感想がマジで死ぬ程嬉しい……!と思っていたら、なんかランキングにも載ってたみたいで、一日にお気に入り登録件数が100以上も増えるという貴重な体験をしました。……マジかよ(絶望)
前回、渾身の力を込めて書いたせいで、次の話を中々書き出せなかったのですが、何とか書き上がりました……でもまだまだ長いよ……。
「ふぅ……よし」
時刻は21時、僕は家の自室で最後の準備をしていた。あと1時間後にはゲームが開始するから、もう後20分ぐらいで家を出なければならない。
服装は自由とのことだ、ならいつものように赤いパーカーとジーンズ……にしようかと思って、やめた。だいたい皆制服をユニフォーム代わりにするって言ってたから、空気を読んで……んーでもやはり僕と言えばパーカーだし……と、悩む。結局制服を着る、但しブレザーの下に着るのは赤パーカー。要は折衷案と言うやつだ。
少し大きめのショルダーバッグを背負う。中には水筒やら水の入った瓶やら10秒メシゼリーやらの小道具。脚にはナイフホルスターを巻き、その中にはウチの騎士が作ってくれたミリタリーナイフ型の魔剣。
「ここにあと拳銃かなんかあったら、学生ヒットマンみたいな感じでかっこよかったかもなぁ」
『今の貴様には余分だろう』
「言ってみただけー」
左腕の相棒は相変わらずだ。茶々を入れるのかと思いきや、世話を焼くように助言を残していく。コイツとも会話をするうちに、幾分か打ち解けた……と思う、多分、メイビー。
『神器の最終調整もしっかりしておけ。一応偽装は何時でも剥せるようにしておく。切り札を切らない限り劇的に変わるわけではないが、ダメ押しには使えるだろう』
「あいよ。ちなみに切り札はどうやって使えばいい?」
『10秒寄越せ、と俺に言え。そうすれば、お前の全身を鎧が覆うはずだ』
「うぃ。ま、使わんだろうけどね」
あくまで最悪の場合である。そうならないための準備もしてきたわけだしなー。そう思いながらカバンをパンと叩く。
「なあ相棒殿よ、僕らは勝てるかね?」
『相棒、お前は勝つのだろう? ならばその問いは無意味、無駄だ。後でどんな風に土下座するのかだけは考えておくんだな』
お前には無理だ、と言われたことを思い出す。そうするとなんだか嬉しくなってしまう。少なくとも、僕の中の相棒は、無理だとは思っていないのだ。
神器を起こし、左手に纏わせる。翠の宝玉がついてるだけの、色以外は質素な籠手。握って、開いてを繰り返し、そして動作確認を行うように、自分の各所を倍加しては戻していく。
「思考力…視力…聴力…触覚…腕力…脚力…」
順番に繰り返していき、最後に痛覚を2倍にして、戻す。もう譲渡の感覚も、自分の強化を割り振るようにできるようになったので、最終調整は自分の身体で試すだけでいい。
「うん、異常なし! 我が心に一点の曇りなく!」
緊張する段階はとっくの昔に越え、もうあとは雪崩のように崩れるだけだ。ヤケクソとも言う。
もうどーにでもなーれ! って感じで踊ってたら、コンコンとノックの音が。
「イッセーさん、入ってもいいですか?」
「おう、いいよー」
声の主は、アーシア。僕と同じく自室で準備をしていたはずだが、まあ終わったんだろう。ドアを開けて入ってきた彼女も、僕と同じく学校の制服を着ていた。そのことに、若干僕は驚いていた。彼女は部長に、シスター服でも構わないか? という旨の質問をしていたからだ。
「あ、制服にしたのね?」
「はい。……情けないことかもしれませんけれど、悪魔になった今なお信仰を忘れたことはありません。でも、私はすべきことをするために、皆と一緒に試練に立ち向かうために、1つの区切りを着けなければならない。そう思ったんです」
服装一つ、とは笑えない。誰にだって笑わせない。その覚悟に、僕は敬意を表する。誰にだってできることじゃないから、今までの自分を乗り越えることなんて。そのことを、僕はよく知っている。
「とは言っても、まだちょっと怖くて震えてるんです。情けないですよね……」
それは、そうだろうと思う。怖くない方がどうかしている。僕はそのどうかしてる方だ。それでも、その恐怖を飲み込んで立ち向かおうと気丈に振る舞う姿は、どう表現したって情けない、なんてことは無いはずだ。
「いいや、今のアーシアは超カッコイイよ。少なくとも僕なんかよりもね。恐怖を感じないことよりも、恐怖を乗り越えようとすることの方が、何倍も、何十倍もカッコイイに決まってる」
「そう、でしょうか?」
「うん。だってそれは、アーシアが逃げてない証拠なんだから」
そう言って、僕はアーシアの手を握った。……僕には、アーシアを必ず守ると言い切ることはできない。けれど、せめてこうすることで少しでも震えが収まれば。
「……ありがとうございます、イッセーさん。えへへ、勇気を貰っちゃいました」
「どういたしまして。さ、そろそろいい時間だし、家を出ようか」
いざ決戦の地、駒王学園へ!
