが大変だったわ……」

 

 とは部長の弁。なんでも教本自体は悪魔の言語で書かれてるらしく、まだそこまでの勉強を進められてない僕とアーシアには読めないだろうということで、わざわざ日本語とイタリア語に翻訳してくれたらしいのだ。そうか、話す聴くだけならあらゆる言語を1番聞き馴染みのある言語で翻訳してくれる悪魔の種族特性も文字では意味が無かったね。いやホント、頭が下がる思いですよ……。

 教本の内容は至ってシンプルで、レーティングゲームの成り立ち、基本的なルール、各種特別ルール、基本的な立ち回りなどが書いてあって、普通に読み物として面白かった。

 

「とまあ、ここまで読んでもらって申し訳ないのだけれど、今回の対ライザー・フェニックス戦ではあまり役には立たないわ」

 

「「ええーっ!?」」

 

 え、意味無いの!? 読み合わせした意味!? と僕とアーシアは驚きの声をあげたのだけど、他の3人は納得、と言った表情だった。

 

「ふむ、意外ね。イッセーなら分かると思ったのだけれど」

「ヤダなぁ、かなり買い被りですよソレは。僕は至って普通なノータリンで……」

 

 と、ここまで言ったところで気が付いた。この教本の中にはほとんど16人フルメンバーでの立ち回りのことしか書いていないのだ。

 

「……そもそも人数の少ない僕達では、この基本的な立ち回り……云わば定石を使うことができない、ということですか」

「そういうことよ。でも、それだけではないわ」

「……?」

 

 まだ何かあるのか? と頭を回転させる。

 

「ライザー・フェニックス氏が16人のフルメンバーではないということですか?」

「違うわ。彼から送り付けられてきたメンバー表は、全て埋まっているわ」

 

 おかしい、16人フルメンバーなら相手の戦略をここから学べるはず。だがそうでないなら、彼のチームはこの戦略を重視しない、特殊なチームということになるが……。

 ここまできて頭上の電球がティン! と点った。

 

「そうか、王がフェニックス……不死だから、王を取らせないことを前提にした戦略の一切合切が無意味なんですね」

「大正解、ハナマルをあげるわ」

 

 となると確かにこの教本はほぼ無意味である。なら何故これを皆で一緒に読み合わせしたのか、という疑問が出てくる。

 

「それは決まっているわ。基礎無くして特別なことはできないもの。貴方は土台の無い家に住みたいかしら?」

「それはまあ、確かに……」

 

 そして思い返すと過去の朝練も含めて、今まで部長が僕に課してきた訓練は、全て基礎を固めるソレだったなと改めて気がつく。派手なように見えてとても真面目で堅実なヒトなんだなぁ、と感心した。

 

「ですがそれではゲームに勝てません。何か策があるんですか?」

 

 そう言うと、部長は困ったように苦笑して首を振った。ダメじゃん!?

 

「もちろん倒す方法が無くはないわ。一撃で諸共吹き飛ばすか、相手の心が折れるまで何度も叩きのめすことよ」

 

 一撃で吹き飛ばせば再生する余地もなく倒せるし、心を折れば精神力が尽き身体の再生も止まる、つまり倒したということになるとのことだ。

 

「ということで、朱乃とイッセーに相談があるのよ」

「なるほど、承知しました」

「え、え?」

 

 何故に僕? あと何でまだ何も言われてないのに分かったように頷いてるんですか副部長? という疑問で頭が埋め尽くされたところで助けを求めるように周りを見渡す。木場クンは苦笑、塔城サンは無表情ながらどこかゲンナリとした様子。あ、アーシアごめんね、こんな視線向けられても困っちゃうよね?

 

「ああ、そういえばイッセーはまだ知らなかったわね。朱乃は、オカルト研究部の中では右に出るものはいない程のドSよ」

「うふふ…♡」

「ひ、ひぇぇぇ……」

 

 特に怒るでもなく、意味深に嗜虐的に微笑む副部長を見て察した。あ、コレはガチなヤツや。

 

「な、ななな、なるほど。そそそういうことなら副部長という人選は分かります。で、でもそれじゃあ何で僕も一緒に選出されてるんです? 僕別にSでもMでもありませんよ」

「あら、最初にライザーの社会的信用を落とすことで婚約破棄を狙おうとしたじゃない」

「そういえばそういうことも言いましたねぇ!!」

 

 完全に過去の自分が今の自分の首を締めに来ている。おかしい、木場クンと塔城サンの僕を見る目が完全にドン引きしてるソレだ。アーシアもなんだか混乱しちゃってるし!

 

「イッセー……私は、貴方のそういう悪魔よりも悪魔な発想に期待しているわ。是非、私に力を貸してくれないかしら?」

「う、ぅぅぅぅ…!」

 

 やめろよそんな上目遣いしないでください思わず絆されるじゃあないですか!!

