兵藤一誠は『異常な普通』です   作:4E/あかいひと

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感想、評価、誤字報告ありがとうございます。

気が付けばお気に入り登録件数が1000を超えて喜んでたら、1100を超えてました。何が起こっていたんでしょう……?
赤ゲージがここまでもってることも含めてなにかの間違いなのでは……?(疑心暗鬼)


その14

 

『イッセー、聞こえてる!? 返事出来そうに無かったら通信機を1回叩いてちょうだい!』

 

 バン! と強めに耳を叩きながら、左腕で爆発をいなしていく。普段はうるさいだけの警鐘が、致命傷を受ける爆撃の選別に役立ってくれる。

 

「くっそ、なんだい大人気も無く!! 余裕無さすぎるんじゃねーのオネーサン!?」

「あの爆発を見て舐めるなんてありえないでしょう!? あの火力とその油断の無さは長期戦に持ち込まれると面倒なのよ!」

 

 くっそ部長のサブプランが若干破綻してやがんな……。仮にライザー氏を倒せないと判断した場合、ライザー氏ともう1人以外を打倒した上で朱乃サンと僕が脱落しないように時間いっぱい部長を守るっていう作戦だ。公式ルールにおいては、制限時間が区切られているゲームの場合、残ってる下僕悪魔の駒価値が多い方が勝利となる。仮にそうなったとして向こうがそれを守るかどうかは不明だが、もう一度、今度は有利な条件でゲームを仕掛けることができるだろう……と部長は考えていた。僕の駒価値は8、朱乃サンの駒価値は9なので、マジで僕は脱落という意味では死ねなかったりする。する……のだが、何故か危機感を抱いてるらしい敵の女王にロックオンされてる。マジでついてねぇよ……!

 

 だが、希望はない訳でもない。相手は舐め腐ってはいないが、舐めてないわけでもない。

 今僕らが場所を変えつつ戦闘しているのは校庭、新校舎から見えやすく、狙い撃ちができる位置にいる。なるべく森から女王を引き離さないといけないと判断し、あえて相手にとって有利なフィールドに移動していったのだ。だが、現状フェニックス側から援軍が来る気配がない。つまり女王ユーベルーナ氏なら(駒8つで転生してるけど)兵士ぐらいけちょんけちょんにしてやれる、と思ってるんだろう。ぶっちゃけ大正解ではあるが、その油断が隙……になるとマジ助かる。

 敵はまるで爆撃機のように僕に襲いかかってくる。しかも飛行が上手いからフェイントを掛けてもすぐ着いてくるんだ、やってらんねぇ!! 僕はまだ悪魔の翼で飛ぶことが難しいため、迂闊に距離を詰めることもできない! 絶対撃墜されるだろうしな!

 

『イッセー、今から援軍を送るわ! それまで耐えきって! 場所は校庭ね!? イエスなら1回、ノーなら2回!』

 

 バン! と叩きながら爆破の魔力を受け止め、振り抜くように新校舎にぶん投げる。減衰したのもあるだろうが、何かに阻まれて霧散した。くそ、惜しかったなアレ!

 

 さて、援軍が来るとなると流石に向こうも援軍を寄越してくるだろう。どのぐらいの速さで来るか分からないが……1回は殺しておかないとマズイだろう。

 

「(1回、1回でいい。マーキングさえ付けられたら、可能性はある!)」

 

 既に満身創痍、籠手の無い右腕は黒焦げ、中から骨がコンニチワ。痛みには慣れてしまってるのと、焼けてるせいで出血が無いのが救いだ。だからこそ、もう1つの魔力ワザが使える……のだが、一旦魔力を纏いながら触れなければ起動できない。どうすれば……!

 

「くそ、タダでは死なんぞここで殺す!!」

「ッ!?」

 

 最初の爆発は、相手に警戒をさせるって意味では失敗だけど、ハッタリに使えるという意味では大成功だった。カバンに手を突っ込むだけで普通なら有り得ないほどに警戒してくれるのだから!

 聖水の瓶を取り出し、それを渾身の力を込めて投げつける。女王もまずいと思ったのか、それを撃墜するために爆破しようとする。が、それは悪手だ。何故なら水蒸気爆発とは、水に対して高温のものをぶつける時に起こるものなのだから!

 僕がすることは、襲い来る聖水の水蒸気から身を守るために、水の壁を自分の周囲に展開することだけだ!