◆◆◆
待機室代わりとなっている旧校舎のオカルト研究部。21時40分頃にはもう皆集まって、始まるその時まで思い思いの準備をしていた。
まあもっとも、僕はもうやることやっちゃったので椅子に座り、精神統一を図っていた。やることと言えば……
「目、鼓膜、鼻、舌、神経、第六感……」
「何物騒な発言しているのよ……」
「あ、部長」
五感+αを潰す練習をしてると部長が呆れたように声を掛けてきた。
……あの後から、僕は部長に対して壁を作っている。話し掛けられる隙を一切見せなかったし、作らなかった。が、今まさに自分の手脚をもぐ練習をしていた為に隙ができてしまったようだ。ウカツ!!
「結局朱乃サンの幻術で五感を剥ぐところまではいかなかったですけど、それはそれとして現実世界で五感を剥ぐことを諦めたわけじゃないですから」
「何やってるのよ二人とも……」
視界の端で紅茶を嗜んでる朱乃サンが、こちらに気が付いてうふふと笑っている。彼女も彼女で次なる一手を準備していたので期待が持てるところ。心を折るのは僕の方に軍配が上がるが、再起不能という点に於いては、僕は彼女にはまだ勝てない……くっ。
「それに相手の三半規管イジれたら割と優位に立てますからね。目標は、恐らく大量に持ち込んであるであろうフェニックスの涙をまともに使えない状況に持っていくことでしょうか。長期戦なんて絶対に許しません、殺す。嫉妬やない」
「思い切り嫉妬じゃないの……」
フェニックスの涙とは、フェニックス家のみが製造できる、どんな傷でも即座に癒すことのできる反則じみた回復アイテムだ。レーティングゲームでも使用が許可されてるらしいけど……えぇ、そんなんアリか? とルールブック読んで思ってから、絶対フェニックス家だったら沢山使ってくるだろ、という考えに至るまで時間は掛からなかった。僕が水……というより魔力による液状の物の操作を完璧にこなそうと思った理由もここにある。まともに使わせたら負けだ。
そのこと自体は皆にも伝えてあるので、各々対策を講じている。長期戦は僕らにとっては不利だ、長引かせる要因はなんとしても潰さねばなるまい。
「もうちょっと聖水の作り方が上手く出来たら、相手のフェニックスの涙を聖水処理して毒殺する、なんてこともできたのですが……現実はままなりませんね」
「まず悪魔が聖水を使おうと思うことに疑問を持ちなさいよ……いえ、今回ばかりは私達も人のことは言えないのだけれど」
そうなのだ。取れる手段はなるべく選ばない、をスローガンになんだかんだで皆アーシアや僕の作った聖水を所持していたりしている。若干複雑そうだけど、まあ僕がデモンストレーションで見せた聖水の使い方を見たら、一応持っておこうって気にもなるよねぇ……我ながらあれば酷い物を作ったと思う。そう思いながら、カバンの中に入った聖水入りの水筒に思いを馳せる。
「……あのね、イッセー。昨日の、」
と、ここで21時50分となった。床の魔方陣が光り、そこから2週間前に此処で遭遇したメイドさん……グレイフィアさんが現れた。詰めが甘いですねぇ部長。
「皆さん、準備はお済みになられましたか? 開始10分前です」
その場にいた全員が彼女の方を向き、頷く。それを準備完了と受け取ったグレイフィアさんは、これから始まるレーティングゲームの説明を始めた。
「開始時間になりましたら、ここの魔法陣から戦闘フィールドへ転送されます。場所は異空間に作られた戦闘用の世界。そこではどんな派手なことをしても構いません。使い捨ての空間ですので、思う存分、全力を尽くしてゲームを行ってください」
それを聞いて、部長の目が光った気がした。多分僕も、副部長も。何やってもいい、という免罪符を貰ったのだ、そうもなろうさ。……若干、アーシアが僕らに怯えてるのは申し訳なく思うけど、それはそれ!
