兵藤一誠は『異常な普通』です   作:しにかけ/あかいひと

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感想ありがとうございます。
本日2回目の更新なので、読んでない方はその10からどうぞ。

訓練合宿ダイジェスト。
そして、彼が命を掛ける理由。


その11

「朱乃サン」

「はい。どうされましたか、イッセーくん?」

「魔力を使ってやりたい技を考えました。1つは、水に魔力を潜り込ませての操作を、完璧に、完全に仕上げたいと思います。これはそのイメージを纏めたノートです」

「……成程、よくできていますわ。それならば……紅茶の淹れ方を教えますので、毎食後に準備して頂いても大丈夫ですか?」

「はい、分かりました。ありがとうございます。それと、もう1つが……」

「………………正気ですか?」

「はい、やると決めました。僕が、ライザー・フェニックスを倒します」

「………私からは、やらない方がいい、と言わざるを得ません。ですが、可能か不可能かで言えば、可能でしょう。……こちらの本が、参考になると思います」

「ありがとうございます」

「ですが約束してください、絶対に死なないでくださいね、イッセーくん。死んだら、私も、皆も悲しみますわ」

「…………考えておきます」

 

 

◆◆◆

 

 

「……先輩、気配を読むのが上手くなりました?」

「元々危ないことが起こりそうになったら第六感が働くタチでね、慣れたらこんなもんよ。超痛いけど」

「……じゃあ、あと教えることは拳の打ち方ぐらいかも知れません」

「お、マジすか小猫チャン?」

「……打撃は、体の中心線を狙って、的確かつ抉り込むように。今のイッセー先輩は、支えがしっかりしています。流石に私程、とは言えない。ですが、戦車や女王にプロモーションすれば、あるいは」

「支え、中心線、抉るように……」

「……格闘技とは、突き詰めていけば力の使い方、それに尽きます。巧ければ巧い程、小さな力であっても大きな敵を討ち倒せます。コレは、弱者の技術なんです。先輩を単なる弱者と評するのは間違ってると思いますが、多分ピッタリだと思います」

「うん……そうだね。ありがとう、小猫チャン」

「……また、ラーメンを奢ってください。では、もう1セットいきましょう」

 

 

◆◆◆

 

 

「フンっ!」

「おっと!?」

「シィッ!!」

「……っと、と。とうとう一本取られたね」

「ふぅ……いやぁ長かったねぇ。いやはや、アンタ速すぎんぜ祐人クンよォ。ちょっとした隠し技切っちゃったじゃねぇか」

「そう、それだよ。いつの間に震脚なんて身につけたんだい?」

「あんまり褒められたもんじゃないよ。ほれコレ。神器で地面の揺れを2倍にしてな」

「ふむ……面白い使い方だね、勉強になるよ」

「ん? でもお前の神器って……」

「うん、普段は手の中に生み出したり、撃つように作ってたんだけれど……ほら」

「わっ!? 驚かすなよビビったじゃんか! ……でも、成程これは考えたね」

「僕もイッセーくんに負けてられないからね」

「よく言うよ、僕よりめちゃくちゃ強いくせに」

 

 

◆◆◆

 

 

「…………これで、どう!?」

「はい、確認しますね……はい、しっかりできてます。成功ですよイッセーさん!」

「良かったァ……もう途中から心折れそうだったもん!!」

「ふふふ、イッセーさんなら必ず出来るって信じてましたよ。……ですがイッセーさん、これはどう使うんですか?」

「ちょっと考えたんだけど、これを魔法瓶の水筒に入れようと思うんだ」

「水筒、ですか?」

「そ。ちょっと考えてることがあってね。あとは普通にぶっ掛けやすいように大小ガラス瓶に詰める予定でもあるけど。ルールだと著しくゲームのバランスを崩すようなアイテムじゃなければ持ち込めるって言うし、使えるものはなんでも使うよ」

「…………あの、イッセーさん」

「ん?」

「無茶は、しないでください。またあの時みたいに、自分の命をかけるんじゃないかって不安で……」

「……んー、まあ、戦うわけだし、無茶はどうしたってすると思う。けど自滅覚悟みたいなことはしない、と思う」

「断言はしてくれないんですね……」

「……すべきことをする。ただそれだけだよ、アーシア。君も、皆も、僕も」

「……そうですね、分かりました。私も、すべきことをします。絶対に、皆さんを死なせません」

 

 

◆◆◆

 

 

 皆とも仲を深め合っての合宿。その最終日、14日目の夜。明日の朝、僕らは駒王町へと帰り……その夜、ライザー・フェニックス氏とその眷属と戦うこととなる。

 やるべきことをやりきった、とは言えない。タラレバを言えばキリが無い。それでも、それでも僕は、やれることは全てやったし、悔いはないと言いきれる。まあ、まだ負けてないから言える台詞なんだけれどね。

 

 明日に備えて今日は軽く模擬戦と連携の練習をしただけ。疲れを残さず、共に食卓を囲み、共に湯に浸かり(流石に男女別)、共に床につき……そして僕は寝れなかった。遠足前日の小学生のような面持ちだ。

 

「〜♪ 〜♪♪ 〜〜♪」

 

 建屋の外に出て、座り込み、夜空を眺める。時刻は12時、人里離れたこの場所で、明かりは月の光と瞬く星のみ。自分で淹れた紅茶の入った水筒を片手に、機嫌良く鼻歌なんて歌いながら。

 こうしている間も、最後の調整は欠かさない。神器を片手に、視界に入った色々な物を2倍にしては元に戻していく。最初はかなりの集中力を使ったが、今では息するようにできる。継続は力なり、なのだ。努力は人を裏切るかもしれないが、身についたものは自分を裏切らない。まあ、僕は悪魔なんだけれど。