 

「甘いわ! ……何っ!?」

 

 ダガンッ!! と爆ぜる音と同時に、周囲に破片と水蒸気が撒き散らされる。相手はローブを着用してるため水蒸気による被害はあまりない……その剥き出しの翼以外は!

 

「ぐっ…何よこれ、焼けるように痛い……!」

「墜ちろ、カトンボォ!」

『Boost!!』

『Transfer!!』

 

 譲渡、相手にかかるGを2倍。爆風と、聖なる物によるダメージと、穴ボコだらけの翼もあって、重力に逆らえなくなり墜落する!

 このタイミングを逃してはいけない。壁を消し、全ての力を脚力に回す。そのせいで身体が水蒸気に焼かれるが、必要経費だ!

 

「お、おのれっ!」

 

 墜落の衝撃ですぐには動けない様子。だが魔力行使に関しては支障を来たしていないらしい。炎弾が脇腹を掠めて削り取っていく。

 

「ぐあっ……! くっ、効くかよォ!」

 

 だがこちとら腹は焼かれ慣れてんだ、大体光の槍だけどな! サンキュー元カノちゃん、でも地獄に堕ちろ!(呪詛)

 

「格闘技とは、力の使い方! 強く、強く踏み込んで!」

『Boost!!』

 

 足の裏が完全に地面を捉え、倍加も加えることにより、僕の動体視力では追い切れない速度で身体が前に投げ出される!

 

「え、ちょ、待っ」

 

 女王ユーベルーナの顔面に突き刺さる、僕の右膝。つまり、飛び膝蹴り。……胸か腹を狙ったのに顔に当たってしまったのは、素直に悪いと思う。

 

「ぐえっ、がふっ、あうっ!」

 

 蹴られた勢いはそのまま彼女に伝わり、回転しながら三度ほどバウンドを繰り返し、ぶっ飛んだ。……ついでに、僕の右膝も砕かれた。何も防具無かったと思うけど、悪魔……それも女王ってだけで硬いんだろうな、今度はこっちが動けなくなった。

 

 だがま、いい感じにダメージも与えられただろ……と前を見て……泣きそうになった。

 

「よくも……よくもやってくれたわね……!」

 

 憤怒のオーラを撒き散らしながら、ゆらりと女王ユーベルーナが立ち上がる。それも『無傷』で。チクショウ、アイツ早速フェニックスの涙を切りやがったか!

 

「……舐めていたわ。8個とはいえ、プロモーションもしていないただの兵士だと」

「ちっ、そのまま舐め腐ってくれたら良かったのに……」

 

 言葉の通り、彼女から油断の気配は全くと言っていい程感じられない。絶対に、僕を殺す。そんな怒気だけが僕を刺す。たかが僕相手にフェニックスの涙を切ったのがその証拠だ。

 

「全くやってらんないよ……フェニックスの涙の元締めだ、きっとたくさん持ってんでしょ?」

「ええそうよ。……半分享楽のつもりで、リアス嬢達の無駄な足掻きを見る為のゲームだったけれど、今ほどコレを持っていて良かったと思ったことはないわ」

 

 全く、絶体絶命もいいところじゃないか。僕の全身は聖水で焼け爛れ、右腕に至っては骨すら見えている。脚もイカれてもう立つことすらできない。ライザー氏に挑む前に、女王にチェックを掛けられている。もう逃げられない、デッドエンドだ。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 口の端が、弧を描くように吊り上がる。

 

「ふひっ」

「っ!」

 

 喉から、思わず笑いが溢れる。

 

「ふひひひひ、ひははははははっ!」

 

 合図は、右腕を突きつけて、宣告すること。僕はもう触れている。この女に触れている。マーキングは済ませた。

 本能的にまずいことを感じたのだろう。距離を取り、炎弾を何度も何度も打ち出してくる。焼ける、焦げる、欠ける。死ぬほど痛いし、もう逃げたいくらいに力が入らない。

 けれど、それでもとうとう肉が剥げた右腕を突きつけて、宣言した。さあ、不死鳥に試す前の試運転だ。

 

「『循環する苦痛(ペインサーキュレーター)』」

 

 2つ目の魔力技、僕の痛覚だけを、感じる痛みだけをマーキングを付けた相手に転写するだけの、まるで役に立たないクソみたいな技。

 だが、僕が死にかけていれば死にかけている時は効果は覿面だ。そう、僕は今まさに死に瀕している!