「そして今回のレーティングゲームは、両家の皆様も他の場所から中継でフィールドの戦闘をご覧になります」
そしてそんな僕らを咎めるように、続けて彼女が口にした。やだなぁ、そうしたら迂闊なことできねぇじゃん! そうなると、後先考えずに使える駒は僕ぐらいか?
「さらに、魔王ルシファー様も今回の一戦を拝見されておられます。それをお忘れなきように」
「お兄様が? ……そう、お兄様が直接見られるのね」
そうかぁ、魔王様も見に来てるのかぁ……実は今回のお家騒動って結構な大事なのかしらん?
…………………待て、今聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。えっと……お兄様??? 震えが止まらなくなり、とりあえず答えてくれそうな祐人クンにすぐ耳打ちする
「……オイオイ祐人クンや。今部長が魔王ルシファー様のことをお兄様って言ったけど……」
今、冥界には4人の魔王がいる。魔王ベルゼブブ様、魔王アスモデウス様、魔王レヴィアタン様、そして魔王ルシファー様。悪魔になる前から僕でも知ってる悪魔の中でもビッグネームだ。えっと、もしや血縁とか、そういう……?
「うん、部長のお兄様は、魔王ルシファー様で間違いないよ。もっとも、ルシファーの名前を襲名したってことなんだけれど」
そこで軽く説明を聞くと、どうやら先の三大陣営……天使、堕天使、悪魔の三竦みの戦争で、先代の四大魔王様はお亡くなりになられてしまったとか。だから、悪魔を束ねるために新しい魔王が、先代に負けないくらいの強い悪魔が魔王の名前を継ぐ必要が生まれて……
「なるほど。四大魔王は、今は襲名制なのか…」
「うん。……正直言うと、今の三大陣営の中で1番衰退しているのは、実は悪魔陣営なんだ。それでも今の魔王様達のお陰でどうにか保ってはいるんだけど」
「それで、魔王ルシファーを襲名したのが部長のお兄様……」
「そう。サーゼクス・ルシファー……『
最強、かぁ。そらなんとも……遠い存在というか。
『……フン!』
ちょっと遠い目をしてると、左腕の相棒が機嫌悪そーに鼻を鳴らした。あれか? もしや俺の方がもっと強いとかそんなアレか? 僕お前の生前のことまるで知らないけど、流石にそれはふかしすぎじゃないか?
『……今に見ておれ、無知極まりない相棒。後で後悔しても知らんぞ』
そう捨て台詞を残して意識が沈んでいった。ど、どういうこっちゃねん?
「イッセーくん、イッセーくん」
「……ん? ああすまん、意識飛んでたわ」
肩を叩かれ、思考の海から意識が現実に戻ってくる。そろそろ時間ということで、魔方陣に集まるように指示される。
……戻ってこれるのは、ゲームが終わってから。マトモな状態で戻ってこれるかどうかは分からないけど、もう引き返せないということだ。まあ、どっちにしたってやることは変わらない。
今日だけは、負けられない。例えどんなに現実という名の壁が立ち塞がろうと、今日だけは。
「それでは、いってらっしゃいませ」
グレイフィアさんの見送りの言葉と共に、僕らは光に呑まれた。