 

「随分と機嫌がいいわね。こんな夜中に何をしてるのかしら?」

 

 そして、そんな僕に背後から声を掛けるのは、同じく寝られなかったであろう部長。振り返れば、憂いを帯びた美人の顔が、月明かりに照らされて非常に幻想的であった。眼福眼福、流石観賞用

 

「夜中に何をしてるとは、悪魔の台詞とは思えませんねぇリアス部長」

 

 くつくつと笑い、紅茶を一口含み、口の中を潤す。

 

「そりゃ機嫌だって良くもなりますよ。……この2週間、いや、悪魔に転生したその時から、本当に得難い経験をさせてもらいました。心の底から、楽しかったんです」

「まるで、それまでが楽しくなかったみたいな言い方ね」

「全く楽しくなかった、と言ったら嘘になりますが……まあ、自分で掛けた強迫観念に縛られていましたからね。今思うと息苦しかったのかもしれません」

 

 一呼吸して、空を見上げる。

 

「ごめんなさい、部長。僕はあの病床で、1つ貴女に嘘をつきました」

「……それは、どんな?」

「僕は、僕の思う普通(あたりまえ)のことをしたと言いました。その後にぶちまけた心の動きも含めて、それに関しては、何一つとして嘘はありません。ただ、『分からないですよ』と僕は言いました。その一点のみ嘘です。本当は、どうして僕がこんなことになってるのか……こんな風に生きているのか、自覚はしています」

 

 兵藤一誠は、成長と無縁の存在である。正確には、成長を実感できない存在である。

 

「僕は何やっても平均ド平凡で、どれだけ頑張っても、どれだけ手を抜いても、結局収まるところに収まってしまう、どうしようもない、クソみたいな生き物です」

 

 どれだけ上を目掛けて足掻いても一向に浮きも沈みもしない。身体は大きくなるのに、知識は積み重なっていくのに、なんにも変わらない立ち位置で、どうやって成長を、変化を実感しろというのだ。あの優しさの塊みたいな両親は品行方正だと褒めてくれる。先生もそうだ。周りだって僕が極端に落ちこぼれじゃ無ければ馬鹿にはしないだろう。

 このザマが、何より許せなかったのは自分だ! 何も変わらない自分だ! 誰にも誇れない自分だ! 語る中身が何も無い自分が、自分のことを何よりも無様だと思っていた! 何度も、何度も何度も何度も、腐りかけては踏みとどまるの繰り返しだ! こんなんじゃ…屑に成り果てることすりゃできやしない!

 

「ですが、だからって単純に諦められないじゃないですか。そんなどうしようもない生き物だなんて認められないじゃないですか。だから抗おうとしました。いいじゃないか、そんなに僕が異常な普通(どうしようもなくへいぼん)なら、個性ある普通(いいひと)になってみせるって。必死に、必死に中身を詰めようとしました。誰かに誇れるような自分になりたいと、ずっと足掻いていました。人当たりよく、誰かの力になれるような、良い人に……語る中身のある良い人になりたかったんです」

「…………………」

「お人好しだなんてとんでもない、極めて利己的だ。誰かを助けようと心の底から思ったことは否定できないけど、それだって自分の中の語る中身を増やすためだ。………そう考えると、余計に自分が嫌になって、卑屈になって、どんどん意固地になっていきました。自分で自分を追い込んでおいて、世話がないですよね」

 

 だから、実はうっすら思ったんですよ。堕天使レイナーレに目を付けられて殺されたのは、天罰かもしれないって。生き汚く抗っておいてなんだけど、もしかしたらそうなんじゃないかって。

 

 

 でも、僕は貴女に救われました。

 

 

「救われたのは命だけじゃありません、本当です。堕天使からみっともなく逃げて、怯えていた僕を落ち着かせてくれたあの時の暖かさを、僕は死ぬその時まで忘れません。悪魔に生まれ変わっただけじゃなくて、本当の意味で僕は変われました。忌まわしかった普通(あたりまえ)が、実は本当に得難いモノだと認識出来ました。心の底から、本当の意味で、誰かを救いたいと思いました。そして今、心の底から、誰かの力になりたいと、全力で頑張っている僕がいます」

 

 この合宿で、僕はかなり力がついたと思う。結局それも、大きな括りで見たら平均的なソレなのかもしれない。それでも、僕は自分が成長できたと、胸を張って言える。誰かに誇れる自分に、少しでもなれたんじゃないかと思ってる。語れる中身はまだ無いかもしれないけど、それでも僕は、僕自身に対して胸を張れる。

 

「こんなこと言うと、下僕悪魔として大失格もいいところかもしれないと思うのですが、それでも言わせてください。本当に、本当にありがとうございます、リアス・グレモリーさん。僕を変えてくれたヒト。故に僕は全力を尽くします。主人だからでもなく、悪魔だからでもなく、僕は貴女のために、この戦いに挑み、勝ちます。絶対に、何があろうと、絶対に」

「………イッセー、私は、」

 

 パン! と手を叩き、遮った。

 

「さてさて、夜も遅いですしそろそろ寝ましょう、()()。絶対に明日、勝ちましょうね!」

 

 立ち上がり、その場を後にする。絶対に振り返らない。こんな顔、絶対に見せられない。

 

 時刻は0時を過ぎた。決戦の日だ。

 

「……死ぬには良い日だ」

『本当にか?』

「ああ、本当だとも」

 

 惚れたあのヒトのために、貰ったこの心臓を、命を、心を燃やせるんだ。良い日でなくてなんという?

 

 その問い掛けに左腕の相棒は答えず、ただ心底愉快そうな笑いだけが響いていた。

 




(貴女に貰った)この命を、心を燃やせ
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