 

「かひゅ……!?」

 

 わけがわからないのだろう。ローブ姿の女が、息の詰まるような音と共に倒れ込む姿が見える。

 

「なん、で…! なによ、これ……!」

「こういう時、なんて言うんだっけな……。ああくそ、頭が朦朧として言葉が出てこないな。ああ、この状態で爆破はやめてくださいよ? 痛覚のショックでアンタも死にかねない」

「でも、貴方ももう何もできないじゃない! 単なる時間稼ぎにしかならないじゃない! 直に私たちの援護が来るわ……その行為は無駄よ!」

 

話している間にも、懐から何かを漁っている。フェニックスの涙だろうか? それとも別の薬だろうか。でも力が入らないみたいで、ボロボロと瓶を落としている。

 

「ま、そうですよね。しょーもない時間稼ぎです。が、」

「間に合った以上、無駄ではありませんでしたわね」

 

 表情の焦燥が、ゆっくりと絶望に変わる瞬間を見た。見上げ、震え、逃げようとして、しかし立ち上がれず、地面を這い蹲るしかない姿を見た。

 

「お願いします、朱乃サン」

「ええ、任されました。お手柄ですわ、イッセーくん」

 

 空から降る幾重もの雷光に、女王ユーベルーナは貫かれる。幾らでもいたぶることができたのにそれをしなかったのは、瀕死の僕の為か相手に対する慈悲なのか。まあそんなことはどうでもよくて。

 

『ライザー様の女王、戦闘不能』

 

 何とか大金星を挙げられた、その事実だけが重要だった。

 

 

◆◆◆

 

 

 敵から奪った資源を使うのは戦争のド定番である。僕は朱乃サンに掛けてもらったフェニックスの涙のおかげで何とか息を吹き返した。

 

「ふひぃ、久々に死ぬかと思いましたよ……まあ今日で3回目ですが」

 

 欠損もなし、バックの中身も破損無し。制服がもうボロッボロだけど、それでも気力十分。これであと1週間は戦える。そんな心持ちだった。

 

「……それで、どうでしたか2つ目の技は」

「相手に触れる必要があるので起動するのが面倒ですね。しかもこれでタネが割れたでしょうし、相手は迂闊に自分に近付いて来ないでしょうね。正直痛いです」

 

 本来は、ライザー氏に使って相打ちを狙う為の技だった。相手に再生をさせず、しかし痛みだけを与えて相手の心を折る。そこに痛覚倍加の付与をすれば完璧だ。……まあ、もうまともにこいつは使わせて貰えないだろうね。

 

「……すみません、朱乃サン。アレだけ一緒に訓練に付き合って貰ったのに、こんな形で無駄にしてしまうなんて」

「無駄とは思いませんわ。少なくとも、百戦錬磨の女王をほぼ1人で完封した……それだけでも意味のある成果です。イッセーくんはもっと自分に自信を持って大丈夫なんですよ?」

「……はい」

 

 顔を叩いて気合いを入れる。泣き言なんて言ってられない。

 

「さて、それではイッセーくん……どうしましょうか」

「どうしましょうかね……」

 

 互いにニヤリ、と強がりながら周りを見渡す。いつの間にか5人の悪魔に取り囲まれていたからだ。

 

 メンバー表の写真と、ここにいる悪魔を頭の中で照合させていく。兵士が3人、僧侶が1人、騎士が1人。……戦車がいない。1人は倒したからいないが、もう1人がいるはずだ。強がってみせるが、内心冷や汗が止まらない。

 彼女達は足止めだ。最強戦力である朱乃サンと……多分、想定外を引き起こす僕を足止めするための。これは、間違いなく嵌められた。今の敵の狙いは、仮の本陣に突っ込ませた戦車を使ってのキャスリングだ!

 

「嘘だろ……女王を生贄(サクリファイス)戦術に使うんかよ……!」

「必要とあれば、悪い戦術ではありませんから。王さえ生きていればいい、それがフェニックスの基本戦術でしょうし。……イッセーくん、魔力の効果を倍にする、ということは可能でしょうか」

「いけます、合図だけやっていただけたら完璧にこなしてみせます」

「うふふ、頼もしいですわね」

 

 背中合わせになってるが、見なくても分かる。今、朱乃サンは見るものを不安にさせるような笑顔を浮かべている。

 

「せっかくですし、私も試運転をしましょう。対フェニックス用戦術……『五覚剥奪』を実行します」

 

 白い世界に、黒い帳が降りた──。

 




てめえの自業自得、逆しまに死ね……というヤツです。

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