 

「……分かりましたよ、心を折る案を出せばいい。そういうことですよね?」

「ありがとうイッセー、助かるわ!」

 

 と言っても、今の情報だけだとパッと出せるのは一つしかない。

 

「要は心が折れたらいいんですから、わざわざ再生するまで傷を負わせる必要はないでしょう。再生する以上、死はある意味逃げ道です。となると、精神に作用するような拷問がベストかと思うんですが、どうでしょう副部長?」

「なるほど、それはいい着眼点ですわねイッセーくん。ですがまず相手を拘束しないといけない以上、それはあまりにも非現実的です。ここは痛みに慣れないようにあらゆる手段で1回ずつ痛めつけていくのが、無難ではありますが確実だと思いますわ」

「んー、そうなんですけどねぇ。なんか相手の意識だけをどこかに飛ばす幻術みたいなのがあれば拘束する必要もないんでしょうが、実は副部長、そういうのできたりしません?」

「あら、それはいいですわね! 意識だけの幻術なら、決まりさえすれば相手の抵抗を気にする必要はありませんし。となるとどんなセッティングがいいかしら……?」

「時間の感覚を失わせるのが発狂も狙えていいと思います。時計だらけの部屋とか音が響かない無響室とか」

「うふふ、中々の逸材ですわねイッセーくん。でも気を衒わずに五感を1個ずつ奪っていくのもありかもしれませんわ」

「っ! なるほど確かに、勉強になります」

「あの、待ってちょうだい。拷問談議の時間だったかしら???」

 

 いや別に、拷問の話をしてはいませんよ? と副部長と顔を見合わせる。心を折るという手段が拷問になっただけだ。

 

「これでも性的に辱めさせないって良心はあるんですよ?」

「待って、待ってイッセー。それは良心とは言わないわ、当たり前のことよ」

「恋と戦争は全てが正当化されますわ、部長」

「レーティングゲームは戦争遊戯ではあるけど戦争そのものではないわ、戻ってきてちょうだい朱乃!」

 

 そんなにおかしなこと言ってるかなぁ…。言ってないと思うけどなぁ。

 

「自分の敵は自分が死んででも嫌がらせしたいだけなのに」

「と、とりあえず今日はここまでにするわ! さあ、外に出て準備運動から始めるわよ!」

 

 若干消化不良のまま、僕らはジャージに着替えて次の訓練に備えるのだった。

 

【グレモリー眷属は、外道の心得の基礎を身につけた!】

 

 

◆◆◆

 

 

【⑦そして自己訓練で……】

 

 昼間よりも一層厳しい訓練……それでも昼間よりも動きがいいのは、やはり悪魔が夜の生き物だからなのか、それとも【──】と【─】がさらに身体に馴染んできたからなのか。調子に乗って張り切り過ぎた結果、身体が動かせないギリギリまで疲弊してしまう。

 ここからは自由時間並びに就寝時間である、と聞いた時点で力が抜けかけて倒れそうになった。時間は夜の1時。一日二日寝なくとも問題無い悪魔ボディであるが、今日は寝たい、流石に寝たい。明日の朝もまあまあ早いし、汗を流してさっさと寝たい……。

 

 ……だと言うのに、何故僕は外に残って神器を使う訓練をしてるんだろうか? 別に誰に言われたわけでもなく自主的に、だ。

 

『Transfer!!』

「ぐっ……!」

 

 今やってる訓練はその辺の木に幾つか軽く傷を付けて、その『傷』に譲渡をする訓練だ。だけど中々上手くいかない。自分の身体や、掛かる力などに対して細かく指定を付けて倍加するのは息するようにできるようになったが、他者、自分の影響下にない物に対して倍加を付与すると、途端に難しくなる。細かい指定ができないのだ。

 

「…だが、できんことはない。難しいだけだ」

 

 今のところ、10回に1回の成功。譲渡に成功した傷は、ほぼ2倍の大きさに拡がり、()()()()()()()()()()()()だ。確実に成功できるようにすれば、これはとても使える手札だ。

 

「感覚自体はそう自分でやる時と大きく変わらない……イメージとやることを、より明確に……!」

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 ピシリ、と傷の拡がる音がする……成功。この感覚を覚えて、もう一度……!

 

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 ……で、気がついたら空が青白んでいた。

 

「…………まあでも、モノにした感じではあるな」

 

 少し満足げに、自分の努力の跡を見る。大きくしていった傷は、最早傷ではなくなっていた。塵も積もればなんとやら、雨垂れ石を穿つように、木は伐採されていた。

 

 さて、多分時刻は5時はまわっていない……はず。ならばせめて1時間は睡眠時間を確保するために一刻も早く汗を流しに温泉に向かわねば……!

 せめて寝てる人を起こさないように、こっそりと僕は温泉に向かうのであった!

 

【兵藤一誠は、譲渡のコツを掴んだ!】

 




深い意味はありませんが、血って何処で作られるんでしたっけ?
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